IS〈インフィニット・ストラトス〉いつか此の手に月を【凍結】   作:生そば

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~第四話~《無人機と新装備》(1)

 五月だ。

 鈴音の機嫌が悪くなってから数週間。

 一夏の話を聞くと、日増しに悪くなっているらしい。

 

「一夏、来週からいよいよクラス対抗戦戦が始まるぞ。アリーナは試合用の設定に調整されるから、実質特訓は今日で最後だな」

 

 放課後、かすかに空が橙色に染まり始めるのを眺めながら、今日もまた特訓のため第三アリーナへと向かう。

 箒もすっかりレギュラーメンバー入りしてる。

 

「IS操縦もようやく様になってきたな。今度こそ──」

 

「近接戦闘の訓練再開だな」

 

「それは私の役目だ!」

 

「あまいな、箒。今日は最後の訓練。つまりは鈴音のISの特性を想定した訓練をすべきだろ」

 

「そうですわね、近接戦闘の訓練だけでは足りませんもの」

 

「セシリアさんには感謝してるよ。俺もけっこううまく動かせるようになってきたし」

 

「そんな。月夜さんのためですから」

 

 鈴音のIS『甲龍』だが。あれはブルー・ティアーズと同じ第三世代。近・中距離両用型で、パワータイプだ。

 一夏の白式の攻撃は一度でも当たれば相手を倒せる即死技。

 一夏は近接戦闘しか行えないのに対し、鈴音は中距離戦闘を主に戦うと見て間違いない。

 厄介なのが見えない砲身に砲弾。

 これについては鈴音の戦闘を見たことがないからはっきりしたことは言えない。

 だから一夏には秘策を覚えてもらおう。

 一気に相手の懐に飛び込む秘策を。

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

 第三アリーナのAピットに入ると、そこに鈴音がいた。

 腕組みをしてふふんと不敵な笑みを浮かべている。

 

「貴様、どうやってここに!?」

 

「今は俺たちが予約してるんだぞ。関係ないヤツがいるべきじゃない」

 

 鈴音は「はんっ」と挑発的な笑いとともに、自信満々に言い切る。

 

「あたしは関係者よ。一夏関係者。だから問題なしね」

 

 意味合いがまったく違うのだが。

 

「ほほう、どういう関係かじっくり聞きたいものだな……」

 

 箒のぴくぴくと引きつった口元が非常に恐ろしい。

 すごいプレッシャーだ。

 この私にプレッシャーをかけるとは、何者なんだ! なんて。

 まさに人間凶器だ、

 

「……おかしなことを考えているだろう、一夏」

 

 俺も考えてましたが。

 

「いえ、なにも。人斬り包丁に対する警報を発令しただけです」

 

「お、お前というやつはっ─!」

 

「今はあたしの出番。あたしが主役なの。脇役はすっこんでてよ」

 

「わ、脇やっ──!?」

 

「はいはい、話が進まないから後でね。……で、一夏。反省した?」

 

 またその話か。鈴音は一夏のことを避けてたんじゃないのか?

 

「月夜さん。どういうことですの?」

 

 状況が把握できていないセシリアさんが耳打ちしてきた。

 

「前に一組に来たヤツなんだけど。覚えてるだろ? 一夏が鈍いのと鈴音が素直じゃないので起きたいざこざだ」

 

「大体わかりましたわ」

 

「どっちもどっちというか。どうせ出る幕は無さそうだし、俺たちは準備をしておこう」

 

「ん、何ですの? それは」

 

 セシリアさんが俺のPCの画面を見てハテナマークを浮かべる。

 

「零式打鉄の新装備さ」

 

「月夜さんはご自分のISを自分でカスタムしていますの?」

 

「うん、まあね」

 

「流石ですわ!」

 

「いや、それほどでも」

 

 くどいが、束さんのところで助手をしていたのだ。

 それくらいできて当然なのだ。

 

「ISの操縦もご上手で、しかもISそのものにもお詳しいなんて。やはり月夜さんは私が出会った中でも最高の殿方ですわ」

 

「そんなおだてても何も出ないよ」

 

 セシリアさんと話をしながらも俺の手はキーボードを叩き続ける。

 そしてその作業が終わろうとしたその時──

 ドガァァンッ!!!

 ──いきなりの爆発音とともに部屋全体がかすかに揺れた。

 見ると、鈴音の右の指先から肩までがIS装甲化していた。

 

「い、言ったわね……。言ってはならないことを、言ったわね!」

 

 ぴじじっとISアーマーに紫電が走る。

 

「い、いや、悪い。今のは俺が悪かった。すまん」

 

「今の『は』!? 今の『も』よ! いつだってアンタが悪いのよ!」

 

 一夏のヤツめ。いったい何を言ったんだ?

