「そのカリスマで私を救ってよ、お姉様」   作:小鈴ともえ

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月5本は去年の10月以来。そろそろその頃の伏線も回収できそうですね


禁断の魔法

 地下迷宮に誘った者たちが慌てふためき各々があても無く彷徨い始めた中、その者だけは確固たる目的があるように、まるで自分が何処へ向かっているのか分かっているかのように歩き始めた。これには美鈴も驚きを隠し得ない。

 なぜならば彼女の向かう先、その階段の行く先は正確に地下の大図書館へと続いていたからだ。少しでも迷いが見えればまた違ったかもしれない。だが彼女に一切の迷いは見えず、何者かに支配されている風でもない。

 

 見たところ美鈴よりはかなり貧弱に思えるし、美鈴やレミリアのように魔力を登録してあるわけでもない。強者とも思えないその者がどうして道を知っているのか。そのことが気になった美鈴は失礼を承知でついて行くことに決める。

 万が一フランドールの部屋に行ってしまうようなことがあればそれこそ一大事だ、という言い訳を心の内でしながら興味の対象を追いかける。

 

 

 その者の向かった先にあった物はやはり大図書館だった。何の迷いも無く、然したる障害を感じ取った風でもなくただ扉を押し開けて中に入ろうとする。美鈴が声をかけようとしたところでその者が先に声を出した。

 

「後ろをコソコソつけてきて何の用なのかしら?」

 

 美鈴にこの日一の衝撃が走る。何故ならば彼女の隠密は常に完璧に近いもののはずで、気配を消している彼女を目以外で捉える事など不可能に近いからだ。

 しかも振り向いたその顔は紛うことなく女性のもの。美鈴が性別すらまともに判断できなかったのは初めての事だった。エカルラートの部下と言うにはあまりにも強力。自身の実力を隠せるほどの手練れ。美鈴は彼女の判断を改め、警戒のレベルを一段階引き上げた。

 

「いやいや、地下は最も危険な吸血鬼の根城だからね。それに貴方はそれほどの実力を伴っていてもあいつの部下だ。怪我でもされちゃ困るだろう?」

「そいつはお気遣いどうも。でも私は別に他の奴らのようにあいつに忠誠を誓っているわけでもないわ。こうしている方が都合が良いだけ。私はやつのくだらない野望になど興味はないわね」

 

 エカルラート本人から直々に認められた精鋭としてやって来た吸血鬼の彼女。それが主人の野望には興味がないとぬかす。

 驚愕の次に訪れた感情は困惑。それもそのはず。主人の野望に興味がないのならば主人を殺してしまっても良い。今美鈴の目の前にいる彼女には確実にその実力があると断定できるからだ。

 

「そうそう、ついでだから教えてあげるわ。エカルラートの野望は世界を征服する事。既に大陸西側はほとんど支配しているからあとはこの王国と東洋、アメリカ、アフリカくらいでしょう。あいつのその野望の大きさは気に入っているわ。目的のためならば何でもしようとするその姿勢もね。でもやり方は気に入らない」

「と言うと?」

「先ほども言った通りあいつは目的のためならば手段を択ばないきらいがある。一度スカーレット家を裏切ったのもそうね」

「一度、だと? ……いや確かにそうかもしれないな。裏切りを続けてもそれはまだ一度目なんだからね」

 

 引っかかりを覚えた美鈴だったが、少し考えればわかる事だと納得する。しかし対する女性の言い分は違った。もうエカルラートはスカーレット家への裏切りを止めているのだという。

 

「やつが求めているのはスカーレット家とスコット家の再併合と協定の結びなおし。もうここを落とせないという判断の下でしょうね」

「ねぇお姉さん、エカルラート家の情報をそんなに簡単に暴露しても大丈夫なのかな?」

「えぇ当然…………って貴方は?!」

「ふふふ、私は吸血鬼? それとも吸血鬼の皮をかぶった魔女かもね?」

 

