「実はね先生、この間ヒーローに出会ったんだよ。そいつに興味が湧いてね」
「ほほう…!良い兆候ね。その調子よルシファー」
「この後もそいつに会いに行く予定でね。化けの皮が剥がれるのを楽しみにしてるんだ」
「そう…。ちなみに何てヒーローかしら」
「オールマイトって名前だったね」
「そう、オールマイト………オールマイトォ!?あの!?」
「先生の言っているのが、ピチピチタイツのスマイリーくんを指しているならそれで合ってるよ」
「さささささ、サインお願いできるかしら?」
「…意外とミーハーなんだな、先生」
あの日、オールマイトと出会った事で、緑谷出久の人生は大きく動き出した。
自分には何も出来ないと分かっていても、ヘドロ
無個性の自分の、褒められる筈もないその行動を、オールマイトだけは掬い上げて称賛してくれた。
「君はヒーローになれる」と、出久が何より求めていたその言葉で。
更にオールマイトは、自分の"個性"を受け継ぐ気は無いか、と聞いた。
出久に断る理由は無かった。
"ヒーローになる"と言う夢への大きな一歩。
それは簡単な道のりでは無いのだと、出久はすぐに痛感する。
出久の身体は、ワン・フォー・オールを受け取るには
強力な個性故にこのまま譲渡してしまうと四肢が爆散すると言われれば確かに納得した。
つい先日、身体を鍛えろと奇妙な外国人に言われたばかりだからだ。(言われてない)
こうして、身体作りと並行して海岸のゴミ掃除を行う、オールマイト考案のトレーニングプランを全力で実行すること1週間。
「こんなゴミ溜めで知り合いに会えるとはね。モジャモジャ君、先週以来かな?」
「あ、あはは。ドウモ、ルシファーさん」
記憶に新しい奇妙な外国人と再び遭遇した。
ちょうど休憩時間でオールマイトと話していた最中、ルシファーが何事か叫びながら近づいて来たのだ。その内容があまりに酷い。
「実はオールマイトが海岸で年頃の少年を苛めて遊んでるって聞いたものでね?会いに来たってわけ」
「ゴホッ!ゴホッ!ン"ン"ッ!」
どうやら出久達の特訓は誰かに目撃されていたらしく、同時に強烈な曲解を受けてルシファーに伝わっていた。
ちょうどトゥルーフォームでその場に居たオールマイトは、ルシファーのあんまりな言い草に激しく
オールマイトは一頻り咽せてからルシファーに話しかける。
「ゴホッ!あー、いいかな?」
「やあ、初めましてかな。僕はルシファー。……酷く
夢魔にでも絞られたか?と差し出された握手にオールマイトが応じる
「どうも、緑谷少ね…緑谷君の知人の
「
「え」
「なんでもない。それで?」
「うん、きっと君が言っている事には何か誤解があると思うんだ。人を苛めるヒーローは居ないさ」
「確かにそうだな。僕は視野が狭かったかもだ」
「うんうん!」
「双方合意の上でのプレイだった可能性もあるからな。外野があれこれ言うのは止めないとね」
「いや、そうじゃなくてね。もう話の根幹から違うと言うか」
「そうか、オールマイトがM側だったかも知れないな!」
「………(話が通じない…ッ!?)」
オールマイトは絶句した。会話を聞いていた出久も絶句した。
オールマイトがやんわりと事実に修正しようとするが、ルシファーがエキセントリックな推論で自己解決を図り滅茶苦茶になる。
2人の会話は驚くほどに噛み合わない。
普段、メディア等で見るオールマイトはコミックヒーローを体現したような存在で、喋り方もアメリカンだと思っていたが、ルシファーはそれ以上に会話の勢いが強かった。
これが本場のマシンガントークか、と放心気味に眺めていると、会話は終わったのかルシファーが踵を返した。
「全身タイツ君が居ないなら仕方ない。この近所にいる人間全員に同じ質問をすれば良いだろ。じゃ、またね」
「ちょおおおっと待って!お願いだから待って」
