「そのカリスマで私を救ってよ、お姉様」   作:小鈴ともえ

16 / 48
裏切りの少女

「まさか……こんなことが起こる運命が存在したというの…?」

 

私の作った歯車を狂わせる因子がこんな身近に存在していたなんて。この私が運命を操作されていたと言うのか? まったく腹立たしい事限りない。

気づくのはあまりにも遅くなってしまったがこの事実を知ったのならば対策を講じなければならない。最悪欧州全土を巻き込んだ戦争にも発展するかもしれないことは頭に入れておこう。

 

「えぇ、その様です。どうにも様子がおかしいので調査してみたところこのような事実が判明いたしました。まだ特定はできていませんがどうなさいますか?」

「どうするもこうするも無い。美鈴を呼んできて。あとは雇用主を教えなさい。事は一刻を争うわ」

 

この館の住民に被害が出る前に潰す。もう過去のような被害をこの館の敷地で出すことは許さない。美鈴を不在にするのは不安だが最終兵器とも呼べるフランが地下にはいる。そう簡単に館が落ちることは無いだろう。

 

「恐らく裏で糸を引いているのはエカルラート家と名乗るフランスの最大勢力かと。では彼女を呼んできますね」

 

折角軌道に乗ってきたと思っていたのに思わぬ横やりが発生していたなんて。交易路独占に使うための使用人の中にスパイが既にいたという事はお父様の時代からいたという事になるだろう。ずっとこの館の事情は吸い取られていたという事である。

フランが地下に幽閉されたことも、お父様たちが死んで幼い私が当主になっていることも。ただその使用人が現地に行ったのは失敗だろう。何故なら彼女たちの知らない新戦力、紅美鈴がこちらには追加されたからである。

 

常に情報を流し続ける算段だったのならば館に残って小細工をするべきだったのだ。しかし何故このタイミングでこのような行動をとったのだろうか。私たちを潰すつもりなのならば当主交代の直後にでも襲撃に来ればよかったはずだ。何か意図があってこれまで放置していたのだろう。それについても問いたださなければならない。

 

「お待たせレミリア。それで、何があったんだい? 私を緊急で呼び出すなんて」

「聞いていないの? まあ急いでいたのなら仕方ないわね。簡単に言えば裏切りよ。詳細は向かいながら話しましょう。早速出かけるから準備して頂戴。しばらくは帰ってこられないと思っておいてくれると助かるわ」

 

それにしても悪魔を裏切るとはなかなか面白い真似をしてくれる。いや、あちらにとっての契約主はエカルラート家だから契約の反故とはならないのか。

しかしどのみち制裁を加えることに変わりはない。特定できていないのならば血を吐かせてでも、拷問をしてでも真相を暴いてやればいい。こちとらお人好しの馬鹿ではないのだ。

 

 

 

 

エカルラート家で雇われていたサキュバスは決して力の強い存在ではなかった。しかしそれ故に目立つことも無かったのだ。そういった理由もあってスカーレット家にスパイとして送り込まれたのだ。レミリアが誕生する十三年ほど前の事である。

彼女にとっての使命はできるだけ目立たないように情報を搾取し続ける事。彼女はあたかも真面目な使用人であるかのように思わせるために面倒な大図書館の掃除をすすんで行っていた。

 

何故か。簡単な話である。彼女は自分の情報をフランスにあるエカルラート家まで流すために悪魔を召喚しようと考えていたのだ。すすんで行う者はおらず、また掃除をする各使用人たちの距離も離れているためにこっそり本を読むには最適だったのだ。

力も無く賢くも無かった彼女は悪魔召喚の方法を覚えるのに二十年近くを費やした。そして満を持して召喚した悪魔もそれほど強いものではなかった。それでも彼女の目的を考えればそれで十分だっただろう。

 

しかし彼女は思い上がってしまった。自分が誰かに命令する立場になったことが彼女を麻痺させたのだ。そしてあろうことかエカルラート家が望むスカーレット家の始末を彼女一人で行おうと画策した。あくまでも目立たず、水面下で全ての糸を操るために彼女は他の使用人を使う事を決めた。悪魔を使用人に憑かせ、まずは夫人と末娘を始末しようとしたのだ。

 

そして1507年□月△日、大図書館掃除に来た使用人の一人にターゲットを絞って悪魔を憑かせた。毎日一言だけでも日記をつけるほどに真面目だった使用人は日に日に狂っていき、☆日に対象のどちらをも殺すことも無く命を散らせた。

