「そのカリスマで私を救ってよ、お姉様」   作:小鈴ともえ

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レミリアちゃん五歳が賢すぎる気がしてきた


悪夢日記

やってしまった。まず初めにそう思った。使用人を殺してしまった罪悪感は特になかった。だってあれは自己防衛のための殺傷だったから。

私が何もしていなければ私は確実に死んでいただろう。お母様も口封じとして殺されていたかもしれない。無力化なんて高度なことはまだ歩けもしない私にはできない。

 

だから殺してしまうしか生き残る道はなかった。半端な攻撃では主に命が精神に依存している妖怪を倒せない。ただ私にはそんな妖怪も倒せる能力(ちから)があった。

 

『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』

 

原作のフラン同様私もこの能力を勿論持っている。原作でなら隕石をも破壊できる強力な能力だ。もし私が転生者(わたし)でなかったらフランは何も理解できずにその生を終わらせてしまっていたかもしれない。もしかしたらお母様が助けてくれていたのかもしれない。

 

私がこの能力の存在を知らなかったとしてもそうなっていた可能性はある。だが幸いなことに私は能力を知っていたし、大まかな使い方も知っていた。

ただ生後まだ二か月しか経っていない私では流石に力不足だった。本来なら一度『目』を握ってしまえば相手は破壊されてしまう。

 

この使用人が悲鳴を上げたのは一度で破壊し尽くせなかったからである。先ず吸血鬼にとって一番危険な銀製のナイフを持っている腕。次に脚、そして頭。

 

頭を失っても身体は僅かな間だけ動く。だからこそ先に危険を排除する必要があった。それが悲鳴に繋がってしまったのだけど。

 

 

部屋に来たお父様は一瞬ひどく狼狽えていたように見えたが、次の瞬間にはお母様の安否を確かめようとしていた。流石は長く生きてきただけある。

 

因みに言うとお母様はただ気絶しているだけだ。あの使用人が入ってきた音で目が覚めたようだが、急に腕や脚が爆散していくところを見て仰天したんだと思う。

私がやっているとは思わなかったのだろう。見た目だけはまだまだ赤子だから。

 

お父様のすぐ後にレミリアも来た。彼女はよく私と遊んでくれる優しい姉だ。当主になるための勉強もゴリゴリやっているらしい。

まだ五歳なのに大変なものだ。英才教育というわけでもなさそうだし。

 

 

結局私は地下に幽閉されることになった。そう、これで良いのだ。こんな危険な能力を持っている私は地下に幽閉されるべきなのだ。決してお姉様や両親に迷惑をかけないために。

ただ一日一時間は会う事ができるらしい。

 

精神安定のためだろうか。精神発達に重要な時期という事もあるのだろう。私はもう発達しきっているからなくても大丈夫なのだが。

………お父様の眷属たちは無理。あれはただの人間だった私にはホラーなんかよりよほど恐ろしい。泣いても仕方ないと思う。ただでさえ赤子の身体のせいで泣きやすいのだから。

 

一日一時間でもお姉様たちに会えるのなら495年なんて苦でもないかもしれない。妖怪は時間の流れを人間ほど気にしないし。能力の制御の練習でもしていればすぐに百年は経ちそうな気がする。

 

 

 

 

 

結局フランが幽閉されるのを黙って見ているしかなかった。あの子は地下に連れていかれた時も泣いていなかった。親が自分の元から離れて行くというのに涙一つ流さなかった。

 

幽閉期間は未定。あの子の持つ能力は危険すぎる。それは私にも理解できた。でもお父様たちが一番驚いていたのはまだ生まれて間もない子が能力を使用した事である。

私はまだ能力があるのかないのかすらわかっていない。普通はそんなものだ。早くても三歳くらいにならないと能力は開花しないと思われている。

 

そもそも能力を理解するのが難しいはずだからだ。それをあの子は二か月でやってのけた。まさに天才児だ。もし彼女の姿が私やお父様たちと同じで、能力もあんなに危険では無かったら間違いなく次期当主はあの子だっただろう。

 

勉強を教えてあげるときが楽しみだ。彼女はどれほど早く知識を吸収するだろうか。長い時間会えなくなったのは悲しいが、その分私も一生懸命勉強をすれば良いだけだ。

彼女を早く地下から出してあげるために。

 

