夢の中のバク先生   作:伝説の超三毛猫

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ぬぁんと!続きました。


悩める勇者・勝木翼

 勝木翼(かつきつばさ)は、悩んでいた。

 あの少女と初めて出会った時から何度も悩んでいたことで、考えないようにしていたことだ。

 ―――白沢夢美(しろさわゆめみ)。彼女と自分の差についてだ。

 

 

 彼女と初めて漫画家寮で会ったのは、琉姫と共に部屋に訪ねた時だった。彼女は、漫画の執筆中だった。

 

『…あ、はじめまして、かな?

 私は白沢夢美。今度高1になる少年漫画家だよ~。

 いきなりで悪いんだけど、ちょっと待っててね。来週分の原稿がもうすぐで出来るから。20分くらいかな~。』

 

 最初の一言は、真っ白な原稿用紙を2枚見せながらのそういった言葉だ。

 翼は最初、何かの冗談か聞き間違いかと思った。普通、原稿とは下書き、ペン入れ、墨ベタ、修正、トーン、台詞、細かな書き足し・修正……と工程がある。工程や時間に個人差はあるが、少なくとも2枚の原稿を20分はまずあり得ないと思ったのだ。琉姫も同じ感情であった。

 しかし……その疑念は、夢美のGペンが動き出した瞬間、遥か彼方へ吹っ飛ぶことになる。

 

シュパパパパッ!スパパパパパパパパパパパッ!!

 

『なっ……!?』

『えっ……!!?』

 

 夢美は、下書きすらせずにいきなりペンを入れた。

 複雑な構図を背景・人物同時に描いていく。しかも、その構図に歪みはまったくない。凄まじいスピードでできあがっていく漫画に、翼も琉姫も言葉を失うばかりだ。

 あっという間に出来上がった線画。―――だが、夢美の漫画家としての技術はコレで終わりではない。

 

ダダダダダダダダダダダダダダッ!!!

 

『『!!!?』』

 

 最初、二人は何が起こったのかまったく分からなかった。

 夢美は、原稿に空振りをしているかのようにペンを動かしているだけなのに、近くから小さな銃で撃たれたかのような音がたて続けになっている。

 そんな中……翼は原稿を見てしまった。そこで……謎の銃撃じみた音の正体を察した。

 

『ま、まさか…』

『つーちゃん?』

『るっきー…アレは多分、ベタ塗りだ。インクをダーツのように飛ばしているんだ!』

『嘘でしょ!!? あんなベタ塗り、あり得ないわ!』

『でも……良く見れば、ちゃんと当ててる。人間が持っていい精密さなのかどうかは分からないけど、目の前のこの人は間違いなくその芸当(ベタ塗り)をやってのけている……ッ!!』

 

 信じたくない二人だが、原稿は嘘をつかない。夢美の原稿の1ページには、もう既に墨ベタまでが終わった1コマが描かれていた。よくよく見れば、振ったペン先からインクが飛び出し、ベタ塗り部分に着地していくさまが目の前で広がっている。

 ――おまけになるが、ここまでで2分ほどしか経っていない。だからか、二人は「本当に目の前のこの少女は20分で原稿を終わらせるだろう」と確信を得ていた。

 一体、どこまで漫画の技量があるのだろう。

 どれほどまで天に愛されたらこんな芸当ができるのだろう。

 翼と琉姫は、彼女と自分達の差というものを、嫌というほど思い知らされた。

 

 だが二人はこの後、認識を改めることとなる。

 白沢夢美は、天に愛されただけではないことを。神は夢美に漫画の才を与えた代わりに、残酷なものを奪っていったことを。

 

 

「……いけない。今日は締め切りだったな」

 

 翼はかつて琉姫を傷つけた夢美の言動を―――初日の出来事の続きを思い出そうとする自分に張り手をはって、原稿に取り組むのであった。

 

 

 

☆  ★  ☆

 

 

 

「つばさーん!漫画のお手伝いに来…た…よ……?」

 

 自分の原稿の直しが終わった後、つばさんとお姫ちんの部屋を思いきり開けてみれば、かおすちゃんと小夢ちゃんがお姫ちんに土下座してた。ドユコト??

