「そのカリスマで私を救ってよ、お姉様」   作:小鈴ともえ

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輝かしき弱肉強食の掟

「明日の夜に出発することにするわ。私のいない間は部屋の扉の前に食事を置いてもらうようにするから罠は解除しておいて頂戴ね」

 

「分かったよお姉様。大丈夫だと思うけど気を付けてね。砂漠は夜寒いっていうし」

 

一応そのために準備はしてきた。魔法の勉強と練習を始めてからもう二年になるし自分の周囲を温めるくらいなら訳ない。

むしろ怖いのは昼間の砂漠だ。陰になるような物が極端に少ない砂漠を昼間に通るのはかなり厳しい。そればかりは吸血鬼である以上どうしようもない。

 

だから今回は秘策と言う物でもないがある策を用意しておいたのだ。満月の夜ならば身体能力の向上と吸血鬼の飛行速度を使えば一晩あればなんとか砂漠を超えられる。交渉係の使用人たちは勿論ついてくることなどできないから既に砂漠の向こうで待機させているのだ。

確か七日ほど前に出発させたはずだからもう着いていてもおかしくはない。目指す先は大陸の東の端、明だ。満月の前夜に出発し、砂漠を超えるのは満月の夜になるように調節する。

 

「翼が凍って飛べなくなるとかはやめてよ」

 

「大丈夫だって。フランは本当に心配症ね。私だって魔法をきちんと練習したんだから安心しなさい。…ほらね。貴方は今まで通りに過ごしていれば大丈夫よ」

 

そう言って掌に炎を出現させる。フランに教えてもらいながらだったがこれでもかなり頑張ったと思っている。少なくとも今大人の吸血鬼が攻めてきても少しの間魔法だけで応戦できる程度にはなった。その後は結局自分の手で応戦することになるだろうけど。

 

「今はこの夕食を食べましょう。これからしばらくの間はこうして一緒に食べることも無くなってしまうのだし」

 

「そうだね……これが最後の晩餐にならなければいいけど

 

フランは独り言を呟いたつもりだったのかもしれないが私の耳にはしっかり聞こえていた。しかしここでそれを言うのは野暮だという物だろう。私が死ぬ未来は今のところ無いから最後にはならないと思うけど一応注意だけしておいた方が良いかもしれない。フランの勘はよく当たる。

 

この二年間何も魔法の練習だけをしていたわけではない。まずは近くの町の復興の援助をしてやった。この館の領地に入っている以上関係を悪化させないようにするのは必然だ。

それに反抗する気を失せさせることで二年前のような悲劇が起こることも防ぐことができる。癪だが面倒なことを未然に防ぐために町を魔物から護ってやるという慈善活動じみたこともしている。

 

だがこれによって領地内の町との関係は見違えるほど良くなったといえる。初めは私を疑っていた人間だったが少し魔物から護ってやればすぐに信用してくれた。扱いやすい生き物だ。援助すると言ってもあまり富んだ町にならないように調節している。力の無い人間は扱いやすいが力と富を持った人間は途端に扱いにくくなるからだ。

 

この辺りは初めは難しく感じたが今ではもう慣れたものだ。定期的にこの館に貢物を持って来させるようにしているのでこの館にも十分リターンがある。

これが正解なのかはわからないが館の経営は波に乗ってきているのではないだろうか。

 

 

そこで次なる計画を始めることにしたのだ。つまりここの領地外への進出である。自らの領地とせずとも経済は支配できるのはずである。東から入ってくる品の交易路の門となる事で経済支配をねらうのだ。

私が黒幕だと悟られないように慎重に行動しなければならない。黒幕がこの館だとバレるとまた厄介な人間たちが送られてくるに違いない。ただでさえ減ってしまった使用人だ。これ以上削られるのは不味い。

 

拠点は出発地点の中国に加えて途中立ち寄るソグディアナ、他のルートであるインド、そして全てが集まるアラビアの四つだ。すべての場所に私が信頼できると判断した者たちを三人ずつ配置している。明日からの小旅行で全ての場所を一度回る。

 

まずは最初の中継地点であるソグディアナ、そして今回の一番の目的地である中国、帰りにインドとアラビアに立ち寄るつもりだ。勿論人間が寝静まっている夜中にだが。本来なら私が行く必要もあまりないのだが一応の現地調査もかねて行くことにしたのだ。

