空を見上げ、私は諦めた様に天に手を伸ばす。
……ああ、もうあの子は居ないんだ。そんな事を考えた私は思わず泣きたくなってしまった。
「…なんで……すぐ死んじゃうんですか」
「……お母さん?」
「……ごめんなさい。何も出来ないお母さんで、ごめんなさい…」
金髪の少女の頭を撫でながら、私は唯涙をこぼし続ける。
…少女の姿を見ながら、私はノイズの研究者を見て…思わず睨み付けた。
「なんの用ですか。裏切り者」
「…裏切り者?私は貴女の彼女に言われた通りやっただけですよ?この国に同性愛を認め第一の女王と貴女が結婚する」
「それと私に薬を盛る事に何の意味があるんです?」
「だから言ったでしょう。それが彼女の望みだとね」
その一言と同時に、私の真後ろに居る少女…私の娘が震えだした。
…それを見た私が剣を目の前の研究者に向け、そのまま睨み付ける。
「まぁまぁ落ち着け。剣を突き付けられてはビビッて話も出来やしねぇ」
「……」
「…娘は無事だよ。寧ろお前に飲ませた薬の影響で更に良くなったと言える」
「…次コマンドーごっこをしたら、私は貴方をぶち殺します。OK?」
「OK!」
その一言を聞いて私は武器を投げつける。
…そのまま白衣に刺さった武器を引き抜きながら、私はじっと彼を見つめる。
「…お前に飲ませた薬は同性にモテモテになる薬だ。お前の彼女が望んだものだぞ?」
「……は?」
「いや、だってあいつ突然自作の百合本を渡してきたんだぞ?…しかも完成度高いし実在の人物だったし……そりゃあ……渡すじゃん?」
「渡すじゃんじゃないんですけど」
思わず呆れた様な表情を浮かべるのと同時に、彼の姿が掻き消えた。
…どうやら最初からホログラムだったらしい。彼が作った物は分からないな…なんて考えながら……一つの結論に顔を真っ青にする。
「…待ってください。確か昔新しく種族を作るとか言ってた気がしますが……大丈夫ですよね?百合一族になりませんよね?」
『同性でも結婚出来る様にはするが、流石に其処まではしねぇよ。……国に頼まれた種族はな』
最後に付けたされた一言を聞いて、私は剣を握る手を強くする。
「……どういうことですか?」
『…ま、お前を狙う可愛い可愛い女の子達が現れるかもしれねぇって事だ。…おっと一つだけ言っておくが、そいつらは姿形、何なら存在すらもバラバラだぞ?』
その一言と同時に、私は周囲の音を聴き続ける。
…絶対に、今度会ったら殺してやるという意思を持ちながら…私は自分の娘を優しく撫で続けた。
『そして、初代ベルセルグ女王様に免じてラッキーチャンスだ。その種族は9匹作られ、そのうちの一人は“ラプラス”と呼ばれている…後は分かるな?』
「……何故、ノイズはあの女王様と契約を交わしたんですか?」
私の一言を、声だけの彼は笑いながら答えた。
『同じ日本人に幸せな最期を送りたいと言われたんだ。それ以外に理由があるのか?』
「…その、日本人の誼でさ。旨いクエストとかあったら…」
「あったら既に取られてると思いますよ。此処の人達、そう言う所だけは早いですからね。なるべく早朝に来て依頼が貼られたタイミングで良いクエストを取るのが良いと思いますよ」
「だよなぁ…やっぱり一緒には組んでくれないのか?」
「残念ながら、私は国の番犬ですからねー」
魔法で犬耳と尻尾を生やし、わんわんと冗談っぽく言えば目の前の少年が笑いだす。
…まぁ、国の番犬だし何なら人類の最終兵器とか対魔王軍最強防壁とか色々言われている訳だが。
そんな私が此処でだらけてるとか聞かれたら、多分絞首刑とかされそうだ。
何処かの国は私が死なないからって死刑を試す相手とかにしてきたしね。勿論そのまま返り討ちにして逆に死刑にしてやったけど。
「…お、魔法が手に入った。真白さんも冒険者なんだっけ?」
「そうですね。昔はずっと冒険者でやってましたよ。今は違いますけどね」
「…そうなのか?」
「えぇ。私専用の職業です」
