また、「刑事ドラマ」要素を含みます
苦手な方、そういうの許せない方は、ブラウザバックを推奨します。
歓楽街の光が欲望の火を照らす。
人の欲望もまた、弱肉強食。
より強く、より激しく、心を狂わせる程の欲望だけが、夜の街を行き交うのだ。
だからこそ、ギラついたネオンの影には--
「通してください、警察です、はい、通して」
塚内 直正は人混みを掻き分けて道を歩く。
今日は仕事が非番だった塚内は家で待機していたのだが、急な事件の発生で呼び出された。
人混みを抜けると立ち入り禁止テープが道を塞いでいて、立ち番の警察官は塚内を見ると直ぐに敬礼を取った。
「お疲れ様です!」
「どうも」
テープを潜ると、少し離れたところでメモを取っていた部下が気付いてこちらに走って来る。
「塚内警部!」
「玉川くん、現場は?」
「こちらです」
部下の玉川 三茶は塚内を先導して歩き出した。
「ひどい人だかりだな」
一瞬、後ろを振り返って、ここまで歩いてきた感想を呟くと、玉川の"猫の顔"が渋く唸った。
「
センセーショナルという奴でしょうか、と玉川はため息を吐きつつ語る。
「それで、被害者は?」
「被害者は"探偵ヒーロー カメラアイ"、本名
玉川は自身で記入したメモ帳をペンで指しつつ答える。
彼らしい、筆圧の濃い硬い字で書かれていた。
「あまり聞かない名だな。…いや、探偵なら目立たないのも不思議じゃない、か」
「事務所は個人経営、
「鑑識は終わってるか?死因と死亡時刻は」
「死因は転落による頭蓋骨陥没。即死です。時刻は午後10時4分頃だそうです」
玉川が立ち止まる。
彼の視線の先にかなりの血痕が残っていることから、現場がここである事が分かる。
「…転落か。どこから落ちたんだ」
「すぐ横の大きなキャバクラがあるでしょう。その建物の屋上です」
視線をずらすと、煌びやかなネオン看板が目に入る。
さながら誘蛾灯のようで、直視すると目が焼けそうだと思い、すぐに目を細める。
キャバクラ「Venus」いかにもな名前に思わず笑みが溢れた。
「…なるほど。何故そのビルに」
「店の客だったそうです。大分酔っていたとか」
「事故の可能性もあるか…公表すればアンチヒーロー派が勢い付くな。第一発見者は?」
そう聞くと、玉川は困ったように頭を掻いた。
「それなんですが、夜も
「ふむ、案内してくれ」
「え、ええ。こちらへ」
玉川の返事は妙に歯切れが悪かった。
「どうした。何かあるのか?」
「いえ、そういうわけでは。その目撃者の方、凄く協力的なんですが…変な方でして」
「変な…?」
「彼です」
玉川が手で示した先に、にこやかに佇む背広の外国人が居た。
「…ん?やー、ガーフィールド、さっきぶり」
「玉川です」
「貴方が目撃者の方ですね。私は警部の塚内と言います」
「僕はルシファー。ルシファー・モーニングスター。よろしく」
キャバクラ「Venus」VIP席
「それでは、話を聞かせていただけますか」
「あ、ちょっと待ってくれ酒が来たからね」
ボーイの運んできた高級そうなウィスキーボトルを受け取ると、ルシファーは手元でオン・ザ・ロックを作り始めた。
作り終わり、ルシファーが一口目を飲むのを待ってから塚内は話を切り出した。
「では名前と職業をお願いします」
「ルシファー・モーニングスター。ナイトクラブのオーナーをしてるよ」
「事件に遭遇した経緯をお聞かせください」
「この店、高級志向のキャバクラとして売り出してるんだけどね、立ち上げの時に僕が大部分出資したんだよ。店の名前も僕が名付け親さ」
だからVIP席にもタダ同然で入れる、とルシファーはウィンクして言った。
「今日はNo. 1嬢の誕生日でね。プレゼントだけ渡そうと思って店に向かってたんだ」
「なるほど。では事件の時は店の前に?」
「そう。入る前だったね」
「思い出させるのも申し訳ないのだけれど、その時の状況を詳しく話せますか」
ルシファーはグラスを一度傾けると、朗々と話し始めた。
「突然、上の方から叫び声がしたんだ。慌てたようなダミ声でね。不思議に思ったけど、落ちて死ぬ直前の声なら納得だ」
「彼は貴方の近くへ?」
「ああ、目の前だったよ。酷い有り様だった。その場に合う車が
話していて、玉川が変な男と言っていたのを納得した。この男、あまりにもこの状況で平然とし過ぎている。
今でさえ、会話中に一切笑みを崩す事が無かった。
まるで、人の死に慣れているかのように。
ーー裏社会の人間か……?
