夢の中のバク先生   作:伝説の超三毛猫

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こみっくがーるずの2次創作少ないね


麗しき努力家・色川琉姫

 

 

 ―――夢を見る。

 

 

 そこは、見慣れたまんが家寮の一室。そこに、琉姫は翼と立っていた。

 視界には机に座っている人物が映る。それは、今や同じ寮の仲間・夢美だった。

 夢美は何かを手に持っている。もぞもぞと、もがく様にうごめくなにかだった。琉姫は、この光景の夢を何度か見た故に、経験したがゆえに、この先に起こることが分かっていた。

 

『ひいいいいーーーーーーーー! ご、ゴキブリ!?し、白沢さん!なんてものを持ってるの!!!』

『ゴキブリだと思うけど……あった。へぇ…これがクロゴキブリか。日本の関東から奄美大島まで一般的に見られるゴキブリ、ねぇ』

 

 震えあがる琉姫と図鑑を開く夢美の微妙に噛み合っていない会話は、夢美との初対面――夢美の神がかった作画を生で見た直後――での会話だったと記憶している。部屋の隅でカサカサしていたのを夢美がまるで落とし物を拾うがごとく掴んで捕獲したのだから。

 確か、このあとつーちゃんが夢美を注意して曰く……

 

『あんまり触らない方が良いんじゃないか? ゴキブリは不潔だっていうよ』

『そーだね。後で手を洗わなくっちゃ。でもね二人とも。私はまんがを描くためにリアリティを求め続けているの。まんがの命だからね。

 例えば、ゴキブリの手足は、顔は、触角はどんな形かとか、雄と雌の違いはどこにあるのか、とか。

 あとは―――』

 

 夢美は翼の注意に対してそこまで話して区切ると、近くにあったカッターをもう片方の手で取って……

 

『――ゴキブリを潰すと卵が飛び散るらしいけど、どこまでがホントなのか、とか』

『『―――っっ!?!?!?』』

 

 ……そのままカッターでゴキブリの腹を貫いたのだ!

 銀色の刃が黒くツヤのある外骨格を貫く度に、ゴキブリはわずかな悲鳴のような音をたてながら手足をばたつかせて必死にもがいている。

 

『ゴキブリはしぶといって話は有名だけど、カッターでズタズタに腹を引き裂かれた場合、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()………とか。

 まんが家なら、知っておいた方が良いよね?』

『『………ッッ、』』

『こーゆー時、ゴキブリは便利なんだー。なんせいくら殺しても誰も文句を言わないから』

 

 眉一つ動かさずにゴキブリでとはいえ惨劇を繰り広げてみせた少女に、二人は絶句するしかなかった。

 だが、夢美の常軌を逸した行動はこれでおしまいではなかった。

 

『うぉぇっ……』

『る、るっきー!! 大丈夫か!?』

 

 あまりに凄惨な光景に琉姫は吐きそうになってしまう。それをすぐさま翼が助け起こそうとする、が。

 

『お…! 色川さん、だったよね?

 その表情と姿勢、キープでお願い。()()()()()()()()()()()()

 

 

 嬉々とした夢美がなにを言っているのか、琉姫には分からなかった。

 なぜ目の前のほんわかとした、しかし人間離れした技を持った少女は、気分を害した琉姫に対してそんな事が言えるのか。

 なぜその発言を、嬉しそうな表情で言えるのか。

 なぜ、真っ先に手に取ったものがエチケット袋ではなくスケッチブックとシャーペンなのか。

 まるで嬉しいニュースが転がり込んできたかのように振る舞う夢美。目の前で何が起こっているかは……理解したくなかった。今にも吐きそうなのをこらえている自分を嬉しそうに見つめ、スケッチブックに隠れたシャーペンを動かしているなんて異常の一言に尽きるからだ。

 同じ年代の少女であるはずの夢美に琉姫は恐怖し、そして。

 

 

『ペンを放せ。それ以上、今のるっきーを描いたら許さない』

『…およよ?』

 

 

 翼がシャーペンを動かす手を止めてくれていなければ、思いきり胃の中をぶちまけていたかもしれない。

 

 …今は夢美の方から謝罪したことで和解はしたものの、そんなこともあって、というより、そのおぞましすぎる第一印象を拭えないのか…

 

 

「……っはぁ…また、夢に見ちゃったな………」

 

 

 ―――色川(いろかわ)琉姫(るき)は、白沢夢美(しろさわゆめみ)がちょっと苦手なのである。

 

 

 

☆  ★  ☆

 

 

 

さぁ行こう! 幻のアイテムが眠るダンジョンへッッッ!!!!

