このままずっと過ごした結果、人類が滅び、悪魔が滅び、魔族が滅んだらどうなってしまうのだろうかと。
私は唯一人の世界を彷徨うのだろうか?
……怖い。
強い者は沢山いる。不老である者も沢山いる。多分魔物達も不老の類だろう。
そして言葉が話せる魔物も沢山いるし、死を超越した存在も多数いるのだ。
…それでも、何時かは滅んでしまう。
もし魔物が絶滅したら、人間達が滅んだあと私はどうすればよいのだろうか?
そんな思いからか、私はきっと魔物の方に心を寄せているのだろう。
一匹の安楽少女に、一つの
何時か魔王になるんじゃないかなんて、そんな冗談を同業者や魔王本人に言われる程に、今の私は魔物に信頼している。
だから私に魔王は倒せない。
…何故なら孤独になってしまうからだ。もし私が魔王を倒したなんて言ったら…皆から恨まれるに決まってるからだ。
新しく得た絆を無くしたくない。けれど…もし、もし仮の話だ。
もし仮に…私を送った神様が現れて、もう一度魔王討伐の命を出されたら…私はなんて答えれば良いのだろう?
親友を、仲間を、友達を、恋人を…全てを裏切って刃を向ける事を…
私に、出来るのだろうか?
0話
アクセルに住んでから数か月、私は酒場で飲んだり近所のサキュバスのお店に行ったり依頼受けたりサキュバスと色々シたりリッチーの女性に捕まったり嫉妬で狂った安楽少女に脳内麻薬打たれて死にかけたりしていた。
…最後のは殆ど自業自得の様な物だったが、まぁそれはそれで幸せな日々だったのでよしとする。
そんなこんなで今日もアクセルに居る訳なのだが、理由はちゃんとあるのだ。
勿論何処かの冒険者の様にサキュバスが居るからではない。
「…変な敵意。いえ、変な悪意を感じる様な気がするんですよね。何時もなら神聖な気配で打ち消されるんですけど、今日は何故か無いですし」
「……変な悪意って何?」
「さぁ…?」
変な悪意は変な悪意だと小さくため息を吐きながら言うと、目の前の少女は困った様な表情で首を傾げてしまった。
その事に苦笑しながらゆっくりと私は酒場の天井を見上げ…
「っ!?」
「……?」
何かが降ってくる。
慣れ親しんだその感覚から、転生者が降りてきたというのは直ぐに分かった。
…けれど、この空気は何だろう?
水の精霊が自らを守るように離れていく。神聖な力が一つの場所に集っていく。
……まさか新しい転生者は神様なのか?
「…どうしたの?急に天井見て吃驚するなんて…小蜘蛛でも居た?」
「……い、いえ。何でもありませんよ」
「そうなの?まぁもし何かあるんだったら教えてね。私達は…と、友達だから…えへへ…」
「そうですね。私とゆんゆんは友達ですからね」
「えへぇ……」
突然何処かに
…登録料で二千、装備は…特典次第で三千程度。最後に食費合わせて合計一万程度だろうか。
硬貨を指で弾きながら私は料理を頼み、そのままずっとトリップしている少女の額に1エリスを乗せ続けるという悪戯をし始めた。
「……ふむ」
50エリスは新記録だ。
勿論乗せられた数が新記録なのではなく、トリップしている時間が新記録なだけで眠っている間にやった遊びの時は2000エリスまで乗せた記憶がある。
勿論魔法やスキルをフル活用した結果ではあるが。
「…はっ!?」
「54エリス。次回は60エリス狙ってみましょうか」
「ちょ、何をしてるの!?」
「ゆんゆんトリップショー」
「なんか卑猥?!」
実際は呆けてるゆんゆんに唯々硬貨を乗せ続けるだけの異様な光景だが。
そんな事を考えながら私は魔法を発生させ、硬貨を一気に片付ける。
それを見たゆんゆんが私をじっと見た後に…
「…むぅ。また新しい魔法作ってる…」
私の冒険者カードを見てため息を吐いていた。
…その事に少しだけ頬を緩ませながら、私はゆんゆんの頭を優しく撫でる。
えへへと嬉しそうに撫でられたゆんゆんはとても撫で甲斐があるのだ。そのまま持っていた櫛を使って髪を梳かしてあげれば、とろん。とした表情が見える。
「…ん」
「紅魔族の里が出来てから居ましたからね。魔法の作成と扱いは紅魔族一と自負していますよ?」
「……こうまじょくじゃにゃい…」
「ふふ。そうですね」
ふにゃふにゃしているゆんゆんの会話を流しながら、私は優しく髪を梳かし続ける。
…そしてそのまま眠ってしまったゆんゆんの頭を撫でてから…私は目が覚めるまで周囲の音が聞こえなくなる魔法をゆんゆんに掛けて、そのまま新たな転生者を待った。
今回の転生者は果たして善か悪か。どちらだろうか?
