「そのカリスマで私を救ってよ、お姉様」   作:小鈴ともえ

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この話は三人称で進みますが、次回以降は一人称も混ぜます。というか多分一人称がメインだと思います


かわいい悪魔

スカーレット家、その名に相応しい紅の館に新たな悪魔が誕生した。

時は1507年。後の南米に当たる大陸をアメリカとして地図表記された年でもある。なお誕生した悪魔とは何の関係もない。

 

「レミリア!入っておいで」

 

生まれるまで扉の前で待たされていた幼女(妖怪として幼いだけでなく、実年齢でもかなり幼い)、レミリアは父親に呼ばれたことで部屋に入る。

 

初めの一言で分かっていたとは思うがここは人間ではなく吸血鬼の棲む館。周辺の町に住んでいる人間からは悪魔の館とも呼ばれ大変恐れられている。

その館に棲むのはスカーレットの姓を持つ四人、そして眷属たち、それ以外の使用人たちである。ここで言う眷属とは単に従者の事ではなく、吸血され尽くしゾンビ状態になった者を日光に当たる前に保護(?)した人間たちの事である。

 

日光に当たればゾンビたちは消滅してしまう。その前に館内に連れ去ってしつけた者をここでは眷属と呼ぶことにする。この館はそんな生ける屍が大量に雇われている。幸い他の使用人たちも人間ではない者ばかりなのでこの事を気味悪がる者はいない。

 

だがしかしつい先ほど生まれた赤子は別である。彼女(悪魔は女の子であった)は眷属たちを見るや否やさらに激しく泣き出してしまったのである。

何故か。これは神すらも知らない神の悪戯のせいである。元々未来を生きるただの人間であった彼女は、あろうことか人外として次の生を受けてしまったのだ。

 

そんな彼女が不意に泣き止む。レミリアが彼女の手を取ったのだ。彼女はレミリアを知っていた。彼女がまだ人間であった頃、彼女はレミリアのカリスマに憧れた。見た目相応の行動に笑みをこぼした。だがそれは全て創作の中の事だ。

 

彼女は今、レミリアを見て嬉しかったから泣き止んだのではない。憧れのレミリアの前に言葉を失い、そしてその直後に絶望したためである。

創作を知る彼女は勿論自身の未来を知っていた。五百年近くも地下で幽閉されることは確定的に明らかである。

 

「ねぇお母様、この子の名前はなんて言うの?」

 

そんなことを全く知らないレミリアは無邪気に妹の名を問う。レミリアは素直に嬉しいのだ。

それもそのはず。彼女はずっと妹か弟ができるのを待っていたからだ。一人っ子と言うのはやはり寂しいものなのだろう。

 

「そうね………うん、決めたわ。この子の名前はフランドール。良い名前でしょう?」

「あぁ、そうだな。よし、これからよろしくな、フランドール。ってもまだわからないか」

 

勿論わからない。だって彼女は元々日本人であった上に高校生だったのだ。英語レベルは一般程度しかない。更にアメリカ英語ではないことが理解を阻んでいるだろう。クセはかなり強い。

 

「これからよろしくね!フランッ」

「あらあら、レミリアはもう妹に愛称を付けたのね」

 

何を言っているのかさっぱりわかっていない赤子、フランドールはぽかんとしている。

何とも赤子らしくない表情だ。普通なら泣くだろう。しかしそこに疑問を持つ者はどうやらいないようだ。妖怪は完成された状態で自然と誕生することもあるからだろうか。

 

「今日はもう疲れているだろうから休みなさい。ほら、レミリアももう行くよ」

 

たとえ妖怪であっても出産は楽ではない。人間ほど痛みに苦しめられるわけではないが、それでも想像を絶する痛みであることは変わらない。

当主の夫人に対する細かな気遣いである。レミリアはそれがいまいち理解できないので部屋を出るのを渋っているようだ。

 

「レミリア、フランドールに会いたいのならまた今日の夕方にでも来なさい。もうすぐ朝になるわ。良い子は寝る時間よ?それともレミリアは良い子じゃないのかしら?」

「私良い子よ。だってフランのお姉様だもの。また会いに来るね!おやすみなさい、お母様」

「えぇ、おやすみレミリア。良い子ならお父様にも迷惑をかけてはダメよ」

 

