生徒達の前では厳しい素振りを見せ、若手でありながら『厳しい教師』として認識されつつある。
だが、それと同時に漫画好きでもある。
高校時代は
だから……美晴が『暗黒勇者』や『夢の中のコロコロル』が好みにどストライクしたのは、当然の帰結であったといえる(ちなみに、美晴は僅差で『暗黒勇者』派である)。
他にも、彼女の心を揺さぶった漫画の一つに、こんな題の漫画がある。
―――『遥かなる
作・
『夢の中のコロコロル』が始まる前、少年誌で連載されていた、皇のデビュー作である。
興縄県の学校を舞台に、生粋の興縄男児・信太郎と棟京都から越してきた格式高い令嬢・栞の二人が織りなす、甘く切ないラブストーリー………と、どこかにありそうな設定はそのままに、登場人物の心情描写のリアルさが世間に多いに評価された、ミリオンセラーだ。
メディアミックスとしてアニメ版・ドラマ版が共に製作・放送され……アニメ・ドラマ版ともに最高視聴率が70%を越えるほどの大作となる―――という、誰も成し遂げていない偉業を実現させた。
もう一度言うが、
いかにこの作品を描いた漫画家が化け物染みているかがわかるだろう。
そんな超大作を少年漫画好きの美晴が読まない訳はなく。
そして、それを読んだ美晴の涙腺が無事で済む訳もなく。
『ううううぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~、じん゛だろ゛うぐん……じお゛り゛ち゛ゃん゛…………よがっだよ゛ぅ……』
『み、美晴!? 大丈夫なの!!?』
『だい゛じょうぶじゃない……』
『美晴さん…だいぶ感情移入していますわね……』
『ここまで人を揺さぶれるって凄いですね、この漫画の作者』
盛大にかつての部の仲間を心配させたのである。
そんな美晴も、勤務中はマジメな教師だ。少年漫画好きの気配など微塵も見せない。
―――ある日美晴が、落ちていたあるファイルを拾うまでは。
「………?? なにかしら、これ?」
それは、ライトグリーンのファイルだった。中に何枚も紙が入っているようだが、ファイルに名前が書いてない。
「…もう、名前くらい書いときなさいよ……」
名前が分からないのでは届けようがない。
プライバシーもあるが仕方なく中を見て持ち主の判断材料を見つけようとする美晴だったが。
「………原稿用紙?」
ファイルの中にあったのは漫画の原稿用紙だった。
美晴もかつて何度も見たものだったのでそれ自体はすぐに分かった。本来なら「勉学に関係のないもの」として没収も辞さないつもりだったが………美晴の手が止まる。
なぜなら。
「これ……まさか…『夢コロ』………!!?」
原稿用紙に描いてあるキャラクターが、美晴のよく知る漫画のキャラクターそのものだったからだ。
コロルやセシリィ、ルルーナ、そして見た事のある人々……夢コロこと「夢の中のコロコロル」にそっくりだった。よくよく見れば、話の流れがこの前週刊誌で読んだ「夢コロ」の続きになっている気がする。
美晴は手が震えた。
「夢コロ」の生原稿を見てしまったこともそうなのだが、問題は生原稿入りのファイルが
副業が基本的にできない教師陣ではないとすると―――怪しいのは、生徒。
つまり……本物の「夢コロ」の作者がこの学校に通っているかもしれないのだ。
「まさか―――
「あ、みはるちゃ〜ん!ソレ見つけてくれたの?
ありがとう〜〜〜!!!」
後ろからの声に振り向くと、そこには制服を着た一人の生徒。
深緑色のボブカットヘアーが特徴的な、美晴の最もよく知る問題児。
―――
今日は、やべぇ事件が起きてしまった。
『夢コロ』の原稿を間違えて高校に持ってきちゃった上に、落としちゃったのだ。
せっかくの力作なのに、無くしてしまうなんて言語道断。漫画家の沽券に関わる。故に落としたと確信してからはすぐに探しにかかった。休み時間も全て使い、一日を通して行った場所全てを探し回った。6時限目?そんなものより原稿だ。
そんな風に時間を使いまくってようやく見つけた原稿入りのファイルは、みはるちゃんこと
「あ、みはるちゃ〜ん!ソレ見つけてくれたの?