「いいかアクア、登録すれば駆け出し冒険者が生活出来る様に色々チュートリアルしてくれるのが冒険者ギルドだ。金を貸してくれるか、駆け出しでも食っていける簡単な仕事を紹介してくれて、オススメの宿も教えてくれるはず。今日の所は登録と金の確保、そして泊まる所の確保だ」
「分かったわ。その辺は、最近トラックに飛び込み自殺して私の所に来てた多くの人達が、似たような事言っていたから把握してるわ。私も冒険者として登録すればいいのね?」
「そういう事だ。よし、行こう」
彼らか。
男性一人に女性一人、という事は心中か同時に死んだ他人のどっちかだろう。
…あ、並んでる方に行った。あの受付さん達可哀想。
「……ねえ、他の三つの受付が空いてるのに、何でわざわざここに来たの? 他なら待たなくてもいいのに。……あ、受付が一番美人だからね? 全く、ちょっと頼りがいがあると感心した矢先にこれ?」
「ギルドの受付の人と仲良くなっておくのは基本だ。そして、一番美人な受付のお姉さんってのは、なぜかギルドの冒険者達に恐れられてたりだとか、実は凄い実力者だとかで、一目置かれている可能性が高い。これはこういった世界での基礎知識だぞ。そういった有力者とコツコツとコネを作っとくと後々助かるんだよ」
「……私がバカだったわ。そういえば、そう言った話を聞いた事がある。ごめんね、素直にここに並んでおくわね」
あっこれ同時に死んだ他人だ。
しかも片方は余り男性の事を知らない箱入り娘だろう。
…待って、箱入り娘が死んだってもしかして心中の可能性あったりする?
分からなくなってきた私は頭を抱えつつ、ゆっくりとあの二人の歩き方や会話を聞き続ける。
……暗号は無し、動作でモールスも無し。二人の怪しげな動作もない…ちょっと女の人が煩い位かな。
という事で私はあの二人を
「はい、どうぞー。今日はどうされましたか?」
「えっと、冒険者になりたいんですが、田舎から来たばかりで何も分からなくて……」
「そうですか。えっと、では登録手数料が掛かりますが大丈夫ですか?」
その言葉を聞いて固まった二人を見て、私は膝に乗っていたゆんゆんの頭を優しくどかしてから立ち上がり…そのまま二人に向かって歩き始める。
…まだ気付いていない二人に気付いた案内の方が頬を赤らめ…そのまま小さく咳払いをしてからチラチラと私を見つめだした。
……どうしたの?急に。
取り敢えず袋を浮かせて1000エリスを20個取り出し、そのまま気付かれない様に歩き続ける。
「……おいアクア、金って持ってる?」
「あんな状況でいきなり連れてこられて、持ってる訳無いでしょ?」
「御二人共、お困りですか?」
私の一言を聞いて、二人がびくりと肩を震わせながらこちらを見つめた。
…悪戯は成功したらしい。
取り敢えず2000エリスを置いてから顔見知りの受付に対して説明をする。
「お疲れ様ですルナさん。この二人は私と同じ出身でして…支払いは私がしますので宜しければ登録して貰えないでしょうか?」
「は、はい!大丈夫です」
受付のルナさんに小さく微笑みながら話しかければ、すぐにルナさんが頷いてくれた。
その事に感謝しながらも、私はゆっくりと二人のポケットに9000エリスずつ入れておく。
「それでは御二人共良い旅を」
「…お、おう。ありがとうな」
