「そのカリスマで私を救ってよ、お姉様」   作:小鈴ともえ

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ハートフェルトファンシー

 私の能力は運命を操る物であることが分かっている。効果だけを聞けばどれほど凄い能力なんだと思われるかもしれない。だが実際にはそれほど素晴らしい事ができるわけでもない。

 分かっている物ではごく簡単な直後の未來を視る、いつ起こるかも分からない大きな出来事を予知夢として見る、他人の辿る運命をわずかに変化させる、の三つくらいだ。このうち後者二つは私の意思に関係なく働く。

 

 つまり私が自身の能力で意図的に何かしようと思ってもほとんどできることは無いのだ。精々数時間後の様子を視たい時に使える程度。

 二つ目はそもそもいつ起こるか分からないのであまりあてにならない。内容も毎回異なるし。そして最後三つ目だが、これは本当にオマケ程度の効果だ。

 

 私と関わり合った者は珍しい物に出会いやすくなるとか何とか。噂では北の方の湖で巨大な影を見たとか、光を放ちながら飛行する物体を見ただとか面白くも無い物ばかりだ。

 どうせ湖で見た影もそこに住む魔物か何かだろう。或いは魔法で幻覚を見せられたか。飛行物体についても鳥か魔物かだろう。フランによればフェニックスも存在するらしいし、火の鳥ならば光っているというのも納得できるし別に珍しいと言うほど珍しいとは思えないものばかりだ。本当に能力が発動しているのかがよくわからない。

 

フランの能力はあんなにもわかりやすいものなのにねぇ。

 

「わかりやすいからこそわかりやすく遠ざかられるんだけどね。でもなんで急に私の能力の話になったの?」

 

 む、声に出ていたか。本を読んでいるふりをしながら実は考え事をしてましたーなんて言っても呆れられるだけだろうし……うー、どうしたものか。最低限の姉の威厳を保ちつつ何とか言い逃れする方法は…………

 

「あっ、もしかしてさっきまでしてた考え事について? …………え? だって手止まってたしお姉様こっち見てたよね」

 

 あらら、気づかれてら。それにしてもフランも本を読んでいたはずなのに、どうして私がフランを見ていたのが分かったのだろうか。不思議不思議。

 何にせよ私の『姉の威厳を保とう』計画は見事に破壊されてしまった。これもフランの能力の一部なのだろうか、なんてあり得ないことまで考えてしまう。つまりなんだ。わかりやすく動揺してしまっているわけだ。

 

 フランもフランでそんな私の事を笑うわけでもなく、ただただ純粋に不思議そうな目で見てくるのが辛い。どうせなら嘲笑ってくれた方が気も楽になるというものだ。

 

「……はぁ~、ええそうよ。フランの言う通り、私は途中から本を読むのをやめて考え事をしていたわ。フランは私の能力をどう思う?」

「お姉様の能力? 運命を操る能力の事? そうだね、素直に羨ましいよ。私みたいに無条件に恐れられる物じゃないし、何よりも便利だからね」

 

 確かに便利ではある。それでも自分ですら理解して使っているわけではないし制約も多い。未來視も勝手に発動するわけではないので今のところ使い勝手は良いと思えない。

 むしろ予知夢として変な悪夢を見せられるのだから不安の種にもなっているのだ。ここ最近はまた以前までとは別の夢を見るようになったし。例の夢はまだ実現していないのだがどういう事なのだろうか、と変に勘繰ってしまうのも仕方ない。

 

「私の能力が便利、ねぇ。今のところそんなに恩恵を受けてきた気はしないけれど」

 

 精々予知夢くらいか。あとは必中の運命を乗せて投げるグングニルか。何かあることが分かっていなければ能力を意図的に使う気にもなれないしねぇ。

 大事がは大概急なうえに予定外のところから来るものだ。よほど念入りに能力を使用していなければ、結局対処はその場で考えなければならないということになる。恩恵を得る前に事が終わってしまうケースが少なくないのだ。

