「そのカリスマで私を救ってよ、お姉様」   作:小鈴ともえ

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次回オリキャラが追加されます。当然出番はほぼ作らないですけど


偶像に世界を委ねて

 安心したのだろうか。フランはそのまま私の膝の上で寝てしまった。この寝顔を見ていると先ほど悪魔的な発言をしたような子には見えない。

 私がただ一人の肉親に対して死を命じる事なんてあるはずはないのに。そんなことをする時は私にとっての世界の終わりをも意味するのだろう。それだけ私の事を慕ってくれているのは嬉しいが、妹としてそんな覚悟なんて必要ない。

 

 大好きな妹にそんなことを言えるはずが無い。フランは平静を保てなくなった状態でも嫌っていないかを聞いてきたが、あのフランはもうここ百年くらい見ていない気がする。少し寂しい気もするが、ああならないのは今があまりにも平和だからだろうか。

 戦いの時に見られる、あの力強いフランも良いが、やはり今のように穏やかなフランの方が可愛いのは確かだ。

 

 いつものフランには言葉で、異常な時のフランには力で、私はいつでもフランに助けられて生き延びてきたようなものだ。否、フランだけではない。美鈴や執事たちがいなくてもやはり私は生きていられなかっただろう。

 私はその全てに感謝しているし、報いたいとも思っている。そこで言われた、フランも含めてこの館の誰もが私の駒であるという趣旨の発言。

 

 正直に言えば少し悲しかった。フランには、フランにだけはその事について触れてほしくなかった。自分をただの駒だと断じてほしくなかった。しかし結局それは私のエゴだ。確かに私は唯一無二のキングであり、他を動かすプレイヤーでもある。

 私の敗北は紅魔館の敗北。私の敗北とはすなわち死。それは理解している。昔私が捕まった時は何とか抜け出せたからこそ、殺されなかったからこそ完全敗北とはならずに済んだ。それも理解している。

 

 だがどうすればいい。私は館を、皆を護りたいからこそ最前線で戦いたい。他を傷つけたくないからそうなる前に殲滅してやりたい。当主とは家族を護るために存在するはずなのではないか。護られるべき存在ではないはずなのではないか。

 しかしフランは違うと言う。勢力の長は単なる当主として数えられるようなちんけな存在ではないと言う。勢力をただの個の集まりではなく一つのファミリーとして見た時、その長はすなわち当主となる。

 

 ただの家族ならば他に対抗する力は弱いが、主人が討たれても後継さえいれば家は潰れない。

 一方で巨大なファミリーという集団は、勢力とも言える大きな力で他に対抗することができるが、その主が討たれてしまえば途端に瓦解する。

 

 人間は主に前者で生活している。当主の交代の期間が数年から数十年と異常に短いからだろう。後者の形態の人間と言えば一国の王とかいう奴らだろう。なるほど、あれを見れば確かに当主は護られるべき存在であると言えよう。

 力を持たぬ人間(キング)が取られないようにその周囲を護衛に囲ませているのはなかなかに滑稽だが道理に反しているわけではない。問題はその周囲の駒も大した力を持っていないことだが、これは相手になるのも人間だから然したる問題に発展しないのだろう。

 

 

 

 扉を叩く音がする。扉を開けて入ってきたのは美鈴だった。そもそもここに来られるような者は私か美鈴くらいしかいないのだから当たり前か。

 

「レミリアいる? ってフランちゃんはもう寝てるのかい……今夜は早いねぇ」

「ええ。このままだと昼のうちに起きだしてしまうかもしれないわね。で、美鈴は何の用かしら?」

 

 ただフランと遊ぶために来たというのならば入ってきて早々私がここにいるのかを確かめる必要はなかっただろう。フランではなく私に何かしらの用事があって来たのは明白である。

 話を促せばやはり私への用事であった。何でも珍しくエカルラート以外の客人が来たようだ。エカルラート以外の吸血鬼と関わるのはかれこれ一世紀半以上ぶりではなかろうか。

 

「スコット家……ああ、あのスコットランドの一帯を纏めている家ね」

 

 現当主は確かステラ・スコットだっただろうか。昔領地を減らしている時に一度会ったキリだ。こちらがほとんど覚えていないのだからあちらも私の事を大して覚えてはいないだろう。

 

「あまり待たせるのも悪いわね。さっさと行ってくるわ…………いえ美鈴、貴方も私と来て頂戴。フランは寝かせておくわ」

「……レミリアがそう言うなんて珍しいね。彼女はそんなに強大には見えなかったけど。それとも心変わりかい?」

「ええ、少しばかりね」

 

 私から変わらなければ館は変わらない。誰かを頼る事。それは相手にも『自分はこの人から信頼されているのだ』という自信を植え付けることにつながる。

 少しでもその人の役に立ちたいという気持ちが強くなれば、そこから忠義は生まれる。全てを顎で使う必要はない。隣に立ってともに戦えばいい。

 

