その他では今まで通りちょこちょこ飛ばしますが
死にそう。冗談抜きで死んでしまってもおかしくないのではないだろうか。それくらい毎日が……そう
最近レミリアの様子がおかしい。つい数か月前からは、私との手合わせすらもやる気が出ないと言ってやめてしまった。ま、それまではほとんど毎晩のようにしていたから私が教えられることももうあまり残っていないのだが。
と言っても問題はそれだけではない。これは数年前からだがフランちゃんの部屋に来るのは随分遅いし、地上に帰っていくのは随分早くなった。
本当に食べるためだけに地下に来ているようにも見える。レミリアが私と手合わせをしなくなった辺りからは地下に降りてこない夜も多々ある始末だ。彼女の様子を見るに衰弱している事は無いようだが、それに近い事は起こっているのかもしれない。
誰の目にも明らかな異常。だが使用人たちはあくまでも使用人。その枠を超えた主人の心配など烏滸がましい事だと考えているのか、彼らがレミリアに何か進言する様子はない。
使用人たちが気づくくらいなのだから当然フランちゃんも気づいている。ここ数か月間でレミリアとフランちゃんがまともな会話をしたのは僅かに数回程度ではないだろうか。それもほとんどがフランちゃんから話しかけてレミリアが答えるだけの一方的な物だ。
無気力……なのだろうか。他人の心配も気になっていないような雰囲気を纏い、唯一の家族であるフランちゃんともまともに会話しようとしないレミリアを元気づけるにはどうすればいいのだろうか。私はいったい何をしてあげられるのだろうか。
「レミリアを元気にしてあげられるのはもうフランちゃんしかいないと思っているんだけど、フランちゃん自身はどう思う?」
私には分からないから、レミリアの事を一番よく分かっていそうなフランちゃんに聞いてみる。人間が好きで一緒に仕事をしたことも多いが、心の機微を理解できるほど彼らに寄り添っていたわけではない。
だからこういったことは私一人では解決できようもないのだ。どこかおかしい。でもどこ
「私? うーん、そうねぇ……別にお姉様を元気づけられるのは私だけじゃないんじゃない? 見たところお姉様がああなっているのは疲れによるものだろうし、労ってあげれば何でも喜んでくれると思うな。問題はその方法なんだけどさ」
あれって疲れていたのか。てっきり嫌なことがあったから出来るだけ他人と関わらないようにしているのかと思っていた。相談にでも乗ってあげれば回復するかも、と思っていたがどうやらそれだけでは済みそうにない。
というかフランちゃんは原因にも見当がついていたのか。私が鈍いだけ? いやいや、フランちゃんが鋭いのだ。きっと。
「労うとなると料理かなぁ。美鈴は確か料理もできたよね? ……だよね。なら今すぐ、使用人が食事を作り始める前に厨房に行って来て。善は急げだよ。……いつか図書館で読んだ本に書いてあった気がするわ」
へぇ、料理か。確かに作れない事は無い。辛い物が多いからレミリアの舌に合うかどうかは保証できないが、ご主人様からの命令ならば仕方ないな。命令に背くのは従者として失格だから。
以前までならレミリアが起きてきていた時間のはずだが、ここ最近のレミリアの行動からすればあと一時間程度は時間があるとみた。主のための料理が冷めてはいけない、という信念のせいか最近は料理をする時間もレミリアに合わせて遅くなっている。
フランちゃんの食事の時間が遅くなる事に関しては一切の謝罪もない。彼ら彼女らからすればフランちゃんは主でもなく優先度が低いからだろう。それでも一応主人の妹なのだから一言くらい断りを入れるのが普通だと思うがそれすらない。
レミリアがフランちゃんに直接伝えると思っているからだろうか。だが残念ながら今のレミリアでは期待できないだろう。
まあいい。レミリアの食事が遅くなったおかげで一日の仕事が終わった後もこうしてしばらく時間ができたのだから。早く行って厨房は貸切にさせてもらおう。
レミリアの元気が無ければ館全体の元気が無くなる。レミリアが名付けた紅魔館、その名に恥じぬほど紅い悪魔であらねばならないはずのレミリアが本調子でなければ館は暗くなる一方だ。
疲れた…………本当に疲れた。今日も食事は食堂でした方が良いだろうか。フランには悪いが地下に行けるほどの余裕が全くない。
分かってはいるのだ。最近全くフランのところに行けていないことも。美鈴に迷惑をかけていることも。それでも私が今の状態から変われる気が全くしない。
忙しすぎる。あまりにも多くの事に手を出しすぎた。上手くいっているのは良い事なのだが、それ以上に多忙を極めて私生活が崩壊しかけている。
人間が関わることは昼間に処理するのが理想的だ。彼らは夜には寝てしまうから。逆に市場を握っている吸血鬼同士のやり取りは夜が理想的だ。吸血鬼は日光で焼けてしまうから。
昼も夜もすることがある。仕事が絶え間なく続いている。寝る時間がないわけではない。朝食が終わってしばらくはまだ人間も寝ている時間だからその時間は寝ることができる。でも最近は寝る事すら避けたくなってきた。
あのよくわからなかった夢を初めて見てからもう三十年も経つ。結局あの夢の内容は未だに謎のままである。
最近も極たまに同じような夢を見る。メイドっぽいのがいない時もあった。幼い時もあった。それでも紫がいない時は無かった。そしてフランが泣いていない時も無かった。
怖い。怖い。寝るのが怖い。フランを泣かせたのが私だったとしたら? まだ未来の事、なんて楽観はできない。分岐した未来、そのどこでも望みなどしていない結果はついてくる。
私の能力を絶対視しないのならばまだ楽観できる。どうせは予言に似た物だ、と思えればまだ気は楽だ。しかし既に一度当たってしまっている。既に三十年経っている現状。夢が現実となるのにあと何年かかるかわからない。それでも望まない未来ほど確実にやってくる。
夢を見たくないから眠らない。眠れない。
「入って良いかい? 食事ができたよ」
「め、美鈴? どうして美鈴が?」
扉を開けると本当に美鈴がいた。いつもはここまで来ることなんてないのに。驚いた拍子か、それとも最近まともに声を出していなかったからか、おかしな声が出てしまった。
「いや何、今日は私が食事を作ってみたんだよ。久しぶりだったから出来はいまいちだけどね。さ、フランちゃんのところまで行こうか。疲れているんだろう? 負ぶってあげるよ」
なんだかちょっとばかり勘ぐってしまう。何せこうなったのは昨日今日の話ではない。ここ五ヶ月くらいはこの調子なのだ。それが急にこういった対応をされれば流石に怪しい、そう思うのは至極真っ当なものだと思う。
考えすぎか? まあ今更美鈴に私を害する気なんて起きないか。それに丁度疲れているし、身体を預けてフランのところまで運んでくれるならばありがたい。フランには会いたいし。
「よっ、と……うーん、随分軽いねぇ。出された食事は全部食べるのが作ってくれた者への最低限の礼と言うものだよ。残すというのは間接的に不味かったと言っているようなものなんだ。あまりにも失礼だと思わないかい?」
耳が痛い。でも私だって残したくて残しているわけではない。不味いなんてことはもちろんありえない。ただ食事が喉を通らないだけだ。
だが作る側からしてみればそんな言い訳は通用しないらしい。どうしても味で判断したと思われてしまうというのか。部下の事を考えられない上司など…………はぁ。
お残しは許しまへんで