「そのカリスマで私を救ってよ、お姉様」   作:小鈴ともえ

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ワクチンの副反応でほぼ丸一日寝込んでしまったので明日は出せないかもしれないです
既に5000字は書けていますが、次話はかなり長いのでこれでもまだ半分程度だと思うんですよね


紅楼

 あの日、戻って来たエカルラートに『そのうちまたスコット家当主と併せて朱血館へご招待しよう』と言われてから既に六十年以上が経過した。おそらくここまで遅れる原因になっているのは人間たちの革命やらのせいだろう。

 今や天下は人間の物になりつつある。つい百年ほど前までは我々を恐れて遜るばかりだった人間たちも、今では逆に見下してくる始末だ。私たちの仲間も多くが滅びており、スカーレットの支配下にあった吸血鬼家もいくつかが教会の襲撃によって崩れ去ったと聞いている。それは決してこの王国だけの問題ではなく、エカルラートが館を構えるフランスも、その支配下の欧州の国々でも変わらない。

 

 不思議なものだ。六十年前まではともにこの館の大広間で語り合っていたというのに、そのうちの何人かは既にこの世にいないというのだから。私たちもいずれはそうなってしまう運命なのだろうか。生者必滅とは言うもののあまりに早いような気がしてならない。

 本来ならば数千年、あるいは万年の時間が許されているはずの私たち。しかし現実は非情なものだ。世界が急いているのか、それとも運命によって定められていたのか、まだ三百年も生きていない私たちの命も風前の灯火か。

 

 ふと随分昔のフランの言葉を思い出した。まだ私が十やそこら、幽閉されてからそれほど経っていない頃のフランが私に言った一言だ。当時の私にとっては理解できないような一言だったが衝撃的であったがゆえに鮮明に覚えている。

 

『許されている時間はお姉様が思っているほど多くないかもしれない』

 

 今なら理解できる。急激な人間社会の発展による私たちの消滅。近い将来避けられないであろう運命を暗示する一言だったのだ。

 

 丁度私たちが吸血鬼家同士で争っていたあの頃、人間たちはそれを気にも留めず発展を始めていた。私がそれに気づいたのはたった二十年ほど前。時すでに遅く、人間たちは何やらよくわからない物で空気を汚し始めた。なるほど確かにこれは私たちにとってはなかなか辛い。

 おそらく私たち妖魔の類を滅ぼすために開発された装置なのだろう。最近では夜でも明るくなるようにと灯りを街中に設置しようとする試みもなされているようだ。夜闇の化身たる私たちに対してはこれも絶大な効果を生み出すに違いない。

 

 武力で勝てるような低位から中位の吸血鬼家には教会が出向き、それでは勝てないような高位の吸血鬼家に対しては直接的な干渉をせずに滅ぼす。恐ろしいほどに合理的で冷徹だ。今のところ前者は成功しているが後者はまだ耐えられる程度で済んでいる。人間の技術がさらに発達すればこれがどうなっていくのかは容易に想像できる。

 既に決していた運命。普通ならば避けられない滅びの運命に対して怖い、悲しいという気持ちが先行するだろう。しかし私はそれらよりも悔しいが先に来た。

 

 約束した。フランも私を信じてくれた。この世界で誰よりも強くなるという決意。それが抗えぬ運命によって揺らいでしまっているという事実から目を背けているという事実が何よりも悔しい。

 強くなりたかった。神を超え、運命を乗り越えられるほどに強くなりたかった。数千年も生きればあるいは、と思っていたのに、運命はその時を待ってはくれなかったのだ。世界は私たちではなく人間の覇権を優先したのだ。

 

 

 

 だがこんなことばかりグダグダ考えていても仕方がない。勝者であり続けた私たちも既に敗者側へと変遷してしまいつつあるのだから。今の私が考えるべきは復権ではなく如何に共生するか、だと思っていたのに……そんな折にやつからの便りを受け取ってしまった。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――

親愛なるレミリア嬢へ

随分とお久しぶりになるがその後お変わりないだろうか。

 

此度このような手紙を出したのは特別機密性が高いわけではないからだ。覚えているだろうか? いずれ我が館に招待すると伝えてからもう随分経った。こちらの国ではようやく人間たちの戦が終わり、無事我が国が勝利したようだ。

