星のカービィ Wish in the Symphony   作:テンカイザー

2 / 27
大変長らくお待たせして申し訳ございませんでした!(土下座)

シンフォギアの時系列はじっくり考えた結果XVの後日譚に決定致しました。
戦闘描写には自信がないので、おかしい部分があればどうか教えて下さい。


一星目 少女の歌は、春風の如く

 国連直轄の超常災害対策機動タスクフォース。

 Squad of Nexus Guardians

 通称『S.O.N.G.』

 

 その本部である潜水艦の中に"彼女達"はいた。

 

 潜水艦内の司令室と思われる巨大な部屋。

 そこには、いくつものモニター画面が存在し、同じ制服を着た大勢の職員達がコンソールを弄りながらモニターを見ている。

 

 何故かその中には他の職員とはあきらかに違う"白衣を着た幼い女の子"もいた。

 

 何故この緊迫感漂う場所にどう見ても場違いな女の子がいるのか…?

 それを記すのはまた後ほど。

 

 その司令室の真ん中に位置する赤いシャツを着た屈強な外見をした、勇ましい雰囲気を醸し出す一人の男性。

 その目の前にいるのこそ"彼女達"だ。

 

 計六人の少女達。

 

 中には大人びた雰囲気のある女性もいたが、その殆どはまだ青春真っ只中な学園生活を送っているはずの女子高生であった。

 

 何故こんないかにも普通の人間なら無縁に思える場にうら若き少女達がいるのかは、それもまた後ほど。

 

 そんな中、最初に口を開いたのは少女達の前に佇む屈強な男であった。

 

「皆よく集まってくれた。早速だが、本題に入る」

 

―――『風鳴弦十郎』

 

 S.O.N.G.の司令官である。

 その巨体から放たれる威厳は、正に組織を率いる者の物であった。

 

 しかし、少女達はその威厳に屈することなく、真っ直ぐな眼差しで弦十郎と向き合っていた。

 それは、これまで彼女達が弦十郎との間に築き上げた信頼故の物であった。

 

 そして次の瞬間、部屋の上に設置されていた巨大なモニターに画像が映し出された。

 そこに写っていたのは、

 

 

 

 

 

 

―――光る球体に目と巨大な口、更に鳥のような羽と尾を持つ、明らかに異質な生命体であった。

 

『……っ』

 

 その画像を見た瞬間、その場の全員の表情が真剣な物になった。

 普通の人間が見れば驚愕するであろう物を見たにも関わらず、そのばにいた者で驚愕を浮かべる者は誰一人といなかった。

 

 ここまで記せばもうすでに察しがつくであろう……。

 そう、この少女達は()()()()()()()()

 

「司令、この生物は一体……?」

 

 次に声を上げたのは、青い長髪を櫛のような髪飾りでポニーテールに纏めた、少女達の中でも凛々しい雰囲気を出す少女であった。

 

―――『風鳴翼』

 

 翼が上げた疑問に誰もが同意しながら弦十郎の答えを待ち、そしてすぐにその疑問の答えが返ってきた。

 

「これは、先日から目撃情報が出ている"未確認生命体"だ。」

 

 次に声をはっするのは、メンバーの中で唯一大人のピンク色の髪を猫耳のような形に纏めた女性だ。

 

―――『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』

 

「未確認生命体……?聖遺物ではないの?」

 

 彼女が出した疑問。それはこれまで自分たちがなんども関わってきたある物の存在を疑うものであった。

 

―――『聖遺物』

 それは現代では失われた異端技術によって生み出された英知の結晶。その殆どが、神話に登場するアイテムの名を冠しており、どれも人の身に余る強大な力を有している。しかし、殆どの聖遺物は長い年月の果てに機能は朽ちており、発見当初は機能を停止している場合が殆どである。

 そして、聖遺物を再び起動させる上で重要な物となるのが、『フォニックゲイン』である。

―――『フォニックゲイン』

 それは言うなれば歌に込められた力。聖遺物を起動させるのに欠かせない、人の歌にこめられた特殊な力だ。

 