ありがとう〜〜〜!!!」
「……白沢さん…!?」
驚いたような声をだしたみはるちゃんが、すぐにいつも通りの顔になった。
「虹野先生とあれほど……いや、それよりこれ…貴方のものだったんですか?」
「うん!ありがとね、みはるちゃ―――」
スカっ、と。
私のファイルを受け取る手が空ぶった。
「…およよよ?」
「白沢さん。少し、お話が」
えっ、なんだろ?私、悪い事してないよ~?
「これは……本当に、貴方が描いたものなんですか?」
あぁ、な〜る。みはるちゃんったら、信じられないのかな?
まぁ、名作の『ニラカナ』や『夢コロ』の作者がJKでしたなんてちょっと信じられないのか。本当にJKが描いた漫画なんだけどね。
みはるちゃんの面持ちは真剣そのもの。なら、こっちもマジメに答えたほうがいいね。
「みはるせんせー、紙とペンありますか?」
「え? えーと………はい、こちらに」
みはるちゃんから渡された紙に、サインペンでサインを書く。
ファイルを下敷き代わりにして、『ニラカナ』の信太郎と『夢コロ』のコロルを描く。「にじのみはる先生へ 応援ありがとうネ!」というメッセージも忘れない。
「はいこれ!先生にプレゼント!」
この世に1つしかない皇獏之進の特製サイン。
きょーかちゃんにバレたら面倒くさそうだけど、そこは私とみはるちゃんだけの秘密ってことにしておけば大丈夫―――なはず。
みはるちゃんがサインを見るなり目つきがだんだん変わっていく。いつもの厳しい先生の目から見たことのない目へ。面白い顔になってるね。その顔も、ネタになるよ、みはるちゃん。
「な……ぁ…………!!?」
「えー、いかにも、私が皇獏之進です。『夢コロ』は、私が描きました」
ダメ押しに自己紹介をすれば、サインが決め手になったのか、みはるちゃんはさっきまでの疑わしげな顔つきをやめて、穏やかさが戻ってきた気がするよ。
「ほ、本当に貴方が…………!!?」
「えー、まだ疑うの?なら、担当さんに電話……は駄目だなぁ。きょーかちゃん怖いし。となると……」
「いえ、もう疑ってはいません。サインまで貰って、しかもこのキャラの絵……確かに『夢コロ』の絵柄です」
みはるちゃんが、何かを堪えるような表情でこっちを見つめている。信じられないものを見たってのと、とてつもない嬉しさがない混ぜになってるような気がする。
「ありがとうございます……!」
「お礼言われちゃった!?」
唐突なお礼のあと、みはるちゃんは話し始めた。
『夢の中のコロコロル』を読んでくれていること。
『遥かなる
「このファイルから『夢コロ』の原稿が出てきた時、信じられない気分でした。ここの生徒に皇先生がいるのかと思うと。
そして……それが白沢さんだということがもっと信じられませんでした。……いえ、今は信じますけど……
なにせ、普段から問題行動ばかり起こす人でしたから」
およよ?みはるちゃんの目が、だんだんジト目になってきたぞ。
それに、問題行動ばかり起こす人とはひどいなぁ。
「私、問題行動なんて起こしていないけど〜?
模範的な優等生ですけど〜」
「模範的な優等生は授業中に堂々とスケッチしたり授業そのものをサボったりしません。なにより自分の事を『模範的な優等生』とか言いません」
「え〜〜〜、でもでも、テストは良い点取ってるよ?」
「
普段の授業態度も気を付けてください」
私、勉強はそれなりにするしできる方なんだ。自慢っぽくなっちゃうのは面倒だから言わないようにしていたけれど。
小中の時もそんなんだったなぁ〜。でも、仕方ないよね?
全ては漫画に優先される。
勉強したのは、その方が先生がうるさくないし余計な時間を取られないからだ。
でも、授業態度云々はバレないように隠れてやったはず……つばさんみたいに堂々と寝てたりしてないし…なんでバレたんだろ?
