IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】   作:生そば

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~第一〇話~《海に沈む輝き》(1)

 合宿二日目。

 今日は午前中から夜まで丸一日ISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる。

 特に専用機持ちは大量の装備が待っているのだか大変だ。

 ただ俺ひとりを除いて。

 一夏も含め、専用機持ちの全員は各国から装備が送られてくるのだが、俺の零式には装備を送る国がない。

 実際の所、ISの装備を開発している色んなラボから勧誘や『内の武装を試してみないか』などのオファーは来てる。

 だが、どれも俺にとっては遅れた技術でつまらない物だった。

 もっと第三世代レベルの武装を試させてくれないだろうか。

 ……無理だよな。

 

「ようやく全員集まったか。──おい、遅刻者」

 

「は、はいっ」

 

 千冬さんに呼ばれて身をすくませたのは、珍しく寝坊をして五分遅れでやってきたラウラだった。

 

「そうだな、ISのコア・ネットワークについて説明してみろ」

 

「は、はい。ISのコアはそれぞれが相互情報交換のためのデータ通信ネットワークを持っています。これは元々広大な宇宙空間における相互位置情報交換のために設けられたもので、現在はオープン・チャンネルとプライベート・チャンネルによる操縦者会話など、通信に使われています。それ以外にも『非限定情報共有』をコア同士が各自に行うことで、様々な情報を自己進化の糧として吸収しているということが近年の研究てわかりました。これらは制作者の篠ノ之博士が自己発達の一貫として無制限展開を許可したため、現在も進化の途中であり、全容は掴めていないとのことです」

 

「さすがに優秀だな。遅刻の件はこれで許してやろう」

 

 そう言われて、ふうと息を吐くラウラ。

 心なしか、胸を撫で下ろしているようにも見える。

 まあ、おそらくドイツ教官時代にイヤというほど恐ろしさ味わったのだろう。

 

「なぁ、月夜」

 

「なんだよ、一夏」

 

 一夏が小声で訊ねてきた。

 

「お前だったら、今の質問に何か付け足せるのか?」

 

「そりゃ、お前……まぁ。秘密だけどな」

 

 俺がコアについて知ってることがバレたら、俺自身が更に追われる身になるじゃないか。

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

 はーい、と一同が返事をする。

 さすがに一学年全員がずらりと並んでいるので、かなりの人数になっている。

 現在地はIS試験用のビーチで、四方を切り立った崖に囲まれていて秘密のビーチのようだが、ドーム状な所が学園のアリーナを連想させる。

 大海原に出るには一度水面下に潜って、水中のトンネルから行くらしい。

 ここに搬入されたISと新型装備のテストが今回の合宿の目的。

 当然ISの稼働を行うので、全員がISスーツ着用姿だ。

 デザインのせいで、海で見るとますます水着に見える。

 

「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」

 

「はい」

 

 打鉄用の装備を運んでいた箒は、千冬さんに呼ばれてそちらへと向かう。

 

「お前には今日から専用──」

 

「ちーちゃ~~~~~~~ん!!!」

 

 ずどどどどど……! と砂煙を上げながら人影が走ってくる。

 俺は知っている。織斑千冬を『ちーちゃん』と呼ぶ只ひとりの人物を。

 

「……束」

 

 立ち入り禁止もなんのその、稀代の天才・篠ノ之束さんは堂々と臨海学校に乱入してきた。

 

「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さあ、ハグハグしよう! 愛を確かめ──ぶへっ」

 

 飛びかかってきた束さんを片手で掴む。

 しかも顔面に思いっきり指が食い込んでいた。

 

「うるさいぞ、束」

 

「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」

 

 そしてその拘束から抜け出す束さんも相変わらずのオーバースペックです。

 よっ、と着地をした束さんな、今度は箒の方を向く。

 

「やあ!」

 

「……どうも」

 

「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」

 

 がんっ!