 

 

 

「気を付けてネ、お姉様」

 

と散々フランに心配されて館を出てから早二日。ソグディアナは特に問題も無く寄ってこれたし中国にも昨晩予定通り着いた。思いのほか寒かったせいでほとんど炎を纏っているような見た目で飛んでいたのではないだろうか。私の眼には人間は映らなかった。魔物や妖怪の類ならいくつか見かけたが一瞬だったので恐らくあちらの眼にはただの光にしか見えなかっただろう。

 

そして今、私は商人との交渉中に現れた護衛と名乗る者と相対している。

 

「どうしてお前のような小童が人間に手を出そうとする?」

 

「別に手を出そうとはしていないだろう? 私はただあの商人たちとの交渉をするつもりだっただけさ。私はこの交易路を支配する。そうすれば我が館も安泰となろう」

 

面倒なのは相手もかなりの実力者だという事か。

 

「お前は明らかに妖怪の類だろう? どうしてそこまで人間に味方する。人間に手を出さないと言っているのにまだやり合う気でいるというのは正直に言って異常だ。いったいお前には何があったというのだ?」

 

「そんなことはお前には関係ないだろう? 小娘よ。お前も妖怪の類であるのだから長く生きればわかるようになるのかもしれないな。

人間に手を出さないというのは信じがたいのだ。特にお前のようにろくに生きてもいない小童妖怪の言葉はな」

 

なかなかに頑固な奴だ。今は使用人たちもここにはいないので(というか私が勝手に抜け出してきたので)邪魔をする者はいない。思う存分暴れることも可能ではある。

 

「武とは極めれば組んだだけで相手がわかるようになる。どこからでもかかって来なよ。お前が信用するに足る妖怪かどうか私が判断してやろう」

 

やるしかないか。ここで退けば私の計画は全てではないが狂ってしまう。少なくともソグディアナ方面の道は使えなくなるとみていいだろう。

相手は丸腰。一見すればただの人間にしか見えない。だからこそ人間に紛れて暮らすことができているのだろう。しかしこの妖怪から感じ取れる威圧感は今までに感じたことも無いほどだ。あの時のフラン以上にこの妖怪は大きな相手に見える。

 

「ほざけ。今にその顔を地につけてやろう。小さいからって私を甘く見ない方がいいよ…ふんッ」

 

「ッは! 誰が甘く見るものか。お前から感じ取れる気は確かに強者のそれだ。その歳にしては破格の実力さ。だが私だって負けるつもりは無い。伊達に長く生きてきたわけじゃないさ」

 

私の蹴りを軽くいなして妖怪はまた構えをとる。子供とはいえ吸血鬼の膂力はそう簡単にいなせるものではないはずだ。

 

「お前……何故攻撃してこない。今の私は隙だらけだったはずだろう?」

 

いなされた反動で完全に隙ができていたはずなのに妖怪は攻撃してこなかった。目の前の妖怪はいったい何を考えているのだ。不気味で仕方がない。

 

「初めに言っただろう? どこからでもかかって来い、とね。私から攻撃することは無い。私の目的はあくまでも本来のお前を見る事だからな」

 

「…そうか。ならばこれはどうだ! 反撃せずにいつまでもつかねぇ?」

 

紅い槍。今の私の奥義に近いものである。普通の蹴りなんかでは確実に倒せない。だから私は二手目からカードを切るのだ。

 

「へぇ、面白い手を持っているじゃないか。だがまだまだ未熟。それに鍛錬不足だ。お前の拙い槍術などこれで事足りる」

 

そう言って妖怪は大木から枝を折り取って私の槍を受けた、ように見えた。だが実際には私の槍は完全に消滅させられていた。

 

「不思議そうな顔をするんだな。すべての生き物には精気と言う物がある。人も妖怪も植物も動物も全て同じ。今の私は折った枝にさらに精気を与え、お前の槍に籠められていた精気を奪っただけ。この枝がただの枝ならあの槍を砕くことはあり得ないさ」

 

今折り取ったことから考えても木の枝には元々何も細工されていなかったはずだ。あの一瞬でそれだけのことをしたというのか。

 

「…私の、負けだ。完敗だな」

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