 聖遺物について記すのは一旦ここまでとし、話しを彼女たちの視点へと戻す。

 

 マリアの疑問に答えたのは、弦十郎ではなかった。

 上記にあった、白衣を着た金髪を三つ編みにした女の子である。

 

「現段階ではまだ不明です。この生物についてわかっていることはまだ殆どありませんので……」

 

―――『エルフナイン』

 とある過去の事件をきっかけに、現在はS.O.N.G.の頼れる仲間である"錬金術師"である。

 

 そして次に発せられた弦十郎の発言により、一同はさらに緊迫感に包まれることとなる。

 

「だが、一つはっきりしていることがある。それは、この生物は"人を襲う"ということだ」

 

『………っ!?』

 

―――人を襲う。

 

 その言葉がその場にいた一同の胸に響いた。

 それは彼女達にとって、自分達が戦わなければならない()()()()となりうるかもしれない故に。

 

 だが、そんな中すぐさま驚愕から我に返った少女があらたに質問した。

 

「それで、襲われた人はどうなったんですかっ!?」

 

 その少女は周りと比較すればまだ若い方であり、どこか明るい雰囲気を放っていた茶髪の少女であった。

 

―――『立花響』

 

 響が上げた質問に、弦十郎は直様返答した。

 

「幸いにも死者は出ておらず、被害者も軽症ですんだようだ。その後この生物はすぐさま何処かへ姿を消したと言う」

 

 弦十郎の返答を聞いた途端、一同は心の中で安堵した。

 中でも響は「良かったー」と呟きながら、安心の笑みを浮かべていた。

 

 だが、弦十郎は安堵した一同に対し、再び言葉をかける。

 

「だが、今回の件はこれで終わったとは考えにくい。またこの生物が現れ、人に危害を加えるやもしれぬ。そうなれば、お前達にはまたしても戦場に立つ時が来るかもしれない。故に、気を引き締めておけっ!」

 

 弦十郎の言葉は、その場にいた一同の胸の中に重く響いた。

 そして彼女達も、弦十郎の喝に応えるべく、一斉に息を合わせて声を上げた。

 

『了解!(デース!)』

 

 それから程なくして、その場は解散となった。

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 立花響は、自身の住む『リディアン音楽院』の学生寮へと帰っていた。

 そこには、彼女にとっての"陽だまり"がいた。

 どこかおとなしめな雰囲気を醸し出すリボンをつけた黒髪の少女が、響に話しかけて来た。

 

「響、大丈夫?」

 

―――『小日向未来』

 立花響の一番の親友にして、彼女の陽だまり。

 

 何処か不安げな表情を浮かべていた響に、未来は優しく声を掛ける。

 少しでも響の気持ちを和らげられたらなと。

 

 対する響は、未来に心配させてしまったことを心中で詫びながら、すぐさまこれ以上未来を心配させまいといつもの笑顔に戻す。

 

「うん、大丈夫だよ!ごめんね、心配かけて……」

 

 すぐさま未来にいつもの笑顔を見せた響であったが、未来は響の心中を察してすぐに問いただす。

 

「弦十郎さんに言われたこと、気にしてるの?」

 

 未来の言葉を聞いた途端、響の顔は図星と言わんばかりに不安げな顔に戻ってしまった。

 

「……うん。ちょっとね」

 

 これ以上誤魔化しても仕方ないと腹を括った響は、自身の胸中を未来に素直に話すことにした。

 

「……私ね、あれからいっぱい戦ったなぁって。了子さん、マリアさん達、キャロルちゃん、サンジェルマンさん達、ベルちゃん、シェム・ハさん……。色んな人達が色んな気持ちを持ってて、その度に何度も拳をぶつけて、分かりあえたり、分かりあえなかったり、色々あったなぁって……」

 