「いえいえお構いなく。折角の異世界なんですから色々楽しんでくださいね」
二人だけに聞こえる様に小さく呟くと、男性の方は小さく親指を立ててサムズアップした。
…もう一人の方は視線を右往左往させているのを見るに、どうやら初対面の人と話すのが苦手らしい。
そんな同業者や冒険者の人も沢山いたなぁ…なんて考えながら、私はゆんゆんの眠っている場所へ向かおうとすると…
「……えっ…ぁ、……その…」
「どうしたアクア。急に俺みたいなコミュ障以下の口になりやがって」
「う、煩いわね!こちとら心の準備が必要なのよ!…じゃなくて、えっとね…?」
先程のコミュ障少女に話しかけられた。
…困った。彼女は突然呼び止めた後に『我が名は○○、転生者にして神器〇〇を貰った者。日本人随一のコミュ障。やがてはリア充となる者!』とか言わないよね?
……ちょっと見てみたいかも。
「わ、私の事を覚えてる?」
しまった出会い系だったか。
…いや姿を変えた同業者の可能性もある。そもそも私は青髪の少女を覚えていない。
というか何なら隣の男性すら覚えていない。
記憶は確かに剥がれ落ちた所ではなく、お気に入りのラーメン店が何処にあるかすら覚えていない程度に日本の記憶がないが…流石に日本で出会った青髪の少女なら覚えている筈だ。
……だけど私の記憶にはない。という事は…つまり……
「えっと、誰かと間違えていると思いますよ」
「ぷっ」
私の一言を聞いて思わず隣の男性が噴き出し、それを見た青髪の少女が怒りだす。
「だってよアクア。やっぱりあそこでぼーっとしていた女神様なんて覚えてないんじゃないか?」
「なぁ!?ふざけないで頂戴よ!私と約束を交わした仲じゃない!というか、普通こんな可愛いめ・が・み・を!忘れる訳ないでしょう!」
「……約束…女神…?」
覚えてない。
というか何?突然女神って言いだす輩とか信用ならない……ん?“アクア”?
…直訳すれば水、偽名の使用だろうか?先程の決定を取り消して悪よりに……いや、違うか。
“アクシズ教”を知っているのはこの世界の住民だけ、更には水を司る宗教は地球では無かった筈。
という事はもう一人の少年の名前を知りたい。
「そうなんですね。所でもう一人の御方の名前は…」
「ん?…成程な。俺の名前は佐藤和真。…一応あいつは本物の女神だ」
私達は声を潜めたまま喋り出す。
…本物の女神か。どうやらかなり良い特典を貰ったらしい。
という事はあの時の神聖な気配は青色の少女が降りたから…という事か。
「…という事は…“特典”はそういう事なんですか?」
「そうだ。そういうお前は…?」
「……この鍵束と、だけお伝えしておきますね」
その言葉を聞いた彼が首を傾げた後に…
「あの…冒険者登録がまだなんですけど…」
「「あっすいません」」
私達の話が長かった所為でルナさんが怒ってしまった様だ。
私と和真が謝り、青髪少女は頬を膨らませた後に……私の袖を引っ張ってから私の顔に自分の顔を近づけた。
…そのまま数瞬見つめ合ったまま視線を合わせていると…
「…待ってて。絶対一緒に暮らすんだから」
「…?」
「その間に魔王討伐でもするわよ。どうせ私達は不老なんだから」
「まおう…とうばつ…」
その言葉と同時に少女が笑って私から離れるのを見て…私は目をぱちくりとさせた後に……小さくあっと呟いた。
「魔王討伐、忘れてました」