 

「殴りますよ」

 

「な、殴ってから言ったぁ…。し、しかも日本刀の鞘で叩いた! ひどい! 箒ちゃんひどい!」

 

 頭を押さえながら涙目になって訴える束さん。

 そんなふたりのやりとりを、ぽかんとして眺めている一同の中、俺はその場を駆け出す。

 

「束さん!」

 

「あ、つっくん!」

 

 俺に気づいた束さんが、拳を握り──

 

「流派東方不敗は!」と拳を突きつける。

 

「王者の風よ!」鉢巻きを締める振りをする。

 

「全新!」束さんの猛烈なラッシュ。

 

「系裂!」俺がそれを裁く。

 

「「天破侠乱!」」ラッシュの打ち合い。そして拳が激突する。

 

「「見よ! 東方は紅く燃えている!!!!」」

 

「「「……、…………」」」

 

 俺たちのやりとりを先程よりもぽかんと一同が見ている。

 ちなみに今は昼間で、もちろん東の空はまったく赤くない。

 

「束さん、お久しぶりです!」

 

「つっくん、久しぶりー。可愛くなったね!」

 

「そこは格好良くって言ってください……」

 

「え、えっと、この合宿では関係者以外──」

 

「んん? 珍妙奇天烈なことを言うね。ISの関係者というなら、一番はこの私をおいて他にいないよ」

 

「えっ、あっ、はいっ。そうですね……」

 

 山田先生見事に轟沈。

 束さんには基本的に何を言っても無駄だ。

 あの千冬さんが既に諦めているから。

 

「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒たちが困っている」

 

「えー、めんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよ、はろー。終わり」

 

 そう言ってくるりんと回ってみせる。

 ぽかんとしていた一同も、やっとそこでこの目の前の人物がISの開発者にして天才科学者・篠ノ之束だと気づいたらしく、女子の間がにわかに騒がしくなる。

 

「はぁ……。もう少しまともにできんのか、お前は。そら一年、手が止まっているぞ。こいつのことは無視してテストを続けろ」

 

「こいつはひどいなぁ、らぶりぃ束さんと呼んでいいよ?」

 

「うるさい、黙れ」

 

 そんな旧知の間柄であるふたりのやりとりに、おずおずと割り込んだのは山田先生だった。

 

「え、えっの、あの、こういう場合はどうしたら……」

 

「ああ、こいつはさっきも言ったように無視して構わない。山田先生は各班のサポートをお願いします」

 

「わ、わかりました」

 

「むむ、ちーちゃんが優しい……。束さんは激しくじぇらしぃ。このおっぱい魔神め、たぶらかしたな~!」

 

 言うなり、山田先生に飛びかかる束さん。

 その手はさっそく豊満な膨らみを鷲掴みにしている。

 

「きゃああ!? な、なんっ、なんなんですかぁっ!」

 

「ええい、よいではないかよいではないかー」

 

 相変わらず忙しい人だ。ジェラシーはどこにいったんだ。

 ちなみに束さんの胸は千冬さんよりちょっと上で、山田先生と同じくらいだ。

 箒もそうだが、篠ノ之の人間は皆巨乳なのかもしれない。

 

「やめろバカ。大体、胸ならお前も十分にあるだろうが」

 

「てへへ、ちーちゃんとえっち」

 

「死ね」

 

 どかっと本気の蹴りを食らって砂浜に顔から突っ込む束さん。

 

「束さん。何か用があって来たんじゃないんですか?」

 

 箒が束さんに何か言おうとしているのを見て俺がフォローを入れると、それを聞いた束さんの目がキラーンと光った。

 

「うっふっふっ。それはすでに準備済みだよ。さあ、大空をご覧あれ!」

 

 びしっと直上を指差す束さん。

 その言葉に従って箒も、そして他の生徒たちも空を見上げる。

 

 ズズーンッ!

