「そのカリスマで私を救ってよ、お姉様」   作:小鈴ともえ

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いつも高慢と傲慢の違いが分からなくなるのです

流石に長くなりすぎたので二話に分けます。それでも今話10000字超えましたが


U.N.オーエンは彼女なのか? ~前編

「ようこそ朱血館へ。どうにも私の提案に賛同する者はスカーレット家(そちら)側にはそう多くなかったみたいだ」

「ふん、元々の絶対数が少ないだけの事だろうよ」

 

 しかもそのうちのいくつかは滅ぼされた。スコットは明確に拒否してきたし。これに関しては何も不思議な事ではない。先の戦ではエカルラートの二枚舌によって辛酸を嘗めさせられたのだから会いたくない気持ちも分かる。

 その気持ちがエカルラートの言葉で揺らがない分、彼女は私よりも精神力が強いのだろうと思う。私なんて甘言でイチコロだものね。

 

「む、私は別に厭味のつもりで言ったのではないのだが……」

「それは分かっている。それよりもフラン、貴方も挨拶なさい」

 

 予告通りについてきたフランに一番驚いているのはいったい誰だろうか。私は当然そうだが、エカルラートも相当なものに違いない。美鈴だって冗談だと信じて疑わなかったくらいだ。実際に出発直前にも地下から出てきたフランを二度見していたくらい、最後の最後までエカルラートを揶揄うための冗談のつもりだと思っていたらしい。

 今回の同行者は紅魔館からはそのフランと護衛役の美鈴、内情を知っている心強い親友のパチェの三人。他の家の者はいない。実際私が声をかけたのも面倒だったからスコットだけだ。フランはできる限り他人に見られない方が良いだろうという私の独断でそうなった。ちなみにエカルラート勢力はほとんど勢ぞろいしているからあまり意味は無かったかもしれない。

 

「はいお姉様。私がレミリア・スカーレットの妹のフランドール・スカーレットですわ。本日はお招きいただき誠に…………」

 

 うむ。姉の目から見ても恐ろしいほどの猫かぶりだ。普段あれほど毒づいているとは思えないほどに所作がきちんとしており、対外経験など無いくせにやけに礼儀正しい。美鈴はキョトンとしているしパチェはやれやれといった風に(かぶり)を振っている。

 エカルラートの方はと言うと、少々面食らった様子はあるものの表面上は取り繕って対応しているように見える。彼のフラン像は二百年以上前で止まっているからもはや何が正しいフランなのかも分かっていないのかもしれない。

 

 それにしてもフランのこの態度は何か裏があるように思えてならない。というかほぼ確実にあるのだが、フランが純粋に緊張している可能性も未だに捨て切れないのも事実。指定された時間の三十分前には着くようにすべきだというのは流石におかしい。対外経験がない故のマナー不足かもしれないが、こういうのは少し遅れて行くくらいで丁度良いのだ。

 

「いやはや。実に礼儀正しい妹さんだね、レミリア嬢。私の兄とは大違いだよ」

「そうだろう? 何せ自慢の妹だ。他と比べるまでもなかろうよ」

 

 そもそもエカルラートの場合は兄も悪いかもしれないが彼自身も悪い。まあこいつの性格が歪んだ原因自体はその兄にあるのだろうが、兄弟間で殺し合った過去を持ちながら兄の話題を出すこいつの精神構造は理解できそうにない。

 

「間違いないね。さて、皆揃ったようだから食事にでもしようか。レミリア嬢は知っているだろうが食堂はこちらだ……おや、どうしたのかな? フランドール嬢」

「こんなに長時間飛行したのは初めてだったので疲れましたわ。食事は結構ですので休ませてもらえませんか?」

「あぁ、失念していたよ。すぐに部屋に案内させよう。他の方々は大丈夫ですかな?」

 

 確かにフランはあのエカルラートとの戦い以来まともに身体を動かしていない。私もそのことをすっかり忘れてしまっていたのだから救えない。姉として妹の事は常に気にかけておかねばならないのに。しかも今は普段ならフランは既に寝ているはずの時間。おそらくそれも相まって眠気が襲ってきているのだろう。

 もちろん私は問題ないし美鈴も余裕の表情だ。パチェは身体が弱いと言ってもここから紅魔館への移動は過去に経験している。

 

