「そのカリスマで私を救ってよ、お姉様」   作:小鈴ともえ

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ヴワル魔法図書館

「で? どうするのお姉様。多分今の私たちにはその手紙どうやっても読めないと思うけど」

 

何かの手掛かりになってくれるかと思ったのに残念だ。きっとお父様がしていた仕事に関係があると思うんだけど。

 

「困ったわねぇ。何か分かると思ったんだけど。そういえばフランはどうして図書館に来ているの? 何か調べものでもしに来たの?」

 

「そういうわけじゃないよ。生きて行くための勉強と魔法の勉強ができるから毎日来ているだけ。私もまだまだ知らない事ばかりだもの」

 

私が八歳だった頃よりは明らかに多くの知識を持っていると思うが。魔法も既にいくつかは使えるようになっているようだし。私より強くなってもらう分には何の問題も無いのだがこのままでは私の面目も丸潰れである。

 

「じゃあ今日は私も図書館で勉強をしようかしら。仕事内容がわからなければ仕事なんて出来っこないんだし別に構わないわよね」

「良いんじゃない? 私とお姉様じゃ勉強することが違うからバラバラだと思うけど」

 

フランはいつの間にか勉強するための本を取りに行っていたようで、腕には数冊の本が抱えられていた。その内の二冊は見覚えがある。

私の記憶が正しければ三年くらい前に私が勉強を教えていた時使っていた本だったはずだ。それを今持っているという事は復習でもするつもりなのだろう。

 

勉強をした後にその内容を復習するとより知識が残りやすいらしい。三年ほど経ってから復習しているのは自分の記憶を試す意図でもあるのだろうか。

 

「ちなみに魔法関連の本はあっちの棚に入っていたはずだよ。私はこの辺りで勉強してるから、読みたい本の場所がわからなかったらいつでも言ってね」

 

私が魔法の勉強をしようかと少しの間考えていたことも分かっていたようだ。確かに始めは魔法の勉強でもしようと思っていたが図書館に入って気が変わった。

人間の書いた経営の本でも読もうと思う。人間の書いた物ならお父様が書いた物よりは信用できそうだ。人間はきちんと生きるために書いているはずだから。

 

「えぇ、早速だけど経営に関する本は何処にあるか知っているかしら」

 

「経営? 確か右奥の方にあった気がするけど……館の事を考えているの? それならそんなに深く悩まなくてもいいんじゃない?

安く買って高く売る。それだけでも十分に館の財も権威も保てると思うよ?」

 

そんなに簡単なものなのだろうか。人間の需要に合った物なら確かに高く売れるだろう。それこそかの忌々しい使用人がフランの羽飾りで一山築こうとしたように。

でもそんなに簡単に手に入って高く売れる物なんてあるのだろうか。

 

「例えば香辛料なんかはかなり需要が高いんじゃないかなぁ。入手ルートの確保がなかなか難しいけど」

 

香辛料か。何故人間は香辛料を強く求めるのだろうか。確かにこの館でも肉の保存や調理には使っている。そこまで熱心に欲しい物でもないような気がするのは私が吸血鬼だからだろうか。

 

「なるほどね…まあ色々考えてみるわ」

 

とりあえずは教えてもらった場所にある本を読んでみて、それから考えれば良いだろう。幸い私たちには悠久の時間があるのだしゆっくりやって行けば何も問題はない。

 

 

 

……全然理解できない。たかが十年ほど勉強しただけの私では理解できないことが多すぎる。とりあえず自室に持ち帰って使用人にでもわからないことを聞くのが良いだろう。幸い教育係は生き残っていることだし。

 

フランが本を読みながらずっとブツブツ独り言を言っているのも気になる。魔法の詠唱の練習でもしているのか、それとも単に口に出すことで学んだことを定着させようとしているのか。

私の耳でもほとんど聞き取れない声で呟いているので何をしているのかはわからない。…よく耳を澄ませば時々意味ありげな単語は聞こえてくる。かなり不確かだが。

 

「だからこう、そしてこうなる。―――は正確には――――だけど」

 

やっぱりわからない。分かったことと言えばどうやら魔法の詠唱ではないらしいという事のみ。

 

「っと。お姉様、もうすぐ夕食の時間だよ。今日も地下に来てくれるの?」

 

「えぇ、勿論よ。貴方も一人で食事をするのは寂しいでしょう? それにしてももう食事の時間なのね。どうして分かったのかしら?」

 

そう聞くとフランは懐から何かを取り出した。あれは人間の使う砂時計…だったか。砂の色は絶対におかしいが、今は丁度半分ほど落ちたところのようだ。

 

「その砂時計が?」

 

「そう、この砂時計は人間の物とは少し違う特殊な作りになっているの。わかりやすいので言うと砂の色だね。今は紅いでしょう? 図書館に来た時くらいは緑だったの。さっきまでは紫だったわ。この砂時計は一度砂が落ち切ると色が変わる仕組みになっているの」

 

でも落ち切ったらひっくり返さなければ砂は落ちないのではないか。正確に時間を知りたいのであれば少しひっくり返すのが遅れても駄目なのだ。寝ている間はどうなっているのだろうか。

 