 

「お姫ちーん、回収」

「りょーかい。つーちゃん!今日はコスプレなしって言ったでしょ!」

 

 今日はマンガ家寮のみんなで新宿のおっきな画材屋さんへ行く日。

 私もいっぱしの大手マンガ家ある以上、最新画材のチェックは欠かせないのだ!

 

 学生であるから、バイク関連は使えない。というか免許を持ってないので電車で行くことにしたんだけど……これが大混雑。いやぁ、都会ってスゴいね。

 

「夢美さんって、琉姫さんのことを『お姫ちん』って呼びますよね。それって、どうしてなんです?」

「琉姫って名前にお姫さまの漢字があるから〜」

 

 小夢ちゃんの興味本位な質問に私はざっくりと答える。

 私、人の呼び方って、あんまり凝らないんだよね〜。名前と顔が一致すれば、それ以上は呼び方にこだわらないかな。まぁ、漫画のネタにする場合は違うけど。

 つばさんは翼から取ったし、小夢ちゃんは小夢ちゃんのままで覚えられる。かおすちゃんはずっとかおすちゃん呼びが良いかな。苗字も名前も確か呼びにくかったよね。萌田かおす子だっけ?ならかおすちゃんで良いよね、多分。

 

 

 かおすちゃんの希望もあって、最初はおっきな本屋さんに寄ることにした。

 

 おっきな本屋さんは、実は私は大好きだったりする。

 

 

「わぁ~~!! 高山すもも先生の『ドキドキわくわくパラダイス』とハナミズキ先生の『プリティ陛下様』だぁ~~!!」

「お宝の山です……!!」

 

 ……なにせ、他の漫画家のみんなのマンガを見れるのだから。

 といっても、私はただ読むだけじゃなくて、ソレを通して作者の人生に想いを馳せることにしている。そうしていると、通り過ぎていく人々の一人ひとりの人生に興味が湧いてくる。そしてソレが、創作意欲につながったりもする。

 だから、近くの人々が何を買うかでその人の人生模様はある程度絞られてくるのだ。

 

「……夢美、さっきからキョロキョロと落ち着きがないわよ」

「え?……そ、そんなことないよ~?」

「大方、失礼な想像してたんじゃないの?」

「いやいやそんな~」

「目が泳いでるわよ」

 

 うぅ、お姫ちんは外では私に厳しい気がするよ~。

 お姫ちんの追及を必死に躱していると、ある本が目に飛び込んでくる。

 

「…あ、これ……」

「翼さんの!?」

「わぁ……こっちには夢美さんの本があるよ!!? すごーい!二人とも目立つポップ付き!!」

 

 つばさんの『暗黒勇者』一巻と、私の連載『夢の中のコロコロル』の最新巻までが並んで置いてあった。

 その隣には、なんと私作の別雑誌作品『Starpiece』と完結済みのデビュー作『遥かなる永遠のニライカナイ』まで置いてある。ここの本屋さん結構品ぞろえいいねー。

 

「私、買ってきます!」

「え、寮に帰ったら置いてあるし―――」

「いえ!自分で買わないと意味ないので!行ってきます!!」

「わ…私も!」

 

 小夢ちゃんとかおすちゃんが『暗黒勇者』と『夢の中のコロコロル』、『Starpiece』に『ニラカナ』まで持ってレジに並んで行っちゃった。まぁ、自分の意志でお金を出して買うって良いことだよね。まいどありがと~ございま~す。

 

「二人とも~、『ニラカナ』は全4巻だからまとめ買いした方が良いよ~!」

「「はい!!」」

「こら夢美! 二人に負担かけないの!!」

 