「大丈夫そうだね。ではフランドール嬢は彼女について行ってくれたまえ。他の方々は私に……」

「ちょっと待ってよ。そいつは本当に安全なのかい? フランちゃんを暗殺しようという意志がない、とはっきり言えるの?」

「やめなさい美鈴。一介のメイド如きにフランを暗殺できると思っているのか? できるはずが無いだろう。ここは大人しく食事に行くべきだ」

 

 ここで私たちがごたごた言い合っても時間の無駄でしかない。フランを暗殺するなんていう芸当ができるような強者ならばメイドなんてやっているはずが無いのだ。

 

 

 

 

 結局美鈴が折れ、盛大な食事が始まった。我が王国の食事とは味付けなどがかなり異なっているのか、正直なところあまり舌に合うとは言えない料理だ。美鈴は様々な国の料理を食べ慣れているからか美味しそうに食べており、パチェはそもそも食事が必要ないのでほとんど料理を取ってもいない。

 料理は口に合わないがワインは美味しい。血液入りでない物でここまで美味しいと感じたのは初めてかもしれない。きちんと全ての血液型に対応した血液入りワインが置いてある点も良い。こちらも負けず劣らず美味だ。

 

そんな風にしてなかなか楽しめているところにこの館の執事が焦った様子で駆け込んできた。何でもエカルラートに緊急の用事があったらしい。初めは我が館の品が疑われるだろうと怒っていた彼も、何やら渡された一枚の紙を読むと途端に真面目な顔になった。

 周囲もその内容が気になっているようだが、彼らは皆エカルラートの配下たち。エカルラートに直接尋ねることができずにまごまごしているようだ。しかしそれも目障りなので私から尋ねることにする。この場の吸血鬼で唯一同格なのが私だけだからだ。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――

ごきげんよう閣下

 今宵再び相まみえることになるとは運命の悪戯か何かなのだろうか。私のために踊る舞台まで丁寧に用意してくれるとはとても光栄で嬉しい限りだよ。そのお礼として、私のパートナーとして貴方を特別に選出することをここに宣言しよう。選ばれる時がくるまでは私たちの踊る舞台を眺めて楽しんでくれると嬉しい。舞台で踊る者たちは十人。演目も十個用意させてもらったよ。

 

一、食事中のマナー

二、深い眠りに就く方法

三、デヴォンに沈む十字の枷

四、片割れは片割れを見つめられるか

五、忌避すべき蜂の毒針

六、地獄の沙汰への理解

七、うっかり不注意の危険性

八、小さな愛の熱い抱擁

九、初めての光

十、四半分の呪い

 

 さて、誰がこれらの演目に選ばれるかはまだ分からない。この紙が開かれた時に演劇は始まるが、どうか自分の番が来るまでは滑稽な演劇を見て楽しんでくれたまえよ。選ばれた時がその者の最期になるがね。安心していい。劇は二日も続かないだろうから。

 

ではまた会う時を楽しみにしているよ、ドニ・エカルラート。閣下がどのような最期を見せてくれるのかが今から楽しみで仕方ないね。

                     名無しの幻影殺人鬼

 ――――――――――――――――――――――――――

 

 

 ただ一言、『殺害予告だ』と言われて渡された紙きれの内容は確かにそう受け取るのが正しいだろうという内容のものだった。しかし殺害予告とはこのような曖昧なものだっただろうか。犯人の署名も無く、殺害対象すら分からない。ただ一人、エカルラートだけが決定しているだけである。

 しかも文字まで没個性的で特定には至らない。私やフラン、美鈴をはじめ、特にスカーレット家にはエカルラートに恨みを持つ者も多い。しかし同時にエカルラート陣営にも彼に恨みを持つ者は少なくないはずだ。或いは全く別の勢力である人間側からの書簡の可能性まである。

 

「ダメね。魔力の痕跡すら上書きされている。少なくとも普通の人間でないのは確かよ」

「上書き? 消しているとかではなく?」

「えぇ上書き。この予告から感じ取れる魔力はそこの執事、これを持って来た彼の物に近いわね。つまり…………彼がよほどの名演技をしていない限りは魔力の上書きということになるわ」

 

 一応彼自身がこの書をしたためた可能性も残っているというわけか。だがパチェがそれを強く推さないという事は、彼女なりの基準がそれを否定しているのだろう。しかし私を含めた多数にその基準は存在していない。

 『殺害予告』『対象は定かではない』『犯人は彼かもしれない』と言った断片的な会話だけを聞いて早まった者たちは我先にと館の出口を目指して走り出した。

 