「さて、行きましょうか」

 

 だがはじめから一般の執事を頼るのは少々難易度が高いので、今回は美鈴を頼ることにした。美鈴は私に忠義を尽くしているわけではないが、少なくとも外から見れば一応私の下で働いているという体になっている。

 

 少し意地悪な質問をしてみようか。

 

「そうそう。美鈴は、私が死ねと命じたら……死ねるのかしら?」

「えぇっ?! 急にどうしたんだい? あ、もしかして性格診断か何かかい?」

「良いから早く答えなさい。正直に。ちなみにフランは死ねるらしいわ。まったく馬鹿馬鹿しいわよね。こんなあり得ないことを……」

 

 このような反応が返ってくるのは予想できていた。そりゃそうだ。急にこんな質問をされれば誰だって質問者の意図を窺うだろう。

 ここは正直にほとんど無意味な質問であることを仄めかしておく。美鈴からも真面目でなくていい、正直な返答が欲しいのだ。

 

「私は……無理だろうね。やり残していることがあまりにも多すぎる」

 

 それも当然の答えだろう。残念だとは思わない。むしろ変に飾らず、真っ直ぐな答えをくれたのが嬉しくもある。

 他人のために命を投げ出すことが美徳であると誰が決めるだろうか。命あっての物種というではないか。その言葉を教えてくれたフランが命を簡単に捨てられるというのはどこか皮肉に思える。

 

「だが…………もし私の命だけでレミリア、お前を助けられるのならば私は潔く死んでやるよ」

「どうして……どうして自分の命よりも私の命を優先するの? 死ねば何もできなくなるのよ? やり残したことも、その後の夢も追えなくなるのよ?」

「決まっているじゃないか。これこそ生きているモノの運命(さだめ)だからだ。年長者は常に若年者を助けるために生きている。未来があるのはいつだって私よりお前の方なんだ。小さな未来に縋るよりも大きな未来に託すのが当然だろう?」

 

 そんな、さも当然かのような口ぶりで話さないで。私にはまだ理解できないから。

 そんな目で私を見ないで。私はきっと美鈴が思っているほど素晴らしい未来を歩めないから。

 

 私のためだと言って貴方が死んで、フランが死んで。一人残される私はどうすれば良いの? ただ孤独に遺されたキングはどうやって相手に勝つの? 一生付き纏うであろう心の傷をどう癒せと言うの?

 

 美鈴たちは残される側の気持ちを何も知らない?

 そうではないだろう。フランは私と共に両親に残された。美鈴だって数えきれないほどの人間たちに残されたに違いない。

 

 その時に悲しんだのではないのか? ならばどうして他人を残すという選択を当たり前にできるのだ。

 

「美鈴もフランも死んでしまったら、きっと私だって死にたくなるわ。私はきっと永らえさせてくれた命を軽く捨ててしまう」

「それが先立たれるという事さ。大切な誰かが死んだ時、他の誰かが傍にいてくれれば良い。レミリアはフランちゃんがいたから両親の死を乗り越えられたんだろう?」

 

 あの時は悲しむ余裕も無く憎しみが湧いてきたというのもあっただろう。だが確かにフランだけでも残っていてくれたからこそ今の私がある。心の傷を癒せるのは同じ痛みを共有できる者だけ。

 裏を返せば一人になってしまった時点で私は何もできなくなるのだ。悲しみが癒えなければ立ち上がる事さえできまい。

 

「でもそうは言っても先立たれるのは悲しいものだ。ならば死ななければ良い。簡単な事だろう? 死ななければいつまでだって共に戦える。私にとってそれこそが死ねない理由になる。もっと私たちを頼れ、レミリア。お前は一人じゃないんだ」

「結局は貴方もフランと同じような事を言うのね」

 

 フランの場合は『ずっと一緒にいよう』だったが、これも突き詰めれば簡単に死ぬ気はないという事を示唆しているのだろう。

 残す、残されるを作らず、皆が残るような未来を描くために。

 

「ああ。家族だからね」

「思うところは皆同じ、というわけね」

 

 望む未来を手繰るため、運命の申し子たる私がいつまでも立ち止まっていることはできない。




最後に『しかし私はまだ気付いていなかったのだ。~という事に』的な文章を入れれば将来への展望もあってグッと引き付けられるんだろうなぁとは思いつつ。基本的に現在から見た現在を書く私の小説は続きが楽しみになるような魅力と言うかインパクトに欠けます。三人称なら自由に未来からの視点を得られますが……

何もしないままアカウントだけ作ってあったTwitterにもきちんと呟くようにします。内容は多分サブタイトルに込めた意味やら何やらかと。あとは他の小説関連と次回更新予定なんかもですね
URLも一応貼っておきます
https://twitter.com/ksztomoe
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