『ハーメルン小説完走RTA』-00:02:27:57 作:チルドレン
彼女を優しく抱きかかえながら、青年は急いで教えて貰った街の場所へ駆け出す。
最初は一緒に歩きますと言っていた彼女だったが、どうやら三日三晩眠って無かったらしくかなりふらふらとしていた。
それを見ていた青年は小さく微笑みながらお姫様だっこをして走る事になった。
「…凄い。モクバ君の腕の中、安心します」
「そう?」
「はい!とっても安心します!…出来れば、このままずっと一緒に居たいです…」
「それは難しいかな。僕は急いで魔王を倒さないといけないんだ」
「…魔王ですか。確かに復活したとは聞きましたが、まだ何処にいるかも分からないんです…」
その言葉を聞いて、青年が驚く。
「昔のお城とかには居なかったのかい?」
「はい…もう既にもぬけの殻になっているらしいんです」
「そうなのか…困ったな。三日で魔王を倒すって言ったのに」
「あはは。モクバ君も冗談を言うんですね」
「…冗談じゃないんだけどなぁ」
その言葉を聞いて更に笑い出す彼女を見ながら、青年が小さくため息を吐いた。
…それを見た彼女は小さく首を傾げるが…青年は特に気にしない様に言ってから足を止めた。
「…此処だっけ?」
「はい!此処が私の生まれ育った街、アールヨクです」
「へぇ…結構綺麗な街なんだね」
「はい!関所があって……あ、モクバ君って今自分の身を証明できるものってありますか?」
「…ない」
その言葉を聞いてやっぱりと少女が笑う。
それを見た青年が少しだけ困った様に苦笑するが、少女は気にしないでくださいと微笑んだ。
「私こう見えても街の人に信用されているんです。なので私が言えば何とかなりますよ」
「…そうなの?」
「はい!今回は偶々一人で行ってしまいましたが、何時もなら一緒に来てくれる冒険者さんとかも居るんです」
その言葉を聞いて、青年は少しだけ顎に手を当てて考える。
…それを見た少女は小さく首を傾げるが…青年が優しく頭を撫でれば嬉しそうに微笑んだ。
「取り敢えず入りましょう!あそこに顔見知りの兵士さんもいるので!」
その言葉と同時に、先程まで休んでたからか元気一杯になった少女が青年の手を握って駆け出す。
勿論手は恋人繋ぎと呼ばれるもので、それを見ていた冒険者達からはあらあらと微笑ましい視線を向けられていた。
「こんにちはジョンソンさん!」
「おお。嬢ちゃんか、どうしたんだい?」
「今日この人に助けて貰ったんだけど…彼記憶喪失でどうやら何もないみたいなの」
「ほほぅ…それにしては立派な武器を持っているが…」
「…えっと、それは…」
少女が少しだけ困った様に考えるが、それを青年が止めて小さく微笑んだ。
「えっとですね。この武器は僕が目覚めた時に優しい人がくれたんです」
「ほーう?…どんな奴だ?」
「えっと…旅をしている王族の方と言っていました」
その言葉を聞いて満足そうに頷いた兵士が、嬉しそうに肩を叩く。
「なんだそりゃ!嘘を吐くならもう少しまともな物を考えろよ!」
「…えっと……すみません」
「いいさいいさ。確かに嬢ちゃんが言ったように悪そうな奴ではなさそうだ。分かった嬢ちゃん、俺も信用するよ」
「本当?!ありがとうジョンソンさん!」
「おう!俺だったからよかったが、もし他の兵士だったら大変だったぞ?坊主も気を付けろよ!」
その言葉と同時にカードを渡した兵士を見て、深くお辞儀をする。
…それを見て少しだけ兵士が首を傾げるが、東洋で生まれた人らしいというと小さくああと呟いた。
「成程。それで嬢ちゃんも隠していたんだな?」
「うん。それでお願いなんだけど…」
「ああ分かった。記憶喪失の人間としてちゃんと書いておくよ」
その言葉を聞いて、青年が首を傾げる。
それを見た少女は何でもないと微笑みながら、青年の背中を押して街の中に入っていった。
「えっとね。冒険者ギルドは入り口の直ぐ左にあるんですよ!」
「…此処?」
青年が呟きながら扉を開けると、其処には若干の酒の匂いが溢れる。
それを見た少女は少しだけ苦笑すると、青年の手を握ってゆっくりと受付に歩き出した。
「何だい嬢ちゃん。やっぱり薬草を取るのは諦めたのかい?」
「そりゃそうだ。まだ魔法を覚えていない嬢ちゃんには早かったにちげぇねぇ!」
「「ハッハッハ」」
「残念でした!今回はちゃんと依頼を済ませました!彼に守って貰ったんです!」
「その貧相な男が守ったぁ?嘘を吐くのも下手になっちまったのかい?」
「…ふんだ。後で覚えてろ」
少女が小さく呟くのと同時に、男達が耐えられないと言った表情で笑い出す。
それを見た少女が怒りを露わに近づこうとするが…それを青年が優しく手を握る事で止めた。
「…モクバ君?」
「僕の事は何とでも言って構わないよ。別に気にしてないから」
「でも…」
「大丈夫。これから見返せば良い…それだけでしょ?」
その言葉を聞いて、少女が嬉しそうに頬を赤く染めて微笑んだ。
それを見た男達は詰まらなさそうに舌打ちをすると…青年の持っている死体を見て小さく舌なめずりをした。