 彼女はこれまで、何度も色んな輩と対立し、その度に何度も拳をぶつけて来た。

 手を繋ぎたいと伸ばした掌を、何度も握って相手にぶつけて、痛みを与えて……。

 それでも彼女は手を伸ばし続けた。

 分かりあいたいと願って、分かり合えると信じて。

 そして、彼女が手を伸ばし続けたことにより、かつては敵であった者達も、今は仲間となり、世界の危機を救い、時には分かり合えた筈の者達が消えてしまったこともあり、そして神とも分かり合い未来を託され……。

 

「でも、それでも誰かが傷つくことはなくならない。この手を握らなくちゃいけないんだって……」

 

 そう、いくら彼女が戦っても、誰かを傷つける存在はなくならない。

 その度に彼女はまた拳を握らなくてはならない。

 誰かと手を繋ぐための手を……。

 

「……響」

 

 そんな響に、未来は優しい笑顔を浮かべながら響に声を掛けた。

 

「私は響の手が大好きだよ。ただ痛いだけじゃない。誰にでも伸ばすこの優しい掌が。あの時私を祝福して(助けて)くれたこの手が」

 

 そう言いながら、未来は響の両手を優しく自身の掌で包み込んだ。

 嘗て自身が響に気持ちを伝えたいがあまり、響の心を苦しめることになってしまった時の事を思い出しながら。

 

 未来の手から伝わってくる陽だまりのような温かさをしみじみと感じながら、響の心から不安はすっかり消えていた。

 

「……未来、ありがとう!なんかもうすっかり元気になっちゃった!」

 

 今度こそ響の顔に心からの笑顔が浮かぶ。

 

 響がすっかり元気になったのを見た未来もまた、温かい満面の笑みを浮かべる。

 

―――小日向未来は立花響の陽だまり

 

 それはなんの形容でもない、言葉通りであった。

 

―――ブオォォォォン!

 

 そんな二人の温かい時間を打ち壊すが如く、突如としてけたましい轟音が外から鳴り響いた。

 その音が意味することを、二人は瞬時に悟った。

 

 次の瞬間、さっきの轟音ほどではないものの、またしても音が鳴り響く。

 それは、響が常に携帯していた通信機から鳴った物だ。

 

 通信機を取り出した響は、すぐさまそれを耳にかざした。

 

「はいっ、立花です!」

『非常事態だ!未確認生命体が人々を襲ってる!』

「……!?」

 

―――『未確認生命体』

 その言葉を聞いた途端思い浮かべるのは、今日の緊急ミーティングで聞かされた例の生命体。

 

「それって今日言っていた――」

『いや、外見は似ているが、それとは別のなにかだ!』

 

 即座に疑問を上げた響であったが、通信機越しの弦十郎の声は響の疑問を言い切る前に否定した。

 弦十郎の言葉に困惑する響だが、今はそれどころではないと即座に気持ちを切り替えた。

 

「師匠、すぐに場所を教えて下さい!」

『勿論だ!直ちに移動用の車を手配する!直ちに急行してくれ!」

「了解です!」

 

 通信を切り、真剣な顔に切り替わった響を見ながら、未来は声を掛ける。

 

「響、行くの?」

 

 通信機越しの響の会話から察した未来は、響に不安げに声を掛けるが、対する響は未来に心配させまいといつもの笑顔で向き合う。

 

「うん。すぐに帰って来るから、安心して待ってて」

 

 響の言葉を聞いた未来は、すぐに元の笑顔に戻す。

 大事な人の帰りを信じて待つために。

 

「じゃあ、行ってくるね!」

「うん、いってらっしゃい響!」

 

 大切な人からの言葉を受け取った響は、すぐさま駆け出した。

 

―――この手で救える人を救うために

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 とある町の大勢の人が通る人通り。

 そこは今まさに"地獄"とかしていた。

 

 大勢の人が悲鳴をあげながら逃げ惑っている。

 更に逃げ惑う人々の中には、人ならざる異形が混じっているではないか。

 

 赤く光る球体のような体に、妖しく光る黄色い眼。

 さらにぱっくりと割れた口に、体の横には蝶を思わせるような羽が生えていた。

 それらの異形が大群を成し、人々をつけ狙っては噛み付いたり口から赤い光弾を吐いたりと暴れ回っていた。

 

