IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】 作:生そば
四月も下旬。
遅咲きの桜でさえ花弁が散った頃。
夕食後よ自由時間。場所は寮の食堂。
壁には『織斑一夏クラス代表就任パーティ』とデカデカと書いた紙がかけてある。
「一夏や、そう気を落とすなよ。な?」
「だったら何で代表を辞退したんだよ」
「織斑先生に許可はもらった」
「……くっ」
俺がクラス代表を一夏に譲り、そのせいでこうなったわけだが。
一組のメンバー全員が揃って各自飲み物を手にやいのやいのと盛りがあっている。
いいじゃないか。皆こんなにも祝ってくれてるんだし。
「そんな事より、月夜。お前、零式はどうしたんだよ」
一夏が俺の腕にブレスレットがない事に気がついた。
「いや、こっちだ」
そう言って、首にかけたペンダントを見せた。
だが違う。零式参型ではない。
零式は一応俺の部屋にある。
しかし、織斑先生の許可無しでは使えなくなってしまった。
理由は簡単。零式参型の姿をなるべく晒さないためだ。
ならクラス代表決定戦のときからそうしておけばいいのに。
零式のコアだけを抜き取り、別の素体を用意するからそれにぶち込めと言われ。
その素体というのが日本の量産型である『打鉄』だった。
俺の大切な零式のコアがもはや量産型の中に組み込まれるとはと嘆いていると、織斑先生が改造の許可を出してくれた。
すぐさま俺は打鉄の改造に取り掛かった。
もともと普通の打鉄に零式のコア──GNコアドライヴという──は合わないため、改造が必要だった。
それでつい先日形になったのが、今ペンダントとして待機している『零式打鉄』だ。
「ブレスレットじゃなかったっけ?」
「まぁ、ちょっと色々あってな」
こんな答えしかやれない俺を許してくれ、一夏。
「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君と十六夜月夜君に特別インタビューをしに来ました~!」
オーと一同盛り上がる。女子のテンション高ぇなぁ。
「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やっねまーす。はいこれ名刺」
これはどうもご丁寧に、と名刺を受け取る。
新聞部とはいえ、二年生までくるとは。
「ではではずばり織斑君! クラス代表になった感想を、どうぞ!」
「えーと……まあ、なんと言うか、がんばります」
「えー。もっといいコメントちょうだいよ~。俺に触ると
ヤケドするぜ、とか!」
「自分、不器用ですから」
「うわ、前時代的!」
……どっちも前時代的じゃないか。
「じゃあまあ、適当にねつ造しておくからいいとして。次は十六夜君!」
「え、俺は代表じゃないんですけど……」
「そんなの関係ないない。注目の男子二人なんだから。で、なんで辞退したの?」
「一夏の方が相応しいと思ったからですね」
この人は言い過ぎても言わな過ぎてもねつ造に走りそうだからな。
前時代的なネタはわからないし。
これくらい言っておけばいいだろ。
「うーん、それだけかぁ。よし、じゃあ好きなタイプでも聞こうかな」
回答のチョイスを失敗しただろうか。
「えっと、何かに一生懸命な子は可愛いと思います」
って、おい。皆聞き耳を立ててるんじゃないよ。
先輩も何てこと聞くんですか。
「ふむふむ、結構守備範囲は広いわけね」
そんなことは一言も言ってない。
「あくまで俺の好みですか。俺が好きになる人がそうって訳じゃないと思いますよ。だって、恋って育っていくものだと思いますし」
そう。箒の恋心は突発的なものではなくて、長い年月を経て生まれたものだから。
別に一目惚れって物があるらしいから、突発的な恋も否定はしない。
「ほほぉ、幼馴染みとかだね」
「別に幼馴染みなんていませんが」
女子たちがほっと胸を撫で下ろした。
チームワーク凄いッス。
「なるほどなるほど」
いったい何に納得しているのか。
一度そのメモ帳を見せてはくれまいか。
「ああ、セシリアちゃんもコメントちょうだい」
「わたくし、こういったコメントは、あまり好きではありませんが、仕方ないですわね」
とか言いつつ、セシリアさんも満更ではない様子。
気合い入れて髪をセットしてある所といい、近くに待機していたことといい、やはり期待してたんだろ?
「コホン。ではまず、わたくしと月夜さんの熱い戦いを──」
「ああ、長そうだからいいや。写真だけちょうだい」
「さ、最後まで聞きなさい!」
「いいよ、適当にねつ造しておくから。よし、熱い戦いの中で恋に目覚めたってことにしよう」
「なっ、な、ななっ……!?」
「そんな馬鹿な……」
「えー、そうかなー」
バンッとセシリアさんに机を叩かれる。
「そうですわ、何をもって馬鹿としているのかしら!?」
呟きでそこまで怒らなくてもいいじゃないか。
「だ、大体あなたは──」
「はいはい、とりあえず三人並んでね。写真撮るから」
「えっ?」
意外そうなセシリアさんの声。
しかしどこか喜色を含んで弾んでいるようにも聞こえる。
「注目の専用機持ちだからねー。あ。握手とかしてるといいかもね」
え、三人で握手?