まぁいいか。
この後は、普通に原稿ファイルを受け取って帰ることにした。
帰り道、偶然にもかおすちゃんに出会った。
なんでも、今日は日直だったらしい。
「げ、原稿を落としたんですか!?」
「うん……でも、みはるちゃんが拾ってくれたんだー」
「みはるちゃん………? あばばばっ!?」
「よっと。虹野せんせーのことだよ~」
雨風に吹き飛ばされそうになったかおすちゃんの傘を支える。
「ありがとうございます、夢美さん」
「だいじょぶだよ~。かおすちゃんこそ大丈夫だった?」
「はい、なんとか」
かおすちゃんの申し訳なさそうな笑みと目が合った。
しかし、こんな子が毎回原稿を送ってはボツを食らいまくっているとはね~。心折れないのかな?
1回原稿を見せてもらったけど、私から言わせればかおすちゃんの原稿は稚拙も良い所。ボツを食らって当然の駄作だ。いや……私のボツ食らった作品よりも酷いから、それ以下の何かと言うべきか………?
見た目は良いんだから、モデルとか役者になってた方が良い線行ってた気がするけど。なんで顔の出ない漫画家なんて道を選んだんだろ?
「あの、夢美さん」
「ん、な~に?」
「夢美さんは、どうしてあんなに面白いまんがが描けるんですか?」
いきなりの質問に、言葉が詰まる。
かおすちゃんは、何を言ってるんだろう?
それに、かおすちゃんにはリアリティの話をしたはずだけど……
「この前の話は覚えてる?」
「リアリティ、でしたっけ」
「うん。自分の経験の全てを原稿にブチ込めば、自ずと漫画は面白くなるはずだよ。
大事なのは自分を信じること。かおすちゃんが頑張ってきた事は、誰よりも知ってるんじゃない?」
「……………」
うん、これならアドバイスとしても完璧!
私自身、こういう悩みなんて1ミリも理解できないから、マトモなこと言えるかどうか怪しかったけど、我ながら良いコト言えて良かった!!
「あ…あばばば……神作者様のご意見…
わたしには守れそうもありません……」
「あれ!!!?」
「ごめんなさい…ゴミのゴの字の点々の片方でごめんなさい……」
「か、かおすちゃーん!!?」
……涙に濡れ、雨にも濡れそうなかおすちゃんを慰めながら帰り道を往きます。
自称ゴミのゴの字の点々の片方は、励ましても励ましても暖簾に腕押しでした。うーん、扱いづらいなぁ。
寮に帰ると、かおすちゃんが拾ったという猫さんがベレー帽を被ってお出迎え。
りりかちゃんによるともう小夢ちゃんとお姫ちんがもうスケッチ大会を開いているそうなので、かおすちゃんと一緒に参加することにした―――のだが。
「だ、だめだよ琉姫ちゃん……そんなことできないよ…」
「大丈夫、小夢ちゃんならできるわ……さぁ、力を抜いて」
部屋から覗いたところ、小夢ちゃんとお姫ちんが完全に事を行う3分前だった。
下着姿の小夢ちゃんを、ベッドに押し倒すお姫ちん。そして二人の顔が近づいていく………
「……………次からの『Starpiece』は百合要素もいれよっかなー」
新たなネタが浮かんだぞ。
もともとあの漫画は百合要素を感じる描写もちょっとあったしねー。
ちょっとずつ盛っていけば、いくらきょーかちゃんでも気付きはしないでしょう?
「ちょっと夢美!!いたんなら言ってよ!」
「あばばばばっば!!!わたし、お邪魔ーーー!!?ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
「あ、お姫ちん小夢ちゃん、終わった?」
「終わったって何!?」
「うん……私はね、終始琉姫ちゃんにされるがままで…」
「小夢ちゃん誤解招く言い方やめてくれる!?ポーズ指示してただけでしょ!!」
「あははは~! お姫ちん、いつかやると思ってたけど案外早かったね~………このけ・だ・も・の・さん♪」
「夢美は完全に分かった上で悪ノリしてるでしょーが!!!」
うん、正直思わぬ良いネタも仕入れることができたし、このままスケッチしないでいいかな~、なんて思ってるよ。ちょっとくらいは。
お姫ちんと小夢ちゃんが始めていたスケッチ大会に参加することになった私達。
小夢ちゃんのプロポーションは、意外と貴重なことがわかった。私の『夢コロ』のセシリィや、『Starpiece』の星子ちゃん、その他のアイドルメンバーにも発展できる。
私のプロポーションも良いらしいけど(きょーかちゃん談)、鏡の前で自撮りするのも手間だし限界があるもんね。
おらおらおらーーーっと何枚かスケッチを描けば、これで私は大満足! セシリィや星子ちゃん達が更に愛される事間違いなしだね。
「イメージと違う!もっと恥じらいの表情ちょうだい!!」
「えー?」
でも、お姫ちんはそうはいかないらしい。まーお姫ちんの漫画エロだもんね。小夢ちゃんのデフォルトみたいな笑顔は前半にしか使わないよね。
一人だと雰囲気出ないのかと思ったお姫ちんは、まずカオスちゃんを相手役にしてみる…………が。
「……親子だね」
「…おんぶしちゃった」
後ろから抱き着いたらかおすちゃんがおんぶされちゃったでござる。お姫ちんが欲しそうな恋人たちのポーズには程遠いかな。
「仕方ない…夢美、小夢ちゃんの相手して」
「いいよ~」
お姫ちんの望む恋人たちのポーズ、私が導き出して見せようじゃないか!