「…それじゃあ、依頼の報告を…」
「待った!その前にそこの男、背中に持っている死体を良く見せてくれないか?」
その言葉を聞いて、青年は小さく首を傾げる。
少女は関係ないとばかりに手を握って受付の方に行こうとするが、それを青年が止める。
「どうしたの?」
「…いや。なんでもない」
「じゃあ行こうよ」
その言葉を聞いて頷こうとするが…その前に男がニタニタとしながら青年の服を引っ張る。
それを見て少女が怒り出すが…青年は小さく首を振った。
「…これでいい?」
「おーおー……おっ!やっぱり、これは俺達が狩った奴だったなぁ!」
「そうそう!どうやらお前が持ってきてくれた様だ!いやぁ助かった助かった!」
その言葉を聞いて青年と少女が驚く。
…そして受付は凄く疑わしい目を向けるが、ギルドには冒険者同士のいざこざには関与しないという制約がある為どうする事も出来なかった。
「そうだよな?お前ら!」
「そうそう!兄貴が倒した個体だ!」
「いやぁ忘れてた忘れてた!でも持ってきてくれたなら安心だな!」
「ほらな?という訳でそれおいてさっさと失せろ。後は俺達がちゃんと売っておいてやるよ」
「後序でに、其処の嬢ちゃんも俺達が可愛がってやるよ!」
その言葉を聞いて、青年は小さくため息を吐いた。
…それを見た男は観念したかと笑みを深めるが…
「お前は屑だな。つまり、此処で怪我しても文句言えないという訳だ」
「はっ?何言ってるんだ?」
「お前ら全員外に来い。俺がその腐った考えと一緒に叩きのめしてやる」
青年が言った言葉を聞いて、全員が少しだけポカーンとした後に……今度こそ耐えきれないとばかりに笑い出した。
それを見た青年は首を傾げるが、逆にすぐ近くに居た少女は震えていた。
「そ、それくらいにしてさっさと行こうよ」
「嫌だ」
「なんで!」
「…君が汚されそうだったから、もうそんな事をさせない様にしてやる」
その言葉と同時に、青年の拳が男の腹を殴る。
適度に加減したその力は、男を吹き飛ばして壁を突き破る程度で収まった。
「…なっ…」
「てめぇ良くも兄貴を!ぶっ殺してやる!」
その言葉と同時に、彼らが一斉に武器を持って襲い掛かる。
それを全て拳で返しつつも、全員を投げ飛ばして穴の開いた壁に向かって投げ続けた。
「…うそ。一瞬で片付いちゃった」
全員が気絶したのにも関わらず、青年は歩いて行って最初に気絶した男を無理矢理目覚めさせた。
最初に気絶した男は青年の顔を見て小さく悲鳴を漏らすが、青年は微笑んだまま小さく喋りかける。
「お前言っていたよな?あいつを汚すって」
「そ、それは俺が言った訳じゃなくて、あいつらが勝手に言っただけだ!」
「自分の仲間だろ!仲間の言葉の責任位お前が持てよ!」
その言葉と同時に、気絶から目覚めた男を殴りだす。
一撃一撃で気絶をするが、それを無理矢理起こしてもう一度殴る。
「た、頼む!許してくれぇ!もうそんな事言わせないから!許して!」
「お前はそうやって命乞いをした人間に対して許したのか?」
「しょ、それは…」
男の返事が止まったのと同時に、青年が顔を殴ろうとするが…
「もうやめて!貴方がその程度の男の血で染まる理由は無い!」
「……でも、彼は君を汚す心算だったんだよ?」
「大丈夫だから…私の事は心配しないで。もう此処までやったら皆私の事を汚そうとか言わなくなるから」
その言葉を聞いて、青年が小さく息を吐いて…恐怖で気絶した男を地面に放り投げた。
そしてそのまま自分の開けた穴を通って、地面に落ちた狼の死体を拾い上げて受付の方に行く。
「…その。彼女の依頼の達成と、狼を売るのと…壁を破ってごめんなさい」
「壁の件は彼らに払わせますので問題ありませんよ。彼らは依頼の横取り等をしていた悪質なパーティでしたから」
「…そっか…」
「それで、彼女の依頼の件ですね」
その言葉と同時に、少女が前に出て依頼の品物である薬草を渡す。
それを見た青年は小さく息を吐いた後に……ゆっくりとギルドの外に出た。
其処には満天の星空が輝いていて…見るだけで吸い込まれそうな雰囲気を持っている。
「…お待たせ。待った?」
「ううん。其処までまってないよ。依頼って結構簡単なの?」
「受けたりするのは大変だけどね。最近は受けた後に横取りをされない様に自分のサインを要求されちゃうしさ…」
その言葉を聞いて、少女が嬉しそうに微笑んだ。
…そして、ゆっくりと彼に目を向ける。
「…ねぇ。此処で一つ懺悔をしていい?」
「良いよ」
「ありがとう」
少女は青年の手を引っ張りながら、街から離れて草原に向かって歩いていく
…その事に少しだけ首を傾げるが…少女は気にせずに喋りだす。
「私ね?今までの事を後悔してたの」
「…後悔?」
「そう。その為に神官になろうとしたり頑張ったんだけど…どうやら私には無理だったみたい」
「どういう事なの?」
「…私は…」
少女は決意に秘めた目を向け、震えた手を放す。
それを青年は握ろうとするが、今までよりもかなり速い速度で動かれ失敗してしまった。
「……ごめんねモクバ君、本当の私は…」