 

「ほんとは…ほのぼのとした動物さんの漫画が描きたかった……」

 

 続いて聞こえてきたのは、お姫ちんのか細い泣き声。入口…つまり私に背を向けてるからまだ私がいることに気づいていない。というか全員お姫ちんの独白に気をとられて私に気づいていない。

 

「るっきーは元々、幼児向けに持ち込みしたんだ」

 

 よ、幼児向け、かぁ…子供向けとは聞いてたけど、まさか幼児向けだったとは。

 流石お姫ちんだね。子供――それも、幼児に性の英才教育を施せば、この国の少子化問題なんてあっという間に解決できるね!のちに大人向けの雑誌を紹介されてそこで才能を発掘されたとはいえ、私でも簡単に思いつかない発想だぁ。

 しかし、これで話の流れは分かったぞ。かおすちゃんと小夢ちゃんはきっと、お姫ちんの漫画の資料を探してたんだ!そしていかがわしいネタでイジリすぎた結果、お姫ちんを泣かせちゃったんだな。そんな面白そうな場面があったんなら、もうちょっと早く来ればよかったかも。

 

「そして、爆乳♥姫子のペンネームをつけられ―――」

「それは言わないで!!!

 ……私も最初は悩んだけど……でも、応援してくれてるファンがいるって知って。

 今では、十分やりがいを感じてるわ」

「そうだったんですか……」

「爆乳♥…」

「姫子先生……」

「ペンネームのことは一刻も早く忘れて!!」

 

「いやぁ、忘れる訳ないでしょ〜、そんな面白ペンネーム」

「誰が面白ペンネームよ!――って夢美!!?」

「「「!!!」」」

 

 いいタイミングで会話に混ざった私に皆が腰を抜かす。

 あ〜あ〜つばさん危ないよ、インクを原稿にこぼすよ?

 

「い、いつからそこに!?」

「つばさんの『るっきーは元々幼児向けに持ち込みした』発言から〜」

「ほとんど全部聞いてたのね!?」

 

 良いじゃん、減るものでもなし、なかなか面白いから漫画のネタにできるしね。

 ちなみに、こういう人のエピソードは、そっくりそのまま使うのは当然よろしくない。せいぜい、2割ほど参考にして、1%くらいそのまま使用するだけだよ。そうすれば、元ネタに使われた人はまず気づかない。

 

「つばさんの原稿手伝いに来たんだけど……ちょっと間が悪かったかな?」

「…いや、問題ない。これから追い込むところだ。」

「私も手伝うわ。」

「それじゃ~私も手伝うよ~! 困った時はお互い様ってね~」

「夢美はあんまり困らないだろう」

 

 あ、良かった~。良いところだったんだね、私。私もお手伝いを申し出れば、つばさんは苦笑した。

 ……お、かおすちゃんと小夢ちゃんの目が輝いてる。手伝うかな?

 

「あ…あの!良かったら私達もアシスタントさせてください!」

「あの……私も…!」

 

 お、ほんとに申し出た。この新人ちゃん達は意欲的だね~、ポイント高いんじゃない?

 

「良かろう」

「いいの、つーちゃん?」

「人手は多い方がいい。お前はここのページを頼む」

「は、はい!」

 

 あれ? ……でも待って。確か、つばさんの原稿描く時のアシスタントって―――

 

「このコマに、暗黒のエネルギーを解き放ってくれ」

「えええええええええ!!?」

 

 ―――やっぱり。早速中二ワードが飛び出した。

 つばさんは、原稿を描く時はキャラになりきって描くから、言動や格好まで暗黒勇者に寄ってくるんだよね…だからか、アシスタントへの指示が中二――じゃない、すごく独特で、生半可なコミュ力ではなかなか読み解けない。流石の私でも、解読に1か月半はかかったよ……

 多分、いまの発言は訳すと『このコマのベタ塗りを頼む』かな……?でも初見ちゃんには何がなんだか分からないよ!現にかおすちゃん、『どうしよう…全然わからない…!』って顔に描いてあるよ!!