――― Balwisyall Nescell gungnir tron

 

 そんな中、地獄と言えるこの状況には似つかわしくない歌が流れた。

 

 突如聞こえた歌声に、異形達は驚き即座に歌の発生源を探し始める。

 

―――次の瞬間

 

『……!』

 

 突如として異形達の前に謎の光が現れた。

 

 そして、なんと光の目の前にいた異形が、突如として吹っ飛び、空へと向かって行きながら粉々に砕け散ったのである。

 

 突然仲間が一体消えたことに慌てふためく異形達。

 次の瞬間、また更なる驚愕が現れる。

 

 先ほど異形の一体を吹っ飛ばした光。

 それが晴れると、中から新たな姿が現れた。

 

 それは、"響"であった。

 だが、その姿は先ほどまでとは変わり果てている。

 

 体にぴったり合った黄色をメインとし所々オレンジが混ざったインナー。

 脚や腕には白をメインに黄色が混じった機械的な装甲を纏い、頭にはヘッドホンを思わせる形をした機械的装甲を身につけている。

 

―――『シンフォギア』

 

 聖遺物を核とし、フォニックゲインを力として稼働する兵装。

 

 立花響が纏うのは、聖遺物『ガングニール』の力を秘めたシンフォギア。

 

 シンフォギアを身に纏った響は、先程吹っ飛ばそれた異形がいた位置へと握った拳を伸ばしている。

 

 そして、すぐさま腕を戻した響は、まだ残った異形達に向けて構え直す。

 

 対する異形達も、新たに響を敵と見なし、響へ突進をしかける。

 

―――次の瞬間

 

『……!?』

 

 突如空から降って来た大量の赤い光の矢が、異形達の身体を貫く。

 

 身体を貫かれた異形達は、一瞬で粉々に砕け散ってしまった。

 

 光の矢が飛んで来た方を見れば、そこには響と同じくシンフォギアを身に纏った少女達が集っている。

 

 先程の光の矢を打ったのは、赤いインナーの上に、各部に装甲を纏い、両手にクロスボウを携えた銀髪の少女。

 腰回りには白いユニットが取り付けられている。

 

―――『雪音クリス』

 

 聖遺物『イチイバル』の装者。

 

「……はっ、脆いモンだなっ!」

 

 クリスはどこか得意げに呟く。

 

「でもあれは一体……?ミーティングで見た生き物に少し似てるけど?」

 

 次に疑問の声を挙げたのは、桃色のインナーの上に装甲を纏った、黒髪のツインテールの少女。

 腰からはスカートを伸ばし、ツインテールにはヘッドギアが取り付けられている。

 

―――『月読調』

 聖遺物『シュルシャガナ』の装者。

 

 調の言う通り目の前の異形達は緊急ミーティングで見た生命体とどこか似ていた。

 

 異なる点は、ミーティングで見た生命体は紫だったのに対し、目の前の異形達は赤。

 

 その他にも、目の前の異形達は画像の生物よりも一回り小さい。

 どこか未確認生命体と関連性を感じずにはいられない程の類似度である。

 

「どちらにせよ、人に仇なす存在であるのならば、この場で斬り捨てるのみ」

 

 そう言い放ったのは、翼であった。

 

 翼が身に纏うのは、青色のインナーに装甲を纏った、聖遺物『アメノハバキリ』のシンフォギア。

 手には剣を携えている。

 

 翼の言う通り、目の前の異形達がなんなのかはわからずとも、異形達が人々を襲っているのは事実。

 ならば、"人類守護の盾"である彼女達にとって、成すべきことは一つ。

 

 改めて覚悟を決めた装者達は、それぞれの武器―――『アームドギア』を携え、異形達に向けて駆け出した。

 

 響は自身のアームドギアである"拳"を構えながら、異形に向けて駆けていた。

―――歌を響かせながら

 

 対する異形も、響へむけて次々と向かう。

 