「おお!格好良い!やっぱり憧れるよなぁそういうの……因みに、どんな名前だ?」
私の一言に目をキラキラと輝かせた少年を見て、私は思わず苦笑した。
…いやまぁ、確かに中二病真っ盛りの少年にはこういったお話は好まれそうだが…別に其処まで良い職業じゃないんだよなぁ。
まぁ、でも教えるくらいは良いだろう。
「封印された古の冒険者って奴。ちょっとダサいですよね?」
「いやいやいや!封印とか古とかは格好良い物なんですよ!」
…果たして目の前の少年が格好良いからと言う理由で†和真†みたいに名乗らないか心配である。
そんな事を考えながら私達が話していれば、どうやらアクアがギルドに来たらしい。
正直本物の女神様らしいのだが、私としては別に…というかあんまり信用できていないのが真実だ。
「どうしたのカズマ。急に右腕が疼いたりするの?」
「ああ。お前を待っている間に色々話を聞かせて貰っててな。やっぱり自分だけの職業とか、封印ってのは格好良いなぁって…」
「自らを傷付ける物を格好良く思えるの?」
あっけらかんと、私の職業の真実をばらしたアクアを見て…私は思わず苦笑してしまった。
…しかし熱弁しているカズマには聞こえなかったらしい。その事に少しだけ安堵しつつも、私は目の前のアクアが本物である事を自覚していた。
「デメリットは誰にも喋った事が無かったんですけどね」
「…ずっと見てたんだから当然じゃない」
「あはは、そうなんですね」
果たしてそれは世界か、日本人全員か、はたまた
「…一つ言っておくけど、貴女の考えている事は全くの的外れよ」
「……そうなんですか?」
「えぇ。
「そうだったんですか?」
「えぇ。魔王に属したら不味い者、魔王を倒す事を放棄した者、魔王にさせたら不味い者……でも二人は未練を残さず死んだからね。後はアンタだけだったという訳よ」
「…えっ、待って。もしかしてマシロさんってかなりの年寄?」
私達が会話をしているとカズマさんが突然会話に入ってきて、その言葉に私は思わず苦笑してしまった。
どうやらアクアは私の事を教えていなかったらしい。
「一応私は初期からの人選ですからね。まぁ約数十…」
「私が時間を飛ばしたから初代魔王よりも年寄よ。この子」
「…えっ、マジで…?」
「この国の創始者ともか関わっていますよ?直接挨拶した事もありますしね」
「そうなのか?」
「えぇ…まぁ、そうね」
私の一言を聞いて少しだけ気まずそうにしているアクアを見て、私は少しだけ首を傾げた。
…一体どうしたんだろうか?
「……それなら猶更協力して欲しいんだが…」
「駄目よ」
「はぁ!?どうしてだよ!」
カズマさんの一言にアクアが即否定するのを見て、私も思わず首を傾げる。
…いや、まぁ確かに協力はしないって言ったんだけど…急にどうしたんだろうか?
「……いや、別に何でもないわよ」
「…?どうしたんだアクア。お前、こいつと会ってから変な気がするんだが?」
「はぁ!?変って何よ!この完璧で最高な女神の何処が…」
そういう所だよというカズマさんの声を聴きながら、私はゆっくりとため息を吐こうとして……懐かしい気配を感じて振り返った。
…其処には銀髪の盗賊が一人と黄金の髪の戦士が仲良く話し合っていた。
今回は盗賊の衣装なんですね、なんて思いながら話しかけに行きたかったが…戦士の彼女と楽しそうに話しているのを邪魔するのも無粋だろう。
「…どうしたのよ」
「いえ。お話仲間が消えたのを喜ぶべきか、それとも悲しむべきか迷ってしまいましてね」
「……ふーん。別に良いんじゃない?」
「ふふ…そうですかね」
「えぇ。どうせ後輩の話だから」
小さく呟かれた一言を聞いて、私は片眉を上げた。
…確かに私の話し相手になってくれていたのはエリス…つまりは彼女の後輩にあたる女神様なのだが……それを知っているという事は本物なのだろうか?
というか何処まで知っているんだろうか?私があんなことやこんなことをしたのを知っているのだろうか…?
