フランは聡明で才能あふれる子だ。それだけに惜しい。あの子が地下にずっと幽閉されている現状が。そして憎い。あの子が地下から出て来られない未来を変えられない自分が。
この世界に対して私は何処までもちっぽけな存在であることを理解させられているように思って腹が立つ。変えたいと思っても変わらない、変えられない。
彼女を地下から連れ出す未来は存在しないのか、それとも私の力不足でそこまで見通せないのか。
私が自身の能力に気づいたのはつい二年前ほどだ。フランに能力があるという事は私も何かしら持っている可能性が高い、と思ったのだ。そこから色々試す事三年。八歳の時にようやくそれらしいものを感じることができた。
そういえばそのころからお父様が珍しいものによく出会うようになったらしいが何か関係があるのだろうか。
とにかく私も自分の能力という物を手に入れた。いや、自覚したと言った方が正しいだろう。私の能力はどうやら少し先の未来が見えてそれに触れられる、という物らしい。
これだけなら神にも匹敵する能力であるのだが当然そんなことは無い。
未来と言っても見えるのは精々数か月先まで。更に見た物の時間が先であればあるほど触れた後の操作は不確実になるらしい。
今の私は二時間先の未来を変えようと思っても五回に一回くらいしか成功しない。数か月先の未来を変えようと思うと数億回に一回くらいしか成功しないのではないだろうか。
それに変えると言っても自在に変えられるわけではない。分岐したいくつかの未来の先で望ましい物を選択する、という方式なのだ。
つまり分岐した先に私の望む未来がない可能性も十分にあるわけだ。
今の私の状況がまさにそれだ。フランを地上に戻す未来が一つたりとも存在しない。あったとしてもその未来を選べる可能性は限りなく低いのだが、なければ勿論その可能性も全くないことになる。賭けすら成立しないのだ。
今見えているのは数か月先。それよりもっと後ならば望む未来は現れるかもしれない。もう既に五年も経ってしまっているのだ。可及的速やかに出してやりたい。
「どうしたの?お姉様。顔が怖いよ」
「いえ、何でもないのよフラン。ただ貴方はこんなところにもう五年。辛くないの?」
私の五歳といえば館の中でのびのび過ごし、勉強に励んでいた時期だ。
それに対してフランの五歳は狭い地下で寂しく過ごし、勉強も私が教えてあげているだけだ。
「全然そんなことは無いよ。だって毎日お姉様が勉強を教えに来てくれるでしょう?それだけでも随分救われてるよ」
フランは良い子過ぎるのだ。だからこんな境遇においても文句一つ零さない。私なら泣き喚いたかもしれない。姉が部屋に来たら縋りついたかもしれない。
でもフランはそうしない。彼女は私の苦悩すら理解しているから。
「…………そう。でももっと私を責めても良いのよ?貴方を幽閉するときに私は反対しなかった」
分かっている。これは私の勝手な願望なのだと。フランに散々非難されれば贖罪をした気になれる。私は最低だ。他人に頼る人生、そこに何の価値があろうか。私の運命は自分で決めると誓ったのではなかったのか。
「しなかったんじゃない、できなかったんでしょ?私が地下に来るのは半ば必然だったんだわ。こんな危険な能力、間違っても家族に向けられないもの。さあ今日の勉強を始めましょう?」
「えぇ………そうね。始めましょうか」
フランはどこまで見透かしているのだろうか。だが納得できない。できるはずもない。
フランの言葉で私が救われたと感じてしまった。辛い思いをしているのは私ではなくフランの方なのに。彼女はそれでも姉を心配するのか。私は本当に心配されるに足る姉なのか。
答えは神のみぞ知る。しかし私たちは悪魔。神など必要ない。
神なんてくそくらえ。私が成り代わってやる。神の代わりに私が世界の未来を決めてやる。誰より強く、何より未来を操れるようになった時、世界は私の手に落ちるのだ。
もう誰も神など信じたくなくなるような世界に変えてやる。
何千年かかるかはわからない。しかし私たちにはそれだけの時間が許されている。
「今日はそろそろ終わりね。フラン、ここに誓うわ。私はこの世界で誰よりも強くなる。貴方もきっと救ってみせる、と」
「そう、頑張ってねお姉様。私はきっとお姉様がこの世界で誰よりも強くなれると信じているわ。でもねお姉様、許されている時間はお姉様が思っているほど多くないかもしれないわよ」
それはつまりフランが何千年も生きていられないという事なのか、それとも私の方なのか。
五歳児のいう事なぞ………という輩もいるかもしれないがフランの警告はそれなりに信頼できる。彼女は時として私以上に未来を見ている。そしてそれが間違っていたことはあまりない。
それは彼女の勘なのだろうか。
流石に『ありとあらゆるものを破壊する』から未来視は繋げられない。
レミリアが地下室を出て行く。フランドールにとってはもう見慣れた光景だ。もう五年間毎日見ている。フランドールにとってレミリアが訪ねてくるのは毎日の楽しみだった。
最近はそれに加えてさらに勉強を教えてくれるようになった。
まだ幼いレミリアが必死に教えようとしているのを毎度心の中では微笑ましく見ているのだ。勿論顔は真面目に取り繕ってだ。
フランドールはポーカーフェイスが上手かった。
理由は明白。彼女はほとんど感情を顔に出さずに生活してきたからだ。感情を顔に出すのは誰かが訪ねてくる一日一時間だけ。故にフランドールは苦も無くポーカーフェイスができるのだ。
この理由と言うのはとても悲しいことである。誰かと触れ合う事ができない幼児は性格が完全に曲がってしまう恐れがあるのだ。彼女がそうならなかったのは偏に前世を人間として生きてきたからだろう。
だから彼女は様々な感情を知っている。それを如何にして表現するかも知っている。普段無表情であるのはその知識を生かす場面があまりなかったからであろう。
フランドールは笑う事を知っているし怒る事も知っている。嫌悪、恐怖、驚愕、嫉妬も感情として顔に出すことができる。
だが彼女が泣くことは無い。地下に幽閉されて以来フランドールは一度も泣いていないのだ。
それは強くなるとの決意の表れなのか。それともただ単純に忘れてしまったのか。それは神すら知らない事であるに違いない。
レミリアは神に成り代わると決心した。誰より強くなったその先で果たして彼女は幸せだろうか。一時の全能感とその後襲い掛かる虚無感。
もしレミリアが唯一絶対神をも超えた存在となったとすればどちらがウェイトを占めるのだろうか。後者だとするならばフランドールは先ず悲しむだろう。レミリアも幸せになれないだろう。
レミリアは自身の寿命が許す限り神に近づけると考えていた。しかしフランドールはそうではないと言った。残されている時間はそんなに多くないと。
レミリアは知らなくてフランドールだけが知っている。世に住む人間の進化を。その理不尽さを。そして妖怪の脆さを。
数百年後の未来できっとレミリアはこの世界最強の存在になれるだろう。フランドールが言ったことをレミリアが理解できるのはそれ以降になるはずだ。
初めは敬語フランにしようと思ってました。結局変えましたけど
サブタイトルが本当にやばい