さて、ここで私から提案がある。今こそ欧州全土の吸血鬼家の目的を一致させて復権を目指さないか? 知っての通り、人間たちは戦で大変疲労しているフランスだけでなくグレートブリテンもだろう。復権するなら今しかないと言える。一月後、スコット家を含むスカーレット家の配下まで全ての吸血鬼を集めて話し合いたいと思っているがもちろん無理にとは言わない。

ただ私たち吸血鬼が未だに健在であることを証明する絶好の機会であろう。私たちが力を合わせれば復権は必ず成功する。良い返事を期待している。

 

                                ドニ・エカルラート

 ――――――――――――――――――――――――――

 

 気持ちが揺らいだ。

 

そうだ。私たちには人間には決して持ち得ない程の力がある。しかも続けざまの戦争で疲弊しきっているのは確実。今ならあの頃の、恐怖が人間を支配していた時代に戻せるのではないか。私たちの天下が再来するのではないかと、そう考えずにはいられない。

やつの策略に乗るのは抵抗があれども、これ程までに成功率が高そうならば賭けてみても良さそうに思える。だが何事も安直な考えで行動してはならない。成功も多くあったが、それ以上にたくさんの失敗を重ねて今がある。

 

 一先ず信頼できる者に相談だな。この手の話ならパチェか。とりあえず図書館に向かうか。あの娘は滅多に図書館から出てくる事も無いし確実にそこにいる。もしフランもそこにいればエカルラートの手紙の件を話せば良いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この館において私だけの穏やかな空間を崩すのは主に二人。一人は今目の前で本を読んでいるフランドール。この子の事は数十年経った今でもよく分からないままだ。高度な魔法が使えるのかと思えばそうでもなく、ここに来て読んでいる本も魔導書だったり歴史書だったりまちまちで、児童書を読んでいるのを見たことさえある。今日はどうやら神話関連だろうか。選り好みせず何でも読もうという姿勢は好ましいが、如何せん範囲が広すぎて私の方がついて行けない。

 勉強と読書の合間の魔法の鍛錬では偶に魔道具を作っているようだ。流石に図書館でしているわけではないから直接見てはいないが、姉妹が付けている宝石のリングは簡単な錬金術を応用して造ったらしいし、十年ほど前には私も彼女から三日月型のアクセサリーをもらった。月属性魔法の補助らしい。実は私は性格故か、どちらかといえば日属性の方が苦手なのだが。

 

 もう一人はたった今扉を開けて入ってきたレミィ。ビブロフィリアである妹とは対照的に本を読んでいるところはほとんど見ない。字を見るのは仕事の書類だけで十分だ、とは本人の談だったか。それでも全く読まないわけではなく、魔法の勉強として魔導書を読んでいるところは偶に見かけるし、分からない箇所があれば私に聞いてきたりもする。私が愛書家(フランドール)よりもレミィと仲が良いのもそのようなことがあるからだろう。

 フランドールは良くも悪くも本の虫。私と話す機会がそもそも少ない。レミィはあまり読書の邪魔をするという事を気にしない。私やフランドールが本を読んでいても気にせず話しかけてくるからこちらとしては嫌でも読書を中断しなければならない。しかし煩わしいと思っていたそれもいつの間にか慣れていた。慣れれば案外悪いものではなく、彼女の話は全て私にとっては新鮮で新しい物語のようにも思えた。

 

「いたいた。パチェにちょっと話があるのだけれど……あら、フランもいたの。丁度良いわね」

「何よ藪から棒に……今丁度良いところだから話は後にしてくれないかしら」

「パチェったらいつもそれね。他に芸がないの?」

 

 これが定型文になるほど読書の邪魔をしてきたレミィが悪いのだが本人はまるでそう思っていないかのようだ。だが実際に今良いところを読んでいるのは確か。この理論を理解できればまだ苦手な属性の複合魔法のコツが掴めそうなのに。

 でもそんなことをレミィに言ったところで無駄でしかないだろう。魔法に関してはまだ幼児程度の理解しかないレミィに属性魔法の何たるかを説いても何一つ理解してくれまい。と毎度そう思っているから結局私の方が折れることになる。

