「そのカリスマで私を救ってよ、お姉様」   作:小鈴ともえ

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ただし内容は暗め
私の書く物はどうしても暗くなりがちなのが反省点ですね。底抜けに明るい話を何処かで書きたい

あと小説検索画面が20作品ずつになっていることに今更気づきました。正直10作品ずつの方が全体のバランスが良かった気がします


魔法少女達の百年祭

 夜も更け、美鈴との特訓も終わった私は自室に戻りながら先ほどフランに言われたことを反芻している。

 

 

 

 

 

 

 

 なんてことは無い日常。起きたら地下に行き夕食を一緒に食べて地上に戻る。その日に残っている仕事の量よって美鈴との特訓をするかが決まるが、それ以外はルーティンのようなものだ。

 今日だってそれは変わらなかった。いつも通りに目覚め、いつも通りに地下に降り、いつも通りに美鈴が食事を運んできた。いつもと違ったのは部屋に大きな箱が置いてあったことだ。当然気になった私は思い切ってフランにそれが何か尋ねてみた。

 

 曰く贈り物らしい。贈り物をもらえば誰だって嬉しいはずだ。でもフランは何故か少し複雑そうな顔で答えてくれた。

 

「送り主はエカルラート。お姉様、今日が何月何日か分かる?」

「ええ。確か◯月△日のはずだけど……それが何か関係あるのかしら?」

 

 唐突に今日の日付を聞かれた理由は分からなかった。何せフランの部屋にも日付が分かる物は置いてある。わざわざ私に聞くまでもないだろうと思われたからだ。

 それに何か今日の日付に思い当たる節も無い。聖者が磔にされた日でもなければ復活した日でもない。それに今は夏前。お父様たちが殺された日でもないだろう。となるといよいよ何の日か分からない。ただ単純に日付を聞きたかったわけではないだろうから意図はあるのだろうがそれが何なのかさっぱり予想もつかなかった。

 

「やっぱり覚えてない? 私も久しく忘れてたよ。お姉様は自分が生まれた日が何月何日か知ってる? ……うんまあ知らないよね」

「もしかして今日が私の生まれた日ってわけ? 初耳なんだけど」

 

 そう言うとフランからは違うと否定された。私の誕生日は間違いなく不明だという事だ。魔法で調べようにも当人が誕生日を自覚していない以上そこに魔力が込められないらしい。

 どういう理屈なのかさっぱり分からない私のためにフランが例を使って説明してくれた。

 

 遥か東には言霊という考えがあるらしい。言葉に出せばそれを叶えるための霊力がそこに込められるというものだ。

 魔法も同じようなものらしい。本人が自覚しているからこそその情報に魔力が込もる。その魔力を呪文の詠唱なんかを媒介して読み取ることでようやく観測できるらしい。つまり元々魔力が込もったものが無ければ魔法で観測することはできないのだとか。やはり難しい。

 

 今日は私の誕生日ではない。という事は……

「そう。今日は私の誕生日なの」

 

 いったいどういう事? 私の誕生日が分からないのにどうしてフランの誕生日は分かるのだろうか。

 

「不思議そうな顔してるね、お姉様。でも忘れてても仕方ないよね。もう百年も前の事だもの。これが何か、分かる?」

 

 そう言ってフランが見せてきた物はかなり古い本のようなものだった。残念ながら見覚えも無いが、もう百年も前の事に関する本なのだそうだから忘れているだけかもしれない。

 

 中を見てみれば思い出すかも、と手渡されたのでパラパラとページを捲ってみる。中を見ればすぐに思い出した。

 

 

 

 

 

 

 今手元にある本がその日記帳だ。あの時私は思わず自分を責めた。フランの誕生日を忘れていたからではなく、この日記帳の存在を忘れていたからでもない。ただ誤解し続けていたことを深く悔やんだ。

 

 

 1507年△月★日

 という日付から始まるこの日記帳の主こそフランを閉じ込める要因になった屑野郎だと、そう信じて疑いもしなかった。あの頃はまだ五つになったばかりだったのだから、そう思い込んでしまうのは仕方のない事だったのかもしれない。

 だがその後しっかりとこれを確認することも無く今に至ってしまったことは失敗だった。私は見当違いの相手をずっと恨み続けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

1507年△月★日

 

   ご息女は妹君か弟君がお生まれになると知って小躍りして喜んでいた。

   レミリア様の時にはつけていなかった日記だが、この際新しくつけてみようと思う。

   私の記録ではなくレミリア様達の成長記録になるやもしれんがまあ良い。

 

 

 

 すべてはここから始まっていた。これを読む限りではフランの幽閉の原因は彼ではなかったらしい。これを読む限りどうにもそんなことをするような性格には見えない。

 今改めて冷静に見れば、犯行一週間前程度からの性格の豹変ぶりは明らかにおかしい。操られていたと考えるのが妥当だろう。

 

「思い出した? これはどうやら私が壊しちゃったらしい元使用人の日記。でもさ、これっておかしいと思わない? 書いていたのは紅魔館の使用人でしょ? でもこれを持って来たのはエカルラート。正確にはそこのプレゼントと一緒に入ってたの」

 

