IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】 作:生そば
俺が覚えている記憶の中に『カプセルの中の■』というものがある。
ガラス越しに手を伸ばしても、決して届かない。
■はカプセルの中から微笑みかけてくる。
「いつも一緒にいるから」
「織斑先生、どうして月夜さんの捜索を断念したんですの!?」
作戦会議室。
IS学園の教師たち、そしてセシリア、シャルロット、ラウラ、鈴の中で、セシリアが千冬に詰め寄っていた。
千冬はため息をつき、その場の全員にレーダーを見せた。
「現在の周囲の海域の様子だ」
そうは言うものの、レーダーに映し出されているのは『UNKNOWN』という文字。
福音を追っていた通信不能領域が突如拡大し、周囲の海域を多い尽くしてしまったのだ。
「どういうことですか、織斑先生……」
シャルロットが「あり得ない」と目を丸くする。
「通信不能領域を作り出していたISの仕業だ。これでは、十六夜の居場所も福音の居場所すらわからない。そして、これを見ろ。十六夜が戦闘中に送ってきた映像だ」
ディスプレイに写し出されたのは見たこともない三機のIS。
しかもその三機全てが月夜の零式と同じようにGN粒子のような光の粒子を放出していた。
そしてその映像は黒いISと深紅のISによる射撃を受けて終わっていた。
「我々はこの映像から、今後の作戦を立てなければならない。今のところ、福音はこの通信不能領域から離れてはいないらしい。作戦が立ち次第、お前たちには動いてもらう」
「そんなっ! 月夜はどうなるんですか!」
「今の映像を見て分かるだろう。十六夜月夜はMIAと見なされた。分かったらお前たちは待機していろ」
「MIA……なんて…………」
MIA──missing in action──『戦闘中行方不明』
つまり『確認していないが、まず助からないだろう』ということだ。
月夜が落ちた海域は波が高く潮の流れも速い。
落ちればたちまち波に揉まれ、溺れ死んでしまうだろう。
それがIS学園の上層部、そして教師陣の意見だったのだ。
「嘘だ」
ラウラは拳を握り、乱暴に扉を開けて出ていく。
それを追って、他の専用機持ちも出ていった。
「くそっ……私だって」
千冬は繰り返し再生される三機の無人機を睨み付けて呟く。
「私だって、探しに行きたいさ」
部屋を出て、ラウラはすぐに通信機を取り出す。
「クラリッサ、私だ」
『隊長? どうなさいましたか?』
「我々の現在地付近の海域に
『はっ、了解しました』
「頼む」
あとは連絡を待つだけ。
ラウラの所属する部隊は優秀だ。ものの数分で探し出してくれるだろう。
「ラウラ……」
後から専用機持ちたちが追いかけてきた。
「シャルロットか。今、私の部下たちに探してもらっているところだ」
「僕も一緒に行くよ」
「わかっている。セシリアも同じだろう?」
「勿論ですわ!」
「鈴音はどうした?」
「箒の所へ行ったよ」
「ずっと寝たきりでしたわね、一夏さん」
ISの防御機能を貫通して人体に届いた熱波に焼かれ、一夏は身体中に包帯を巻かれて、もう三時間以上も目覚めていない。
箒はその間ずっと一夏のそばにいたという。
「どうしろと言うんだ! もう敵の居所もわからない! 戦えるなら、私だって戦う!」
一夏が眠っている部屋から箒の怒鳴り声が聞こえてきた。
その声を聞いた三人はその扉を開ける。
「皆……」
箒が目に涙を浮かべながら呟いた。
と、次の瞬間、ラウラの持っている端末にメッセージが届く。
「出たぞ。ここから三〇キロ離れた沖合上空に福音、それを取り囲むようにして三機の未確認ISが停滞している。レーダーは使い物にならないが、光学迷彩は持っていないようだな。衛星による目視で発見したぞ。残念ながら月夜は見つからなかったが、希望はある。直接行って生体反応を探す」
それはつまり、一刻でも早く四機のISをすべて倒し月夜の捜索に専念しなければならないということだ。
鈴音はそれを聞いてにやりと笑う。
「さすがドイツ軍特殊部隊。やるわね」
「ふん……。お前の方はどうなんだ。準備はできているのか」
「当然。
「ああ、それなら──」
「たった今完了しましたわ」
「準備オッケーだよ。いつでもいける」
それぞれが頷き、そして箒へと視線を向けた。
「で、あんたはどうするの?」
「私……私は──」
ぎゅうっと拳を握りしめる箒。
それは次こそは勝つという、決意の表れだった。
「戦う……戦って、勝つ! 今度こそ、負けはしない!」
「決まりね」
ふふんと腕を組み、鈴音は不敵に笑う。
「じゃあ、作戦会議よ。今度こそ確実に墜として、月夜を救い出すわ!」
「ああ!」
懐かしい感覚と共に俺の沈みかけていた意識が浮上していく。
──月夜。起きた?
目の前に見覚えのある顔がある。俺の■だ。
まあいいや。それより今は……
──起きたなら、さっさと返事しなさいよ。
バシンッ 目の前の■が俺の頭を思いっきりぶっ叩く。
「いってぇなぁ。何しやがる」
──狸寝入りこいてる方が悪い。
■はそっぽを向いて頬を膨らませる。
子供かよ、お前は。
「狸寝入りなんてしてないし」
──してましたー。意識的に私の言葉を無視してましたー。
「だからって、人の頭を思いっきり叩くなよ」
脳細胞が死ぬだろうが。
……そういえば、ここはどこだ?
俺はあの三機に撃ち墜とされて、海に落ちたはずだが……。
──それより、いいの?
「何が?」
──まだ終わってないんでしょ?
「そうは言っても、俺一人の力じゃあの三機を相手にするのは難しいだろうさ」
──諦めちゃうんだ?
「いや、どうやったら倒せるか考え中」
──ふーん。……月夜らしいね。
「ん、そうだ。お前に直接言いたいことがあったんだ」
──ん、何?
「VTシステムだ。ラウラをけしかけたのはお前だろ」
──あ、やっぱ分かっちゃった?
「分かるに決まってんだろ」
──別に、あの子が迷ってたから後押ししてあげただけだってば。
「…………。まあ、そういうことにしといてやる」
──やった。月夜ってばやっさしぃ!
「いつか絶対にお仕置きしてやる」
──うっ……。で、あの三機を倒す算段はついた?
「うっ……。それが、まったく」
──よ、よかったら……、私が力を貸してあげてもいいけど?
「本当か!?」
照れ臭そうにそっぽを向いて、頬をかく■。
こいつは昔も素直じゃなかった。
──ま、他ならぬ月夜だからね。
「ありがとう、■■。恩に着る」
俺がお礼を言うと顔を赤くしてうつむいた。
──べ、べつに月夜が死んだら私も死んじゃうからだし。だからって、仕方なくって訳じゃ……
最後の方は聞き取れなかった。
はっきり言いにくいなら、問い詰めるつもりもないのだが。
──ただし、三分以上は使わないでね。
「任せろ。それまでにケリをつけるさ!」
──じゃ、頑張って。応援してる。だって、私は……
いつも一緒にいるから
目の前がホワイトアウトし、それと同時に俺は海の中で意識を取り戻す。
そしてそれを待っていたかのように零式が光り出す。
流れ込んでくる情報の奔流。
その中にこんなものがあった。
Compel shift──Acceptance...
VALKYRJA-System──Release
Twin Drive - system──boot
Count... 180s