「まずはベッドに押し倒す~」
「えっ??」
手始めに、小夢ちゃんをベッドに寝かせる。そして、糸目を開いて至近距離から小夢ちゃんを観察する。
まぶしいほどの金髪。私の緑髪では出せない光の反射でより輝いているみたいだ。
そして、もちもちの肌にバランスよく育った胸。
「小夢ちゃんってかわいいね」
「えっ………」
「このまま
舌なめずりをして、更に迫る。
「ゆ、ゆめみ、ちゃ、」
「翼には悪いけど……
「ど、どうして…そこで翼さんの名前が…」
「
「だ、だめ、だめだよ…夢美ちゃん……」
「うふふふ……ホントにかわいい子」
小夢ちゃんの唇に、ゆっくり近づいていって……
「ストォォォォーーーップ!!! 夢美、そこまでよ!!」
あ、お姫ちんからストップかかった。
いい絵が描けたのかな?
「お、どうだったお姫ちん? 上手く描けた?」
「描けるワケないでしょあんなので!!夢美はやり過ぎなのよ!」
「えー、何が問題なの? ほら、小夢ちゃん見てよ。あの表情を求めてたんじゃないの?」
小夢ちゃんを指せば、彼女はまだ私の口説き落としから立ち直れていない様子だった。両頬を手で覆い、何かを呟いている。それはまるで、親友だと思っていた異性から真剣な愛の告白を受けたヒロインのようであった。
「それは―――そうだけど! 夢美はその為に手段を選ばなさすぎなのよ!」
「良かったねお姫ちん。じゃ、私も描くから」
「聞きなさい!?」
聞いてるよ~。ただ、聞いた内容が私のためにならないだろうから流してるだけだよ~。
あ、そうだ。かおすちゃんは良い風に描けてるかな?
「あ…あばばばばばばばばばばばばばばばば……」
「あら~…気絶してる」
私と小夢ちゃんの百合営業に耐えられなかったのか。
持っていたであろうタブレットを覗いてみれば、かおすちゃんによる小夢ちゃんのスケッチがあった。
画力はお世辞にもある、とか上手いとか言えない。ちょっと直線的だ…特に肩・お腹・おしりのあたり。
この画力の漫画をきょーかちゃんが見ていなくて良かった。もしこんなのきょーかちゃんに見られたら、酷評の嵐が巻き起こってかおすちゃんのメンタルがゼロを通り越してマイナスに突入していたかもしれない。
「起きて~かおすちゃん」
「あばっ!? ご、ごめんなさい!」
「大丈夫~。ちょっといいかな?」
「え、は、はい!」
小夢ちゃんをもっと見て、と言えば、あっという間に立ち直る。
「小夢ちゃんってさ、肩がむちっとしてるでしょ?」
「うん…」
「それで、お腹もぷにぷにしてるし~」
「ふむふむ」
「おしりもさ、コレよりもっとぽよんってなってるじゃん?」
「ぷにぷにぽよんですね!」
「ひどいよ夢美ちゃん~~!! 最近太ったの気にしてるのに~!!」
かおすちゃんの真剣なスケッチの最中に小夢ちゃんから抗議が入る。
もう、ダメじゃんか小夢ちゃん。これは真面目な漫画の作業なんだよ~?
