僕よりも身長も低く、年齢も若そうな少女が嘲る様な表情でこちらを見つめる。
相手を舐め腐る様な言葉と表情に思わず睨み付けるが、その表情を正面から受けても少女は唯困った様な表情で見つめ返すだけだ。
「そんな表情で見られても…結局グラムが強いというお話でしょう?私が適当な市販品……をそこら辺の死体から貰っただけ……の武器を使ってもこのザマです。
一度鍛え直した方がお勧めですよ。具体的には10年程」
「…そんな事を言って!貴女はアクア様から身体能力を向上させるものを貰ったのでしょう!?」
僕の叫んだ言葉を聞いて、少女は小さく首を傾げた。
その顔には本当に意味の分からないと言った様な、心の底からの疑問を浮かべている。
「何を言い出すかと思えば…これは今までの日々の努力ですよ。年単位の努力舐めないでください」
「そんな事を言っても…君は僕よりも若いじゃないか」
「若ければ努力をしないと?」
少女の突き刺す視線と冷たくなった声音に、僕は思わず口が止まってしまった。
…いや、口だけじゃない。息を吸う事すら出来ていない。
「人は努力をしないと成長しない。
貴方はその
鍵束を手で持て余しながら、少女はお道化た様に笑う。
…それと同時に少女の後ろには一人の少女…モンスターが嬉しそうに引っ付いており、それを見た
「何よ!モンスターなんて庇っちゃって!」
「安楽少女の毒に刺されて狂っちゃったんでしょ!?」
「君の傍に居る少女は
瞬間、殺気。
それが少女から放たれたという事実に気付かなかった僕達は、思わず武器を構えてモンスターの方を確認し…
「黙ってて。偽善者共」
少女からの一言と同時に、グラムが弾かそうになる。
無理な体勢でグラムを取り、そのまま少女に威嚇として当てようとしたからだろうか?
「あっ」
「っ!?ユグ!」
僕の手からすっぽりと離れたグラムは、大樹に突き刺さった。
…それを見て少女が思わず目を逸らすのと同時に、僕達の視界は地面に固定される。
「…すみませんユグ!今すぐ引き抜いて……そんなっ!?魔剣だから……っ!馬鹿言わないで下さい!貴女は不老なんでしょう!?そんなあっけなく……」
少女からの悲鳴の様な声を聴いて、僕は思わず耳を疑う。
…誰と話している?魔剣だからなんだ?
そんな疑問は、僕の上に振ってくる水滴と共に解決した。
「…ユグは私の友達なんだよ?……もう置いていかないでよぅ…」
…それと同時に力が弱まって、僕は少しだけ上を見上げる。
其処には大樹に深々と刺さった魔剣が、何か黒いオーラを纏っている様に見えた。
……それと同時に神聖な力を纏っている大樹が弱り始めて、先端の木の葉が少しだけ枯れ始めていた。
それを見た少女が諦めた様に胸に手を当てて…そして大樹の真下に移動してから祈る様な体勢で魔法を唱え始める。
「…セイグリット・ハイネス……リザレクション!」
…それと同時にグラムが少女の目の前に落ちてきて、大樹がそのまま復活し始める。
若々しい若葉を付け始めた大樹を見て、僕がそのまま拍手を送ろうと立ち上がった瞬間…
「…もう、貴女は居ないんですね…ユグ」
少女の悲痛の感情を孕んだ言葉に、思わず僕は視線を逸らす事しか出来なかった。
…そんな僕を見たのか、少女は涙を拭きもせずにグラムを持って僕の方にやって来た。
「これで良いんですね。貴方達が望んだ事は、こんな終わりなんですよ」
「違うんだ僕は!」
「…私の友達を傷付けに来て、私の友達を殺して……アハハ。
「……」
狂った様な笑みで、壊れてしまう程の涙を流して。
少女は唯泣いていた。
「…次は
「……」
「もう…帰って下さい。これ以上は本当に…貴方を傷付けない自信が無いから」
その言葉と同時に、少女の手にあった鍵束が宙に浮いて…刺さる。
…それと同時に一つの剣が地面に落ちてきたのを機に、少女は涙を止めた。
「選んでください。此処で死んで黄泉に還る、それとも生きて街に帰るか」