「そう言えば貴方。どうしてあの使用人は急に私とフランドールを襲ったのかしら。何か恨まれるような事をしたとも思わないのだけれど」

 

確かにそうだ。権力が欲しいのならお父様を始末するのが一番早いはず。使用人にできるとは思わないが。フランとお母様を人質に取るつもりだったのだろうか。

 

「これを読んでみろ。あいつはご丁寧に日記など書いていたらしい。中身はひどいものだがな」

 

 

 

1507年◯月△日

 

   スカーレット家に新たなるご息女が誕生した。

   フランドールと名付けられたようだ。

 

 

1507年◯月×日

 

   今日は水回りの掃除の担当だった。

   カビなど当然生えていない。きれいなもので掃除する場所に困った。

 

 

1507年◯月◯日

 

   今日は地下室の掃除の担当だった。

   毎回思うが長年使われていない場所まで掃除させるなんて当主はきれい好きなようだ。

 

 

1507年◯月▽日

 

   今日は料理担当だった。

   血の在庫はまだ大丈夫だ。肉もまだ残っている。

 

 

「見た感じえらく普通の日記ではないの?どこがそんなにひどいのかしら」

「最近の日記を見てみなさい。一週間ほど遡ればいいだろう」

 

 

 

 

1507年□月◯日

 

   今日は料理担当だった。   

   健康に良いらしいし、炒った豆でも入れてみようか。

 

 

1507年□月▽日

 

   今日は庭掃除の担当だった。

   木陰を作る大きな木を伐採するのは同僚に止められた。

 

 

1507年□月□日

 

   今日は大図書館の掃除の担当だった。

   だんだんここで働いているのが馬鹿らしくなってきた。

 

 

1507年□月◇日

 

   私はこんな場所で腐ってしまうような妖怪ではない。

   必ずこの館から出て最強の妖怪集団をまとめてみせる。

 

 

1507年□月◎日

 

   フランドール様の羽飾りを売れば簡単に大金を得られるだろう。

   御夫人対策のために銀のナイフも用意した。準備は万端だ。

 

 

1507年□月▲日

 

   決行は明日の昼間。御夫人もご主人も眠っているであろう時間だ。

   明日の今頃、私ははもうこの館にはいないだろう。

   この日記は私の偉大な道の第一歩目を記録した書として価値を上げるに違いない。

   明日はこの日記も忘れないようにしなければならない。

 

 

 

日記はここで終わっている。日付は昨日。この一週間でだんだんと精神がおかしくなっていたようだ。吸血鬼の弱点をわざと突こうとしたり、雇われていることに不満を持ったり。

そして挙句の果てにはフランを殺そうとしたり。

 

あぁそうだ、この日記は非常に価値のある物だ。そして日記を書いた使用人はもう館にはいない。皮肉にもお前の望んだ通りになったのだ。ただ一つ、金持ちになれなかったことを除いて。

 

「どうだ、ひどいものだっただろう?金に目が眩んだ者はこうなってしまうのだ。皆が皆とは言わんがな。レミリアも気をつけた方が良い。信用していた従者に裏切られる主人なんてものはこの世界にいくらでもいる。私もそうなってしまった」

 

金…豊かな人間が生活をより豊かにするために生み出した金属の板。豊かな者はより豊かに、貧しい者はより貧しくする悪魔のような物だ。

しかしそれなしでは人間たちは生きていけない。盗みや殺人をすればまた別だろうけど。

 

しかしあの使用人は生きるためではなく自分が偉くなるためにフランを殺そうとした。私にはそれがどうしても許せない。

 

真に集団をまとめられる者は金がなくても良いのだ。相手を惹きつける魅力と集団を率いるカリスマさえあれば妖怪たちは勝手に寄ってくる。

金の力で従えても寝首を掻かれる可能性は非常に高い。心から忠誠を誓っていない者ばかりだからだ。それは富と名声が欲しいだけの屑の集まりである。

 

私が求めるのは心からの忠誠。金でも、強さでもなく、どこか惹かれるカリスマを私は追い求める。もうフランを狙われないようにするために。

信頼できる従者を持つことができるように今は只管鍛錬と勉強を。

 

普段の態度から改めなければならない。そうと決まれば親には敬意を持って接する。妹には慈しみを持って接する。未来は自分で作りだす。私の運命は誰にも決めさせない。




悪夢(を見ることになる者の)日記
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