 ちなみに会話を聞いた者とは言ったが、当の本人である執事やエカルラートも部屋から出ようと真っ先に走り始めている。命を狙っている者が何処にいるか分からないこの状況。そりゃ人の少ない方に逃げたいと考えるのは当然だろう。

 しかし皆が同じ方向に走って結局人が多くなれば相手の思う壺。紙が開かれた時に演劇(惨劇)は幕を開ける。そして一つ目は食事中のマナー。今まさにほぼ全ての者が違反している事実。どこで事件が起こってもおかしくはない。

 

 どこだ。犯人は。誰かを暗殺するつもりならば今は恰好の時。

 駄目だ。数が多すぎて見切れない。しかも皆が高速で動いているせいで常に場所が入れ替わり続けている。動体視力でどうにかなる問題ではない……いけない。ほとんどの者が部屋の外に出て行ってしまった。早く追わねば…………

 

「アアアアアアァァァァァッァァァ! ゲエェェ……うッ…………」

 

 遂に起こった。しかし扉と逆方向からだと……? あり得ない。この部屋にはもう私たちと精鋭とも呼ばれていた僅かな老害どもしか残っていなかったはず。そんな中で殺害が起こったとなれば……やはり老害どもは判断力も鈍っていたのだろうか。これでは精鋭が聞いて呆れる。

 

「おいおい、ここから悲鳴が聞こえたぞ……まさかし、死んでいる……!? なるほどなるほど。やはりスカーレット勢力の反逆だったというわけか。え? ここに残っていたのは貴方たちだけだろう?」

「貴様が誰かは知らないがどうしても私たちのせいにしたいようだな? ここには奴らも残っていた。それを考慮しているか? 少なくとも我々の無実はここの三人全員で保証できるはずだ」

「それこそ詭弁であろう。味方を庇うなどどこでも同じ。いくら貴方たち三人で擁護し合っていても信ずるに足るわけがなかろうよ。それにあの方たちは今しがた亡くなった方と五百年以上を共にしてきた仲だ。今更これほど派手に殺害する動機もあるまいて」

 

 仲間が死んだというのにまったく悲しみを見せないのはどういう事だろうか。もしやこいつ自身が部屋を出たふりをして暗殺したとか? 能力が分からない以上可能性は無くもない。そこまで考慮すれば可能性は無数に存在して到底絞り切れないだろう。

 まったく厄介だ。丁度見ていない方向で静かに起こされた殺害。犯人は今頃、完全に手のひらの上で踊っている私たちを見て腹を抱えているかもしれない。

 

 やがて断末魔を聞きつけたのか、出て行った者たちが次々に帰って来た。エカルラートもそのうちの一人だ。エカルラートは彼の死を悼んでいるようで膝から崩れ落ちるように跪いた……かと思えば次の瞬間には鼻を押さえて飛び上がった。

 

「ニンニクだ! この臭いは間違いない」

 

 ニンニクだと? そんなものがどうして混入しているのだ。ニンニクが苦手なのは何も吸血鬼だけではない。妖魔の類は漏れなく苦手なのだ。館に持ち込む事さえ禁忌と言える物がどうしてこのような場所に?

 

「料理長、これはどういうことなんだ?」

「い、いえ。私めは何も存じておりません。そもそもニンニクの入手経路など無いようなものでして……私どもは皆様に食事を楽しんでいただけるよう全力を尽くしただけでございます」

「ちッ、いったいどうなっているのだ。死因も動機も分からん。とりあえず犯人候補筆頭はこの部屋に残っていた者たちになるだろう。しかしこの館が完全に封鎖されている以上逃げ出すことも不可能。各々がよく気を付けてくれ」

 

 私たち視点、私たちではないから他に残っていた何人かが怪しいことになる。しかし逆の立場から見れば私たちが一番怪しいのだろう。唯一の外部勢力でもあるし。

 

「ちょっと待て、館が封鎖されている? どういう事だ?」

「大雨が降っている。それもこの館の周囲だけ局所的にだ。おそらく犯人の手によるものだろう」

 

 なるほど。吸血鬼以外ならば一応逃げ出すことも可能という訳か。それでもこの場に吸血鬼以外はほとんどいない。この館で働いている者を除けば美鈴とパチェだけだ。

 

「やけに手が込んでいるな……」

 

 となればこの集まりを事前に知っていた者が必然的に犯人となるわけだがあまりにも多すぎる。

 