 唐突に話に割り込んだフランドールに対して件の吸血鬼は狼狽える。しかし美鈴の方は近づいていることも分かっていたので然して驚きを見せない。先ほどとは立場が入れ替わったような状態だ。

 そんな狼狽する彼女にフランドールから火が飛ぶ。恐ろしいほどの量ではないにしろ込められた魔力は並み以上。何故いきなり攻撃するのと抗議するかと思われた女性も、先ほどまでの様子がまるで嘘だったかのように見事な水の盾で自らを守る。

 

「水剋火。素晴らしく速くて的確な判断だね。対処としては間違っていないけど、今回は大間違い。どうして貴方のような魔法使いが紛れ込んでいるの?」

「「な!」」

 

 美鈴は三度驚き、指摘された女性もこれには驚愕の表情だ。しかし彼女のとった行動を考えれば吸血鬼でないのは明白である。

 火に対して水。これは常套手段であり、人間でもよく使う対処法だ。しかし今回は逆にそれが悪手となった。あまりにも自然に繰り出された魔法に違和感を覚えることも無かったのだろう。

 

「吸血鬼は基本的に攻撃以外で水属性魔法を使わない。だって自身を水で覆ったら身動きができなくなるんだもの。吸血鬼は流水を渡れないのよ?」

 

 実際には非常に複雑であり、ただ流れている水全般について定義されているものではない。強力な不死性を持つ吸血鬼に数多くの弱点を付与したのはかなり昔の人間である。当時まだ海流などというものが知られてなかった時代、海はただ泰然とそこにある莫大な量の水であるという認識しかなかった。波はただ海岸線付近で水が遊んでいるようなものだと考えられていた。

 大航海時代前、海が地球全体に流れを持つという事すら知られていなかった時代に吸血鬼の概念が確立してしまった。それゆえ今の吸血鬼であっても渡れないのは川や滝のような明らかな流水と雨、水道の水、魔法で生み出された水くらいだ。

 

 海を渡って来た彼女は気づかなかった、あるいは忘れていたのだろう。吸血鬼の細々とした大量にある弱点の一つ。フランドールは断定にそれを用いたのだ。

 

「…………なるほど、これは一本取られたわね。その通り私は吸血鬼の変装をした魔法使い。でもどうして分かったのかしら? 相当うまく化けていたと思うのだけれど」

「そう、そうだよ。少なくとも私は吸血鬼じゃないなんて微塵も思わなかったけどねぇ」

 

 自身の完璧だと自負していた変装を見破られて訝しむ魔法使いとそれに便乗して自分のミスを無かったようにしようとする美鈴。

 そんな美鈴を一瞥してからフランドールは話し始める。曰く、彼女の変装は完璧すぎたと。

 

「この地下全体は私、フランドール・スカーレットの魔法が張り巡らされているの。だから分かった。肉体的にはとてもじゃないけど強く見えない貴方が、私の迷宮を苦も無く突破してしまった。この迷宮を突破できるのは登録した者か私よりもはるかに魔法で上回る者だけ。身体が貧弱で魔力は桁違いなのはそう、魔法使いだけなんだよ」

「へぇ。だからそれを裏付けるためにわざわざ火属性を撃って来たのね。そう、貴方がフランドール・スカーレットなのね。レミリア・スカーレットの妹だって? 姉の羽もそんなに歪なの?」

 

 フランドールの羽の異質さに言及する彼女を睨みつける美鈴だったが、当の本人は気にしていないようで嫌な顔をすることも無い。そもそも自身の羽が一般の吸血鬼とかけ離れている事は彼女自身が誰よりも理解しているところだ。

 

「お姉様の羽は私とは違って立派なものよ。エカルラートなんかよりよほどね。で、そのエカルラートの手下として動いていた密告者の貴方は?」

「私は別に手下でも密告者でもないわ。探し物をするのにやつの権力が便利だっただけ。やつの下には何でも集まってくるからね。情報を集めているうちに、やつが一度その探し物を所有していたことも分かった。それをスカーレット家に横流ししたことも」

「そう。だから今回のスカーレット家への遠征についてきた、と。その探し物って何なの?」

 