どうすんだっけ?
「ほら、はやくー」
慌ててセシリアさんと握手を交わし、そこへ一夏が手を乗せる。
「あの、撮った写真は当然いただけますわよね?」
「そりゃもちろん」
「でしたら今すぐ着替えて──」
「時間かかるからダメ。はい、戻ってー」
黛先輩はセシリアさんの手を引いて、そのまま握手まで戻す。
「それじゃあ撮るよー。35×51÷24は~?」
「え? えっと……2?」
「ぶー、74.375でしたー」
「分かるかっ!」
パシャッとデジカメのシャッターが切られる。
……って、ちょっと待て。
「いつの間に全員入ったんだ?」
一組の全メンバーが撮影の瞬間に俺たちの周り終結していた。
恐るべき行動力と素早さだ。
「あ、あなたたちねぇっ!」
「まーまーまー」
「セシリアだけ抜け駆けははいでしょー」
「クラスの思い出になっていいじゃん」
「ねー」
「う、ぐ……」
セシリアさん、だいぶ丸くなったな。と思いつつ。
「さて、次は十六夜君とそれぞれ二人の分もちょうだいね」
「本当ですの!?」
あ、セシリアさん嬉しそうだ。
結局、『織斑一夏クラス代表就任パーティー』は十時過ぎまで続いた。
女子のエネルギーを侮っていたようだ。
部屋に戻ってから俺は零式打鉄の調整をする前に寝てしまった。
「はぁ……」
「どうした、月夜?」
「いや、やることが多くて退屈しないなぁ。とな」
「十六夜くん、織斑くん、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」
「転校生? 今の時期に?」
ずいぶんと奇妙なことだ。
今はまだ四月で、IS学園は転入の条件が厳しい。
試験はもちろん、国の推薦がないとできないようになっている。
「そう、なんでも中国の代表候補生なんだってさ」
「ふーん」
「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」
セシリアさんも代表候補生だったね。
今朝も腰に手を当てたポーズがお似合いです。
「このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」
「どんなやつなんだろうな」
中国の代表候補生ということは、使ってるISは第三世代。
その中で一年の年代の候補生は……確か、ふぇん? ふぁん?
うーむ、思い出せん。
まあいいか。興味あるのは技術だし。
確か衝撃砲とかいう空間圧作用兵器だったか。
砲身も砲弾も透明で、基本的に不可視の兵器だ。
「む……気になるのか?」
「ん? ああ、少しは」
「ふん……」
「一夏はそんなことを気にしている余裕は無いぞ? 来月にはクラス対抗戦があるんだからな?」
辞退した手前ではあるが、俺の場合は仕方がなかった。
わかってくれ、一夏。
「クラス対抗戦に向けて実践的な訓練が必要だろ。他クラスには専用機持ちもいるらしいからな。俺やセシリアさんが訓練相手にでもなれば遠近どっちの攻撃にも対抗できるようになるだろ」
「まあ、やれるだけやってみるか」
「やれるだけでは困りますわ! 一夏さんには勝っていただきませんと!」
「そうたぞ。男たるものそのような弱気でどうする」
「織斑くんが勝つとクラスみんなが幸せだよー」
みんな優勝商品の学食デザートの半年フリーパスが欲しいのだろう。
俺も甘いものは大好きだ。一夏には勝ってもらわねばな。
「織斑くん、がんばってねー」
「フリーパスのためにもね!」
「今のところ専用機を持ってるクラス代表って一組と四組だけだかは、余裕だよ」
「おう」
この一組には専用機持ちが三人もいるというのによくクラスがバラバラにならなかったものだ。
それとも一組に集中させてるのか?
なんたって担任はあの織斑千冬だし。
「──その情報、古いよ」
教室の入り口からふと声が聞こえた。
「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」
腕を組み、片膝を立ててドアに持たれている女子。
誰だ?
「鈴……? お前、鈴か?」
「そうよ。中国の代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」
そうだ、ファン・リンインだ。
中国の代表候補生の名前、ようやく思い出した。
「何格好付けてるんだ? すげえ似合わないぞ」
「んなっ……!? なんてこと言うのよ、アンタは!」
「おい」
「なによ!?」
バシンッ! 聞き返した鈴音に痛烈な出席簿打撃が入った。
鬼教官がお出ましだ。
「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」
「ち、千冬さん……」
「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」
「す、すみません……」
さきほどの勢いはどこへやら。
すごすごとドアからどく鈴音。
「またあとで来るからね! 逃げないでよ、一夏!」
「さっさと戻れ」
「は、はいっ!」
「っていうかアイツ、IS操縦者だったのか。初めて知った」
「……一夏、今のは誰だ? 知り合いか? えらく親しそうだったな?」
「驚いたな。お前、中国の代表候補生と友達だったの──」
バシンバシンバシンバシン!
「席に着け、馬鹿者ども」
織斑先生の出席簿が火を吹いた。
いや、席の場所的に俺は着いてるんですけど。