 目の前に来た異形から、響は拳を振るう。

 殴り飛ばされた異形は空へと向かいながら、空へ辿り着くことのない内に亡き者となる。

 

 次に右から来た異形を殴り飛ばし、その場を軸に回転蹴りを繰り出し、背後にせまっていた異形を吹っ飛ばす。

 

 様々な方向から縦横無尽に飛んで来る異形を、次々と殴り飛ばし、時には足蹴りも混ぜ、異形をなぎ倒して行く。

 

 やがて、異形の数もすっかり減り、逃げ惑っていた人々も全員が見えない所まで避難していた。

 

 他の装者達も、各々の武器(アームドギア)を巧みに使いこなし、異形の数は見ればもう数えられる程しかいない。

 

―――その時

 

『―――!!』

 

 突如として謎の奇声が装者達の耳に響く。

 

 即座に発声源を探すべく、周囲を、見渡す。

 

―――そしてそこに"それ"は現れる

 

『……!?』

 

 装者一同が"それ"を見た途端驚愕に染まる。

 そこにいたのは、紛れもないあの"未確認生命体"であった。

 

 全身が紫の光る球体のような身体にパックリと割れた口、鳥のような羽と尾とトサカ。

 

「あれは、例の未確認!」

 

 マリアが言った通り、その容姿は紛れもなく緊急ミーティングで見た未確認生命体そのものである。

 

 一同が驚愕している中、未確認生命体はお構いなしと言わんばかりに一番近くにいた響へ向けて突進を繰り出す。

 

「……うわぁっ!」

 

 なんとか即座に身体をずらすことで響はなんとか躱す。

 だが、次の瞬間に安堵する暇もなく事は起こった。

 

『―――!!』

 

『……!?』

 

 突如として、先程と同じ奇声が今度は別の方向から鳴り響いた。

 装者達が発声源を探すまでもなく、"それ"は自ずから姿を現した。

 

「……もう一匹!?」

 

 マリアが言った通り、そこには先程現れた未確認生命体と全く同じ容姿の生命体がいた。

 だが、先程現れたのが紫だったのに対し、後から現れた方は全身が赤色である。

 

 戦う相手が二体に増えたことにより、装者一同は更に引き締め、その鋭い眼差しを相手へと向けた。

 

―――その時

 

『っ!?』

 

 紫の未確認生命体に突然何かが被弾したかと思えば、未確認生命体は突然の不意打ちによろめふためいた。

 

 装者達は何かが飛んで来た方向へ即座に振り向いた。

 すると、そこにいたのは

 

 

 

 

 

 

―――口を大きく開けたまん丸ピンクの生き物であった

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 カービィは困惑していた。

 気がつけば自分はプププランドとは違う、高い建物がたくさん並ぶ謎の場所にいた。

―――何故自分はここにいるのか?

―――ここは何処なのか?

 何も分からないまま慌てふためいていたカービィであったが、その思考は()()()()()()()()()()()()によって掻き消された。

 

「ぽよっ!?」

 

 見てみれば、明らかに自分よりも背格好の高い者達が顔に恐怖を浮かべながら皆同じ方向へ向かって走っていた。

 

 これはただ事では無いと悟ったカービィは、すぐに人々が走り去る方向とは逆の方向へ向かって駆け出した。

 

 暫く走り続けてカービィが見た光景は、

 

 

 

 

 

―――自身にとって見覚えのある敵と、それと戦う少女達であった

 

 つい先程自分が初めて見た生き物と同じ自分よりも背格好の高い者達がいたが、そこにいた者達は他の者達とは明らかに違っていた。

 

 さっきまで見ていた者達は皆一心不乱に逃げていたというのに、目の前の者達は逃げる姿勢を一切見せず、目の前の敵と戦っていた。

 そして何より、他の者とは格好が全く違っていた。

 何故あのような格好をしているのか、それを知る由はカービィには全く無かった。

 

 だが問題は、彼女達が戦っている敵についてだった。

 

 それは嘗て、カービィが"虚言の魔術師"の事件の際に出会った者であった。

 

―――『スフィアローパー』

 自分達が住む場所とは違う別の空間―――『アナザーディメンション』に生息する生命体。

 

 何故それらが此処にいるのかは分からない。

 しかし、スフィアローパーと戦う彼女達を見て、カービィの純真無垢な心に秘められた正義感が、ある感情を昂らせた。

 

―――助けなくちゃ!