思わず女神様に何処まで見ましたというセクハラを言いそうになったが、私はその言葉を寸での所で引き止め…
「と、という事はあれなんですね。出ていったのは知ってたんですね」
「当たり前よ。あいつが居ない時の仕事、誰がこなしてたと思うの?天使だけじゃ無理なことだってあるのよ?」
「……あー…」
「…まぁ。一番許せないは私が見ている時にエリスが貴女と話してた事だけど…」
最期に何か呟いていたのを見て、私は少しだけ疑問を覚えるが…そのまま何でもないと言ってからゆっくりと私の方に近づいたアクアが…
「…取り敢えず待ってなさい!私達がさっさと魔王を倒して、色々するんだから!約束もあるんだからね!」
「……おーい。俺は魔王を倒さず楽して過ごしたいんだが?」
…二人の会話を見ながら、私は小さく笑みを浮かべた。
こんな時代の日本人達を見たなぁ…とか、この人達なら魔王倒せそうだなぁ…とか。
昔から見ていた日本人達の後姿を見ていると、何故だか少しだけの嬉しさと……そして胸にこみあげる何か。
「…っ!カズマ!先ずはグリフォンを倒すわよ!」
「いきなり何言いだし…というか馬鹿!俺は冒険者なんだから其処ら辺の雑魚敵を倒してレベル上げを……」
そう言いながら二人で離れていくのを見て、私は目を瞑り…頬に一筋の水が落ちるのを感じた。
…二人にはバレてないだろうか?そんな事を考えながら…私はゆっくりと涙をぬぐう。
「……あはは。最近は涙もろいですね…歳でしょうかね」
「涙に歳は関係ないと思うよ。全ての過去を知る魔女サマ?」
「…その呼び方をされるのは久々ですね。この世界の……っと?」
「ふふ、私と十年話したら呼び捨てで呼んでいいって言ったの忘れた?クリスだよクリス」
“この時代の依代”の名前を聞き、私はそれを必死に覚える。
というか此処で間違ってもエリス様とか呼んだら、私は普通に殺される。情け容赦なく殺されるのだ。
「…そうでしたねクリス。お久しぶりです。二年ぶりですか?」
「一年ぶりだよ。毎日元気そうで羨ましいね」
「……えぇ。そうですね」
「おや、今は軽口を返せる余裕もないのかい?」
その一言に少しだけ口を緩ませれば、目の前の金髪の少女は私の前に立ってクリスの方を見た。
…どうしたのだろうか?
「…クリス。こんな幼気な少女を虐めるくらいなら私を虐めろ!」
「……今回のお友達はかなり個性的な方ですね…」
「ち、違うの。私は別にそんな気は無くて……」
私の言葉に慌てて否定するクリスを見て、私は思わず首を横に傾げた。
…それを見た金髪の少女が少しだけ呆れた様な表情を浮かべるのを見て、私は更に首を傾げる。
「…えと…そう!ちょっとした挨拶だったんだよ…ね?ね?だからダクネスも気にしな…」
「そういう挨拶は私にするんだクリス!」
「えっと…ダクネスさんがマゾヒストで今回のえ…クリスがサディストなんですね」
「違うのそういうんじゃ」
「んんっ…この冷めた目でもなく軽蔑した目でもなく、そして勿論恍惚とした表情でいうのではなく自然体で言われる感覚!どうか是非その顔を軽蔑に満ちた表情に変えて罵ってくれないか?!」
突然ビクンとして惚けた表情を浮かべたダクネスさんを見ながら、私は苦笑してしまった。
…いやまぁ、ドMの方にはそういった人も居るんでしょうけど……折角専門のサディストが居るんだからそっちで満足するべきじゃないだろうか?