 

「やっぱりお姉様には自覚ないんだね。お姉様が他人と関わるとその人は数奇な運命を辿るようになるんでしょ? お姉様が関わったことで人生が大きく変わった人も多いんじゃない? 身近なところだと美鈴とかほら、なんだっけあいつ……そう、デニ・エカルラートとかさ」

 

 ドニ、ね。

 ううむ、そう考えれば確かに私は彼女らの人生の転換点にいるのかもしれない。美鈴なんて私と会わなければまずこちらには来ていないでしょうし、エカルラート卿も私の浅はかな提案になど乗ってこなかったかもしれない。

 でもそう考えれば気になる事が一つ。

 

「もしかしてフランが地下送りになったのも私のせいじゃないのかしら」

 

 普通は生まれたばかりの子が親から地下に閉じ込められる事などあり得ない。それこそ珍しい事の典型のようなものではないか。

 

 まだ運命の”う”の字も見えず、能力の片鱗すら見えてなかったあの時も、無意識的に能力が発動してしまっていた可能性は捨てきれない。

 何せあの時は既に五歳。フランがわずか数か月で能力を見せたことを考えれば、実姉である私の中に眠っていた能力があの頃に使えていても不思議ではない。無意識的に発動するせいで制御もできないし。

 

「あー、言われてみれば確かにそうかもしれないね。まあでもその事について特に恨んではいないよ。五十年前のお姉様に文句を言っても仕方がないし、それにお姉様はほとんど毎日会いに来てくれるしね。精神が安定しているのはそのおかげかな。

 お姉様は気づいていないと思うけど美鈴も運命を変えられて良かったと思っていると思うよ? ね、そうでしょ美鈴」

「あらら気づかれてたの? 二人の死角にいたし気配も消していたはずなんだけどなあ」

 

 そう言って部屋に入ってくる美鈴。全然気づけなかった。美鈴の気の使い方は組手やらで散々学んだ気がしていたが、それでもまだ足元にも及ばないのだろうか。最近できていなかったとはいえ少しだけ悔しい。

 

「この地下に魔法をかけているのは誰だと思ってるの? 気配を消しても魔力は消えないからね」

「ああそうか……で、レミリアと会ったことについての話だっけ?」

 

 ああしっかり話は聞いていたのね。料理を持ちながら気配も消して……というのはかなり大変だろうと思うのだが。

 身をひそめるならば音も出してはいけないし、自分の事に神経質になれば他の事は耳に入らないものだとばかり思っていた。常に細やかな気遣いをしているからだろうか。流石だわ。

 

「私はまあ会ってよかったと思っているよ。結局人間とはほとんど関われていないけどそれが無くても新たな楽しみができたからね」

 

 そう言ってフランの頭を雑に撫でる美鈴。フランもフランでキャッキャと楽しそうにしているので何も言えない。果たして主従とは何だったのだろうか。

 

「レミリアにも理想があるんだろう? 私はどちらかと言えばお前の真っ直ぐさに魅かれた、と言った方が正しいのかな?」

「お? 美鈴はお姉様を狙ってるの? ダメよダメ。お姉様の一番は私なんだから」

「じゃあフランちゃんは敵だね。ふふん、負けないよ」

「私だって負けないもんね。主人の力を思い知るが良い~」「うわーなんてことー」

「何やってるのよ貴方たち」

 

 本当に仲のいい主従だ事で。そこに主への尊敬が含まれているかは別として。

 

 それにしてもこの二人はもう完全に話の本筋を忘れているな。こうなってしまってはもう蒸し返すのも面倒だ。さっさと話を終わらせるのが賢明であると判断した。

 

「折角の夜食が冷めるわよ。早く食べましょうよ」

 

 仲が良いのは良い事だが、それが過ぎると私の入る隙が無くなってしまう。

 それは少し、悔しい。

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