その場から離れようとしたルシファーをオールマイトが掴み止めた。
このままではオールマイトのあらぬ噂が立てられてしまうのは目に見えているから必死だった。
「あ、あっちの物陰で見た気がするなあ!!ちょっと呼んでくるよ!待っててね!!」
「頼めるかな、ガリガリ君」
「行ってらっしゃい!(ゴリ押した…!)」
オールマイトが離れたゴミ山の陰に消えると、マッスルフォームとなって凄い勢いで飛んで来た。
「私が割と全速力で来た!!」
出久にはトレーニングに戻ってもらい、オールマイトはルシファーと向かい合った。
「この間ぶりかな?ルシファーくん。僕に用があるとか」
ヒーロー活動を始めて多くの人々を見てきた。多くのヒーローと知り合い、多くの
だがオールマイトは、たった1度会話を交わしただけのルシファーと言う男の事が強く印象に残っていた。
ーー何なんだろうね、この感じは……
敵意を持った悪と相対している訳でも無いのに、肌がヒリついている。
言葉にするなら、未知、が正しい。
"自身の理解の及ばない全体像の見えない生き物"を目の前にして、本能が漠然とした警鐘を鳴らしているようだった。
そんな無意識の警戒を抱いた相手は、懐から取り出したスキットルを片手にニコニコと笑っていた。
「君にあってからヒーローに興味が湧いてきてね。特等席でその
「ええと、つまり?」
「ヒーローの話を聞かせてくれ。No. 1ヒーローなら色々知ってるよな」
ルシファーは口の端を吊り上げて蠱惑的な笑みを作った。
「Hmm…、答えられる事なら何でも答えるよ。但し、緑谷少年のトレーニングも見なきゃいけないから手短にね」
「なるほど。苛めていたのはモジャモジャ君だったか」
「おおっと、その話は広げさせないぞ!!」
早めに質問に答えてその事は忘れてもらおう。もし週刊誌にでも記事が載ると大変だ。緑谷少年の育成プランにも支障をきたす恐れがある。
「じゃあ一つ目の質問だ。ヒーローってのは悪人に裁きを与える仕事だろう?悪人を懲らしめるのは楽しいか?」
「…うん。先ずは訂正しようかルシファーくん。悪人を裁くのは司法の仕事だ。ヒーローの仕事じゃない」
ヒーローが脚光を浴びて勘違いする人が増えたが、今も昔も犯罪者を裁くのは司法機関の役割だ。断じてヒーローの役目ではない。ヒーローが悪を裁いてしまったら、唯の無法者に成り下がってしまう。
ヒーローの職務は人を救ける奉仕活動。そこを忘れてはいけない。
「…つまり、君達は悪を裁くのに否定的なんだな?…良し」
ここでルシファー、何故かガッツポーズ。
おかしい。ヒーローの心構えを説いたのに変な納得のされ方をした気がする。
「じゃあ二つ目だ。君は神を信じるか?」
「えっ唐突に何っ!?そ、そういう勧誘ならお断りするよ?!」
「ははは!聞いたか親父!これが現代人だ!」
宗教的な勧誘かと身構えると、ルシファーは手を広げて大笑いしている。彼の気持ちの振れ幅が異常だ。
ーーと言うか今の質問ヒーロー関係なかったよね!?
「もう満足のいく答えは聞けたし、次ので最後にしようか。ヒーローは個性を使い放題なんだよな」
「…
「それを馬鹿正直に守るのか?人間は誰も見てなけりゃ信号無視だってするだろ、欲望に弱い生き物だからな。必要な時にだけ個性を使ってるなんて誰が信じる」
ルシファーの主張は理解した。
彼は人間の精神性を悪寄りだと言っているのだ。故に、ヒーローも人目が無ければ悪事を働くだろう、と。
「ルシファーくん、これだけは断言するよ。もし自らの立場を利用して悪事を働くような事があれば--」
「それはヒーローではない」
「あ、そうだ。サイン頼まれてたんだった。コレに、リンダちゃんへ、で頼むよ」
「OK!君のも書こうか?」
「僕は良いよ、君の名前親父の事思い出すから嫌いなんだ」
「辛辣ッッ!Oh,my…!」
※親父=