「そのカリスマで私を救ってよ、お姉様」   作:小鈴ともえ

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大変遅くなりました。ようやく再開できそうです

話の進行は相変わらずナマケモノが如く遅いですが


陽落ちて

 自分に自信が無い、と言うのは常に自分の言動を束縛する枷となる。口では、態度では尊大に、自分に絶対の自信を持っているように振る舞っている私でも一人になればまた別だ。

 先ほどレミリア嬢にはああ言ったが、実は普段眠るときにも棺桶は使っていない。暗くて狭く、日光が遮られているような場所であればたとえ掃除用具入れの中でだって私は寝られる。いや、そもそもあまり眠らないからこのようなことができるのだ。

 

 レミリア嬢も含め多くの吸血鬼は棺桶の中で眠ることが常識とされている。私の両親も兄もそうだったし私も昔はそうだった。部下の者にも一人一つ身体に合わせた物を作ってやっている。

 私も当主という立場があるので自分の物は当然ながら持っている。しかし使わないのは、今の私が棺桶で眠るという行為を恐れているからだろう。幼い頃簡単にできたことが成長するとできなくなるという話はこちら(魔物側)でもあちら(人間側)でもよく聞く話だ。

 私が恐れている理由をレミリア嬢が聞けば鼻で笑うかもしれない。部下に聞かせれば呆れられるかもしれない。

 

 

 神に仇なす悪魔としては非常におかしな話だが、私はどうやら懺悔をしたいらしい。悪魔が自らの過ちを認めること。これほどの笑い話は極東や新大陸まで行ったって見つからないに違いない。誰かが聞けば頭を棍棒で強く打ったのではないかと疑うだろうほどのおかしな話。

 

 だが私にとってそれは笑い話でもなければ奇妙な話でもない。罪だと感じている物が何なのかは私が一番よく知っているからだ。

 

 兄を殺したのは私を馬鹿にした兄のせいであると言い訳をしたことがあった。

 領土を広げるためと言ってむやみに戦を仕掛けたことがあった。

 部下が付け上がらないようにと常に厳しい態度を崩さなかった。

 難しい使命を失敗した部下には無能だと叫んだ。

 

 私という存在の全てが嘘。すべてがイツワリで作られた虚像であると知る者がどこにいるだろうか。毎日こうして眠らずに考え事をしていることを知る者がどこにいられようか。棺桶に入ることを恐れる吸血鬼がいることを誰が知り得ようか。

 

 

 あぁ、恐ろしい。あの中で眠る私を想像するだけで身の毛がよだつ。あれを見るたび兄の死が目の前をよぎる。

 殺したのに私の前から消えてはくれない。殺したからこそ消えていなくなってしまわない。

 

 私は何に縋っているのだろうか。あの日、兄の死体を入れた棺桶を焼いたのは私ではなかったのか。あえて人間がしているように埋めるだけでなく跡形も残さぬほどに焼き払った。

 人間ははるか未来における死者の復活を考えて死体を土に埋めるらしい。なればこそ私は兄の死体を残さなかったのだ。兄の怨みが私に憑かないように。

 

 怨みは残らずとも私の記憶には残り続ける。あの日以来、棺桶を見るたびに中に兄がいやしないかと不安になってしまうのだ。レクイエムを歌うことさえも許されない。それは死んだ悪魔への冒涜ともなろう。

 彼の鎮魂は願えない。忘れることは許されない。私はいつまででもこうやって尊大に生きて行かねばならないのだ。それが身内を殺した(遺された)者の運命だとでも言うのなら甘んじて受け入れるよりほかはない。果てしなく近い(遠い)未来には私もそちらに行くだろうから。

 

 

 ふと前を見ると暗闇が解かれており、私を見つめる紅い瞳と目が合った。そうか、もうこんなに時間が経ってしまっていたのか。

 私の入っていた場所はどうやら食器入れとして使われるはずであろう棚だった。何も考えずに入ってしまったが、もし食器が入っていたら大惨事だった。

 

「よく眠れたかい? 敵の屋敷で、しかもこんなおかしな場所だったようだが」

「ああ、レミリア嬢の来た音で目が覚めてしまったがね。なかなかどうして悪くない寝心地だった。それに敵とは言うがね、私は既に紅魔館に敗北した身だ。今更殺されても文句は言えまいよ」

 

 寝心地は知らないが、ここの居心地が良かったのは事実である。中にいる間に殺される可能性はあったがそれすらも心配するに及ばなかったようだ。

 それはこの館に吸血鬼が少ないからだろうか。吸血鬼はレミリア嬢とその妹、フランドール嬢だけ。他は低級から中級程度の魔物、そしてどうやら東方出身であろう魔物が一人。

 この辺り一帯を統べている一大勢力としてはあまりにも少ない構成要員。しかも戦闘に駆り出せそうな者は姉妹と東方の、あとは中級の一握りの魔物たちだけだ。

 