 

「お前はこのコマに、漆黒の紋章を刻んでくれ」

「83番のトーン貼ってからちょっと削ってベタですね!」

 

 ちょっと~、だから小夢ちゃんにそんなことを言っても分かん……およ?

 

「「分かるのっ!!?」」

「すごい小夢ちゃん…! 私でもつーちゃんの言っていること理解するのに3か月もかかったのに……」

「目を見ていると……なんとなく、気持ちが分かるの…」

「「「乙女ティック!!!」」」

 

 何という事でしょう。つばさんの言っていることを初見で理解できるなんて…しかも目と目で通じ合うなんて!漫画みたいな出来事って起こるんだね。事実は小説よりも奇なりってこういうことかぁ。

 私は初めてつばさんのアシやって、今の指示を聞いた時、素で「ご、ごめん。普通の日本語でお願いできる~?」って言っちゃったというのに(直後、彼女はすごく凹んでいた。正直、悪かったと思っている)。

 さすが小夢ちゃん。少女漫画描いてるだけあるね!!なぜかトリップしてるけど。

 

「夢美。お前はここに、常闇の方陣を張ってくれ」

 

 お、私にも指示が回ってきたね~。よーし、小夢ちゃんのように、1か月半磨いた翻訳スキルで当てちゃうぞ~!!

 

「えーーと…常闇の方陣ね。……たしか75番のトーン、だよね?」

「違う。それは影の方陣だ」

「…およよ????」

 

 …………

 ………

 ……。

 

「……お姫ちん、訳」

「諦めないで夢美!!?」

 

 諦めてないよ~。ただ、私はまだ修業が足りないって思っただけだよ~。ほんとだよ~?

 ちなみに、「常闇の方陣」は76番だった。うーん、このニアピン賞。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

 こうして、つばさんの原稿の追い込みが始まった。

 トーンを張るのも、私にとってはたやすい仕事だ。半分寝ながらでもミスなくできる。

 最初はカッターを使って空中でバラバラにした後、ドドドドドと貼るみたいな、私がいつもやることをしていたのだけど、お姫ちんに「次それやったらアシ頼まないわよ」と脅されて以降、アシではやってない。お姫ちんは、何度説得しても私の描き方を禁止してくるのだ。一番手っ取り早いのに。分かってくれないとは辛いねぇ。

 だから、小夢ちゃんが今やってるような普通の―――私にとっては時間のかかる、至って普通ではないやり方だけど―――トーン貼りをしている。最初は逆に慣れなかったけど、二回目で慣れた。

 

 小夢ちゃんは、アシ初めてだろうというのに、なかなか作業が早い。つばさんもお姫ちんも、そのスピードに一目置いていた。

 

「小夢が来てくれて良かったよ」

「~~~っっ、褒められた、しかも呼び捨て~~~!!!」

「小夢ちゃーん、バトルシーンに花が咲いてるよ~……ん?」

 

 かおすちゃんはといえば、なんだか作業が遅い。ベタとか、慣れてないのかな?それにしては、見せてもらったあの漫画は描きなれてたような………あ、この子普段デジタル描きなのかな?それだったら、ベタの手作業が拙いのも納得いくかも。

 ……でも、アレ絶対ミスるよね~。手は震えてるし、緊張でカチコチだし、手が滑ってベタ塗り範囲をはみ出しちゃうよね~。

 

「はっ」

「「「…?」」」

 

 あ、越えた。ミスったね~。

 次にかおすちゃんが手に取ったのはホワイト。

 な~るほど。バレないように修正すればいい、と思ってるな。だがこの白沢夢美がいる限り、その手はさせない。

 

「い……いやぁ、る、るきさんのポニテは癒され―――」

…『テメェは絶対に許さん』

はうあーーーーーーーーーーー!!!!?

