IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】 作:生そば
海上二〇〇メートル。
そこには胎児のように踞る『
そしてそれを取り囲む三機のIS『スローネ』黒の
ふと、福音が顔をあげる。
次の瞬間、砲弾が迫るが、それを三号機がGN粒子の膜を作って砲弾を受け止めた。
勿論、ダメージは無い。
GN粒子で作った膜を部分的、もしくは全面に展開する《GNフィールド》というシステムだ。
これはGNコアドライヴ搭載型ISならどれでも使えるはずの代物であるが、機体の装甲内部に貯蔵されたGN粒子の貯蔵量が少ない零式参型には展開が難しいものでもある。
『GNフィールド、健在。敵機を発見。これより迎撃行動に移行する』
スローネたちが飛翔すると、それを追って福音も迎撃行動に移る。
「初弾を防がれた! まさかGN粒子にあんな使い方があったなんて!」
福音に向かって砲撃した人物──ラウラがすぐにその場を離れる。
すると次の瞬間、ラウラがいた場所に一号機の砲撃がクレーターを作った。
「私は黒い奴の相手をする! セシリア、鈴音、他の敵を引き付けろ!」
「「了解(ですわ)!」」
一号機に近付こうとする三号機をセシリアがライフルで牽制。
そこに鈴音が衝撃砲を撃ち込んで、一号機と三号機を近付けさせない。
今度は二号機が一号機に近付こうとするが、今度はそれをセシリアがブルーティアーズで妨げる。
『対応レベルを3に変更』
飛び出す牙のような形をしたビット。
これは『ファング』といい、遠隔操作が可能な移動砲台で、ブルーティアーズのようなフレキシブルシステムは無い代わりに操縦が簡易化されており、一度に多くのファングを操作できるようになっている。
「──っ!? 行きなさいっ、ティアーズ!」
ビット兵器同士の戦い。
しかし、ブルーティアーズは四基でファングは六基。
ブルーティアーズがその利点であるフレキシブルシステムを使えなければ、有利なのは数で勝るファングであることは明白。
セシリアの代表候補生としての能力がそれを補うが、敵はまだいる。
『La……』
機械音と共に福音が機械の翼をはためかせる。
「させるものか!」
五人の専用機持ちの中で唯一福音の攻撃を直接見た者──箒が福音に飛翔する。
福音の全方位攻撃は厄介な代物で、無人機がいる場所で使うところを見ると、どうやら無人機たちは福音の仲間というわけではないらしい。
「はぁ!」
空裂で斬りかかり、福音がそれをかわして距離を取る。
「僕もいるよ」
福音が移動した先にいたのはステルスモードのシャルロットだった。
ショットガン二丁による近接射撃を背中に浴び、福音は姿勢を崩す。
しかしそれは一瞬のことで、すぐさま全方位に対して《
「おっと、悪いけど、この『ガーデン・カーテン』は、そのくらいじゃ落ちないよ」
実体シールドとエネルギーシールドの両方によって福音の弾雨を防ぐ。
「箒、今だよっ!」
弾雨が止むと、シャルロットの後ろに隠れていた箒が最大出力で斬りかかる。
「これで終わり──なっ!」
箒の刃が福音に当たる瞬間、吹き飛ばされてきたセシリアが箒に衝突する。
「大丈夫か、セシリア!」
「あまり大丈夫ではありませんわ。ですがっ!」
今回の目的は福音と無人機三機の討伐、及び今もどこかで死にかけている月夜の救助なのだ。
「月夜さんを助けるまでは負けられませんわ!」
『《
福音が両腕を左右いっぱいに広げ、さらに翼も自身から見て外側へと向ける。──刹那、眩いほどの光が爆ぜ、エネルギー弾の一斉射撃が始まった。
「くっ!!」
「箒、セシリア! 僕の後ろに!」
辺り一面にエネルギー弾が撒き散らされる。
それを無人機たちはGNフィールドでやり過ごす。
鈴音はシュヴァルツェア・レーゲンの陰に隠れる。
今のレーゲンには砲戦パッケージ『パンツァー・カノーニア』が装備されており、四枚の物理シールドと八○口径レールカノン《ブリッツ》二門がある。
初めの砲撃もこれによるものである。
「──っ!? 皆、避けてっ!」
鈴音が無人機の動きに気付いて声をあげる。
見ると、そこにはドッキング作業を終えた一号機と三号機が射撃体制に入っていた。
福音の射撃が終わると同時に一号機の砲身が火を吹く。
「避けられないっ!」
暴力的な色をしたビームが箒たちに迫る。
シャルロットがシールドで防ごうとするも、超高出力のビームがシールドを極短い時間で消し飛ばす。
(せめて、ふたりだけでも!)