「そう。あまりにも手が込みすぎている。ここにいる者たちの誰が犯人なのかはさっぱり分からない。対策を講じる事もほぼ不可能だ。しかし手がないわけではない。皆、行動するときは必ず二人以上になるようにすることだ。そうすれば犯人も迂闊に手は出せまい」

 

 なるほど。犯人と二人行動にならない限りは安全性もかなり増す。エカルラートにしては悪くない提案だ。もちろん私が拒否する理由もない。少しでも生存可能性を上げたいと思うのは誰でも同じなのだ。

 

「では私たちは独自に二人組を組ませてもらうよ。どうにもそちら側の者を信頼できないからな。私はもう寝させてもらおう。遺体は何処かに運んでおくことを提案するよ」

「そうか。では部屋の案内をさせよう。そこのお二人もご一緒に。今宵の状況故二人の相部屋になっても構わないかな? ……そう言ってもらえるとありがたい」

 

 

 フランを案内していたメイドに連れられて向かった先には二つの部屋があった。フランはその片方で眠っているらしい。私がそちらの部屋に入ることを残りの二人は何の疑問も抱かずに了承してくれた。

 入った部屋にはベッドと棺桶の両方が置いてあった。吸血鬼以外の使用人たちはベッドで眠るのだろう。二つある棺桶のうち蓋の閉まっている方からは寝息が聞こえる。どうやらフランには何も起こらなかったようで安心した。

 

 

 

 

 また、この夢だ。安心して眠りに就いたはずなのに、私の心の中はいまだに暗殺されるかもしれない恐怖が上回っていたらしい。

 いつもと同じ夢。しかし今回は以前までよりかなりはっきりと見えるようになっている。最近パチェが図書館の管理に小悪魔を召喚したことで役者も全て出揃ってしまった。

 

 これが示すことはただ一つ。もうこの夢の内容は避けられないほどに近づいているということだ。私の能力の範疇を超えてまで随分と長い間悩ませ続けてくれたこの夢ももうすぐ終焉を迎えることになるだろう。

 

「……ねぇ様、お姉様! もう起きる時間だよ」

「んぅ……おはようフラン。もうそんな時間なのね」

 

 そういえば目覚ましを持ってくるのを忘れていた。もし今朝のことが無くて一人部屋だったら寝過ごしていたかもしれない。

 

「相変わらずフランは早起きね」

「お姉様が遅いんだよ。パチュリーも美鈴も外で待ってるよ。あ、そう言えばこの館の周りだけ雨が降っているみたいだね。お姉様が起きるまで暇だったから一人で館内を散歩してたんだけど、何故だかすれ違うと皆私を奇異の目で見てくるんだよね。初見だからかな?」

「多分、貴方が一人で歩いていたからでしょう」

「? どういう事?」

 

 本当に意味が分からないという風に首を傾げてこちらを見るフラン。美鈴たちはそこまで話してはくれなかったらしい。

 

「今朝方この館で怪事件が起こったのは知ってるかしら? ……そう。じゃあまずはそこから話すとしましょうか」

 

 結局美鈴とパチェとは挨拶をした程度だったのか。それならばその時間寝ていたフランは知らなくて当然だろう。

 話を進めるにつれ、フランはその事件に恐怖を抱くどころか興味を抱いているらしいことが分かった。確かに今までフランが何かに恐怖するという事は無かった。何かに悲しむこともほとんど無かった。

 

「なるほど。あのあいつにしては良い案だね。一人でいるよりもよほど安心になる。それに殺害予告だっけ? あいつだけが名指しされている状況ならば、およそ自分の身の安全を確保したいがためな気もするけどね。じゃ、行こうか。もうすぐ夕食の時間だってさ」

「そうね。これ以上美鈴たちを待たせるのも悪いものね」

 

 今朝あのような事があったせいでどうにも信用しきれない部分はあるものの、あの一人を除けば誰にも何の影響も無かった食事だ。現に私はピンピンしているし美鈴とパチェも無事なようだ。

 

「それにしても犯人は何がしたいんだろうね。エカルラートを憎んでいるならエカルラートだけを暗殺すればいい。そんな予告を送らなければあいつ一人くらい簡単だっただろうに」

 

 確かにあれほど手間をかけて容疑者を絞り切らせない犯人ならばエカルラートの暗殺程度楽に出来ただろう。しかもあの書簡を読む限り、犯人の一番の目的はエカルラートの殺害であろうことがわかる。わざわざ演者を十人も用意し、それぞれを殺すことで最終的な目的を果たそうとするその意図が掴めない。

