IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】   作:生そば

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~第一〇話~《海に沈む輝き》(3)

 

 時刻は十一時半。

 七月の空はこれでもかとばかりに晴れ渡り、容赦のない陽光が降り注いでいる。

 砂浜で一夏と箒はわずかに距離を置いて並んで立ち、一度目を合わせてうなずいた。

 俺はその様子を後ろで見ていた。

 

「来い、白式」

 

「行くぞ、紅椿」

 

 ふたりの全身がぱぁっと光に包まれ、ISアーマーが構成される。

 それを見届けてから、俺も零式参型を呼び出す。

 

「じゃあ、箒。よろしく頼む」

 

「本来なら女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ」

 

 作戦の性質上、移動のすべてを箒に任せるので、つまりは一夏が背中に乗っかる形になるのだ。

 それを最初に聞いた箒は早速イヤそうなことを言っていたのだが、今の箒はかなり浮かれている。

 

「箒……」

 

「なんだ」

 

 やはり注意しておいた方がいい。

 気の緩みは失敗に繋がる。

 今の箒は力を手に入れた嬉しさから油断している。

 しかもその力は束さん曰く最強の力で、彼女自身が余裕だと言ってしまった。

 だが、俺は思う。

 

 ──ISの性能差が勝利の絶対条件ではない。

 

「油断するなよ?」

 

「勿論だ私と一夏が力を合わせればできないことなどない。そうだろ?」

 

 箒が一夏に同意を求めるが、一夏も箒の機嫌の良さに不安を持っているようで歯切れが悪い。

 

「ああ、そうだな。でも箒、先生たちも言ってたけどこれは訓練じゃないんだ。実戦では何が起きるかわからない。十分に注意をして──」

 

「無論、わかっているさ。ふふ、どうした? こわいのか?」

 

「そうじゃねえって。あのな、箒──」

 

「ははっ、心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる。大船に乗ったつもりでいればいいさ」

 

「……………」

 

 さっきからこんな調子だが、今更箒のやる気を削ぐような事は言えない。

 あとは一夏がフォローしてやるしかないか……。

 

『三人とも、聞こえるか?』

 

 ISのオープン・チャンネルから千冬さんの声が聞こえる。

 俺たちはうなずいて返事をした。

 

『これより作戦を開始する。気を引き締めていけ』

 

「「「はいっ!」」」

 

『では、はじめ!』

 

 箒が一夏を背に乗せたまま、一気に上空三百メートルまで飛翔した。

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)並みのスピードで紅椿は上昇を続ける。

 そして目標高度へ到達、一気にアプローチポイントへと加速していった。

 

『十六夜、どうした?』

 

 動かない俺を心配して、千冬さんが声をかけてきた。

 

「なんでもありません」

 

 そう言って、俺は二人とは別の方向──アンノウンがいる方向──へと向かう。

 不安を振り払うように零式の速度をあげる。

 

『十六夜、まもなく通信不能領域に入る。そうなると互いに通信ができなくなる』

 

「はい、わかってます」

 

 つまり、何があっても俺一人で対応するということだ。

 

『もしこちらの状況に変化があった場合はこちらから信号弾を撃ち上げ──』

 

 千冬さんが言い終える前に、俺は通信不能領域に入った。

 そして同時に、零式のハイパーセンサーが敵機を捉える。

 

「いや、一応予想はしてたけどさ……」

 

 こちらに向かっている敵機、それは三機のISだった。

 それだけならまだいい。

 

「なんで、どうして……お前らが──」

 

 零式参型のものは違う赤色ではあるにしろ……

 

「──どうしてGN粒子を発しているんだっ!」

 

『敵機出現、これより迎撃行動に移る』

 

 オープン・チャンネルから機械音声が聞こえる。

 声だけではなく、三機のどのISの全身のどの部分にも人間らしさはなく、ひと目で無人機とわかる。

 

「それにしても、三機かよ……」

 

 三機は一列に並んで接近してくる。

 向かって右からオレンジの装甲に大剣を手に持ったIS、背中に折り畳まれた砲身を担いだ黒いIS、GN粒子を大量に放出する装置を背負った深紅色のIS。

 

『砲撃開始』

 

 突然、黒いISが背中の砲身をこちらに向け、暴力的な赤い粒子ビームを発射。

 それをギリギリで交わす。

 すぐさま零式が解析する。

 

「学園に襲撃してきた奴のより威力も射程距離もダンチじゃないか」

 

 黒いISは中~遠距離型、オレンジのISは近~中距離型、そして深紅のISが補助型と見ていいだろう。

 今までの研究で、GNコアドライヴから作られるGN粒子には通信障害を引き起こす性質があるのはわかっていた。

 その性質を利用したのが深紅のISが背負った装置で、通信不能領域の正体はこれだったというわけだ。

 

「でも、やるしかない!」

 

 流石に俺一人で三機相手をするのは難しい。

 というわけでこの状況を千冬さんたちに伝える必要がある。

 そのためにはっ──!