シャルロットが箒とセシリアを射線上から突き飛ばす。
「「シャルロット(さん)!!」」
「ごめん、皆」
次の瞬間、三人の視界を激しい光が多い尽くした。
しかし、それはシャルロットのリヴァイヴがやられたものではなかった。
「これは……」
「GN……粒子……?」
離れた所にいたラウラと鈴音はしかと見えていた。
リヴァイヴの最後のシールドが消し飛ぶ瞬間、海面から大量のGN粒子がまるで火山の噴火のように立ち上ったのだ。
しかもそのGN粒子の色は五人が知っている、零式のものであった。
やがてGN粒子の光が収まり、その中にもうひとりの人物を見つけたシャルロットが呟いた。
「……つ、月夜?」
「ああ、そうだ」
「ほ、本当に月夜さんですの?」
セシリアがそう言うのもおかしくはない。
なにせ今彼女たちの目の前にいるISは、零式参型ではなかったのだ。
参型の雰囲気を思い出させるデザインで、背中にひとつしかなかったコーン型のスラスターは両肩にひとつずつ。
非固定装備の補助スラスターはその姿を消し、ただでさえ小さめの零式がまた一段と小さく見える。
さらに一番の見た目の変化はフルスキンではなくなっていたことだ。
普通のISと比べれば纏っている装甲の量が多いが、参型と比べれば幾ばかりか減っている。
「悪い、時間が無いんだっ」
月夜が飛び出す。
左右の手に剣を握り、ドッキングしたままの無人機二機に切りかかる。
『新たな敵機確認。最大レベルで対応します』
機械音が聞こえ、間髪入れずに二号機が月夜に襲いかかる。
「前のようにはいかねぇからなっ!」
二号機の大剣が降り下ろされるのを月夜はそれを右で受け止め、力いっぱいに刃を叩きつける。
すると物凄い勢いで切り裂かれた二号機が海面に激突し、爆発を起こした。
続けざまに月夜は三号機のもとへ、その機動性に周りが驚く。
「お前らは福音をやれっ!」
唖然としていた五人に月夜が声をあげた。
それを聞いた五人は嬉しそうに、しかし真剣に返事をする。
「「「「「了解っ!!」」」」」
返事を後ろに聞きながら、月夜は剣を振るう。
左右に持つ二本の剣『GNブレイド』は『近接ブレード葵改』の形が変わったものである。
「お前たちには一分までしか時間を掛けられねえからなっ」
新たな零式の稼働限界まで一八〇秒。
時間惜しさに自然と剣を握る手に力が入り、スラスターを吹かして二機に斬りかかる。
GNブレイドの刃が一号機の砲身を切り裂き、サマーソルトキックの要領で脚部のブレードが一号機の装甲を真っ二つにする。
「まだっ、あと一機!」
月夜の背後に回った三号機が右手に持ったビームガンを撃つ。
しかし撃った所に月夜はおらず、ワンテンポ遅れて三号機は背後の月夜に気付く。
急遽GNフィールドを展開して月夜の斬撃を防ぐが、次の瞬間GNブレイドの刃が三号機のGNフィールドを突き抜けた。
「これで終わりだぁっ!」
勝敗は呆気なく終わった。
無人機が爆発し、まだ機体内部に残っていた赤いGN粒子が花火のように舞い散る。
「はぁ……はぁ……。あとは福音を──」
視線を移した瞬間、海面が強烈な光の珠によって吹き飛んだ。
「!?」
球状に蒸発した海は、まるでそこだけ時間が止まっているかのようにへこんだままだった。