 

「愉快犯ってやつなのかな。そんな危ない奴ほど世界から抹消されれば良いのに。お姉様もそう思わない?」

「えぇ。他人の恐怖心を煽って他者を殺めることに愉悦を覚えるような奴は死んで当然よ」

 

 人間にとっては私たちの存在こそがまさにそのような物なのだろうが。しかし少なくとも私が好んで他者を殺めることは無い。血は生者の物の方がやはり美味しいからだ。私がそうするのはそれしか道がない時のみ。

 もしこの愉快犯に出会えば真っ先に消しに行くだろうが、それは私たち全員の安全を守るためにはそれしかないからである。このような行動をする者は決して反省しない。形だけの謝罪をして、上辺だけの贖いをして、そしてまた罪を犯す。

 

 死ぬ事でしか償えない罪と言うものは確かに存在する。だからこの愉快犯も誰かが殺してくれればそれで満足だ。決して私が殺す必要はない。誰かが地獄に送ってくれればそれで良いのだ。

 

「おはようございます、スカーレット家の皆様。早速席へご案内いたします。と言っても貴女方で最後ですが」

「ん? 他にも四つほど席が空いているようだが数え間違いか?」

「あぁいえ、あの方たちは起床も遅いのでいつも食事の時間は皆とズレているのです。言葉足らずでしたね。申し訳ございません」

「いや、気にしなくて良い。こちらも事情を知らなかったのだしな」

 

 

 私たちが席に着いた後、エカルラートのありがたい(つまらない)挨拶を挟んで夕食となった。今回もやはりメインはフランス料理らしい。私の予想に反してフランは外国の料理でも問題なく口にできるらしい。

 朝食のことがあったせいで皆食事をする手はのろまだが、それを気にしないような精神力を持っている者や、単純に大食家の者なんかは気にせず手を動かしている。

 

 なかなか料理に手が伸びない私を見てかパチェがこちらを見ながらクスクス笑っている。

 

「何よ。何か用でもあるの?」

「いやね、やはりレミィとフランドールは似ていると思ってね。思い出し笑いよ」

「言っている意味が分からないわ。姉妹なんだから似ていても不思議ではないでしょうに」

「いやいや、貴方の思っている『似ている』とは少々方向が違うと思うわよ。フランドールは猫を被って、レミィは逆に傲慢にこの館の者に接した。貴方たち二人、性質は似ていても性格はまったく似ていないのよね。面白い事だわ」

 

 食事前の事にまで遡って思い出し笑いをしていたらしい。何故今更、とは思うがパチェの中では何か繋がるものがあったのだろう。よくわからないが魔法使いがそういうものであるという事はここ六十年で嫌と言うほど理解した。

 

 

 

 結局夕食は何事も無く終わり、そのまま当主会議と相成った。当主会議とは言うものの、元々エカルラートは全吸血鬼を集めるつもりだったので当主以外でついてきた吸血鬼たちも参加している。当然フランもだ。

 美鈴とパチェは少しの間は席を外してもらっている。しかし正直な話、吸血鬼の復権を目指しているのならばそれに従う他種族が混じっていても問題ないのではとも思う。

 

「現在人間の人口は増えつつある。しかし先の大戦によって大方の戦力は疲弊している。その先の事はあやつらが来てから話すとしよう。ちと遅すぎるのは気がかりだがな」

 

 夕食時にいなかった四人の吸血鬼は未だに姿を現さず暢気に眠っているようだ。恐らく部屋の組み分けとして起床が遅い者同士で組ませたのだろうが、明らかにこれは失敗だっただろう。先に起きてくれる者がいない以上、起きてくるのが遅くなるのは必然である。

 

 そのことをエカルラートにも伝えてみるがしかし、彼から返ってきた答えは未だに疑心を募らせているものだった。曰く、普段一人の時でもここまで遅い事は無い、だそうだ。

 相当おかしいと思ったのか、それともこれ以上会議を停滞させるわけにはいかないと思ったのか、エカルラートは仕方なくといった風に執事長を招き入れ、今すぐに四人を起こしてくるように言いつけた。

 

 

「さて、これでは流石に夜食までに何一つ会議が進まないことになる。それではこの部屋に入れていない者に示しがつかないのでな、四人には悪いが先に始めさせてもらおうと……なんだ? フランドール嬢」