 フランの誕生日を正確に記してあるのは恐らくあの日記帳のみ。確かに紅魔館にあったはずのそれはいつの間にかエカルラート卿に渡り、百年の時を経て返された。

 所有者が死んだ後もお父様が持っていたように、この日記帳は紅魔館にあった。したがって件の使用人は内通者ではないと考えられる。

 

 となれば話は早い。この館においてただ一人敵対していたエカルラート家のスパイであったサキュバスの使用人。あいつがこの日記帳を持っていたやつを操り、フランを殺そうとしたのか。

 思考の飛躍がある気もするが、これならば問題なくほとんどすべてが説明できる。日記帳がエカルラート卿の手にあったことも、あの使用人が突如おかしくなったことも、フランを殺そうとした動機もだ。他人を操るっという事に関しては前例もあった。

 

「日記帳の最後のページを見てみて」

 

 日記は当然1507年の□月▲日で終わっている。次の日に事件を起こして死んだから。

 だが最後のページにも何やら書かれているのが見て取れる。所々掠れていて非常に読みにくいが何とか読めないことは無い。

 

 

 

 

1607年◯月△日

 愛なるフランドール嬢。

 百歳と言う節目を私自身が祝えることに大変な感激を覚えている次第である。同梱した贈り物は気に入っていただけただろうか?

 レミリア嬢に聞いたがフランドール嬢は魔法が好きだという事だ。贈り物として強力な魔導書を贈ろう。早速是非使ってみてくれたまえ。

 

ドニ・エカルラート

 

 

 

 

「これを読んでお姉様はどう思った?」

「えっと…………律義、かしら」

 

 フランからの純粋な質問。どう思うも何も、祝ってくれているようだから喜べばいいのではないのだろうか。

 わざわざこんなことを書くくらいだから律義だなぁとは思う。でもフランはこの答えに満足していないようだ。正気か? という目で見つめてきた。

 

「正気? もっとおかしなとこがあるでしょ?」

 実際にそう思っていたらしい。でもこの文章を読んで他におかしなところか。強いて言うならばあまりにも悪筆すぎるところか。確かエカルラート卿の普段の文字はそこそこ整っていたはず。となると書いた奴がそもそもエカルラート卿ではない?

 

「そう、そこが一つ。でもその可能性は低いと思うよ。書いたのはエカルラートで間違いないと思う。別人だったとしてもエカルラートを騙る危険性くらいは弁えているだろうし、何よりもお姉様とあいつの会話の内容を知っているのはおかしいもの」

 

 確かにそうだ。そのような能力である可能性もあるが、日記帳の存在から部外者が関わっている可能性はかなり低いと見るべきだろう。

 

「そう。だからこの文章はあいつ本人が書いた物だと考えられるわけ。でもそうなるともっとおかしなことが出てくるの。お姉様がさっき言ったようにあいつは律義なんでしょう? ならどうしてこんなに雑な文を、読むかもわからないこんなところに書いたのかなぁ」

 

 さらにフランは言葉を続ける。普段最も近くでフランを見ているはずの美鈴も何も言えないままフランはしゃべり続ける。ここまで饒舌な事はあまりないので、美鈴も珍しい物を見るような目をしている。私も第三者から見れば同じような目をしているかもしれない。

 

「つい先日もあいつはお姉様を訪ねてきたでしょう? その時あいつは私の事も聞いてきたんだったよね。不思議だと思わなかった?」

 

 エカルラート卿がフランの事を聞いてきたのはこの前が初めてではない。だがフランに会いたいと言ってきたのは確かに初めてだったかもしれない。

 そう言う意味では不思議だと言えるのだろうか。だが別にこれがおかしなことだとは思えない。七十年年の付き合いがある相手の肉親と会ってみたいというのは至極当然の事のようにも思える。私は別にエカルラート卿の兄が生きていても会いたいとは思わなかっただろうが。

 

「ただ貴方に会ってみたいと言っていただけよ? どこか不思議かしら?」

「もし本当に会いたいのならばもっと早くそう言っていたと思うよ。あいつがこの館に頻繁に来るようになってからもう何十年も経ってるんだから」

 

 そうは言っても心の準備なんかが必要だっただけなのではないだろうか。破壊の力を目の当たりにし、それでもなお真正面から会う、と言うのは少々難しいと思う。

 数十年という時間も大人の吸血鬼にとっては大した年月でもなさそうだし。

 

「それよりもさ、お姉様は疑問に感じなかった? あいつを捕まえた後やけにすんなりと負けを認めたと思わなかった? あいつは私たちを殺すつもりでお父様たちの代から計画を練っていたはずなのに、ちょっと気絶しただけで負けを認めて交渉を受け入れたのはおかしいと思わない?」

「つまり……フランは何が言いたいの?」

「ふふ、お姉様なら既に分かってるくせに。意地悪ね」

 

 ああ、概ね読めている。だが何故? そのようなことがまさか起こり得るのか? 私はまさか、全てを間違っていたというのか?

 にわかには信じがたいし信じたくもない。エカルラート卿は良くしてくれていたじゃないか。それでも…………本当に……?

 

 

 

 

「あいつは敵だよ。明確に。紅魔館を潰すためだけにお姉様に取り入った屑野郎だ」




次回ももう少し続きます
サブタイトルは「プラスチックマインド」の予定

フランちゃんの誕生日覚えていたの0人説、あると思います。当然私は忘れてました
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