 

 激しい衝撃を伴い、なにやら金属の塊が砂浜に落下してきた。

 銀色をしたそれは、次の瞬間正面の壁がばたりと倒れてその中身を俺たちに見せる。

 

「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃんの専用機こと『紅椿(あかつばき)』! 全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

 深紅の装甲に身を包んだその機体は、束さんの言葉に答えるかのよつに動作アームによって外へと出てくる。

 新品のISだからなのか、太陽の光を反射する赤い装甲がとても眩しい。

 

「さあ! 箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズをはじめようか! 私が補佐するからすぐに終わるよん♪ あ、つっくんも手伝ってくれる?」

 

「はいっ、わっかりましたー!」

 

「……それでは、頼みます」

 

「堅いよ~。実の姉妹なんだし、こうもっとキャッチャーな呼び方で──」

 

「はやく、はじめましょう」

 

 箒は束さんの言葉を取り合わずに行動を促す。

 

「ん~。まあ、そうだね。じゃあはじめようか」

 

 ぴ、とリモコンのボタンを押す束さん。

 刹那、紅椿の装甲が割れて、操縦者を受け入れる状態に移り、更に自動的に膝を落として、乗り込みやすい姿勢にと変わった。

 

「箒ちゃんのデータはある程度先行していれてあるから、あとは最新データに更新するだけだね。さて、ぴ、ぽ、ぱ♪」

 

 束さんがコンソールを開いて指を滑らせると、束さんと俺の目の前に空中投影のディスプレイが呼び出された。

 そのデータを見て俺は目を疑った。

 

 

 

和名:紅椿(あかつばき)

 

型式:XX-02

 

世代:第四世代

 

国家:日本

 

分類:全状況対応万能型

 

装備:射撃性近接ブレード『空裂(からわれ)』『雨月(あまづき)

 

装甲:流動量子組成装甲

 

仕様:展開装甲(完成型)

   エネルギー倍加能力『絢爛舞踏()けんらんぶとう』

 

 

 

 全身を朱漆の酔うな深い紅で包み、金の蒔絵で手足を飾ったまさに“絢爛”な特別機。

 背面にある花弁のような一対の大型バインダー、腕部、脚部、の各ユニットは展開装甲と呼ばれる可動式の装甲を纏っており、展開すると全体のシルエットを変えるほどの“変身”をするようだ。

 展開装甲とはアクティブ・エネルギー・ブラスターであり、用途に応じて攻撃や防御に使えるほか、推進力としても使用可能。

 また最大展開では全身からエネルギーブレードを発生させることも可能で、出力調整によってはそれ自体を射撃兵器として扱うこともできるらしい。

 

「近接戦闘を基礎に万能型に調整してあるから、すぐに馴染むと思うよ。あとは自動支援装備もつけておいたからね! お姉ちゃんが!」

 

「それは、どうも」

 

 とまあ、束さんの今までの最高傑作を見れたのには満足している。

 それにしても、この『展開装甲』ってやっぱり──

 

「ん~、ふ、ふ、ふふ~♪ 箒ちゃん、また剣の腕前があがったねえ。筋肉の付き方をみればわかるよ。やあやあ、お姉ちゃんは鼻が高いなぁ」

 

「………………」

 

「えへへ、無視されちった。──はい、フィッティング終了~。超速いね。さすが私とその相方こと『つっくん』」

 

 誰かが小さく『相方!?』と言った。さらに……

 

「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの……? 身内っねだけで」

 

「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」

 

 と、群衆の中からそんな声が聞こえた。

 それに素早く反応したのは束さんだった。

 

「おやおや、歴史の勉強をしたことがないのか? 有史以来、世界が平等であったことなど一度もないよ」

 

 ピンポイントに指摘を受けた女子は気まずそうに作業に戻る。

 それを別段どうでもいいように流しながら、束さんは調整を続ける。

 間も無く作業は終わり、束さんは並んだディスプレイを閉じていく。

 

「つっくん、あとは宜しくね。あとつっくんにはこれをプレゼント」

 

 そう言って束さんが俺に手渡したのは、なにやら奇妙な小さい箱だった。

 中に何か入っているようだが、開け口どころか開け方もわからない。

 

