ちなみに今話のメインは後半
結局ほとんど私一人が喋っただけで一度目の会合はお開きになった。早々に圧をかけてしまったのがいけなかったのかもしれない。だがそれが無くとも、どうせ一度目から上手くいく事などあり得ないのだからあまり気にする必要もあるまい。
全員を見送った後で、紅魔館の者たちを集めて本当の会議を始める。これまでのものはいうなれば親睦会。計画段階で内部分裂を起こさないための下準備だ。
計画自体は私たちだけで綿密に練る。その上で当主会議を以て発表し、改善、決定をするという流れになるはずだ。
「お待たせ。私で最後かい?」
「ええ。これで全員揃ったから始めるとしようか。先ず何か意見のある者は?」
「はい。よろしいですか?」
「ああ。好きに話してくれて構わない」
普通の執事が意見してくるとは驚きだ。ただこの場に座っているだけの木偶でいるつもりかと勝手に思っていたが……いやありがたい事だ。よほどおかしな意見でもない限りは如何なる意見をも尊重する心づもりがある。
「先ずレミリアお嬢様の言うところによれば、敵は少なくともアイルランドとウェールズを獲ったあとのスコット家。そしてエカルラート家も参戦してくるだろうということでしたね。となれば我らはもはや三方を敵に囲まれた状態です。この三方、特に南側の吸血鬼家には真実を話してしまった方が良いのではないでしょうか」
危険を覚悟で、か。確かに、特に南側の吸血鬼家に関しては背後からの奇襲など考慮に入れてもいないだろう。エカルラート家がスカーレット家の味方であると信じているから。
確かにそれは危険だ。我がスカーレット家もかなり南側に館を構えている関係上、南の防衛が崩されれば一気に形成は相手側に傾きかねない。エカルラート家に対して戦力有利を取れるのは現状スカーレット家だけなのだ。
「でもそれはあまりにも危険な賭けじゃないか? こちらとあちらじゃあ戦力差は火を見るよりも明らかだ。伝えたら途端に寝返られてもおかしくはない。それにそうなれば必然的にあちらにも情報が流れる。スカーレット家がエカルラート家の裏切りに気づいている、とね」
「では他にどうしろと言うのです? 美鈴様。知らせないままにしておけば南の防衛は刹那ももちますまい。そうすれば次に敵方がやってくるのは当然この館です。いくらレミリアお嬢様と美鈴様が力で有利をとれたとしても、流石に消耗の無い敵を数十倍も相手にするのは現実的でないのではないでしょうか」
その数十倍というのもあくまでも数だけの話だ。実際に相手の実力まで考慮に入れれば、その数百倍以上は確実。私たちの消耗は計り知れない。
美鈴の言うことも尤もだが、それをさせないために親睦会を開いたのだ。できるだけしたくはないが最悪の場合は魔法を使ってでも黙らせるつもりだ。
「私もお前の意見に賛成だ。美鈴には悪いがね。先ほどまで行っていたような会議を続けていけば、皆自ずと裏切る気など起こさなくなっていくだろう。ゲームオーバーを回避するためには多少の犠牲も必要だ」
「……まあレミリアがそういうのなら私から言う事は何も無いよ。当然計画はあるんだろう?」
「もちろん。先ず北の防衛、スコットを睨む役はモーペスの
向家は現当主が中国文化にハマったことで名前まで変えたびっくり吸血鬼家だ。昔はどんな家名だったのだろうか。関りの無かった時代の事はよく知らない。
ここの当主は美鈴とも話が合うかもしれない。むしろ美鈴を館に連れて帰りたがるかもしれない要注意人物だ。
「次にシュルーズベリーのヴィンセント家。ここには当然西のウェールズを睨ませる」
まだウェールズは獲られていないが、今のスコット家と比べればウェールズの三家は分が悪い。五年もすれば獲られているかもしれない。
「そしてエクセターのプレストン家、ポーツマスのハリソン家、ブライトンのベイカー家には南の見張りを。これでも三方は完全に睨む。スカーレット家が集中するのは南。西と北はバーミンガムやマンチェスターのそこそこ大きな家に見てもらう」
現状は恐らくこれがベスト。
スカーレット家配下にいる中堅クラスの吸血鬼家ならばスコット家とも十分に渡り合えるだろう。それでもエカルラート家は私たちスカーレット家で抑えるよりほかない。質と量、どちらが相手を圧倒できるか楽しみだ。
「フランいる?」
この部屋に来るのも随分と久しぶりのような気がする。一月以上は忙しかったのだから当然か。
その間の事は美鈴に話を聞いているが、どうやらあの子も私に会いたがってくれていたようで安心した。単に美鈴だけが来ることに飽き飽きしていただけかもしれないけれど。
しかし待てど暮らせど部屋の中から返答がない。しかし中から物音はしている。
もう一度扉を叩こうとしたところで、丁度中から鍵が開けられた。
『フランちゃんなら今は図書館にいるよ』
「? じゃあ貴方はフランじゃないのかしら?」