 良いじゃん、買ってくれるって言うんだし、誰も損しないんだから。

 というか、損はさせない。『ニラカナ』は、批評も多いけど絶賛は世界レベルで超多いんだから。

 さて、私も並ぼ~っと。新しく出た『暗黒勇者』は勿論、『ピンクダークの少年』も最新刊が出てたしね。

 

 

 

 

 

 本屋で会計を済ませた私たちは、スイーツ店でパフェの腹ごしらえをする。きょーかちゃんとも何回か言ったハイカラな店だ。JKのはずのかおすちゃんが「こ、これって女子高生しか入っちゃいけないヤツでは!?」とあばるくらいにはシャレオツな店は、『夢コロ』のご当地グルメのネタにピッタリだ。つばさんも私も早く画材屋に行きたかったけど、初心者に合わせるなら合わせるで時間を有効的に使うまでのこと。

 

 

 そんな逸る気持ちをパフェと一緒に飲み込んだら、ついに本命の画材屋へ。つばさんがいきなりつっ走っていって、私達の買い物は始まった。

 

「翼さんのキラキラした顔、初めて見ました!」

「つばさんって、ここに来るといつもこうだよね〜」

「他にも、凄く面白いまんがに出会った時とか、大好きな漫画家さんのサイン会の時とかこうなるわよ!」

「翼さん漫画好きすぎてカワイイ!!」

 

 つばさんが羽ペンを手に取ると小夢ちゃんとかおすちゃんが騒ぎだす。あぁいうゴシックでカッコいい系が似合うってちょっと羨ましいかも。私はこの前カッコいい系ファッションしてみた結果、きょーかちゃんに「似合いませんわね」と両断されたばっかりなのに。

 しかし、お姫ちんからいい事聞けちゃった。

 クールでストイックに見えて、好きなものには正直……か。うん、そういう夢魔を『夢コロ』に出しても良いかもね……!!

 

 帰宅後、私が寝るまで漫画トークと相成った訳だけど、『ニラカナ』を読みきった小夢ちゃんとかおすちゃんのすすり泣く声が部屋にまで響いてきてよく寝れなかった。

 

 

 

☆  ☆  ☆

 

 

 

 ―――翌日。

 

「―――とまぁ、昨日は楽しく過ごせたよ~。みんな、魅力的でいい人だね。改めて実感したよ~。すごく良いネタになるし」

「…バク先生、貴女の『いい人』の基準ですが、まさか『自作品のネタになるか否か』で判断していませんか?」

「…………ちがうよ~」

「なら真っすぐこちらを見ておっしゃって下さい。……はぁ、まだ貴方の課題は治りませんわね。薄々分かってはいましたが」

 

 学校が終わった後、寮のみんなと別れた後で私はきょーかちゃんの呼び出しに応じて某喫茶店でコーヒーをしばきつつ先日修正の指示を受けた『Starpiece』の来月分と、あるものを提出しに来ていた。

 

「だってしょうがないでしょ~。新しく入ってきた小夢ちゃんもかおすちゃんもネタの宝庫なんだもん。

 コミュ力の化身の小夢ちゃんからは恋バナを聞けるし、かおすちゃんはかおすちゃんで面白いんだもん~! 今日なんて、クラスメイトに囲まれた中トーンヘラで聖徳太子やってたんだよ?」

「…大丈夫なんですの、その方。確実に困っておられた気がします。貴方に期待はしていませんが、彼女を気遣うくらいしてもいいと思いますわ」

 

 きょーかちゃんは相変わらずの調子だ。漫画においては厳しいくせに、私のプライベートにはよく口出しというか、色々言ってくる。別にそこまで気にする要素とかなくない?って思うけどね。

 

「……それはともかく、原稿と作者近影のほうはどう?」

 

 作者近影。

 それは、分かりやすく言うなら、単行本のカバー…その一枚めくった裏とかにある作者の自己紹介欄だ。多くの作家さんはそこに近況を読者に報告したりする。

 私は今日、新しく発売予定の『Starpiece』第二巻の作者近影を作成してきょーかちゃんに渡すようあらかじめ言われてきたのだ。

 

 きょーかちゃんのアドバイスをもとに修正した原稿と、この私が手掛けた作者近影に…隙はない!