「肌身離さず持っていればきっと役に立つよ♪ はい、次はいっくん。白式見せて。束さんは興味津々なのだよ」

 

「え、あ。はい」

 

 さて、俺も作業に戻るとしますか。

 

「月夜。何だそれは?」

 

 箒が箱を見て訊ねてくる

 

「わかんないけど『肌身離さず持っていれば』ってことは何かの条件で開くようになってるんじゃないかな」

 

 俺は箱を一時的にポケットの中に仕舞う。

 後でキーホルダーのようにしてしまおう。

 

「よかったな、箒」

 

「ん? あ、ああ」

 

「ずっと欲しかったんだろ? 一夏の隣に立つための力が」

 

「………………」

 

 箒の頬がわずかに赤くなった。

 もしかしたら箒は、周りに負い目を感じていたのかもしれない。

 一夏の回りには専用機持ちが集まり、無人機との戦いでは的になり、VTシステムの暴走時には何もできなかった。

 

「でも、俺はいきなり最新鋭機を与えたくはないな……」

 

「なんだと?」

 

「いや、俺の個人的意見だから。気にしないでくれ」

 

 誰かが『大き過ぎる力は争いを生む』と言ったらしいが、それは武の心得における『心・技・体』の『心』が鍛えられていない物に力を与えると、その者は力に溺れてしまう。という意味があると解釈している。

 先程、紅椿のデータと同時に箒のメンタル状態を見させてもらった。

 その結果『かなり舞い上がっている』ということがわかった。

 ISは玩具ではなく、兵器なのだ。

 下手をすれば命に関わるその、しかも最新鋭かつ最高性能の機体を今の箒に与えるのは、二等兵に指揮官機を与えるようなものだ。

 あくまで例えであって、箒が二等兵というわけではない。

 いつかラウラが言っていた『意識が甘い』とはそういうことだ。

 

「よしっ。束さん終わりましたよー」

 

「んじゃ、箒ちゃん。試運転もかねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」

 

「ええ。それでは試してみます」

 

 プシュッ、プシュッ、と音を立てて連結されたケーブル類が外されていく。

 それから箒がまぶたを閉じて意識を集中させると、次の瞬間に紅椿はもの凄い速度で飛翔した。

 その急加速の余波で発生した衝撃波に砂が舞い上がる。

 それかは箒の姿を追うと、二百メートルほど上空で滑空する紅椿が見えた。

 

「どうどう? 箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」

 

「え、ええ、まぁ……」

 

「じゃあ刀使ってみてよー。右のが『雨月』で左のが『空裂』ね。武器特性のデータ送るよん」

 

 束さんに言われるままに刀を振るう。

 雨月は対単一仕様で、突きを放つと周囲に赤色のレーザー光がいくつもの球体として現れ、そして順番に光の弾丸となって漂っていた雲を穴だらけにした。

 対して空裂は対集団仕様で、束さんが放った十六連装のミサイルによる一斉射撃をひと振りで全弾打ち落とす。

 爆煙がゆっくりと収まっていく中、その深紅のISと箒は威風堂々たる姿をしていた。

 全員がその圧倒的なスペックに驚愕し、そして魅了され、言葉を失ってしまう。

 そんな光景を、束さんは満足そうに眺めてうなずいた。

 

「流石束さんだ」

 

「むふふ~。ライバルに負ける訳にはいかないからね~」

 

「っていうか、月夜。さっきから束さんの相方だとか、ライバルだとかって?」

 

「そっか~。つっくん、いっくんに言ってないんだ」

 

「束さんが俺を勝手にそう呼んでるだけだよ」

 

「やっぱり日本人だね~、つっくんは」

 

 俺を天災と同レベルに見てほしくはないんだが……。

 あくまで俺は束さんの『助手的立場』の人間なのだから。

 

「たっ、た、大変です! お、おお、織斑先生っ!」

 

 いきなりの山田先生の声に、千冬さんが向き直る。

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