幼い子は自分よりも幼い子を見て見栄を張りたがるものである。大人でもそう言う事をする者はいるが、一切の悪意無く上位者であろうとするのは幼い子だけだ。

レミリアにもそんな子供たちと同じ心理が働いているようだ。まだまだ中身も見た目と変わらない。妖怪の成長が遅くなるのはこの辺りからである。

 

吸血鬼は朝に寝て夕方に起きる。丁度魔物と逢う可能性の高くなる逢魔が時あたりだ。太陽は沈んでいるがまだ多少の明るさは残っている時刻。

この時刻から働きだすのは眷属たちだ。そして入れ替わるように昼間働いていた使用人たちが眠りにつく。

 

これが紅魔館を難攻不落の館にしている理由である。使用人といっても当主の御眼鏡に適った者たちだけである。

要するに、吸血鬼の眠っている昼間に攻めても使用人に為す術なく追い返されるのがオチなのだ。

 

そして夜になれば勿論夜の帝王である吸血鬼に打ち負かされる。館を外から攻略するには相当な実力者がいなければならない。

人間の中でもごくまれに対人外に特化した能力や力を持っている者が現れるという。だがそのような人間は当然引く手あまたであり、小さな町が雇えるわけはないのだ。

 

つまり今のところ館内は絶対安泰といえる。人間が吸血鬼の館を陥れることは不可能ということだ。だから皆安心して眠ることができる。住み込みで働く者たちの理想形である。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「お母様ー!会いに来たよ!」

「あらあら、早かったわね。それに私に会いに来たのではなくてフランドールに会いに来たんでしょう?」

 

レミリアの夜は早い。まだ逢魔が時にはなっていない時間だ。いつものレミリアならまだ寝ている時間でもある。彼女がこれ程早く起きてきたのはやはりフランドールに会いたかったからだろう。

 

何せ念願の妹である。羽は吸血鬼とは思えない程歪であるが、ついている飾りはとても美しく見る者を惹きつけること間違いなしだ。

 

「ぶー、お母様にも会いに来たよ。それにしてもフランの羽は綺麗ねぇ。私もこんなのだったら良かったのに」

 

レミリアについている羽はいかにも吸血鬼という風な立派な蝙蝠の羽である。体躯に不釣り合いなほど大きな羽であり、当主も大変満足しているらしい。

 

「貴方には貴方の、この子にはこの子のそれぞれ良いところがあるものよ。羽だってそう。貴方の羽は誰よりも立派だわ。対するこの子は誰よりも綺麗。

 

当主として相応しいのはきっと貴方よ。あの人も貴方が生まれた時は『スカーレット家の将来は安泰だな』って言っていたくらいだもの。自分に自信を持ちなさい、レミリア。貴方はこの子のお姉さんなんでしょう?」

 

あの人と言うのは当主の事である。生まれた瞬間から当主に認められるには見た目だけではいけない。内包する妖力や魔力の量も生まれたてとは思えない程だったに違いないのだ。

 

それにしても夫人による当主のモノマネは全く似ていなかったようだ。レミリアも笑いをこらえるのに必死である。完全に漏れてしまっているのはご愛嬌といったところか。夫人は似ていたと思っているようだが………。

 

「そんなに笑う事も無いでしょうに。それにあまりうるさくしているとフランドールが起きてしまうわよ?」

「もう起きちゃってるよ、お母様。うー、私のせいかなぁ」

 

実はフランドールはレミリアが来る前から、もっと言うと夫人が目を覚ますより前から起きていた。人間は普通昼間は起きているからである。

赤子になっているおかげで昼寝も問題なくできたが、それでも吸血鬼が目覚める時刻よりは早く目覚めてしまったようだ。

 

「あら?フランドールが笑っているわね。そんなにレミリアが来たのが嬉しかったのかしら」

 

フランドールは両親が思いのほか優しかったので絶望を少し消したようである。そうはいっても笑顔には少しの翳りがあるのだが二人は気づけない。

 

 

 

どんなことをしても幽閉される運命は変えられない。だから彼女(転生者フランドール)は救いを求めるようになる。かつて憧れた幼き少女に。現在敬愛する姉に。

それはほんの少しだけ後の話。




三人称だとメタい話ができたり、視点変更しなくてもキャラの内面を書けるのが楽

私の中では名前さえ付けなければオリキャラ扱いではないのですがどうなんでしょうか

一応他の小説との兼ね合いもあるので不定期投稿としておきます。失踪は避けたい
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