Flag of tank rider   作:山本 獺祭

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憧憬

目の前を誰かが走り抜けた。

 

 

自分と同じ、10歳になるかならないかといった子供たちは、

夏の暑さになんて目もくれずに、我先にと走り去っていく。

 

 

そんな彼、若しくは彼女らは、

黒板にに書かれた諸注意事項なんぞ、

もうどうでもいいといった有り様だった。

 

 

どたばたとした喧騒と笑い声のひしめいていた教室は、

暫くの間を置いて静かになっていく。

 

 

日付をみれば、7月20日。今日から夏休みである。

 

 

 

(1月以上も家にいても、やることなんて宿題くらいしかないんだよなぁ。)

 

 

 

喜び勇んで出ていった彼らのあとに続いて、

教室を出ることを決めたのは、そんな感想抱いて暫くしてからだった。

 

 

 

教室を飛び出る子供たち。

対しては俺は一人下校。

 

 

 

 

 

 

 

 

つまるところ俺は、ボッチというやつだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「なぁ、戦車に興味ないか?」

 

「なんだよ突然。」

 

 

親父が唐突切り出した話題は、

内容もまた唐突だった。

 

 

「夏休みは入って時間があるだろ?

実は人手が足らなくて、猫の手も借りたいんだ。

もちろん駄賃は出すぞ?」

 

「勉強しろっていうならともかく、

仕事させるのは親としてどうなのよ?」

 

「だいじょうぶだよ。

勉強は必要になったら否応なくするもんさ。

俺がそうだったからな!」

 

「それ。自慢すること?」

 

 

ダメかもしれん。俺の親。

 

 

「なぁ、いいだろう?

楽しいぞ~戦車。眺めるのも弄るのも楽しいぞ。」

 

「乗るんじゃないの?」

 

「そら動作確認ぐらいはするがよ。

乗るのは"あっち"の仕事。」

 

 

指をさした先は母親。

黒のパンツァージャケットを着た戦車乗り。

 

"女の戦車乗り"

 

なんていうか…

 

 

「違和感だよねぇ。」

 

「ん?母さんが戦車にのってるのが似合わんか?」

 

「そうじゃないよ。」

 

 

俺の母親は戦車乗りだった。

軍隊や自衛隊ではない。

 

 戦車道

 

古くから『乙女の嗜み』として存在していた武道。

礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸とされている。

 

 

「男の戦車乗りって、いないのかなって思ってさ。」

 

「いないわけじゃない。現に自衛隊にはいるしな。

だが、戦車は非力な者が乗るものというイメージが強いな。」

 

「そこがまずわかんないだよね。

動く機械、砲台にキャタピラ。

わりと好きな男の人多いと思うんだよ。

そういう人って乗ってみたいと思うんじゃないかな?」

 

 

古今東西、男にはロボットが好きという層が一定存在する。

また軍人が打ち立てた戦争の逸話が好きの層も多い。

歴史好きにも興味を持つものもいるだろう。

戦い、機械、歴史。

それぞれが、男を引き付けてやまないファクターだ。

そういったものが戦車にはつまっていると思う。

 

 

「もちろんそういった男はいる。

俺もそこに魅せられて整備士をやっているところもあるしな。

だけどやっぱり男ってのは外面を気にするんだよ。

まだ子供お前には難しいはなしかもしれんがな。

 

機会がないってのもある。

そもそも戦車に乗るっていうのが貴重な体験だ。」

 

「でも、女の人は戦車道があるんでしょ?

なんだかそれって不公平じゃない?」

 

 

ガラにもなく熱くなっているのを感じる。

口をついて出た言葉にもとげがあったと思う。

 

そんな俺に親父は笑って言った。

 

 

「不平等ではあるが、不公平とは思わないな。

逆に男ができるが、女はできないってことも多いと思ってるからな。

男にはそういったたまたま戦車に乗る機会が少なかっただけの話だ。」

 

「そっか、どもそれってさ…」

 

 

なんだか少し詰まらないと思った。

貴重なものを無為に扱われたような感覚。

熱になったものが体に滞留している。

 

 

「ねぇ親父。手伝いやるよ。だからさ…」

 

 

俺に戦車を見せて。

 

 

そういうと親父は、俺を見て少しだけ笑った。

 

 

 

 

 

 

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違和感を感じたのは、小学校に上がってからだ。

 

 

 

 

 

皆より少し勉強が出来るということからはじまったはずだ。

 

習ってない計算が出来る。

漢字が簡単に読める。

 

些細なことにも優越感を感じる年頃だったはずなのに、

自分にどこか歯に物がつっかえた様な違和感があるだけ。

あぁ、文だけ見れば可愛いげのない子供だろうさ。

 

 

だけど自分にとってはこの気持ち悪さは多大なストレスだった。

それから1年、気がついたのはそれからだ。

 

 

 

"自分の人生に既視感を感じた"

 

 

 

 

 

つまりはそういうことだ。

どうやら俺は生まれ変わりと言うやつを経験しているらしい。

 

なるほど、それなら納得だ。

2度目の人生だから自分は他のやつより少しだけ、

ほんとに少しだけ、分かっていることが多いから出来ることも多いのだ。

 

正直、子供のが頭でこんなことを考えてたら、どうにかしてしまったと思うのが普通だろう。

それでも、受け入れるだけの下地はもう出来てしまっていた。

 

 

(嗚呼、なんつーか。本当にかわいげがないな、俺。)

 

 

二度目の人生なんて、普通、喜ぶものかもしれない。

考えなくはなかった。

この世界で前世の知識をひけらかして、もてはやされるってのも考えた。

けれどもそれは、1度目の人生を無為にする行為だ。

1度目を無為に終わったことにはしたくなかった。

 

結局は子供に紛れながら、

大人になるまでは、変わっていても"子供"でいるのが一番だと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けれども、もしかすると俺は本当の意味で子供だったのかもしれない。

 

 

だって、戦車を初めて直接みた俺は、

その動きに、力強さに。

心底ほれ込んでしまったのだから。

 

 

(まるで子供だよな…)

 

 

でも仕方ない。

思ってしまったのだから仕方ない。

 

 

 

 俺も戦車に乗ってみたいって。

 

 

これは俺が戦車に乗ることを決めた、

 

ただそれだけの話。

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