「「「!!!?」」」

 

 つばさんの『暗黒勇者』のセリフでかおすちゃんを倒す。

 そして、流れるような勢いでかおすちゃんがやっていた原稿を奪い取り、確認。

 ……あー、これくらいならつばさんが修正してくれるよ。顔を間違えて塗りつぶしちゃった程度、ウイング・V先生なら問題ない。

 

「つばさーん、コレ直しといてー」

「む?どれどれ…」

大事な原稿を……すみません………せめて…遺書を書く時間をください……

「かおすちゃん思いつめすぎ!?」

 

 ふーん…遺書、ねぇ……

 ずいぶん―――()()()()()()()()()()()()

 私、そういう散りざまを潔くする精神、嫌いじゃあないよ? 

 ま、コレがつばさんの原稿である以上、判断はつばさんが下すけどね。

 

「問題ない。こんなの見ていろ。

 ―――ダークネス・デストラクション!!!」

 

 お、つばさん本気だ。眼帯と黒マントを身に着け、『暗黒勇者』主人公そのもののような格好に変身した。コレで中二モードと執筆スピードが格段に上昇する。中二モードはレベルアップしなくていいのに。お姫ちんにまた「早くペン入れて」って言われるよ?

 

「はあああああーーーっはっはっはっはっはっ―――!!!」

 

 つばさんは、高笑いと共にあっという間にかおすちゃんがやらかしたミスを修正した。

 そして、かおすちゃんに手を伸ばして―――撫でた。

 

「一生懸命やってくれたのは伝わる。そういう奴は伸びるから大丈夫だ。

 ――命よりも大切な原稿に、命かけてくれてありがとう」

「―――つばさしゃんっ……!」

 

 かおすちゃんの表情が怯えから感激のそれになる。

 うん。この判断も、つばさんらしくて良いと思うよ。

 

 

 その後、つばさんが続けて行ったのは三刀流による執筆。右手でも左手でも歪みなく描けている彼女は、まさしく2本の剣を自在に操って、敵を切り拓く勇者そのものだ。

 

「す、すごい…スピードも3倍に」

「でも、動きが若干鈍るのは……」

「―――ええい、マントと眼帯が邪魔だッ!!」

「「取ったーーーーッ!!?」」

「ですよねー」

 

 こういうことがあるから中二モードはほどほどにすれば良いのに。

 

 

 その後も度々かおすちゃんがミスるものの、私とつばさんがカバーしていく。ベタ範囲を飛び出したらつばさんが書き直し、遅かったり塗り忘れがあれば密かにインクを飛ばしてアシストする。

 

「すみません…翼さん…私みたいなのが痛い!?」

「かおすちゃ~ん。口より先に手を動かす~。」

「は、はい夢美さん!!」

 

 ほとんどつばさんがやって(まぁつばさんの漫画なんだから当然なんだけど)、原稿が終わったのが夜を過ぎてもう朝5時すぎ。普段なら11時には寝るのに、もう完全にオーバーしている。

 つばさんは終わった原稿をFAXで送ると同時に寝ちゃったし、私もそろそろ部屋に戻って……いや、いいや。もうここで寝ちゃおう。漫画を描くため気力で頑張ってきたけど流石にこれ以上はもう無理。身についた習慣はなかなか変わらないのよ………おやすみ、ぐぅ。

 

 

 ……意識が落ちる直前、何か言ったかもしれないけど、起きる頃には忘れちゃってるだろう。

 

 

 

☆  ★  ☆

 

 

 

 ―――翌朝。

 

 真っ先に起きた私は、りりかちゃんにみんな寝てることを教えながら朝ご飯を食べた。

 笑顔でご飯をとっておくと言ったりりかちゃんの代わりに再び様子を見に行った時、起きていたのは意外にもつばさんだった。

 

「おはよ~、つばさん」

「夢美…おはよう。朝っぱらだが、ちょっといいだろうか」

 

 ……?

 何の話だろ?

 

「いいよ~、降りてから話す?ここだとみんな起きちゃうだろうし」

「いや、部屋を出たとこで良い」

 

 ほんとに何の話かな?ここのところ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 あ、待って。かおすちゃんと小夢ちゃんに話したヤスデの件で()()()思い出させちゃったとか!?