目の前に立っているのは明らかにフランのように見える。おかしなところは声を出すことなく文字で会話しようとしているところと、瞳が真紅になっているところだ。
『私はフランちゃんが生み出した分身。今はまだほとんど何もできないの』
瞳の色から判断して少々危険かもしれないと警戒してたが、どうやら分身ならば特に狂気に塗れることも無いらしい。
でももしかしたら魔法か何かで瞳の色だけを変化させて私たちを揶揄って遊んでいるだけかもしれない。こういう事に関しては美鈴に聞いた方が早いし正確だろう。
「……美鈴はどう? フランは本当に図書館にいると思う?」
「そう思うね。これは間違いなくフランちゃんではない。フラン様とでもお呼びしようか?」
『それだと結局あの子と同じだよね』
あ、この分身フランも私と同じことを思ったのね。美鈴がフランの従者をしている時はいつも様を付けているのだからこれでは区別できない。
私としてはそもそも分身に名前を付ける必要があるのかどうか疑問に思ってしまう。本人たちが楽しんでいるなら水を差す気はないが。
「じゃあいっそのこと妹様とでも呼んじゃうかい? フランちゃんの妹のようなものなんだし」
『それいいね』
「…………」
『フランちゃん自身はお姉様の妹だけど私にとっては姉みたいだしね』
私はどう呼べばいいの? いつも通りフラン、で良いのだろうか。
「さあレミリア、呼び方も決まったことだし早速図書館に行こうか。妹様はここにいるのかい?」
『私はお留守番よ』
「そう。じゃあ行きましょうか美鈴」
あの子を残して図書館に向かっているのは良いのだが、ここで頭の片隅に引っかかっていた疑問が表に出てくる。
あの子が私たちを図書館に導くために残された分身なのだとすれば、どうして私たちと一緒に図書館に来なかったのか?
もしかしたら私たちがフランの部屋を出た後すぐに分身は消しているのかもしれない。どうにもそんな気はしないが。
「ねえ美鈴? なんだかさっきのフランから感じた力は全く別のようにも思ったんだけど。美鈴から見てどうなの?」
「……考えすぎだと思うけどねぇ。そもそもあれは分身。感じる力が違うのも当然だと思わないかい? 私はむしろ違うからこそフランちゃんとは別なんだろうとさえ思うけどね」
考えすぎねぇ。妹の事なのだからいくらでも考えるべきだと思うけれど。
「ふぅん。じゃあただの分身があれほどはっきりした自我を持っているという事については?」
「それは分からない。ただ一つ言えるのは、あれはフランちゃんではないという事だけだね。それ以外の事は私には分からないさ」
ただの分身と仮定するのもおかしな話だと思う。本体から遠く離れていても正確に自我を維持できる事にも納得がいかない。
何よりも不思議だったのはあの子の魔力の残滓をごくわずかにしか感じられなかったこと。魔法で分身を生み出しているのならば多分に残っているはずなのだ。
「美鈴はあの分身の子に会ったことがあったの?」
「ないよ。呼び方を決めることから始めていたのはレミリアも見ただろう? 正真正銘初対面だ」
ならば何故あの子の違和感に言及しない。どうしてあの子が出てきた瞬間から全く動揺していない。どうしてまるで驚くそぶりも見せない。
「ならばどうして貴方はあの場面で何の疑問も抱かずにすぐさま順応できたの?」
美鈴は何も言わない。だってこれは彼女にとって聞かれたくないことの一つだっただろうから。
だが私はあえて問う。これは決して美鈴を困らせたいからではない。忠告だ。私は美鈴が思っているほど子供でも鈍くもないという事を暗に示すための。
「貴方は……いえ、貴方たちは私に何かを隠している」
「…………」
「図星ね。でもそれが何かを問う事はあえてしないでおきましょう。貴方たちが私の不利益になるような事を企てるとは思っていないもの。でもそれがフランを泣かせる運命につながるのだとすれば……たとえ美鈴であっても許せないかもしれないわよ」
「……それだけの覚悟はある。隠しているのはレミリアを守るため。それだけは分かっていてくれ。いずれ、その時が来たらお前にも話す。その日が私の命日になろうとも」
私は家族を信じよう。
信じる者がいつでも救われるなんて宗教の中だけだと、そう知っていても。
かなり詰めれば五十話までに終わらせられそうな予感。割と本気でいけそうな気がしています。一応トゥルーエンドとIFエンドがあることはお伝えしておきます
オリジナルモブキャラに名前を付けるか否か。実は私個人としてもオリキャラを大量投入するのは好きじゃないのですが、進行の都合上の理由です
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付ける(その方が判別しやすい)
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付けない(モブに名前なんて不要)