「いえいえ。予告によればこの演劇というのは二日も無いようですが。しかもエカルラート卿は確実にリストに入っているとお聞きしていますが、明後日ないかもしれない命を犠牲にして未来を語るおつもりですか?」

「対策なら既にしている。私は自身の身の安全も常に気にしているつもりだ。これ以上意見がないなら続けさせてもらおう…………」

 

 ああ退屈だ。他人の長話ほどつまらないものはこの世にないと思うのは私だけだろうか。一応自ら参加したものの変な殺害予告は届くし、実際に一人目の犠牲者が出ているしでテンションは下がり続けている。そこにエカルラートの長話ときた。彼の下についている者たちにとってはどうか知らないが、別に彼を崇めているわけでもない私にとっては苦痛でしかない。

 こんなものに参加しなければ身を危険に晒すことは無かった。私の心が僅かでも揺さぶられてしまったから、やつの言葉に乗せられたから今ここにいるのだと思うと過去の自分が恨めしくてならない。

 

「…………調査の結果、最も攻略しやすいのはここフランスであろうことが分かった。優秀な指揮官はいるが残されている人員を考えればここが一番だろう。次に教会への対応に……」

「ど、ドニ様! 大変でございます!」

「なんだ。少々落ち着け」

 

 執事長が扉を蹴飛ばす勢いで開けたことで私の微睡みも終わりを告げた。むしろ私が微睡んでしまうほど長い時間話し続けていたエカルラートに戦慄した。

 しかし何やらただ事ではない様子。これは早くも二人目の犠牲者が……

 

「れ、例の四者は……皆絶命しておりました」

「何?! 四人すべてが死んだだと?! あり得ない……あやつらがそう簡単に殺されるはずが無いだろう……」

「しかしこれが事実でして……」

 

 執事長によれば四人のいた部屋は二部屋とも空っぽで睡眠用の棺桶さえ無かった。様々な部屋を探した結果今朝の遺体を安置した部屋に丁寧に四つの棺が並べられ、中は無惨な死体と変わっていたらしい。

 

 一つは完全に封印状態にされており、銀でコーティングまでされていた。

 二つ目の蓋は開いており、心臓に十字の杭を打ちつけられていた。

 三つ目は頭から半分に割られたようになっており、断面は黒ずんでいた。

 四つ目は刺された痕が何箇所もあり、遺体の頭の横には丁寧に銀のナイフが添えられていた。

 

「すべてが今朝の遺体を先頭にしてあの予告の順番通りに並べられていたのです」

 

 そしてその全てが予告通りの殺され方をした、と。恐ろしい隠密性。しかも四人が部屋から出てこなかった時間が長いせいで死亡時刻の推定も詳細には行えない。

 完全に安全を確信していたエカルラートは絶句して何も言えなくなっている。エカルラート勢力の者たちにとっては上司に近い立場でもある精鋭たちの連続死。他の誰もが言葉を失っている中、私以外で唯一エカルラート勢力外のフランの言葉が部屋に響いた。

 

「でもこれではっきりしましたね。犯人は吸血鬼以外の何者かでしかありえません。銀の光だけでも私たち吸血鬼にとっては毒ですからね」

 

 決して大きな声ではなかったが私たちの中に聞き逃すような者はいなかった。これはおそらく良い情報なのだろう。圧倒的多数を占める吸血鬼が犯人から外れた。しかし今朝の殺害現場にいた者のうちで吸血鬼以外となればもはや美鈴とパチェしかいなくなるのである。

 

「こ……殺すんだ。この館にいる吸血鬼以外のやつらを皆殺しにしろ……!」

「そうだ。そうすれば我々は安泰なはずだ……」

 

 パニックに陥った者たちが次々と声を上げ始める。誰もがエカルラートの配下であるという事さえ忘れて、自身の安全のために声を荒げ始める。

 しかし当然ながらエカルラートはこれに抵抗する。仮に吸血鬼以外を全て処した場合、彼の館を廻す者はもはやいなくなってしまう。食事も掃除も身支度も、ありとあらゆることを行っているのが大勢の吸血鬼以外の者たちだからだ。

 

 この提案を受け容れたくないのは私もエカルラートも同じだった。




後編もこれまた長くなるのでおそらく明日には投稿できません。現在は4000字程度書けていますがまだまだです
頑張れば明日。でもおそらく明後日になると思います
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