IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】 作:生そば
~第一二話~《私が月夜の■です》(1)
「あの、えっと……」
IS学園寮内のとある一室──織斑一夏と十六夜月夜の部屋では現在、六人の男女にひとりの女子が詰め寄られていた。
詰め寄られているのは、先日一夏が出会った月夜にそっくりの女子だ。
「で、名前は何だっけ?」
五人の女子、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラが月夜モドキのことをじっと見つめている中、唯一の男子である一夏が話を切り出す。
「い、十六夜……
「月子?」
十六夜月子と名乗る少女。
数分前に説明した通りでは、月子は月夜の実の妹。
突飛な話、彼女の意識は月夜の中に存在していたのだと言う。
体は篠ノ之束から貰った小さな箱の中に入っていた。
「こんな話、信じられるか!」
ラウラが立ち上がる。
「信じられないような話だってのは分かってる。だけど事実だから信じてもらうしかない」
「じゃあ、つ、月子。月夜はどこにいったの?」
シャルロットがラウラを宥めながら訪ねる。
すると月子は小さな箱を取り出した。
「この中」
それは束から貰った小さな箱。
彼女の話を鵜呑みにするのなら、この中にいた月子の体と月夜の体が入れ替わり、意識も月夜のものから月子のものが出てきた。ということになる。
因みに言うと、これは二重人格ではないと言う。
さらには以前、ISのコアを通してラウラに話しかけたこともあるという。
それを聞いたラウラはVTシステムの時の声を思いだし、納得。
そしてラウラが納得したことで、ひとりずつゆっくりと納得していったのであった。
「しかし、『意識』を『体』に入れるというのが未だに理解できないのだが」
箒はうんうんと唸る。
まずそんなことが可能なのか。
「私たちにとって、体は只の入れ物に過ぎないのよ」
IS(普通の)がパイトロット無しでは動かないように、月子、そして月夜たちの体と意識の関係はそれと似ているらしい。
では他の人間はどうなのかと言えば、そんなことはまず不可能である。
「そういえば月夜に以前、あいつ自身の過去について教えて貰ったことがあったな」
「それは本当ですの、ラウラさん!?」
「詳しくはあいつも覚えていない様子だったがな」
ラウラが当時のことを話すと、皆その時のラウラのように押し黙ってしまった。
「まあ、その改造でこんなことができるってことで大体あってるよ」
「で、では……月子がここにいる限り、月夜は帰ってこないということか?」
「YES! 箒、正解!」
「…………」
「大丈夫。だって月夜だよ?」
ニカッ。と笑って見せる月子だが、他の皆はそうもいかない。
「あの新しい零式。強制的に第二形態移行した上にヴァルキュリアシステムを使いすぎたのが原因なんだよね」
『ヴァルキュリアシステム?』
「うん。私の力を一時的に月夜も使えるようにするシステムなんだけど……」
月夜と月子は元々別人なので、同時に表に出られない。
そもそも月夜は自分の中に月子を匿うために、自分の身体能力を月子に少し分けていた。
体を車とすると、今まで『十六夜』という車を動かしていたのが月夜。
そして今回、月子の力を使いすぎたことによってドライバーが変更されてしまったらしい。
束から貰った箱は、月子が表に出てきてしまったとき、月子の体と入れ換えるためのものだったのだ。
「月子の力ってなんだ?」
「馬鹿力……かな?」
そう言えばと、月夜が易々と無人機を吹き飛ばしていたのを思い出した。
確かにISのパワーアシストでもあそこまでの力は出ないと皆が思っていた。織斑千冬という例外を除いて。
「まさか、月子。千冬さんと同等の筋力の持ち主とか言わないわよね」
「え、そうだけど?」
その瞬間、空気が凍った。
「そんな警戒しないでよ、皆。別に暴れだそうなんて思ってないから」
「こ、コホン。では月子さん? 月夜さんだから大丈夫というのはどういうことかしら?」
「皆、忘れたの? 月夜の頭脳は束さんにライバルと認識される程のものなんだよ?」
「でもそれは束さんが勝手に言ってることだって、月夜が……」
「ジャパニーズ、謙遜だよ。それは」
「……で、どういう事なんだ?」
「月夜が今この箱の中で、外に出る方法を探してるってことよ」
『!?』