モデルが勝手に動くなんて、許されるわけないじゃないか。
「どうして~? 私は
「ほ、本当の事!?」
「そんな
「ど…どうでも……!?」
「さ、はやくモデル続けて小夢ちゃん。かおすちゃんが頑張ってるんだから」
「どうでも……いい……?」
小夢ちゃんが大人しくなる。これなら、モデルとして描きやすいでしょ?
「ちょっと夢美!いくらなんでも言い過ぎだわ! 小夢ちゃんに謝りなさい!」
「琉姫ちゃん…!」
「確かに小夢ちゃんはぷにぷにしてるけど、そこまでハッキリぞんざいにされたら傷つくに決まってるでしょ!」
「琉姫ちゃん……」
あ、お姫ちんがトドメ刺した。いーけないんだ~。
「だいたい、夢美はどうなのよ!? 体重とか気にしてることをズバズバ言われたら嫌じゃないの?」
「私、小夢ちゃんみたいに体重には困ってないし~、お姫ちんみたいに胸にも悩んでないんだよね~…あ、ちょっと肩がこるのが悩みかな?」
「贅沢すぎる!! ちょっとは分けなさいよ!!」
「え、こんなの勝手に大きくなるモノでしょ?」
「「勝手に!?!?!?」」
お姫ちんだけじゃなくって、かおすちゃんの声も被り、二人そろって動きが固まる。
断っておくが、私はさっきからウソなんてついてないぞ。
「牛乳とか、大豆とかとってないってこと?」
「牛乳は飲んでるけど、そこまで意識してないかな~」
「バストアップ体操とか、マッサージとかお祈りとか、何もしてないの!?」
「あはは~、何それ? バストアップのお祈りとかギャグかな?」
訊かれたことに思ったことをそのまま言えば、お姫ちんが掴みかかってくる。
もう、嫉妬なんて見苦しいからやめればいいのに~。
「ズルい!なんであんたがそんなに恵まれてるのよ!バカ!!」
「も~~、さっき言ったでしょ~! こんなん勝手におっきくなっただけだって!」
「喧嘩売ってるのかしら夢美……?」
「売ってないよ~!だって言うでしょ?『貧乳はステータスだ希少価値だ』って」
「あぁ…ヤバい、ちょっと殺意湧いてきたわ……」
「落ち着いて琉姫ちゃん!?」
「止めないで小夢ちゃん! 現実でふわふわしてる子はみんな敵よ!」
ようやく復活した小夢ちゃんの制止にも耳を貸さないお姫ちん。
しょうがないな~。こうなった人は、いったん無理やりにでも止めないと、後が大変なんだよね~。
……よし。
「よしよし、琉姫ちゃん」
「「「!!?」」」
お姫ちんを抱きしめる。
抵抗する間も与えない。
いつの間にかおっきくなった胸に顔を埋め込ませて、力強く押さえつける。
それでありながら、優しく撫でることも忘れない。
お姫ちんは、最初突然抱きしめてきた私に抵抗していたが、こちらも離すまいとしていると、抵抗する力が弱くなっていき、やがて全く抵抗しなくなった。
そのタイミングでお姫ちんを離す。すると……
「…うぅ………負けた………」
泣きそうな声で崩れ落ちた。
ふっ、勝った。嫉妬とは脆いものだね。
「あ、そうだ忘れてた。かおすちゃん、良い構図描けたー?」
かおすちゃんを思い出したので周りを見渡してみたが……いない。
「小夢ちゃーん、かおすちゃんは?」
「え、えーと、夢美ちゃんが琉姫ちゃんを抱きしめてる間に真っ赤になって部屋から出てっちゃったけど…」
えー、あの子また百合営業に耐えられなかったの?
まったく甘いなー。そんなんじゃあトップの漫画家にはなれないぞ~。
かおすちゃんには少しでも早く上達してもらわないと
ここは良い環境だからね~。漫画のテクを上げるにしても、
『あんたが……あんたが悪いのよ! いるだけで周りの人や、わたしの努力を無駄にして……平気で人の血の滲む努力を踏みにじれるくらいに、頭のおかしい才能を持つあんたが!!』
顔も思い出せないやつの、邪魔な思い出が頭をよぎる。自分が上手くできないからって、盗作していい理由にはならないよね~。
ま~かおすちゃん自己肯定感低いし、人の作品パクるくらいなら自殺しそうだけど…可能性だけはゼロにできないしね?
