IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】   作:生そば

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~第二話~《連撃と一撃》(2)

 

 放課後。女子たちの情報で剣道場に来ていた。

 何でも一夏が篠ノ之と剣道で勝負するのだとか。

 だが試合開始から10分。一夏があっさり負けた。

 

「どうしてここまで弱くなっている!?」

 

「受験勉強してたから、かな?」

 

「中学では何部に所属していた」

 

「帰宅部。三年連続皆勤賞だ」

 

 そんなやり取りを俺は横目に見ていた。

 

「そう言えば剣道ってやったことないな」

 

「十六夜くん、興味あるの?」

 

「いや、俺のISは接近戦に特化した機体だからな。やってみる価値は無くもない」

 

「篠ノ之さーん! 十六夜くんも剣道やってみたいって!」

 

「いや、俺は──」

 

 あまりにも自然に質問されたから自然に返事をしてしまった。

 なんという失態。

 

「月夜もやるのか?」

 

 一夏は空気読めっ!

 箒はお前のために剣道の相手をしているんだろうが。

 

「ならば準備をしろ」

 

「え、本当にやるの?」

 

 箒の方からも断ってほしい。

 ほら、回りのギャラリーが期待しちまってるよ。

 どうすんだこれ。どうすんだ。

 

「じゃ、道具借りるな?」

 

「さっさとしろ」

 

 箒の目が怖い。

 無言だが『よくも一夏との時間に割って入ってきたな』という意思がビシビシと伝わってくる。

 

「よし、できたぞ。一回だけだからな」

 

『はやっ』と全員が驚いた。

 

 行動の早さだけは自信があるんだ。

 と、その中で一人だけ反応が違うものがいた。

 箒だ。

 

「ん、二刀流か」

 

「零式が二刀流なんだ」

 

「まあいい。一夏、やれ」

 

 一夏はさきほどの一本で肩で息をしているんだが。

 

「よし、やろうぜ。月夜」

 

 本人がやる気ならば文句は言わないでおこう。

 さて、俺は打つところ以外はルールすら知らないド素人だ。

 零式が二刀流だからという理由で竹刀を二本持っているが、鎧と竹刀二本はちょっと重量感があるな。

 

「打つ場所以外のルール知らないから、適当にやるぞ」

 

「ああ、いいけど。変わった構えするんだな」

 

「そうか?」

 

 二本の大刀を持ち、右を頭上で一文字に構え、左を手前で逆手で持つ。

 たしかにオリジナルの構えではある。

 これは昔、束さんと各地を転々としている時に教わった物だが、その師匠の顔も性別も覚えていない。

 人並み外れて強かったことまでは覚えていたんだが。

 

「まあ気にするな」

 

「よし、では始め!」

 

 箒の合図で地面を二人同時に蹴る。

 

「「やぁぁぁあああ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早いなぁ。一週間」

 

 結局、オルコットさんからは何の返事もなかった。

 仲直りはできなかったってことか。

 やはり言い過ぎたのが良くなかったか?

 でもオルコットさんの方が先に馬鹿にしてきたのは、自分でわかってるはず。

 やっぱり言い方が悪かったのか……。

 

「どうしたもんかなぁ」

 

 そんな風に黄昏れていると、背後で鈍い音がした。

 ピット搬入口が開く。斜めに噛み合うタイプの防御扉は、重い駆動音を響かせながらゆっくりとこの向こう側を晒していく。

 

「へぇ……」

 

 飾り気のない眩しいほどの純白を纏ったISが、その装甲を開放して操縦者を待っていた。

 

「これが……」

 

「はい! 織斑くんの専用IS『白式』です!」

 

「体を動かせ。すぐに装着しろ。十六夜とオルコットは先に始めろ。その内に白式のフォーマットとフィッティングを済ませる。散れ!」

 

 テキパキと作業が始められていく。

 さて、行くか『零式』。アリーナの向こう側でオルコットさんが待ってる。

 

「零式!」

 