 

 

「どう、かな………?」

「……夢美さん。」

 

 あれ。なんか、表情が怖いぞ?特に、作者近影を見ていた時の顔が怖かったんだけど……

 

…ふざけてるんですか? こんなものダメに決まっているでしょう!!!

「…へ!?」

「原稿はコレでいいにしても、作者近影は壊滅的にダメですわ!!

 お友達に見てもらって、書き直してきなさい!!!」

「お……およおよ……」

 

 な…なん……だと…………

 私の作者近影がボツ、だと………!?

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――というわけで、何がダメだったのか教えてちょ~だい!」

 

 きょーかちゃんから『お友達に相談しなさい!あなた一人じゃあ更に悪化する未来が見えますわ!』と釘を刺され、寮に帰還した私は、制服姿のままみんなにお願いした。

 

「珍しいな。夢美がそんなこと言うなんて」

「いつもアシしてくれるからね。できるだけ協力はするわ」

 

 すぐさま手伝ってくれると言ったのは、つばさんとお姫ちん。いや~、『アシしてくれるからお返しに』なんて言われるとは思ってなかったよ~。もともと私のスキルアップのために引き受けたんだけど、棚ぼたとはまさにこのことだね。

 

「すごーーい! 作者近影なんて書いてるんだ!」

「わ……私書いたことないです…作者近影………これが神作者とゴミ作者の違い……あばばば」

 

 目をキラッキラに輝かせてドーナツ片手に距離をつめてくる小夢ちゃんに、なんか電動機器かなにかと勘違いするレベルで震えるかおすちゃん。どこから拾ってきたのか、腕の中の猫ちゃんもかおすちゃんと連動して震えながら「にゃばばばば」と鳴いている。なんなのその子。かおすちゃんの使い魔?

 

 

 さて、さっそくボツを食らった作者近影を見てもらうとしよう。

 四人は、覗き込むように私の案を見て、そして……

 

「……」

「………」

「………えっと…」

「……………」

 

 

 ―――みんな黙り込んでしまった。ってアレ?

 

「……夢美。本当に、分からないの? なんでこれが通らなかったのか」

「え?」

 

 お姫ちんにそう言われて、自分の作ったものを確認してみる。

 

 作者近影の写真には、私の自画像……漫画家がよく使う自分を表すキャラクターの満面の笑みが…………モノクロで表示されている。その下のテキストには―――

 

 

皇 獏之進  享年15

アニメ『夢コロ』の収録現場にて

デーク矢麻下の迫真の演技が生で見れた事により

嬉死(うれし)さが天元突破してこの世を去る。

 

 

 ―――とあって………

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

「……なにか問題ある?」

 

「「「「問題しかない(わよ)(よ)(です)っ!!!!!」」」」

 

「ほえぇっ!!?」

 

「担当さんが一番困るヤツだわ!縁起でもない!!」

「そうだな夢美。ふつう、漫画家は作者近影を出せって言われて遺影は出さない…!」

「こんなの出回ったら夢美ちゃん関係の各所が炎上しちゃうよ!!」

「そ…そうですよ!だいたい嬉死(うれし)って…夢美さんが嬉死しちゃうんなら、わたしは息をするだけで死んでしまいます!!」

「そうよ夢美!嬉死って意味が分からないわ!!!」

 

 四人が四人、怒ったような表情で詰め寄ってくる。

 かおすちゃんだけはちょっと何言ってるか分からないけど、ちょっとした冗談じゃないの~、こんなの。

 

「やだな~四人とも、ただのブラックジョークでしょ?」

「コレをブラックジョークと言い切る夢美の勇気がもう笑えないわよ!!」

 

 鋭いツッコミのようなお姫ちんの台詞に、三人とも首を激しく上下した。え~~、コレじゃあ駄目?書き直さないといけない?と尋ねたところ、首を振った人がひとり増えた上に、いつから聞いていたのか、りりかちゃんまで現れてこんなことを言ったのだ。

 

「あのね、夢美ちゃん。あなたの描いている漫画の続きは、貴女しか描けないの。

 あなたがいなくなったら、その漫画たちは『打ち切り』になっちゃうの。それがどれだけ良い作品だろうとね。

 だから……こんな悲しいことは二度とやっちゃダメ」

「わ…、わかった…」

 