 

 そして、カービィは己の感情に従い即座に行動にでる。

 あたりを見回したカービィは、たまたま近くにいたスフィアローパーと同じく異空間(アナザーディメンション)に生息する生命体―――『リーパー』を発見する。

 

 するとカービィはぐっと目を閉じ、リーパーに向けて口を大きく開けた。

 すると次の瞬間、なんとリーパーの身体がカービィの口の中へ吸い寄せられ始めた。

―――『すいこみ』

 文字通りあらゆる物を口の中へ吸い込む、カービィの得意技である。

 突然吸い寄せられたリーパーは抵抗する暇もなく、一瞬でカービィの口の中へと収まってしまった。

 

 リーパーを口に頬張ったカービィは全身が膨れ上がり、そのまま紫のスフィアローパーに向けて身体の方向をずらした。

 そして次の瞬間、カービィの口から星型の弾が発射された。

 

『っ!?』

 

 カービィに全然気が付かなかったスフィアローパーは、カービィの星型弾をもろに喰らってしまった。

 

 スフィアローパーと戦っていた少女達も気づけばカービィの方を向いていたが、カービィはそれに一切気付かないままスフィアローパー達の前へと出た。

 

「……へ?何あれ?」

 

 戦っていた少女の内黄色い格好の少女がカービィの姿を見て困惑の声を挙げるが、カービィはそれを気にすることなく、スフィアローパー達と向き合った。

 

 カービィの姿を視認したスフィアローパーもカービィを敵と見なし、カービィへ向けて突進を繰り出す。

 

「……危ない!」

 

 再び黄色い少女が自身に向けて声を掛けるが、カービィはそれを気にすることなく横へ跳ねることで紫のスフィアローパーの突進をかわし、遅れて来た赤いスフィアローパーの突進もバックステップで避ける。

 

 そして次に、赤いスフィアローパーはカービィに向けて口から赤い球体を放った。

 

 しかしカービィは、今度は避けるのではなく再び口を大きく開けすいこみを繰り出した。

 赤い球体はカービィの口の中へと収まり、次の瞬間カービィは今度は吸い込んだものを『ゴクン』と言いながら飲み込んだ。

 

―――次の瞬間、カービィに変化が起きる

 

 なんと、カービィの頭に緑色の宝石が嵌め込まれた金色の輪っかが現れ、輪っかの上からカービィの頭で炎が燃えだしたのだ。

それは正しく"炎の冠"。

 

―――コピー能力『ファイア』

 カービィのすいこみに続く得意技、吸い込んだ物の力をコピーする力。  『コピー能力』によって得た、カービィの新たな姿。

 

「デデデデース!調、あの子燃えてるデスよ!大丈夫なんデスか!?」

「……切ちゃん落ち着いて。私に言われてもわかんないよ」

 

 新たなカービィの姿に少女達は慌てふためいていたが、カービィはそれを余所にスフィアローパーへ向けて駆け出した。

 

 そして助走を付けた状態でカービィは高く跳び、紫のスフィアローパーへむかっていく。

 するとなんと、カービィの全身が炎に包まれ、火の玉へと姿を変えた。

 そしてそのまま火の玉となったカービィはスフィアローパーへ向けて激突した。

 

―――『バーニングアタック』

 

 そのままスフィアローパーは吹っ飛ばされ、地面をバウンドする。

 カービィの熱を帯びた一撃と地面にぶつかったときの衝撃が蓄積し、紫のスフィアローパーは大ダメージを受けた。

 

 仲間がやられたことに腹を立てた赤いスフィアローパーは怒り狂い、先程のカービィと同じよう全身に炎を纏ってカービィに向けて再び突進を繰り出す。

 

「ぽよっ!?」

 