気になる所ではあるが、事件と直接の関連が無い以上は、今は考えないようにする。
「他に変わった点はありませんでしたか?」
「それは無いと思うけど、気になってる事はあるんだ」
「それは?」
ルシファーは少しだけ身を乗り出した。
「彼はヒーローなんだろ?誰かに殺されるほど恨まれていたのかな」
「いえ、まだ他殺と決まったわけではないので」
「どちらにせよ死んだんだから何かがあるんだよ。ヒーローは民衆が言うほど綺麗なものかな」
「ヒーローが嫌いなんですか?」
懐疑的な口ぶりにヒーロー否定論者かと推察した。
オールマイトなどの活躍によって脚光を浴びているヒーローだが、それは必ずしも良い面だけを意味しない。
人の世にある限り、称賛の一方で批判も湧き出るのだ。
塚内の問いにルシファーは頭を振った。
「今は興味があるんだ。全身タイツ君はあれから探しても見つからないから手近な所から調べようと思ってね」
「はあ…(全身タイツ?)」
「君はどうかな。警察は"ヒーローに対して思うことは無いかな?"」
「私、は、」
僕は、どうなんだ。
ヒーローに何を思う。
「ヒーローとの連携を強固にして、平和を守りたい」
ウィスキーを飲みながら聞いていたルシファーは不味いものでも食べたように顔を顰めた。
「…ヒーロー関連の"質問"はもう止めた方が良いな、誰に聞いても面白くない。こういうのを
塚内は、ぼんやりしていた間にルシファーが席を離れようとしている事に気付いて慌てて声を掛けた。
「待ってくれ!今のは君の"個性"か?」
「不思議とみんな僕に心の内を明かしてくれるんだよ。この顔に生まれた特権かな。ああ、好きに飲んで構わないよ。僕の名前でツケにしておくから」
振り返らずに、ルシファーは店から出て行った。
「警部、先程第一発見者の方が帰られましたが」
「玉川くん、あの男の調べは?」
「5年程前から日本に来て、ナイトクラブのオーナーになったようですね。データベースには該当しないので逮捕はされてません。ですがそのクラブ、半グレの溜まり場になり易いそうで」
「ふむ…。念の為、被害者と接点が無いか調べてみてくれ」
ナイトクラブ「LUX」
都内最大規模の熱狂を誇るこのクラブでは、今夜も多くの若者や遊び人達が熱を交わす。
時代が変われど一瞬の享楽に身を落とすのは人の性。個性社会に欲の形は多少歪められたが、原初の時代より根付いている快楽主義までは変えられていないようで、ナイトクラブの猥雑な様を見るたびに安心する。安心なんて悪魔が口にして良い台詞では無いだろうが。
「キャバクラで正義の味方が死ぬなんて愉快な話だと思わないか?この話題だけで暫く
ルシファーは今日の出来事を楽しそうに語る。話し相手になっている褐色肌の妖艶な女性バーテンダーは作ったカクテルを差し出すと、話に興味が湧いたのか楽しげに話し出す。
「酔った人間は拷問のし甲斐があるわ。痛みを感じにくくなってるから先ず、太い骨を折るの」
「止めてくれメイズ、君の拷問テクニックを酒の肴にする気は無いんだ」
バーテンダー、メイズはルシファーの"地獄よりの"知人であり、その正体は罪人の拷問を専門とする"魔物"の一匹である。
会話の
「アンタはそうやって楽しそうで良いけど、私は暇なのよ。地獄の魔物がバーテンダーなんてやる物じゃないわ」
「あのな
「あら、知ってたの」
「まあ、自分の愉しみ方を見つけてるなら特に何も言わないさ。精々犯罪者とイチャついてくれ」
「ありがと」
そんな会話の折、急激に周囲が静かになる。
振り向くと、ホールの人間全てが、"ゆっくりと"動いている。
「お客さんよ」
「そのようだな」
メイズが入口に続く廊下を流し見る。
つられてルシファーも見やると、黒人男性がのし歩いてきた。
ルシファーの兄弟、アメナディエルだ。
「ルシファー、ここで何をしている」
「やあ兄弟。あー、これが酒を飲んでいる以外に見えるのなら一度天界に帰って目を付け替えた方が良いな。一番良いのを頼め」
ルシファーの軽口にアメナディエルの
「そういう意味じゃない。例のヒーローを追いかけるのでは無かったのか?もう1週間経ったぞ」
「僕には僕のやり方って物がある」
「早くしろ。神の導きを無駄にするな」
「
危うく悪魔の顔が表に出そうになり、気持ちを落ち着ける。
「お前はそう急かすがね。相手は現代で最もパワーがあって、しかも多忙な全身タイツヒーロー・オールマイトだぞ?そんなに簡単に居場所が分かれば僕だって苦労しないさ」
「それなら知ってる」
2人が会話していると、横からメイズが口を出した。
彼女は驚きの視線を向けられてニヤリと笑う。
「本当かメイズ?」
「ルシファーの言ってる全身タイツの変態なら、海辺で子供を虐めて遊んでたわよ」
たまたま見かけた、とバーテンダーは酷薄な笑みを浮かべた。
「あっ、おーい、モジャモジャくーん。この辺りで未成年にSMプレイを強要するオールマイトを見かけなかったかな」
「
「見てないですッ!(オールマイトッ!今喋ったらバレちゃいますよ!)」
前回のラストは予告編みたいな物なので、今話の段階ではまだ雄英には行ってません