 いつもとは違うりりかちゃんの真剣な表情に圧されて頷いちゃったけど、ほんとにただの冗談だったのに、みんながみんなマジに受け取っちゃって……

 まぁ、りりかちゃんが言わんとしていることは分からんでもない。というかむっちゃ分かる。空前絶後の神作品になる予定の『夢コロ』が「作者逝去により打ち切りです」なんて冗談じゃないし、『Starpiece』だって描きたいことを描き終えていない。

 というわけで、作者近影を撮り直すことになったわけだが。

 

「今まではどんな作者近影にしてたの?」

「『夢コロ』や『ニラカナ』の時は担当さんにほぼ任せっきりにしてたの。デビューがまだ小学生だったからね。でも、そのままじゃあだめだってきょーかちゃん……今の担当さんに言われたから今回初めて発案から完全オリジナルでやってみたんだ~」

「それがあの遺影だったのか……」

 

 とりあえず、皆の監修のもと作者近影用の写真を撮ることになった。私を中心に皆が並び、りりかちゃんに集合写真を撮ってもらったんだけど……

 

 

「…やっぱり面白くない」

「夢美?」

「確かにこれならOKを貰える。無難なモノが好きそうなきょーかちゃんなら猶更。でも……これじゃあ普通すぎてつまらない!」

「夢美ちゃん!?」

「りりかちゃん!準備が出来次第呼ぶからちょっと待っててね!!」

「え、えぇ……良いけど…」

 

 どうせ集合写真を撮るなら、面白く撮りたいじゃない! 私には普通でいるなんてどうやっても無理みたいなんだから、それならとことん私の道を行くだけだよ!

 

「あの、夢美? 言っておくけど―――」

「大丈夫、遺影の900兆倍はマシな構図にするから!」

 

 さぁ、ビックリドッキリ写真撮影の始まりだ!

 

 

 まずは、本人たちの格好を変えよう。

 

「かおすちゃん!ランニングシャツと短パンに着替えてきて!無ければそれっぽいのでいいから!」

「え、あば、は、はい!!」

 

「小夢ちゃん!取り敢えず脱いで!下着だけになったらその上からエプロン巻いてね!」

「えっ」

「大丈夫、私はお姫ちんとは違っていやらしいことはしないから!」

「あ、うん!」

 

「待って私がいやらしいって前提を待ってもらえる!!?」

「お姫ちんは靴下を脱いでこのいや…じゃない魅惑たっぷりなシルクの布を羽織って」

「今またいやらしいって言ったわね!?着ないわよ!」

「そんなに嫌なら私の肩出しメイド服着せるよ爆乳♥姫子先生」

「ペンネームはやめてよぉ!!? 着る!着るからぁ!!」

 

「つばさんは部屋からマントと勇者に必要なカッコいいものを持てるだけ持ってきて!」

「任せろ!この私にかかれば、容易いことだ!

 ハァーーーーーッハッハッハッハッハッハッハッハッ―――!!」

 

 ……うーん、つばさんだけが凄くノリがいい。物凄く助かるなぁ。

 そうして、しばらくすると体操服姿のかおすちゃんに下着エプロンの小夢ちゃん、生足が艶めかしいお姫ちん、そして眼帯マントでカッコいいグッズをいっぱい持ってきたつばさんが集まってくる。それぞれがそれぞれの恰好に複雑な表情になっている(つばさんだけはもう暗黒勇者になりきってるけど)が、次に行こう。

 

「さて、着替えてきたら……かおすちゃんと小夢ちゃんはイス持ってきて。なるべく洋風なやつ」

「あの、夢美……? 何をしようとしてるの?」

「思いつくがままにやって、集合写真にするんだよ。お姫ちんはコレ持ってね」

「…えっと………なに、これ?」

「物置にあったコーラの瓶。そっちは懐中時計ね。この寮、良いね。なんか、探せば色々あるわ」

「ちょっ、待って! これ必要なの!!?」

 

「イスを持ってきたらつばさん、二つのイスに乗っかって。

 ―――そして、勇者のポーズ!二刀流バージョン!」

「二刀流!!?」

「王道でしょうよ、二刀流! はい、コレとコレを武器代わりに!」

「二刀流……なるほど、それなら――――っ!!!