 

「毎度毎度レミィの来るタイミングが悪いのよ。私に非はないわね。で、何の用なのよ。私だけじゃなくフランドールにも用があるみたいだけれど」

「パチェにもフランにも関係がある事よ。とりあえずこの手紙を読みなさい」

 

 

 何々……吸血鬼の復権? 何をまた馬鹿な事をしでかそうとしているのか。いったい何度醜態を晒せば気が済むのだろうか。

 

「で? レミィは行くの? これ」

「一応行くつもりよ」

 

 まあ順当に考えればそうなるか。私とは違ってレミィは吸血鬼。しかも栄華を極めた過去を持つのだからあいつと境遇は似たようなものだ。ただの他人事だとして無視できるような内容でもないのだろう。

しかも狡い事に、ここにはスカーレット家の配下まで含めた全吸血鬼を集めたいとも書かれている。紅魔館の当主が出席しないのに配下だけが出向くなどあり得ない。本当にあいつは人を動かす術を心得ている。

 

「フランドールはどうするの?」

「ん-、お姉様が許してくれるなら私も行こうかな」

「「え?」」

 

 レミィも私と同じ考えを持っていたようだ。そもそも館どころか地下からすら出たところを見たことが無いフランドールが、よりにもよってこんなバカげた集会に行こうと言うなど誰が予想できただろうか。最も長く時間を過ごしてきたレミィでさえこの反応なのだから誰も予想できなかったに違いないのだが。

 

「も、もう一度言ってくれないかしら?」

「え? だからお姉様が許可してくれたら私も行きたいな。バカらしいからこそ面白いし、エカルラートには因縁もあるしね。それにこの機会を逃せばおそらく次はないから」

 

 慌てたレミィが聞き返したが同じ答えが返ってきた。どうやら聞き間違いでもなかったらしい。レミィにとっては複雑な気分だろう。妹が館の外に出ることを()()()ことへの喜びと得体の知れない不安。それが彼女の中でせめぎ合っているに違いない。

 レミィ曰くフランドールが地上に出たこと自体は何度かあったらしい。しかしそれらはどれもが彼女の希望とは無関係に出たものだったとか。受動的だった動機が能動的に変わった瞬間。それが今。そこに如何なる理由があるのかは彼女にしか分からない。

 

「そう。ではそう返事しておくわ。一月後だけれどパチェも来るかしら?」

 

 言葉だけを聞けば単なる質問だが彼女の私を見る瞳がそれを否定している。これは懇願。普段は全面的に妹を信用しているレミィだが、今回ばかりはフランドールが奇行に走るのではないかと少々疑ってしまっているのだろう。私もそうだからよくわかる。

 フランドールが奇行に走っても私なら止められる。水の檻で、銀の槍で。魔法にできないことはほとんど無い。今の私ならあの時のような失態は犯さない。フランドールをよく知ることで弱点も把握した。それだけ絶対の自信がある。

 

「えぇ行きましょう。幸い今の私は吸血鬼ではなく魔法使いだから」

「ふふ。エカルラートのことだ、パチェが仮に吸血鬼姿で行っても気づかれないだろうよ」

 

 確かにもう六十年も経っているのだから忘れていてもおかしくはないか。少しだけ、あの館での生活を懐かしく感じる。

 私は別にレミィやフランドールのようにあいつを恨んでいるわけでも憎んでいるわけでもない。むしろ感謝しているくらいだ。あの生活が無ければ今の生活も無い。私の目的が達成されることも無かっただろう。だから仮にレミィたちがあいつを暗殺しようとしても私は加担しない。止もしないが。私はやはりどこまでも自分本位だ。だがそれで構わないと思う。

 

 

 

 この時の私には当然ながら一月後の光景など見えていなかった。見えていれば、あるいはこれ以降の行動にも何かしらの変化があったとかもしれない。これ程までに私がレミィを恨むことになるとは思ってもみなかったから。




チョロインの良さは正直よくわからない。だからこそ敢えてチョロいお嬢様を書いてみました。まだまだ子供ですからね
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