 

「ちょっとは手加減してあげようかと思ったけど、どうやら死にたいらしいわね……。いいわよ、希望通りにしてあげる。──全力で、叩きのめしてあげる」

 

 鈴音は今まで見たことのない鋭い視線を一夏に送ってからピットを出ていった。

 ちらりと壁を見ると、直径三十センチほどのクレーターが出来ていた。

 特殊合金製の壁をへこますくらいの威力は、どう考えてもあるのだろう。

 

「……パワータイプですわね。それも一夏さんと同じ、近接格闘型」

 

「情報は正しかったな。しかし、あれほどとは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合当日、第二アリーナ第一試合。組み合わせは一夏と鈴。

 噂の新入生同士の戦いとあって、アリーナは全席満員。それどころか通路まで立って見ている生徒で埋め尽くされていた。

 会場入りできなかった生徒や関係者は、リアルタイムモニターで鑑賞しているらしい。

 ちなみに俺はアリーナの入り口付近にいる。

 

「…………」

 

 一夏と鈴音の試合も気にやるが、俺は別の何かを感じていた。

 危険が迫っているような。まるで遥か遠くからスナイパーライフルで狙われているかのような感覚だ。

 ふと零式打鉄のセンサーを最大感度にする。

 すると……

 

「センサーに反応?」

 

 三時の方向。第二アリーナに向かって上空から接近してくる。

 

「嫌な予感が当たったのかもしれないな」

 

 すでに試合は始まっているが、他のアリーナで戦っているISでもないようだ。

 まったく知らない機影。

 どこかの新型? いや、だからといって直接IS学園に来ることがそもそも間違ってる。

 

「月夜さん、やっと見つけましたわ」

 

「セシリアさん、ちょっとついてきて」

 

「え、何事ですの? ああ、ちょっ!」

 

 セシリアさんの手を引き、急いでピットに向かう。

 

「何なんですの? いったい──」

 

「話はあとだ。ブルー・ティアーズの用意を。早くっ!」

 

「は、はいっ!」

 

「────っ!?」

 

 セシリアさんと一緒に第二アリーナに乱入しようとした瞬間、衝撃とともに扉が開かなくなった。

 

「なんですの? 今のは」

 

「たぶん、敵だ」

 

「敵?」

 

「遮断シールドがレベル4に設定されてる。しかもすべての扉がロックされて……」

 

「敵の仕業ですの?」

 

「あたりまえだ。ええい、こうなったら」

 

 鞄からPCを取り出す。

 持ち歩いておいてよかった。

 

「織斑先生、聞こえますか?」

 

 近くの配線からアクセス開始、とある場所に連絡する。

 

『ん、十六夜か? お前、どこにいる?』

 

「ピットの扉の前です。状況は?」

 

『未確認のISが遮断シールドを突破して第二アリーナに侵入してきた。現在、織斑と凰が交戦中だ。しかし……』

 

「俺も行きます」

 

『何を言っている。現在三年の精鋭がシステムラックを実行中だ。遮断シールドを解除できれば、すぐに部隊を突入させる』

 

「目の前の扉だけなら俺一人で解除できます。遮断シールドだって」

 

『待て十六夜、私の──』

 

 話を聞くだけ無駄だ。回線を切る。

 扉の向こうでは一夏たちが戦っているんだ。

 放っておける筈がない。

 

「月夜さん……」

 

「内部に突入したら、セシリアさんはライフルで敵の弱点を狙い撃つんだ。ビットは使っちゃダメだよ?」

 

「わ、わかりましたわ」

 

 間もなくして、扉が開く。

 その様子にセシリアさんが信じられないという表情で突っ立っていた。

 

「つ、月夜さん。あなたは──」

 

「ISの準備をっ!」

 

「は、はいっ!」

 

 一喝。セシリアさんの意識を戦闘へと切り替えさせる。

 これは試合ではない。本物の戦闘になる。

 

「遮断シールドがありますが、どうなさいますの?」

 

「零式打鉄なら、遮断シールドを越えられる。セシリアさんはここから敵の弱点を探してくれ」

 

「はい……」

 

 零式打鉄を展開し、二本の近接ブレードを手に持つ。

 カタパルトに脚部を固定し、射出とともにスラスターの出力を前回に。そして遮断シールドをブレードで貫く。

 

「おりゃぁぁぁあああ!!」

 

 抵抗があったものの、零式打鉄は問題なくアリーナ内に侵入できた。

 

『十六夜くん!? ダメですよ! あなたまで──』

 

 山田先生からの通信も切る。

 それよりも敵だ。

 なんて異形だろう。

 深い灰色をしたそのISは手が異常に長く、つま先よりもしたまで伸びている。

 しかも首というものがない。肩と頭が一体化しているような形をしている。

 そしてその巨体もまた、普通のISではないことを物語っている。

 腕を入れると二メートルを超える巨体は、姿勢を維持するためなのか全身にスラスター口が見て取れる。

 頭部には剥き出しのセンサーレンズが不規則に並び、腕にはビーム砲口が左右合計四つあった。

 

「月夜か!?」

 

「おう、一夏。加勢に来たぜ」

 

「あんた、何しに来たのよ!」

 

 だから加勢だってば。

 

「ご心配感謝するよ。でも、俺を甘く見てもらっちゃ困るね」

 

「下がりなさいよ、バカ!」

 

「どっちもシールドエネルギーが少ないだろ? 下がるのはお前たちだ」

 

 どうにも手こずってるなら、さっさと変わればいいのに。

 

「ま、見てろよ。俺だって本当は試合に出たかったんだからな」

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