 ふっ! はっ!! せぇやッッ!!!」

「翼さんカッコイイ!!!」

 

「どんどんカオスな空間が出来上がっていきます………!!」

「さ~ぁかおすちゃん」

「ひっ!! わ、わわわわわわわわ私は―――」

「お前も被写体になるんだよ~」

「あばーーーーーっ!!?」

 

 さぁて、最高の集合写真にするぞー!

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

☆  ★  ☆

 

 

 

「りりかちゃーん、準備できたよー!写真撮ってー!」

「はーい」

 

 果たして、寮母さんこと莉々香が見た光景は……

 

 

 

 

「…………」

 

 あぐらをかき、天秤のように広げた両手のひらの上に、コーラの瓶と懐中時計を乗っけている、能面のような表情をしてシルクの羽織を纏う琉姫。

 

「あ…あはは………」

 

 バランスボールに足を組んで座り、片手に食べかけのドーナツを持った……エプロン姿の小夢。ただし、エプロン姿の頭に『裸』がつくが。…おまけに、彼女の足元には、三角定規やらコンパスやら、ハサミやらボールペンやらの文房具が、積み重なるように散乱していた。

 

「あば……あば…、」

 

 小夢の反対側には、右手にド派手な優勝旗、左手に黄金の優勝カップを持ち、達筆で「勝ち猫」と書かれた紙が入った額縁を首から下げ、「9位」と書かれたハチマキを巻いた……体操着姿のかおす。

 

「フッ……」

 

 琉姫の後ろには、二つのイスの上に立った、眼帯とマントを身に着け、勇者ポーズをとった翼が。非常に絵になっているが、二刀流を模しているであろう二本の得物――長ネギと塩化ビニルのパイプ――がかなり目につき、別方向に面白くなっている。

 

「さぁ…りりかちゃん、撮りまくって!日が沈みきる前に、ほら早く!」

 

 そして………琉姫と翼の間、中央あたりの位置に。

 足を閉じ、両手をやや広げて……某宇宙の帝王の最終形態のようなポーズをとった、制服姿の夢美が。

 

 それぞれ、立っている。そんな光景だった。

 

 

「……………………………………………えっと、まず誰から撮ればいいのかしら?」

「やだなーりりかちゃん。これは集合写真だよ? みんないっぺんに撮らなくっちゃあ」

 

「「「「「…………………。」」」」」

 

 

 こんな集合写真があってたまるか。

 

 

 

 ちなみに、この集合写真と普通の集合写真を夢美が担当(梗香)に見せたところ―――

 

「…………あの、バク先生? 目が、理解を拒んでいるのですけれど……脳味噌が融解しそうなんですけれど……」

「えー、これじゃあ駄目? 遺影の900兆倍はマシでしょ〜?」

「予想の斜め上ですわ!! 立ち位置とかポージングとか裸エプロンとか『勝ち猫』とかもうツッコミどころしかないではありませんか!!

 やっぱり普通にしましょう!普通の集合写真に『お友達が増えました〜』のテロップで十分でしょう!!!」

「…きょーかちゃん、おこった?」

「ブチ切れましたわ!!!」

 

 ―――みたいな会話があり、「普通にしましょう」「普通じゃ面白くない〜」と押し問答が起こったという。

 

 




かおす「あばばばばばば……夢美さん、目立ってます…主人公取られちゃいます……」
夢美「そんな簡単に主人公の座なんて取れないよ〜〜、ほら」

キャスト

萌田薫子 赤尾ひかる

白沢夢美 小倉唯

恋塚小夢 本渡楓

色川琉姫 大西沙織

勝木翼 高橋李依

和泉梗香 早見沙織


夢美「……ね?」
かおす「や、やった……まだ、主人公やれるんだ………!!!」
琉姫「(……あれ? なんか…夢美、キャスト2番目じゃなかった…??)」

誰が好きですか?

  • かおす先生
  • 小夢先生
  • 姫子先生
  • ウイング・V先生
  • バク先生

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