その中心、青い雷を纏った『銀の福音』が自らを抱くかのようにうずくまっている。
「これは……!? 一体、何が起きているんだ……?」
「!? まずい! これは──『
ラウラが叫んだ瞬間、まるでその声に反応したかのように福音が顔を向ける。
無機質なバイザーに覆われた顔からは何の表情も読み取れない。
けれど、そこに確かな敵意を感じて、各ISは操縦者へと警鐘を鳴らす。
しかし──遅かった。
『キアアアアアアア……!!』
まるで獣の咆哮のような声を発し、福音はラウラへと飛びかかる。
「なにっ!?」
あまりに速いその動きに反応できず、ラウラは足を掴まれる。
そして、切断された頭部から、ゆっくり、ゆっくりと、まるで蝶がサナギから孵るかのようにエネルギーの翼が生えた。
「ラウラを離しやがれぇっ!」
月夜がGNブレイドで斬りかかる。
けれど、エネルギーの翼から放たれる弾で近づけない。
「月夜、離れ──」
ラウラの言葉は最後まで続かず、その眩いほどの輝きと美しさを併せ持ったエネルギーの翼に抱かれる。
刹那、あのエネルギー弾を零距離で食らい、全身をズタズタにされてラウラは海へと墜ちた。
「シャル、ラウラを!」
「わかった!」
月夜はシャルロットがラウラを受け止めたのを確認してからGNブレイドをライフルモードにして引き金を引く。
ドンッ!
しかしその前に、月夜の体が吹き飛ばされる。
福音の胸部、腹部から、背部から、装甲がまるで卵の殻のようにひび割れ、小型のエネルギー翼が生えてくる。
それによるエネルギー弾の迎撃が月夜を吹き飛ばしたのだ。
「な、何ですの!? この性能……軍用とはいえ、あまりに異常な──」
再び高機動による射撃を行おうとしていたセシリアの目の前に福音が迫る。
『瞬時加速』──それも、両手両足の計四ヶ所同時着火による爆発加速だった。
「くっ!?」
長大な銃は接近されると弱い。
距離を置いて重厚を上げようとするが、その砲身を真横に蹴られてしまう。
そして、次の瞬間には両翼からの一斉射撃。
反撃らしい反撃もできず、セシリアは蒼海へと沈められた。
「私が行くわ!」
鈴音がセシリアを助けに行く。
「私の仲間を──よくも!」
「待て、箒!」
急加速していく箒を月夜が追う。
展開装甲を局所的に用いたアクロバットで敵機の攻撃を回避する箒。それと同時に不安定な格好からの斬撃をブーストによって加速させる。
「うおおおおっ!!」
箒がトドメとばかりに雨月の打突をを放つ。しかし──
キュゥゥゥン……。
「なっ! またエネルギー切れだと!?──ぐあっ!」
その隙を見逃さず、福音の右腕が箒の首を捕まえる。
(くそっ、間に合わない!)
月夜は零式を加速させながら、箒が光の翼に包み込まれていくのを捉えていた。
ィィィィンッ……!!
『!?』
突然、福音は箒を掴んでいた手を話す。
いきなりの出来事に混乱している箒が、瞳を開けた時に見たのは強力な荷電粒子砲による狙撃を受けて吹き飛ぶ福音の姿だった。
「……遅えよ、バカが」
その狙撃主をいち早く視認できた月夜が嬉しそうにこぼした。
「俺の仲間は、誰一人としてやらせねえ!」
視線の先には白く、輝きを放つその機体がある。
「あ……あ、あっ……」
じわりと箒の目尻に涙が浮かぶ。
箒の危機に駆け付けたのは、白式第二形態・雪羅を纏った一夏だった。