 

「まずはお前だぁっ!!」

 

 左右に剣を構えて深紅のISに迫る。

 しかし、それはオレンジのISに阻まれる。

 振りかぶられる大剣。それを受け止めると、それを見かねた黒いISが照射。

 オレンジのISが射線上へ俺を弾き飛ばす。

 

「チッ!」

 

 体を捻ってシールドで防ぐが、一瞬にしてシールドが消し飛ぶ。

 

「あ、危ねぇ……」

 

 爆煙を抜け出し、視界が戻ると同時にオレンジのISが斬りかかってきた。

 それを両足のブレードで弾き、両手のブレードを戻し、今回零式打鉄から緊急に持ってきた近接ブレード『葵』改を呼び出す。

 これをライフルモードにして、オレンジのISを牽制──

 

「────っ!?」

 

 と、それを邪魔するように極太の赤い粒子ビームが行く手を阻んだ。

 見ると、黒いISの砲身と深紅のISが連結していた。

 どうやら連結することでビームの威力を上げたようだが、今のを食らっていたと思うだけでゾッとする。

 

『対応レベルを3に変更』

 

 機械音声と共にオレンジのISが動き出す。

 俺から距離を取り、スカート部分から牙のような形をした何かが六つ飛び出す。

 それは俺の回りに展開され、それぞれの先端が赤く光出す。

 

「これはっ──」

 

 次の瞬間、俺はあらゆる角度から放たれるビームから逃げていた。

 

「セシリアのブルーティアーズでビット兵器は見たことあるけどっ!」

 

 ビット兵器は六つ。

 どのような構造なのか、ブルーティアーズよりも実用性が高いらしい。

 ビットそのものの機動性が高く、ブルーティアーズのように射出しても操縦者の動きは制限されていない。

 一気に戦況が一対九になった気分だ。

 

「ち、近づけねぇ!」

 

 敵の圧倒的な火力に、俺は狙いの深紅のISに近づけない。

 どうにか状況を打破しようとビームを躱しながら思考を巡らす。

 ダメージを無視して深紅のISに突撃?

 深紅のISは無視して、現在最も厄介なオレンジのISを先に撃破すべきか?

 それとも、オレンジのISの攻撃の合間に攻撃してくる黒いISを先に撃破すべきか?

 はたまた、一度通信不能領域を離脱してこの状況を伝えるべきか?

 アイデアはいくつか出ても、それは敵機の性能が邪魔をする。

 一体のISを攻撃しようとすれば、ほか二対のISが二人係でそれを阻み、距離を取ればオレンジのISが追いかけてくるか、黒いISの長距離射撃が俺を狙う。

 

「いったいどうしたら……っ!?」

 

 視線の端に信号弾。

 それが示す意味は『作戦失敗』だった。

 その直後、通信機能が回復した。

 

『十六夜、無事か!?』

 

 千冬さんの声が震えている。

 

「どうしたんですか、千冬さんっ!」

 

『作戦は失敗した。一夏がやられた』

 

「なん、だと……?」

 

 嫌な予感はしていた。

 それが当たってしまったのだからそのショックは大きい。

 そのせいだろうか、俺は背中受けた衝撃に数秒遅れて気づいた。

 

「このっ──」

 

『十六夜っ! おいっ、月夜っ!!』

 

 黒いISと深紅のISが連結した高エネルギーの長距離射撃。

 それを直撃された零式はに紫電が走り、稼働限界が来ていることを示していた。

 

「せめて、この状況だけでも──」

 

 俺は戦闘記録を千冬さんたちに送る。

 視線の向こう側で、連結した二機のISが二度目の射撃を行おうとしているのが見える。

 しかし、今の零式にそれを避けるだけのエネルギーが残っていなかった。

 

「ごめん、皆……」

 

 そして俺は目を閉じた。

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