 これだけでよく勢力として保っているものだと感心してしまう。しかも部下が館にいた時にはこの東方の者もいなかったはずだ。末恐ろしい姉妹がいたものだ。今はまだ負けないだろうが、数十年後、あるいは十数年後には分からない。

 それにこの魔物が加わればこの館はまさに鉄壁というに等しいだろう。何人(なんぴと)も打ち崩すことはかなわず、如何に多くで攻め込んでも決して落ちない堅牢な城となっているかもしれない。

 

 

 

 

 こんな場所でよく寝られるものだと思う。そもそも棚の中など身体を横にすることもできず、座っていることしかできないから私なら余計に疲れてしまいそうだ。

 その前に私なら敵方の屋敷で寝ることが不可能だ。何時何処から攻撃されるか分からない状況の中で眠れるはずもない。たとえ当主が安全だと言っていても部下が将来の自分たちのために勝手に相手を殺す事など普通にありそうだ。

 

 悪魔の契約が恐ろしいのはここである。当主同士は安全であると契っていても部下一人一人とは契ることも無い。部下が殺しても契約は罰するだけの力をもたない。しかも契約主が死んだ瞬間に契約は反故となり破棄される。

 まさに悪魔の契約。自分の生は約束されているようでされていない。『部下もお前を傷つけはしない』は契約とあっても部下への強制力とはなり得ないのだ。

 

 今更殺されても文句は言えないとこいつは言う。しかし本当にそうだろうか。こいつの本心は分からないが、少なくとも私が見てきた中では最も生きたいと望んでいそうな奴だ。

 そうでもなければ自分を偽らないだろう。兄を殺してまで権力に縋らなかったのではないだろうか。何を思ってそのような行動したのかは知り得ぬことであるが。

 

「お嬢様、お食事の準備が整いました。エカルラート様もこちらにどうぞ」

「分かった。では行くぞ、エカルラート卿」

 

 フランスの言葉など知らない私からすればこれが最も適当な呼び方だと思う。あちらが私をファーストネームで呼びだしたのは恐らくフランと区別するためだろう。朝までは『スカーレット嬢』だったし。だから私があちらをファーストネームで呼ぶ必要はない。

 そもそも今まで相手に敬称を付ける事など無かったので違和感しかない。どこもおかしくなければ良いのだが。

 

「ああ。夕食は一日の活力だからな。話はその後かな?」

「その通り。不要だとは思うが心配ならば護衛を一人付けておいても良い。それにしてもお前は警戒心の欠片も無いのかい? それでよくここまで生きてこられたものだ」

 

 他人の館で護衛もつけずに堂々と寝たかと思えば今度は疑いもせずに食事の席についている。ここまで無警戒だとむしろこちらが猜疑心を抱いてしまう。

 

 ちなみに美鈴は今この場にいない。フランの方に行かせているからだ。彼女なら機嫌の悪かったフランをなだめてくれるだろうと期待している。

 

「分かり切ったことを言うものよ。ここまで散々隙のあった私を殺さなかったのに今から殺す気だったとでもいうのかね? ……ふむ、確かに油断した私を急襲する算段かもしれないというのは考え得る。しかしレミリア嬢はまだまだ世の中を知らないようだ。

 良いかね? 相手を油断させることは不確実でその分だけ危険もある。待つだけ不利になる事も多い。それならば確実に殺れるときに殺ってしまった方が良い。長く生きれば生きるほど経験は蓄積される。それは多くの場合若輩者の圧倒的な勢いすら受け流すのだ」

 

 経験か。時に老人の戯言にも聞こえるそれは確かに生きる上で大切になってくるものであるらしい。数年前に美鈴も言っていたような気がする。

『経験を積めば相手の次の行動が見えてくる。でもこれは経験の浅い者には全く分からないものなのだ。経験を積め』と。

 

 あの時は美鈴の能力か何かで次にどこから攻撃が発生するかを予測しているだけなのだろう、と思っていたが……どうやらそうではないらしい。年長者複数から言われれば納得せざるを得ない。

 

「何、経験は今から積むものだ。むしろまだ二十でそこまでの経験を積んでいるのは驚いた」

 

 自覚していないだけなのだろうか。確かに美鈴と鍛錬なるものをすることはあるが、いつも歯が立たないので成長している気すらしない。それでも他人から見れば、年の割には随分な経験を積めているらしい。そういうものなのだろうか。




食事シーンはカットして次回は話し合いからです
さっさとパチュリーさんも出てきてほしいんですがねぇ。あと三百五十年程度はあるという絶望感
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