首を軽く振り、どうでもいい過去を振り払う。
さて、今ここにいるのはぶっ倒れているお姫ちんと状況についていけないながらも彼女を心配する小夢ちゃんだけ。もうスケッチ大会もできそうにないし、帰りますか。
「小夢ちゃん、今日のスケッチ大会はこの辺にしとこーか。ね?」
「えっ、琉姫ちゃんどうするの?」
「大丈夫、寝てれば治るよ」
「お願い小夢ちゃん……そっとしといてくれる…?」
「本人もこう言ってるし、私は失礼するよ。それじゃ~、おやすみ~」
あー、楽しかった。
この出来事もネタに落とし込みたいところだよね。
ネタ集めが捗るから、こーゆーイベントには参加してみるものなんだね~。
「…夢美、るっきーが部屋の中で死にそうになってたんだけど、何かしたの?」
「あ~、えっとね、お姫ちんを抱きしめただけだよ?」
「成程、道理でかおすが真っ赤になって駆け込んできたわけだ」
十分後、部屋にやってきたつばさんに説教された。
お姫ちんやかおすちゃんにしたことでウソはついてないのになぜだ。
「……それで、貰ったサインがあれですか」
『本当にごめんなさい……』
文芳社・皇獏之進担当編集・
現在彼女は、電話越しに美晴から謝罪を受けていた。
ことのあらましは、美晴が夢美にサインを貰ったことに始まる。
愛読中の漫画の作者がまさか教え子だとは思っていなかったが、それでもリスペクトする漫画家にサインを貰ったのだ。嬉しくないわけがなかった。
そして、コッソリ懐にサインをしまい込み、漫研のSNSで自慢…ではなくても、こんなことがあったと言いたくなってもおかしくはない。
もちろん、教え子が~なんて言う訳にはいかないので『通勤中にたまたまやってたイベントで貰ったんです』とある程度ウソは混ぜたが。
だが、偶然にも美晴の気の置けない仲間の中に、皇獏之進の担当編集がいたことを知らなかった。
それが和泉梗香である。
スケジュール的に夢美のイベントがない事を知っていた梗香は、美晴の嘘を一発で見抜き、美晴に電話。
「わたくし、皇先生の担当編集なんですけど、イベント等の話はここ最近耳にしていませんわ」と言えば、たちまち美晴は本当の事を自供したというわけである。
「いいえ、夢美さんがわたくしに黙って勝手なイベントをやったとかではなくて何よりです」
『知りませんでした……梗香が皇獏之進先生の担当さんだったなんて』
「まぁ漫画の担当さんなんて世に出ませんし、知らなくて当然ですわ」
梗香は、浮かれた美晴を許すつもりだった。
だが、夢美を許すとは言ってない。
美晴の本当の話を聞き、あいつやりやがったと思っている。身分を証明し原稿を取り返すためとはいえ個人的にサインなどいただけない。一歩間違えば大炎上の火種になりかねなかった。美晴が良心的だったし周りの目が無かったから良かったようなものの……と色々考える梗香。
次回会う時、夢美はとんだ災難を受けることだろう。半分以上自業自得ではあるが。
夢美「えー!! みはるせんせーときょーかちゃんとりりかちゃんって同じ高校の同級生だったの!!?」
梗香「それより重要なのは、先生とは言え気軽にサインしてはいけないという事です。貴女のサインは金銭的価値がもうあるのですよ?」
夢美「ただのペンで模様描かれた色紙なのにね~」
梗香「ただの色紙にそれだけの価値が生まれるのです。ご自覚なさってくださいまし。さて、バク先生、原稿を―――」
夢美「やだ」
梗香「は?」
夢美「きょーかちゃんの高校時代を話すまで出してあげない」
梗香「ならもうここに来なくて結構…」
夢美「待って待ってごめんなさい!!」
梗香「…まったく、急かさずともおいおいお話しますわ」
夢美「…約束だよ?」
梗香「はい。では今回の原稿を拝見いたします―――」
誰が好きですか?
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かおす先生
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小夢先生
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姫子先生
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ウイング・V先生
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バク先生