「そのカリスマで私を救ってよ、お姉様」   作:小鈴ともえ

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夢は時空を越えて

最近よく同じ夢を見る。毎日毎日似たような夢。

 

紅い館を赤い血で染める人間たち、灰となって消えた両親と眷属たち、無様に倒れてゆく使用人たち、そして暴れまわるフラン。

 

大体はこんな感じであるが細かい部分は異なる事が多い。いつかの夢ではフランも両親と同じように消えて行った。またある夢では使用人と眷属だけで人間を追い返していた。

 

お父様たちはただの夢だから案ずることは無い、と言うがフランは予知夢ではないかという。

予知夢…私の持つ能力を考えれば十分にあり得ることである。毎日微妙に異なっているのは私が本来変えられるはずの運命の分岐という事になる。

 

いつ起こるかはわからない。太陽が見られないせいで季節もよく分からなかった。寒そうだったから恐らく冬だろうと思うけど確証はない。フランが今の私と同じくらいまで成長していたのを見ると数か月後とかの話ではない。早くても数年後、妖怪の成長の遅さを考えれば百年以上後かもしれない。そこまで先を見たことが無かったからこそ不安は大きくなる。

 

ただ気がかりなのはほとんどの夢でお父様たちは死ぬ事。更にフランが地下から出てきている事だ。この二つにどのような因果があるのか。それとも全くの無関係なのか。

 

「レミリア、また何か考え事をしているね?勉強に集中できていない。また夢の事か?」

「はい」

 

最近は勉強にも集中できなくなってきた。まるでフランが生まれる少し前に戻ったかのようだ。

だがもう勉強の中断は無いだろう。集中できていないのは私一人の問題だから仕方ない。

 

「良いか?よく聞きなさい、レミリア。お前は夢と言うのは見る者が決めている、そう思っているだろう?それが実は違うのだ。夢を創る妖怪というものがいる。

 

全ての夢はそいつによって創られていると考えるのが妥当だ。お前の見る夢も元をただせばその妖怪が創ったものなのだ。夢についてあれこれ考えるのはそいつの思う壺だよ。だからもうこれ以上そのことについて考えるのはよしなさい。私たちは夢の世界に干渉すべきではない」

 

「はい………わかりました。ですがお父様、もうあんな夢は見たくないのです。どうすれば良いのでしょうか」

 

ほとんど毎日親の死にざまを見せつけられているのだ。その妖怪は私に何の怨みがあると言うのだろうか。最近はもう寝ることすら憂鬱になってきたのだ。

 

「夢を見ないための一番簡単な方法は寝ない事だ。しかしそれは無理がある。夢は見るものだと思って眠りにつくしかない。もし夢の支配者に会えれば頼んでみるといいかもしれないな」

 

やはりきちんとした解決策はないに等しい。しかし夢を創るなんて忙しそうな事をする妖怪が本当にいるのだろうか。フランは何故か他の妖怪に詳しかったりするので後で聞いてみればいいかもしれない。彼女も知っているようであれば一先ずは安心できると思う。

 

そういえばフラン…か。あの子はもう既に能力を自分の物として使いこなしつつある。何故まだ地下にいるのか私には理解できない。お父様は約束したではないか。能力の制御ができるなら地下から出す、と。

 

「そうですねお父様………そういえばフランは………」

 

「どうしてまだ地下に幽閉しているかって?あの子と仲のいいお前なら知っているだろう?フランドールの能力はありとあらゆるものを破壊する。その効果範囲がどこまでか私自身もまだわからない。わかるか?ありとあらゆるものだ。

 

あの子がもし自分の自制心を壊したら?自我を壊したら?そうなった時には手に負えん。もしかしたらそこまでは能力では壊せないのかもしれない。でもそれが仮にフランドールの思い違いだったらどうする?ふとした悪戯心で生活は一気に変わってしまうかもしれない。

 

それにお前も本当は気づいているだろう?あの子は………本当は地下から出たがってはいない。出たければあんな扉簡単に破壊できるはずだからな。

あの子を救えるのはお前だけだ。だが勘違いしてはならない。地下から出すことがフランドールにとっての救済であると思うのは大間違いだ」

 