 彼女は分かっている。エカルラートから贈られてきたもので魔法使いが探し求めているようなもの。そんな物は紅魔館にただ一つしかない。

 しかし彼女はあえて尋ねる。それは()()()()()彼女のためではなく()()()()彼女たちのため。

 

「私が探しているのは見た者を狂った人形に変えてしまう狂気の魔導書『The True Frenzy Doll of Cananga』。私はこの著者カナンガの才能を最も強く引き継いだと称された魔法使い、パチュリー・ノーレッジよ」

 

 変装を投げ捨て、これまでの様子とは異なり何よりも自慢げに名乗る彼女。魔法族名家と呼ばれるノーレッジ家でも殊更に飛びぬけていたカナンガ。世代を超えて生まれたパチュリーは幼い頃からその名を聞いて育ってきた。

 彼と同等以上の才能を持つと言われ、ノーレッジ家の未来だと称されて育った彼女は自分の名を最も誇らしいものであると考えていた。

 

 その名を聞いたフランドールの目に歓喜の光が宿る。それは僅かな間ではあったが常に気を張っている美鈴には気づかれていた。

 

「美鈴には分からないか。さっきこの子が言った魔導書は100年以上前にエカルラートから贈られてきた死。それを書いた魔法使いの後裔が目の前にいることの感動は言葉にできるようなものじゃないわ。私の部屋に案内しましょう」

「いや、まだ会って数分も経っていないような奴を信用するのかい? それにこの娘がエカルラートの下にいたのは事実。あまりにも早計過ぎないか?」

「ノーレッジという姓にはそれだけの価値があるという事だよ。吸血鬼界隈でスカーレット家の権威があるのと同じこと少なくとも私は信じてみても良いんじゃないかと思うよ。駄目そうならキュッとしちゃえば良いだけだしね」

「別に私を信じようが信じまいがどちらでも構わないわ。私はただ件の魔導書を貰えればいい」

 

 フランドールの話を聞いても尚疑わし気な視線を送る美鈴に対するパチュリーの一言。実際に彼女にとってはどちらでも然したる問題にはならないことだ。エカルラートとスカーレットのどちらに肩入れしているわけでもなく、またどちらかに肩入れしようと思っているわけでもない。

 己の探し求めていた魔導書さえ手に入れば後は何処へとも知れず姿を消すつもりだった。彼女にとっては吸血鬼家同士の衝突など気に掛ける事でもなかったのだ。

 

 だからこそのこの言葉。しかしそれを許さなかったのは美鈴ではなくフランドールの方だった。

 

「魔導書を貴方にあげるわけがないわ。あれは正真正銘私の物よ。如何程の対価があろうとも、貴方が彼の後裔であったとしても決して渡すことはできない」

 

 普段日和見主義的なフランドールがこうして確たる意思を他人に伝えることは珍しい。だが逆にそれが、彼女が如何に本気であるかを示すことにもなった。

 その意思を見た美鈴はパチュリーに諦める事を勧めるが、彼女も長年追い求めてきたゴールがすぐそこにあるのに譲れるわけはない。

 

「そう、貴方も所詮は吸血鬼だったという事ね。私たち魔法使いとは決して相容れない」

「その通り。でも私は貴方と仲良くやれそうな気はしているけどね」

「何を馬鹿な事を。大人しく渡せばよかったのに……高くついたわね。ノーレッジの恐ろしさをその身に刻み込むがいいわ!」

「貴方こそ私たちフランドール・スカーレットの恐ろしさに戦慄するが良いわ!

「…………は?」

 

 魔法の詠唱を始めたところで唖然として手と口を止めてしまうパチュリー。彼女の目の前には可愛らしくも恐ろしい吸血鬼が()()浮かんでいた。




一応公式だと100年ほど魔法使いをしているという事ですが、この世界では紅魔郷段階で300年ほど生きることになります
パチュリーさんも結構重要なキャラになるので本当ならもう少し早く出したかったです。好きですし
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