前者を選べば生きて帰さないという殺気を一身に受けた僕は、二人を背負って逃げかえる事しか出来なかった。
良い天気に芝生を踏みしめながら、私は伸びをする。
そしてそのまま左右に揺れつつ、テレポートで王城の用事を済ませながら小さく口を緩めた。
そして先程まで考えていたことを口に出すのも良いかと思い、パシンと音を鳴らして攻撃を受け止めながら私は笑顔で喋り出す。
「良い天気ですねー」
「っ!この!どうして周囲を眺めているのにも関わらず攻撃が当たらないんですか!っえい!えい!」
「どうしてかって言えば普通に貴女の攻撃が単調だからですよ。王女様」
お互いに組み手をしながら、私は欠伸をしつつ攻撃を避け続ける。
…今年で齢6となった少女を一方的に殴るのはどうかと思い、私にクリーンヒットを一回でも当てたら今日の授業は終わりとなっているのだが…
「…はぁ…はぁ…」
「もういい加減終わりませんか?8時間もぶっ続けてたら大変ですよ。というかこのまま続けたいなら並列処理位出来る様になって下さい」
「並列処理って何です?!スキルですか!?」
「スキルかどうかで言ったら
私が喋りながら攻撃を避け続けると、鋭い蹴りが私の顔面に飛んでくる。
攻撃し続けるという一方的な状況になると、ああいった大技を繰り出してしまう。
勿論実戦では約に立たないので…
「あぐっ…ぉ…ぇ……」
「こんなに相手がピンピンしてる状態で大技をしないでください。隙だらけだから腹に蹴りを一発入れて見ました」
「ちょ!?万が一王女様が子供が作れなくなったら…」
「その時は諦めて下さい。それとも明日から私以外の人に頼みますか?」
私の一言を聞いて真剣に悩み始めた近衛兵を見つつ、私は王女の方を見続ける。
…強く蹴り過ぎたか?
そんな事を考えながら一歩、二歩と近づこうとし…
「ッシッ!」
「相手が油断してる足音かどうか聞き分けなさい!油断してたらクリーンヒットだったかもしれないけど今の一撃は油断してなかったら対処可能ですよ!」
「っ!はい、先生!」
最初はこんな少女が?とか色々ごねていたがどうやらちゃんと先生と認めてくれたらしい。
少しだけ気分が良くなりつつも、攻撃を避けながら私は冗談を言う為に少しだけ離れる。
「よし良い調子です。もしこのままちゃんと成長して、万が一子供が埋めなくなったら私が貰ってあげますよ」
「ほんとですか!?」
「駄目に決まってるでしょアイリス王女!」
私の一言を聞いて目を輝かせたアイリスと、それを止める近衛兵を見ながら私は思わず苦笑する。
どうやらここら辺の貞操観念はまだまだらしい。
まぁ最前線だから先に戦闘訓練を詰め込みたいと言うのも分かるが…先に貞操観念系の勉強をさせないといけないだろうと少しだけ思ってしまった。
そんな事を考えつつ、私はアイリスに蹴りをお見舞いする。
今度は速度を付けて殴ればよいとか考えていたのだろう。置いた足に自分からぶつかって地面に倒れるアイリスを見た近衛兵が、苦しそうな表情で口を開く。
「…っ!これ以上は…」
「止めないでクレア!私は先生に認めて貰うんだから!そして立派な王女になってこのベルゼルグ王国を守るんです!」
良い咆哮だ。
そのまま私に鋭い一撃を入れようとしたアイリスを見ながら、私は心の中で小さく賛同した。
兎に角喋る事が大事なのであって、心の中で燻らせてるだけじゃそれは何もないのと同義だ。
私は宝物殿に置いてあった剣をアイリスに渡しながら、小さく微笑む。
「真剣を使って、今のありったけの想いを私にぶつけなさい。どうせ貴女の一撃程度だったら私は死にませんからね!」
「…っ!行きます!」
「ちょっとその剣…」
近衛兵が感づき始めたがもう遅い。
アイリスが
…それを見て私はゆっくりと微笑みながら冷や汗を掻き始めた。
あっこれ私が不老不死じゃなかったら重症負ってたな。
「エクスゥゥゥ!!」
「アイリス様!?それは人に放って良い力じゃ…」