 ブレスレットが粒子となって弾け、収縮し、身体中に白と青の装甲を纏わせる。

 ISは通常全身を装甲で包む意味がない。

 操縦者は絶対防御で守られているために、装甲で身を守る必要がないのだ。

 しかし零式は操縦者の体のほとんどを包むように設計されている。

 フルスキンにはそれなりの理由があるのだ。

 

「全身装甲か……。これが零式参型」

 

 箒が興味を持ったのか、話しかけてきた。

 

「全身装甲の上、スラスターが無いだと?」

 

 そう、零式には見て取れるスラスターがない。

 しかし無いという訳ではなく、背部にコーン型のスラスターと、非固定武装がシールド兼サブスラスターとなっている。

 それは従来のスラスターとは異なり、火ではなく光の粒子を放出する。

 これは零式参型の前の零式弐型で試験された物で、高推力と安定性を併せ持つ。

 

「そんな機体で大丈夫か?」

 

「大丈夫だ。じゃ、行くわ」

 

 コーン型のスラスターとサブスラスターから大量の粒子を放出し、静かに機体を前へと押し出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、オルコットさん」

 

 アリーナに入ると、オルコットさんはすでに腰に手を当てたポーズで待機していた。

 鮮やかな青色の機体『ブルーティアーズ』。

 特徴的なフィン・アーマーを四枚背に従え、どこか王国騎士のような気高さを感じさせる。

 

「何ですの、その機体は……」

 

 零式の姿を見たオルコットさんの表情は予想通りのものだった。

 それもその筈。クラス中の生徒が零式は日本の最新型だと思っている。

 オルコットさんの感想は取り合えず『何で飛んでいますの?』といった所か。

 

「これが俺の零式参型だ。綺麗だろ?」

 

 次の瞬間、試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

「そんな物──」

 

 

 

 ──警告! 敵IS射撃体勢に移行。トリガー確認、初弾エネルギー装填。

 

 

 

「見かけ倒しですわ!」

 

 キュインッ! 耳をつんざくような独特の音と同時に閃光が走る。

 

「────っ!」

 

 射撃をシールドで受けられたが、ギリギリだった上に後方へ吹き飛ばされた。

 装填から発射までの時間が短く、威力も高い。

 

 

 

 ──シールド防御成功、損傷軽微。

 

 

 

 シールドの対ビームコーティングを強化した方が良さそうだ。

 あとは零式の反応速度も少し上げよう。

 

「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」

 

 ライフルによる射撃が弾幕のように降り注ぐ。

 高い機動力を誇る零式を持ってしても、狙いが的確でシールドの隙間を狙ってくる。

 シールドで防御しているためシールドエネルギーは減らないものの、このまま受け続ける訳にはいかない。

 

「なんて機動性。……ですが!」

 

「零式、こっちも行くぞっ!」

 

 両腕にそれぞれマウントされたビームブレード《月光》を抜き放つ。

 零式の武器は全て量子化されていないため、すぐに取り出すことが可能なのだ。

 

「中距離射撃型のわたくしに、近距離格闘装備で挑もうだなんて……笑止ですわ!」

 

 すぐさまオルコットさんの射撃。

 それをビームブレードで相殺し、身を翻してオルコットさんとの距離を積める。

 

「せぇいっ!」

 

 一撃。しかし流石は代表候補生、ひらりとかわす。

 間髪入れずに二撃。それもかわされ、距離を取られる。

 

「なめるなよ? ブルー・ティアーズ、見せてみろよ!」

 

「性格変わっていません? でも、いいですわ」

 

 オルコットさんが右腕を横にかざす。

 すぐさま命令を受けたビットが二基、フィン・アーマーから分離して多角的な直線機動で接近してくる。

 

「零式、チャージはっ?」

 

 

 

 ──GN粒子圧縮率:78%。

 

 

 

「ちっ、まだか!」

 

 俺の上下に回ったそれらビットの先端が発光し、レーザーを放ってくる。

 それを辛うじて避けると、その隙をオルコットさんがライフルで狙撃。

 そこからさらにビットを二基追加。

 計五つの砲門がそれぞれ別方向から狙ってくる。

 

「タイミングが悪かったな。どっちも」

 

「何のことですの?」

 

「零式の力を発揮させるのと、オルコットさんとの仲直りのことだ」

 