 だとしたらマズいね……早く謝らないと二人からネタを得られなく―――

 

「昨日、私がかおすに言ったことを覚えているか?」

「――およよ?」

 

 古びた木の手すりに寄りかかりながらそう訊くつばさんに、私は最初変な声が出た。

 だが、すぐに昨日の事を思い出す。確か、最初にかおすちゃんがミスした時だよね。

 

「一生懸命やる奴は伸びる、だっけ?」

「…夢美はあの言葉についてどう思う」

 

 ―――んんん?

 本格的にわからないぞ~?

 なんでつばさんが私にそんなこと聞くの?そういう相談は、お姫ちんにしそうなものだけど。

 それに、ああいうセリフは自分が心からそう信じていなければ言えないことだ。

 でもまぁ、聞かれたことには答えよう。

 

「……半々かな。頑張った子がみんな実る訳じゃあない。散々やっても尚、ダメだった人なんて掃いて捨てるほどいるでしょ?

 でも、実った人は須らく一生懸命にやっている。医者との二足草鞋をこなしたまんがの神様だってそうだし、私だってそう。つばさんも多分そうなんでしょ?」

「…そうだな。そうだ。私は、ここまで手を抜いたことはなかったはずなんだ…」

 

 うーん、何が言いたいんだ?

 

「夢美。いつも…原稿ってどのくらいの時間で描いてるんだ?」

「? 3、4日で終わるよ。調子良いときは朝の1時間で15ページはいけちゃう」

「………っ!!」

 

 つばさんが突然、暗い顔になった。どうした~、低血圧か~?それともスランプか~?

 

「…どうすれば、お前ほどの高みに行ける?」

「…!!」

 

 あー成る程。つばさんったら、私との差を気にしてたんだ。

 確かに、『夢の中のコロコロル』も『暗黒勇者』も少年誌では人気作品だ。単行本もいっぱい出てるし、両方ともアニメ化が決定した新進気鋭の作品たちだ。だが、どっちかというと、先に連載されていた『夢コロ』の方が人気は高いかも。

 でもな~。私はリアリティを追及しまくって、才能に慢心しないで、頑張りまくったから今がある。ただ、それをそのまま言ったら彼女を潰してしまうかもしれない。……小学校の頃の友達のように。

 どうにか、言い返しはないものか。

 

『一生懸命やってくれたのは伝わる。そういう奴は伸びるから大丈夫だ。

 ――命よりも大切な原稿に、命かけてくれてありがとう』

 

 あ、そうだ。

 

「―――勇者の心を捨ててみる、とか」

「何だと?」

 

 尋常じゃない面持ちでつばさんがこっちを見た。正直怖いから、とっとと説明しちゃお。

 

「私、つばさんがかおすちゃんのミスを優しくフォローした時ね、つばさんらしくて良いと思ったんだ。その姿が、『暗黒勇者』の魔族の勇者(しゅじんこう)・レオンと被ったから」

「!!」

「確か、最初の巻にあったよね?無二の相棒・エミールと初めて会った直後の戦闘シーン」

「……あれか。思い入れのある回だ」

「戦う力のないエミールを最後まで見捨てずに戦って勝ったレオンをね、正直カッコいいと思った。きっとあの場面では、エミールを見捨てることもできたはずなのに」

「そうだろう!レオンの勇者像は、私が描きたいもののままなんだ。」

「―――私にはきっとできない。つばさんがかおすちゃんに優しくするような真似は。レオンがエミールを庇うような行動は。

 だって……私のアシスタントに、足手まといは必要ないもん」

 

 そこまで言って、『暗黒勇者』の話で顔を綻ばせたつばさんがちょっと真面目な顔になる。

 

「…かおすは仲間だ。足手まといなんかじゃあない」

「本気でそう言えるつばさんは勇者だよ」

「お前、私を何だと思ってるんだ?」

「自分の事を暗黒勇者だと思い込んでる女子高生」

「辛辣だな………」

 

 いやまぁ、そんな冗談は置いておくにしても、私は本気で言ってるよ?