「落ち切るとこの上下が入れ替わるのよ。この砂を入れている容器が回転して上下反転するんじゃなくて、砂が色を変えて一瞬で上に戻るの。私が何もしなくてもね。

人間の作る砂時計は時間を知ることはできないんだけどこの砂時計なら正確に時間を知ることができるの。いつ、どの色なのかを把握していれば食事の時間もきちんとわかるのよ」

 

これもまた魔法の力によるものなのだろう。魔法を使えば何でもできそうな気さえする。覚えて損はない。仕事についての勉強が一通り終わって時間ができたら覚えてみよう。適性があるのかはわからないが戦闘を多少有利にすることはできるだろう。

 

「じゃあいつも通り部屋で待ってるね」

 

そう言って去る背中は少し申し訳なさそうに見える。地下から出ない自分を責めているのだろうか。確かにフランが地下から出ないから私が行っているのだが、別に迷惑だとも思っていないしフランには自分をあまり責めないでほしい。

 

あの子の能力はあの子が望んで得たものではない。時折見せる狂気だってあの子の意志ではないだろう。自分を責める必要はない。姉としてはもっと堂々と生きてほしいものだ。

 

 

 

 

「お姉様はこの館の当主としてやっていけそうなの?」

 

すっかり食事中に話をするのが普通になってしまった。もうここにはそのことを叱る者がいないから。それに私も静かな食卓は好きではない。

 

「それはまだわからないわ。でもきっと何とかなると思うわよ」

 

まだまだ未熟な頭をどうにかできれば一気に活路は開けるはずだ。今はまだ何もできない自分を呪うだけの辛い日々。成功する未来を掴むために努力は怠れない。それは今日のフランを見て改めて感じた。

 

「ま、お姉様なら大丈夫だろうね。それにしても今日の血はいつもと違うような……なんかいつもより美味しい?」

「よく気づいたわね、フラン」

 

そう、これは私が昨晩採ってきた新鮮な血なのだ。手順は簡単。蝙蝠になって町の人間からこっそり少しずつ血を頂いてきただけだ。一人一人からは少量の血しかもらっていないので採血されたと気づかれる心配もない。

 

「……というわけなのよ」

 

「へぇ~、流石お姉様。蝙蝠の状態で血を集めるのなんて相当大変だったんじゃないの? 気づかれない程度の血を採るのなら相当な数の人間から採る必要があると思うし」

 

その通りなのだ。実は町の全ての人間から血を採ってきた。町長からも、そこを護っていた門番みたいな人間からも漏れなくだ。門番を気絶させるための力加減はなかなかに難しかったが、何とか殺さずに済んだので何も問題はないだろう。

恐らく今朝目覚めても何も覚えてはいまい。そもそも姿を見せていないのだから覚えていても何ら問題は無いのだが。

 

一番面倒だったのはすぐ近くの町ではなく少し離れた場所にある町に行かなければならなかったことか。直近の襲撃のせいで一番近くの町は少しの間機能不全に近い状態なのだ。流石にそんな所から採血するとなると一人当たりの量が多すぎて町が壊滅しかねない。

それは私の望むところでは無いので今は大人しく復旧してもらわねば困るのだ。

 

「大変だったけどフランも私も血は必要だもの。姉として、当主としては当然の事よね。それよりフラン、スプーンが……箸が止まっているわよ。冷めたら勿体ないから早くお食べなさい」

 

「もう二月も経ったのにお姉様ったら全然慣れてないね。まあいいんだけど。それよりお姉様の方こそスプーンが止まってるよ。冷める前に飲まなきゃ勿体ないよ」

 

どうにも慣れないものだ。箸と言うのは大陸の東から極東辺りの道具らしい。本で見て知ったらしく熱心に使いたいと強請ってきたので一つ買ってあげたのだ。勿論欧州にはそんなものを売っている場所が無かったので木細工の職人に言って作らせた。

こちらの種族を隠して交渉したので快く作ってくれたのだ。思いのほか吹っ掛けられたけど仕方がない。職人も作るのは初めてだったのだろうし。

 

そんなわけで今のフランは基本的に箸で食事をする。スープやステーキなんかの時はその他も使うが、どうやら箸が一番のお気に入りのようだ。買ってあげた側からしても嬉しい限りだ。

 

「それは困ったわね。早く飲まないと。冷めても美味しい貴方の夜食や朝食とは違うものね」

「嫌味?」

 

私が夜食や朝食も温かい物を食べているからかな。別にそういうつもりで言ったわけではない。

 

「そんなわけないじゃないの。不快になったのならごめんなさい」

 

「別に不快になったわけじゃないわ。でも…いや、何でもないわ」

 

フランは途中で言いかけたことをやめることがよくある、悩んでいることがあるのなら気軽に相談してくれてもいいのに。

別に頼りにならないと思われているわけではないようだけど、重要な相談をできる程ではないのだろうか。それとも相手が誰であっても言いたくない事なのだろうか。

 

あの日の誓い。この世界で誰よりも強くなるという私の決意。それを果たせば私はフランの相談相手になるに足ることができるだろうか。




本で見て知った(大嘘)

因みにこの小説内での吸血鬼の一日は大体こんな感じになります
起床(17時頃)→夕食(19時頃)→夜食(0時頃)→朝食(6時頃)→就寝(7時頃)

フランの場合は起床が少し早め(15時頃)なせいでレミリアと食べる夕食以外はこれより二時間早くなります
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