 このままの戦況では零式の力を発揮させるまでにダメージを受けすぎてしまう。

 

「返事無かったけど、仲直りする気は無いってことか?」

 

 ならばそれまで少しでも時間を稼ぎたい。

 

「どうなんだ?」

 

「それは……」

 

「それは?」

 

 それに返事を貰えなかったのも気になる。

 オルコットさんは俺の言葉に一瞬戸惑う。

 

「これは決闘ですわ。あなたも手を抜かないと言ったはずでは?」

 

「手は抜いてない。俺は全力だ」

 

「ならば、何故?」

 

「言ったろ? 俺はオルコットさんと仲直りしたいって」

 

「そんなこと……」

 

 

 

 ──GN粒子圧縮率:86%

 

 

 

 ……やっと、来たか。

 

「わたくしだって、本当は……」

 

「本当は?」

 

「そ、そんな事はいいですわ! そろそろ閉幕と参りますわよ!」

 

「そうか……。じゃあ後で聞かせてもらうよ」

 

 

 

 ──装甲展開。ワンオフアビリティ『アサルト・アーマー《無月》』起動。

 

 

 

 その瞬間、零式の装甲と装甲の隙間が開き、そこから大量のGN粒子が放出される。

 零式の本領……とは言っても、これはまだ未完成。

 現在の《無月》は敵ISのロック機能の一時的な麻痺やウイルス汚染による脳波操作型兵器の一部をジャックする。

 ただし、これを使用することによりGN粒子の圧縮に大量のシールドエネルギーを喪失するため、防御能力を犠牲にして放つ諸刃の剣でもある。

 本来は散布しているGN粒子を攻撃に転用する目的で作られたが、ブルー・ティアーズ相手ならば今の《無月》の方が効果的だ。

 

「これが、零式の力だ!」

 

「どういうことですの? ティアーズ!」

 

 零式のセンサーから、敵と認識されたビットが次々と消えていく。

 代わりに、ブルー・ティアーズは俺の支配に下った。

 

「さあ──」

 

 オルコットさんに向けて手をかざす。

 それに反応して辺りのビットは一斉にオルコットさんへと砲門を向ける。

 手のひらを返すとビットはエネルギーを装填し始め、潰せとばかりにオルコットさんの乗るブルー・ティアーズを手の中で握ると同時にビットはオルコットさんを攻撃し始めた。

 

「ティアーズ、わたくしがわかりませんの!?」

 

 自らのビットからの攻撃をよけるオルコットさん。

 だが、俺の存在を忘れてもらっては困る。

 

「食らえっ!」

 

「────っ!?」

 

 ビットに気を取られて反応が遅れ、俺が突き刺したビームブレイドは装甲の無いオルコットさんの腹部に直撃する。

 きっとブルー・ティアーズのシールドエネルギーがぐんぐん減っていることだろう。

 

「かはっ!」

 

「まだまだ、行くぜ!」

 

 ビームブレード二本がブルー・ティアーズのシールドエネルギーを削っていく。

 

「くっ……い、インターセプター!」

 

 オルコットさんの左手に近接ショートブレードが展開される。

 

「させるかぁ!」

 

 零式の右爪先にマウントされていたビームブレイドを展開し、オルコットさんの左手を蹴り上げる。

 

「俺の勝ちだ。オルコットさん」

 

「お名前を……」

 

「は?」

 

 シールドエネルギーが減っていくなかで、オルコットさんは俺の腕を掴み、名前を訪ねてくる。

 

「お名前を今一度聞かせて貰えます?」

 

「……十六夜月夜だ」

 

「月夜……さん」

 

 俺の名を呼びながら、ブルー・ティアーズのシールドエネルギーが0になった。

 

 

 

 ──試合終了。勝者、十六夜月夜。

 

 

 

「後程、お部屋にお伺いしますわ」

 

「ん、わかった」

 

 これで仲直りの件を話してもらえそうだ。

 オルコットさんは今俺の腕の中で嫌がる様子はないから、悪い返事はないと思う。

 俺の学園生活は暗くならずに済むかもしれない。

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