ああそうだ。本当は分かっていた。分かっていたが目を瞑っていただけなのだ。だって地下から連れ出すのが最も簡単な事だから。それによってフランを救ったという考えを持ちたかっただけなのだ。確かに少し前フランに会いに行った時も私が会いに行っている時点でもう救われていると言っていた。私のするべきことはフランを連れ出すことではなくもっとフランと関わってあげることなのかもしれない。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「フラン~会いに来たわよ」

「あ!お姉様?入って良いよ」

 

フラン部屋である地下室の扉には結界に近いものが張られている。これはフランを閉じ込めるための物ではなく外からの侵入を妨害するための物だ。

そもそもよほど強力な結界でもないとフランには効果が無い。外からの侵入を妨害する目的は使用人への警戒である。あれ以来使用人はフランと接触することを禁じられている。

 

尤もあのような馬鹿な使用人の死にざまを見て同じような事をするような奴はいないだろうが警戒するに越したことは無い。

 

「そうそう、今日の勉強を始める前に聞きたいことがあったのよ」

「またあの悪夢の事?」

 

やはり気づかれるか。まあ何度も話していたら流石に覚えてしまうだろう。フランにも関係のある内容の夢だったのだし。

 

「それに関する事ね。フランは夢を創る妖怪って知ってる?」

 

どうやら彼女の反応を見る限り知っている様だ。お父様の言っていたことは本当らしい。私の悪夢もすべてはその妖怪のせいだったという事だ。

これからは今までより安心して眠れる気がする。

 

「うん、知ってるよ。夢といえば獏。創るだけじゃなくて夢を喰う力も持ってるんだよね。それで、お姉様の悪夢は獏が創ったと考えているの?」

「えぇ、そうよ。フランもそう思わないかしら?」

 

「うーん、どうだろう。お姉様の夢は獏が干渉していない可能性もあるんだよね。獏の創った夢なら簡単に確認できると思うよ。悪夢を見た後に『この悪夢を獏にあげます』って言うと二度と同じ悪夢を見ないんだって。明日………いやもう今日かな?にでも試してみたらどう?それでまた同じ夢を見たらきっと予知夢だわ」

 

私の見ている悪夢は同じ夢といえるのだろうか。毎回少しずつ変化しているから厳密には同じ夢としてカウントされない恐れもある。何にせよやってみないうちはわからないけど。

 

フランは地下から出ないのにどうしてここまでの知識を持っているのだろうか。私では到底知らないような事も聞けばすぐに答えてくれることがある。

特に妖怪やこの国の外についてはフランの方が私より良く知っているようだ。確かに図書館から本を持ってきてほしいと頼まれることはある。大人顔負けの読書量だと思う。

 

本人はそれで言語の勉強をしているらしい。私がフランに何かを教えられるのは一時間だけ。だから少なくとも言語は独学で身に付けることにしたらしい。

 

「フランは外に出たいとか思ったことは無いの?」

 

私の記憶にある限りではフランは一度も外に出たことが無い。生まれてすぐに地下に来ているのだから当り前だが夜の月光や風はなかなかに気持ちのいいものである。

それらへの憧れはないのだろうか。いや、そもそも知らない可能性もあるのか?

 

「外?あんまり思ったことは無いかな。ここでも私にはもったいないくらい快適だし。それにいつもお姉様が会いに来てくれるから他の人に会いたいとかも思ったことは無いわ。

間違えてお姉様やお父様たちに能力を使わないとも限らないし。私は幽閉されているくらいが丁度良いと思うよ」

 

「フラン、貴方はどれほど………「?」…いえ、何でもないわ。勉強を続けましょうか」

 

貴方はどれほど自分を押さえつけているの?その歳でどうして本能に抗うの?

 

フランの未来はそんなに暗いものではないはずだ。見えなくてもわかる。フランはもっと自分に正直に生きていいのに彼女はきっとそうしない。

そうでもしないと家族を傷つけてしまう事を知っているから。




今回はサブタイトルの候補が多くて迷いました

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