 リアリティこそが命を吹き込む。かおすちゃんは、それすらここに来るまで知らなかったんだから。

 私は物心ついた時から何となく知っていた。リアリティだけが、人を感動させられると。リアリティをもって漫画を描くこと、ないしはそうやって描いた漫画を読んでもらうことこそが、私が生まれた意味なのだと、何となく―――でもどうしようもないくらいの根底の部分で分かっていた。

 

「つばさんはさ、()()()()()()()()()()()ことって、ある?」

「……? なに、それは?」

「小学校の…いや、小学校上がる前からかな。本を読んでるとね、私の奥の方に燃えてる何か…魂みたいなのに、ずっと言われ続けるんだ。

 ―――『漫画を描け』って。『今読んでる本を軽々と超える傑作を、その手で描いて見せろ』ってね。

 それを嫌とは思ってないよ?……私は漫画が好きだし。だから描くためのリアリティを求め続ける。その為のアシは手際が良い方がいい。」

 

 私の漫画を描き続けるオリジンみたいな話を聞かせちゃったけど、私は私の人生と経験をもってつばさんに言ってみた。

 つばさんは黙ってずっと私の話を聞いてたけど、しばらくして首を振って……口を開いた。

 

「夢美。お前がどうしようもないくらいに漫画が大好きで、そのネタを一生懸命探しているのは分かった。

 ―――でも、そのためにかおすを切り捨てたり、命やるっきーの苦しむ姿をネタにするのは、違うだろう」

「……初対面の時は、ごめんね」

「もういい。何度も謝ってくれたことじゃないか」

 

 

 私がつばさんとお姫ちんにあった時、りりかちゃんときょーかちゃんに死ぬほど怒られた話を前にしたのは、覚えてる?

 具体的に何をしたかって言うと、捕まえたゴキブリを目の前でいたぶって殺した挙句、ソレ見て吐き気を催したお姫ちんをスケッチしたんだよね。

 当時の私は『ゴキブリの生命力はどれくらいか』『どこをどれくらいやられたら死ぬのか』『死ぬ直前、どうもがくか』を観察しようとしたんだ。つばさんにはドン引かれて、お姫ちんはそれを見て吐きそうになった。私はそんなお姫ちんをスケッチしたんだ。『()()()()()()()()()』から。

 

『ペンを放せ。それ以上、今のるっきーを描いたら許さない』

 

 その時私の手を掴んだつばさんの、あの別の生き物を見るような目と制止の言葉はいまだに覚えてる。

 

 

 あ、もちろん今は和解してるよ!?

 あのあとりりかちゃんときょーかちゃんに文字通り死ぬほどお説教されて、何度も何度も謝ったんだから!それに、こういった真似は、この件以降人前ではしてないしね!!

 

 

「でもね。これから先、私はまた今日みたいなことを言うと思う。きっと、死ぬまで治らないと思うよ。

 何なら、どんな目に遭っても死なない限り全部漫画のネタにする自信がある」

「呆れた……そんなことで自信を持つな。

 まぁ…いいだろう!」

 

 つばさんがトレードマークと化した眼帯とマントを身に着けた。

 

 

「今日から私とお前はライバルだ!夢美、お前の言う勇者の心、胸に秘めたまま私なりの至高の漫画を描き続けることにしようか!!」

 

 暗黒勇者となった翼は、私に高らかにそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみに、つばさんは私の事をどう思ってるの?」

「ふーむ…さしずめ、ブレーキの壊れた漫画狂人といったところか」

「つばさんも中々に酷いね……」

「お互い様だ」

 

 

 

 

 

 

 

 




琉姫「ねえ、朝っぱらから何話してたの?うるさいんですけど」
翼「る、るっきー!?待ってくれ、これには訳が……」
琉姫「つーちゃん!また騒いでたの!?信じられない!」
翼「話を聞いてくれ!今回はちょっとした…」
琉姫「問答無用! …そこで逃げようとしてる夢美からもちょっと聞くからね……!」
夢美「…あ~、私ちょっと持病の“散歩に行かなきゃ死んでしまう病”が―――」
琉姫「嘘おっしゃい!!逃げないの!」
夢美「やめて~~」
かおす「………あばばば、なんですかこれ」
小夢「……ZZZZ」

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  • 姫子先生
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  • バク先生
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