「……私はお邪魔っぽいので帰りますね」
「くっ!此処で罵るでも褒めるでもなくあえての放置…貴女こそが真のドSだ!」
「…放置しても終わらない…もと居た場所に戻って下さいクリス」
「えっごめん…じゃなくて!」
クリスが何か言いそうな雰囲気になったので、私はダクネスを壁にしながら一瞬で扉から逃げて屋上に昇る。
…そのまま屋根伝いに移動しながらクリスを撒き、念には念を入れて隠密を入れた。
「……んー?可笑しいですね。此処に居そうな気がしたんですが……」
クリスの正体、つまりエリス様は幸運を司る女神様だ。
…因みに“授ける”ではなく“司る”女神の為、別に信仰しても運が良くなる訳ではないらしい。結局の所プラシーボ効果なのだろう。
そんなエリス様は純度100%の幸運で身体が構築されている為、自分に対しての運はかなり良くなる。
こういった探し物もそうだ。何度エリスから逃げようとして……
「みーつけたっ♪」
こんな風に捕まった事か。
私が初めてエリス様に出会ったのは確か何百年も前の頃だ。
不注意で溶岩に落ち、そのままドロドロに溶かされては其処からじわじわと身体が構築されるという悪循環になり…それを不憫に思った女神様が…自分の身体に溶岩の耐性が出来るまで精神だけ天界に移動した頃だろう。
「どうして逃げたんですかね?大事なお話、何時もあるって言ってるんですよ?それなのにどうして何時も何時も何時も何時も何時も何時も……」
始めは、優しかった筈だ。
仲良く話して、ゲームして、他の遊びして、やっぱりゲームして、一緒にベッドに入って眠ったりして。
更には一緒に死者からの相談を受けたりとか(天使なりきりセットを貰って嬉しかった)色々な事を十年くらいやっていたのだ。(後に同じ様な目に会った時にアクアに聴いたら、どうやらエリスが時間を弄っていたらしいけど)
…勿論、そんな日々は終わりを迎えて…天界から帰ってきた私は溶岩を泳いで脱出して、宿屋で眠っていたのだ。
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「…んっ…誰ですかこんな夜中に…窓から入らず扉から…」
「こんばんはマシロ。エリスです」
「……エリス様?」
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なのにも関わらず、エリスは何故か私の前に現れたのだ。
…この日程私は薬を盛ったノイズの研究者を恨んだことはない。後先輩の経験談以外全部私の話をしていたアクアも許さない。
そして百年くらい一緒に生活してたけど結局大事なお話なんて無いのだ。
……彼女は結局、何の気兼ねも無く過ごせる友達が欲しかっただけに過ぎない。
それならもう一人くらい不老不死を作って友達になれば良いのに…そんな風に考えていたが、私の知る限り不老不死の人間は私しかいない。
私が使った物以外にも灰とか石とかあると思うのだが…?
「……」
「ほら、出て来てくださいよ?じゃないと……ふふ、持って帰っちゃおうかな?…それとも新しい殺し方を見つければ…それの対策が出来るまで……一緒に…あはっ…」
取り敢えず私はエリスに
…其処には嬉しそうな表情でこちらを見ているエリスと……
「…」
それを冷めた目で見ている、バイト中のアクアが居た。
「…これで、良いのかしらね」
しわがれてしまった声を出しながら、娘と一緒に眠っている可愛い私の
…禁呪を使えば、彼女と同じようになれたのだろうか?そんな事を考えながらも…私は小さく首を横に振ってその考えを放棄した。
先に惚れた方が悪いのだ。でも惚れてからずっと私を大切にして、そのまま一回も誘ってくれなかったのは許さない。
一度くらい真白から誘ってくれても良いじゃないか。もし誘われたらドン引きさせるくらいシたのに。
「…優しくするのと、隔離するのは違うのよ?」
「……すー……り、か…」
「はいはい…」
「あしたも、いっしょ…に…」
子供みたいな寝言を言うあの子に苦笑しながら、私は唯撫で続ける。
…明日私が真白と一緒に生きていられるかは分からない。だって私はもうおばあちゃんだ。
だけど、未来の真白を助ける為に…いや、少しだけ私怨は入ってるけど…様々な手は打った。
大丈夫、長男も長女もちゃんとすくすく育ってるし…私より長女の方が頭撫でられてるし…自分の娘だから真白もちゃんと愛してくれている。
…あのノイズの科学者と手を組んでよかった…後世に伝える為に描いていた
彼のお陰で私達は結婚出来る様になったし、ちゃんと子供も作れるようになったのだ。
…そして、あの薬を飲ませた結果…彼女は同性に愛されるようになる。
もう、私が死んでも寂しくない筈だ。
……そう、もう…
「私が死んでも…寂しく…ないよね…」
私が死んでも、もう大丈夫なはずだ。
…だって、周囲には私以外にも愛してくれる女性が現れるのだから…きっと、寂しくないのだ。
後は私が日本に転生して、忘れて貰えるように神様に願えば…彼女は私を背負わずに生きていける……
「いやだぁ…わすれないで…」
そんな風に自分を押しとどめていた気持ちが溢れ、私は涸れてしまった筈の零れ落ちる。
「…わたしだけを、あいしてよぉ…」
気持ちが溢れ続け、涙を流しながらも私は願いをするべく祭壇へ向かう。
ああ神様、一度魔王討伐の命に背いた手前ですが…どうか一つだけ、私の願いを叶えて下さい。
…どうか…
「…うまれかわっても、いっしょにいられますように…」
その一言と同時に私の意識は鋏で切られた様に掻き消え、次に私の視界に新たな世界が映った瞬間…あの時私を送った神様の姿が見えた。