 それをカービィは紙一重でかわす。

 だが、その背後からは先程吹っ飛ばされた紫のスフィアローパーの突進が迫って来る。

 

「危ない!」

「…ぽよっ!?」

 

 瞬間、先程の黄色い少女が即座にカービィを抱きしめ、そのまま転がり込むことでカービィはことなきを得た。

 

「……大丈夫?」

「はぁ〜い!」

 

 突然抱きしめられたことに、カービィは驚いてしまう。

 

 だが、黄色い少女が自分の身を守るために成したということを理解する。

 

 故に、カービィは黄色い少女の問い掛けに、笑顔で答える。

 

 だが、スフィアローパー達はそんな響とカービィの間を裂くかの如く襲い掛かる。

 

「ぽよっ!」

「うわっ!?」

 

 カービィは響の腕の中から飛び出し、再び火の玉となり、今度は回転しながら赤いスフィアローパーへと激突する。

 

―――『ひだるまスピン』

 

 赤いスフィアローパーは後方へと吹っ飛ぶが、今回は地面に着く前に踏み止まる。

 

 見れば紫のスフィアローパーも更に怒り狂った表情を浮かべながら、背後に並ぶ。

 

 カービィは地面に着き、二体のスフィアローパーへと向き直る。

 

「ねぇ、君!」

「……ぽよ?」

 

 するとカービィは突然黄色い少女に声を掛けられる。

 

「君がなんなのかよく分かんないけど、私と一緒に戦って!」

 

 突然声を掛けられて困惑したカービィであったが、先程自身が目の前の響に助けられたことを思い出す。

 

 あの時自身を助けてくれた顔は紛れもない優しい顔でだ。

 

 カービィの純真無垢な心は、カービィに答えをもたらす。

 

―――響を信じようと

 

「……はぁ〜い!」

 

 再び響に向けて笑顔で答えた。

 

「ありがとう!」

 

 対する響も、カービィに向けて笑顔でお礼を言う。

 

 一方で、二体のスフィアローパーはさらに強力な突進をお見舞いすべく、二体揃って回転を始めだす。

 

 それを迎え打つべく、響も右腕を引き構える。

 その途端、響の脚の装甲から展開されたパワージャッキが地面を削る。

 

 カービィもスフィアローパーをじっと見つめ、タイミングを見定めるかの如く構える。

 

―――次の瞬間

 

 二体のスフィアローパーは螺旋を描きながら響達に向けて強力な突進を繰り出す。

 

 そして、響も同じく動き出す。

 

 地面に取り付けられたパワージャッキが一瞬で響の脚へ戻り、その反動を利用し、響は一気に目の前のスフィアローパーズへむけて跳躍する。

 

 時を同じくして、カービィも響が飛び出した瞬間、全速力で駆け出す。

 

―――そして

 

「オリャァァァァォァォァァッ!!!」

 

 けたましい怒号と共に右腕を勢いよく前へ出す。

 そして、響の真隣を走っていたカービィも跳び、再び火の玉へと姿を変える。

 

―――そして次の瞬間

 

 火の玉となったカービィが響の拳と重なり、響の右腕が迸る炎に包まれる。

 

 そしてそのまま、拳を自身へ迫るスフィアローパーズへ思いっきりぶつける。

 

―――『我流・火炎桃玉』

 

 炎の拳とぶつかり合ったスフィアローパーズは、二体まとめて空へと吹っ飛ばされ、そのまま爆散した。

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 事が終わった後、響達はS.O.N.G.本部へと戻っていた。

 

 他のリーパー達は、響とカービィがスフィアローパーズを相手している間に、他の装者達が片付けてた。

 

「ふむ、……それでそいつが助けてくれたと?」

 

 響達からの報告を聞いた弦十郎の視線は、響の腕の中に抱かれたカービィへと向けられる。

 

 あれからカービィの姿は、いつの間にか頭の炎が消え、元の姿に戻っている。

 

「はい、この子のおかげで皆を助けられました!」

「ぽよっ」

 