彼女の初めの計画は失敗に終わったことになるがここで情報搾取という目的において最重要な事柄が明らかになった。すなわちフランドールの能力と地下への幽閉である。

 

狡猾な彼女は自身の失敗は伝えずに獲得した情報だけを伝えた。その後も彼女は自身の正しいと思う事を続けた。館で働きながら手下の悪魔を使った近隣の町への恐怖の押し売り、スカーレット家への不信感を扇動して討伐隊を組ませる。

物事がうまい方向に進む度に彼女は優越感に浸った。しかし最も重要な事を彼女は見落としていたのだ。彼女自身の実力である。

 

悪魔の召喚に使った魔力は多くなく、契約はもう切れてしまうところまで来てしまっていたのだ。それすら知らずに彼女は悪魔を使役し続けた。

 

おまえのやかたにいたけいやくのきれたあくまをてばなさないとはなかなかひどいことをしてくれる。あくまとのけいやくをけいしするとどういうめにあうかわからせてやろう。これからせんねんかんおまえのやかたにはのろいをかける。あくまとけいやくするときにはちゅういするんだな

 

悪魔文字をレミリアたちにもわかる文字に起こしなおすとこうなる。

 

『お前の館にいた契約の切れた悪魔を手放さないとはなかなか酷い事をしてくれる。悪魔との契約を軽視するとどういう目に遭うかわからせてやろう。これから千年間お前の館には呪いをかける。悪魔と契約する時には注意するんだな』

 

だが魔界から送られて来たこの警告文も彼女に理解できるはずも無く執務室の引き出しの奥に隠された。つまりレミリアが発見したこの手紙は仕事に関する書類でも何でもなかったのだがそれをレミリアが知るのはもう少し先の話だ。

兎にも角にも悪魔との契約は本来絶対であるべきなのだ。契約の切れた悪魔はもう一度相応の対価を払って契約しなおすか帰すしかない。

 

そしてしばらく経って悪魔が強制的に魔界に送還された事を知った彼女は思い出したのだ。自身の無力さを。悪魔の力無しではもうスカーレット家で何もできないと悟った彼女はレミリアの考えた計画に真っ先に乗った。

館の外ならば移動もしやすく密告も容易になるだろうと見込んでの事だった。しかし彼女のとった行動はあまりにも露骨過ぎた。交易と流通で出た利益を秘密裏にエカルラート家へ全て流すことでエカルラート家を富ませようとしたのだ。

 

こうなってはスカーレット家に気づかれるのも時間の問題である。単純計算によって求められる額と実際にスカーレット家に入っている額がかけ離れていたからである。いくら少なく見積もっても、物価を考慮しても、人件費を差し引いても何をしても計算が合わない。

調査を入れれば判明する。そのため裏切り者が炙り出されるのは時間となるはずだった。しかしどうしてか五年間もレミリアには知らされなかった。スカーレット家使用人の怠慢だろうか?

 

そうではない。淫魔はその性質上、夢の中で相手に快楽を与える。相手が男性ならば女性の姿で、女性ならば男性の姿で夢に現れる。姿が変化するせいで本人を特定しにくく、また快楽に溺れた使用人たちはあてにならなくなる。

三人一組で拠点を作っているがゆえにサキュバスの能力は生かされやすい。万が一裏切り者が出てもすぐに発見できるよう複数人を組ませていたのが裏目に出てしまったのだ。一人なら簡単に特定できる。だが複数になると犯人にもアリバイができ始めてしまう。

 

裏切り者が存在するのは確実。その金が他の勢力に回っていることが確認されており、調査を進める中でエカルラート家の急速な成長も認められた。

使用人側としてはもう少し確実な証拠を押さえた上でレミリアに報告したかったのだろう。しかしいくら調べても全員にアリバイが確認できてしまう。まさかサキュバスの罠にかかっているとは思っていない使用人たちは仕方なく現段階の情報を伝えたというわけだ。

 

 

レミリアは美鈴と二人で夜の空を駆ける。向かう先はアラビア。最も物が集まる場所にして裏切りが確認された場所。運命の歯車が誰の手に渡るのか。それは神すら知り得ぬ難題である。




エカルラート=スカーレットのフランス語
名前考えるの超苦手なんです。色々な作品の原作者様は当然の事、オリキャラ多数の作品を書ける人も本当に凄いと思います

因みに現時点で判明している数字(記号)の並びは△→☓→◯→▽→□→◇→◎→▲→☆
具体的な数字を当てはめることは無いです

サキュバスは女淫魔ですが両性具有説もありまして、今作ではそれを採用しています
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。