月夜は頭脳担当、月子は運動担当といった性格だったらしく、月夜の頭脳は確かに束のライバルに相応しいと言っていいのだそうだ。
「じゃあ、月夜は帰ってくるのね!?」
「難しいことは私はわからないから、詳しくは教えられないけど……。うん、月夜ならきっと帰ってくるよ」
そう言った月子の顔はどこか寂しそうであった。
が、一瞬でそれは明るい表情に代わり、月子は「さて」と言って立ち上がる。
「じゃあ、私はこれからの事を先生たちと相談しなきゃならないから。また後でね」
バイバーイ! と元気に走り去っていく。
そこに取り残されたのは六人の専用機持ちたち。
月夜はいつか帰ってくると言われた。
しかしそれがいつになるかなど、誰も知るよしもない。
「待つしか無いよな」
一夏が立ち上がる。
そう。待つしかないのだ。
この中であの箱の構造を理解できるものは一人もおらず、かと言って助けを求めるわけにはいかない。
あの天才篠ノ之束にライバルと言わせる程の、GNコアドライヴを作り出してしまうほどの月夜の頭脳を信じるしかないのである。
「って、言ったけどさ」
「そうだねー。まあ、わかってたけど」
IS学園に二人しかいない男性IS操縦者のうちひとりが消え、その代わりにその妹が現れる。
月夜は俺と同室だったがゆえに、入れ替わりで月子と同室になることになったのだ。
前は箒とも一緒だったし、初めてじゃない分それほど緊張しないけど、箒は幼馴染みだったから……。
「あ、一夏?」
「な、なんだ?」
「今日の会議で、月夜は一時休学。私は転入ってことになったから」
「そんなことできるのか?」
「ふふん♪ この月子さんを甘く見てもらっては困るよ。月夜が参謀なら私は実行部隊。見よ、これが私の適正だ!」
「IS適正値診断……適正値え、Sぅ!?」
ISには、ある程度は感覚で操縦できてしまうという点がある。
初心者には優しい機能だが、いつまでもそれに甘んじているようではそれ以上先には進めない。
また、ISの適正値を底上げするのが専用機を与えられた時に行われる『最適化』なのだが、このIS適正値診断で示されるのは訓練機を用いたときの値なのだ。
そして感覚でISを操縦した時の程度を数値化したものがこの適正値なわけで、つまり月子は感覚でISを動かしたとしてもかなり高いレベルの動きが可能だということなのだ。
「どうよ♪」
「す、すごいん……けど」
「そうでしょう。そうでしょう」
IS適正値がSの人はかなり珍しいらしい。
あれ、確か箒も『S』になったって聞いたな。
「で、一夏。これから部屋を同じくする者として、言いたいことがあるんだけれどもさ」
「う、うん? なんだ?」
「私は箒や鈴音みたいに甘くないからね?」
「それって、俺の訓練に参加してくれるってことか?」
「……あぁ、うん。まあそれでいいや」
なんだか月子の歯切れが悪い。
なんだ? 違ったのか?
「確かにこれは……二人も苦労するわけだよね。うちの兄もだけど」
「なんだって?」
「なんでも無いよ~」
まったく、俺の周りには突然口ごもる奴が多いな。
言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。
「それにしても、本当に二人って似てるよな」
「まあ、この体は月夜がモデルなんだけど。私たちは双子だったから似てて当然だよ」
月夜がカツラを被っているとすれば納得できるくらい瓜二つなのだ。
臨海学校前に月夜に助けられたのを思い出すな。
……って、月夜が買っていたアレってもしかして?
「……一夏?」
「前に月夜が誰かにプレゼントを買ってたんだ」
しかも袋に包むとかせずにしまいこんでしまった。
いや、自分が一度着けた物をプレゼントするはずがないと思うけど、その後に何も買わなかったらしい。
「ほら、これ」
月夜が女装して俺を助けてくれた時に着けていたリボン。
あの時は詳しく教えてくれなかったけど、
「もしかしたら、月子の為だったんじゃないかなと思って」
月子は差し出されたリボンを受け取り、髪をかるく結んで見せる。
リボンの着け所も、月夜と一緒だ。
「どう?」
「うん、似合ってると思うぞ」
ムーングレーの髪が長い分、余計に似合っている。
こうしてみると、やっぱり月夜とは違うように見えなくもない。
「さて、では夕食を食べに行こうかー!」
「って、もうこんな時間か!」
その後、月子と共に学食へ行くと『月夜が女になった』というちょっとした騒ぎが起こったのは言うまでもなかった。