「テリオォォォォォォォォン!!!」
巨大な光の剣が私に襲い掛かる。
それを見て私は鍵束から一つの武器を取り出し、それを片手で取ってから軽く一度光の剣に打ち付ける。
…それだけで私の身体は沈み込み、お互いの剣から嫌な音が鳴り響いた。
「…つっっょ…!」
六歳でこれとかチートじゃん。
私もこんな力欲しかったななんて思いつつ、鍵束を再使用して二刀流の要領で光の剣を抑える。
…それと同時に光が分裂しそうな感じになり…私は思わず苦笑した。
「…まさかこれ、斬撃…っ!」
光の剣創造キットではなく斬撃を飛ばすスキルだと分かった瞬間、私は攻撃を受け止める方向から逸らす方向へとシフトした。
それと同時に光がどんどん強くなるが、
武器を使って取り敢えず剣を逸らし、反す刃でアイリスの武器の先端を抑え付ける。
約一秒程度だが、その一秒によって斬撃が地面にぶつかり……それに全てを掛けていたアイリスも倒れ込んだ。
それを見たクレアが慌ててアイリスの下に行くのを見て、私は小さくため息を吐いた後に…城の外に向かって歩き出す。
此処からテレポートは出来ないので少し歩かなければいけないのだ。
「……一つ教えて下さい。生きる伝説の少女」
「その称号は久々に聞きましたね。最近は鯖詠みババァって同業者に言われ続け…」
「貴女はどうやってその力を手に入れたんですか」
近衛兵の一言に、私の口と足が止まった。
…どうやって手に入れたなんて、毎日修行していたからとしか言えないのだ。
でも、どうして此処まで修行をし続けられたのか…という問いの答えだったら私の答えは一つだ。
「…友達を亡くし続けたら、誰だってそうなる」
「……それは…何人程?」
「……分からないよ。人数なんて」
本当は分かっている。
私の後ろには、何千の死体が転がっているのだ。
けれどそれを言った所できっと出るのは慰めの言葉だけだ。
「…それだけ?」
「……はい。辛い事を思い出させてしまって申し訳ありませんでした」
「別に辛くはありませんよ。悲しいだけです」
そういってから歩き出すのと同時に、誰かからの悪口が聞こえた。
…化物が。とかそういった言葉は言われ慣れているから別に気にしない。
不老不死を願った時点で、その言葉は想定済みなのだ。
「……」
そして、私の友達は
…年代が続けば続く程、絆は深くなっていく。
それはモンスター然り人間然り…魔王然り。結局死を超越した者は誰もおらず、私は新たな出会いと別れを繰り返すのだ。
「折角だし今日はユグに会いに行きましょうかね。最近出会ったあの子の調子も見ておきたいですし」
一度捕まった安楽少女に懐かれた私は、ユグと一緒に安楽少女の子育てをしていた。
…まぁ、拾った私も悪いのだし偶には良いだろうと思いながらも…私の足取りは軽かった。
ユグが大好きなお水を買って、安楽少女のあの子が好きそうな果物を買いつつ私は夕方の王都を駆け抜けた。
幸い明日もアイリスとの組み手をしなければいけないのだ。今日は少しだけ早めに行っても良いだろう。
「というか時間に遅れるとあの二人凄く怒るんですよね…全く、誰が育ててるのか一度はっきりさせないと……」
文句を言いながらも、私の顔には笑顔が溢れてしまう。
…ああ、今日も明日も、来月も来年も…願わくば一生。
「…こんな風に、ユグと私と…あの安楽少女三人で過ごせます様に」
『全く、帰ってきて直ぐに何を当たり前の事を言ってるの?それよりもあの水買ってきたんだよね?』
「おねーた。おか、リー!」
「二人共ただいま。…いえいえ、今日人間に強くなる秘訣を聞かれてですね?」
森の中で私達の声だけが鳴り響き、それを聞いた狼達が雄叫びを上げる。
変わらない日常が続く様に、私達の絆もずっと続いていく。
『そうなの?大体不老不死のマシロに聴く事じゃないけどね』
「ねー」
「そうですね。二人は強くなりたいんですか?」
『私はねー…』
きっと、永遠に。