 響はどこか得意げに答える。

 響につられたのか、カービィも一緒に返事をするのであった。

 

「で、結局そいつなんなんだよ?」

 

 続いてクリスが、カービィを睨みながら疑問の声を上げる。

 彼女だけでなく、カービィに対して疑問を浮かべるのはこの場の全員が同じである。

 

 小柄で可愛いマスコットのような容姿を持ちながら、戦いでは姿を変える謎の力を発揮する存在。

 何から何まで疑問の尽きない存在だ。

 

「とにかく、そいつについては本部で預かって解析を進めることにする。そいつのためにも、暫くは本部に住んで貰う」

 

 カービィは強力な力を持つ謎の存在。

 そんな存在をつけ狙う輩は、残酷なことにこの世界にはたくさんいる。

 故に、弦十郎はカービィの安全のためにS.O.N.G.にて保護することにしたのだ。

 

「何、悪いようにはしないさ。彼女達を助けてくれた恩人だからな」

 

 弦十郎はカービィを安心させる為に、カービィに対して友好的な意思を示した。

 

 だが、肝心のカービィはちゃんと自身の立場を理解していないのか、終始キョトンとしている。

 

「そうだ!じゃあこの子の名前決めなきゃね!」

 

 突然響は突拍子なことを提案しだす。

 これには一同「いきなりなんだ?」と言わんばかりの呆れた表情を浮かべる。

 

「カービィ!」

「……へ?」

 

 そんな中、突然声を上げたカービィに響はキョトンとする。

 

「カービィ!カービィ!」

 

 誰もがカービィの突然の発言に疑問を浮かべる。

 そんな中、響は何かを察し、カービィに話しかける。

 

「……もしかしてそれ、君の名前?」

「……はぁーい!」

 

 響の問いに、カービィは「正解」と言わんばかりに笑顔で返事をする。

 

「……へぇ、君カービィって言うんだ。よろしくね、カービィ!」

「ぽよっ!」

 

 すっかり意気投合した響とカービィを見て、一同は「そんな訳あるか」と呆れの表情を浮かべる。

 それを真っ先に述べたのは、クリスだ。

 

「おい、何勝手に変な解釈してんだよ!」

 

 クリスは若干イラつきながら響に言葉を掛ける。

 

「へ?だってクリスちゃん、この子が名前はカービィだって――」

「だから何でお前はそいつの伝えたいことが分かるんだよ!」

 

 クリスの若干イライラが含まれた質問に、響は全く態度を変えず呑気に答える。

 

「ん〜………なんとなく?」

「お前なぁ――」

 

 クリスが更にイライラを増して響に言葉をぶつけようとしたが、それを遮ったのは翼だ。

 

「まぁ、呼び名がわからないままでは不便であろうし、取り敢えずはカービィと呼べば良いだろう」

 

 翼の発言にクリスは渋々黙る。

 

 取り敢えず、現段階ではカービィという呼び名がS.O.N.G.内にて定着したようだ。

 

「そうだ!私の名前も教えないとね。私はね、立花響っていうんだ」

 

 次に響は、自身の名前をカービィに教える。

 

「……ヒ…ビ…キ?」

「そう!」

「ぽよっ!ヒビキ!ヒビキ!」

 

 カービィは響の名前を楽しそうに連呼し、響もまた、カービィに呼ばれる度に笑みを浮かべるのであった。

 

 

★☆★☆★☆

 

 

―――春風

 それは旅人にとって、新たな始まりを告げる合図

 

 こうして、星羅の遥か彼方から春風の如き歌声に導かれた旅人は、新たな友と出会うのであった。




次の更新は未定です。
どうか気長に待って貰えれば幸いです。

切歌の説明描写だけないのは仕様です。
切歌ファンの皆様、申し訳ございません!
切歌の説明描写は次回書きたいと思うのでどうかお待ち下さい!

オリジナル技の名前は、ただ単に良いのが思い付かなかっただけです。ご了承下さい。

一星目は途中で分割するべきか

  • このままで良い。
  • 途中で話を区切るべき。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。