「そのカリスマで私を救ってよ、お姉様」   作:小鈴ともえ

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狂気の瞳

「私はお父様の事もお母様の事も愛していたのに…お前たちだけは絶対にユルサナイ。興味本位で地下(こんなところ)まで来てしまったお前たち自身を呪っていろ!」

 

地下にあるフランドールの部屋の辺りから怒声に似た声がしている。紅の館は今人間に襲撃されている最中なのだ。数年前までは門を突破することも叶わなかった人間たちがどうして今館の内部まで侵入し、大人の吸血鬼を殺してしまうまでに至ったのか。それを知るためには少々時間を遡らなければならない。

 

 

~二年前~

 

吸血鬼の被害は年々大きくなり、それに伴う魔族による被害も拡大していた。これを良しとしないのは勿論付近の町や村の人間たちである。

討伐隊を組んだとしても圧倒的な力の前に呆気なく崩れてしまう。それは討伐隊が平凡な兵士たちでしか構成されていないからである。

 

小さな町や村には当然のことながら力のある教会はない。魔族に対抗する手段といえば精々銀の武器を使ったりするなどしかない。しかしながら銀は存外重く、容易に振り回すことは困難である。優れた修道僧がいない限りは下級の魔族を討つことさえ困難なのだ。

 

そこで付近の町や村の長達が集まって会議を開いた。一次的な協力関係の下、何とか金を出し合って修道僧を雇う事にしたのである。しかしいくら金を出しても修道僧とは欲を出さない者たちである。半端な魔族の退治は依頼を受け付けないことが多い。

 

そこで利用するのがスカーレット家という事だ。活動場所こそ館近辺が多いが、その勢力範囲はヨーロッパ全体にまんべんなく広がっている。

これは十分に雇えるだけの理由付けになるのだろう。

 

雇う事は決定したが修道僧たちも暇ではない。結局二年もかかってしまったのだ。

 

 

そして今、満を持して襲撃に来た人間たちによって館の住人は次々とやられて行っているわけだ。昼間の襲撃によって吸血鬼の合流を遅らせ、その間に館内に侵入するという手段を取った。

夜になってしまえば流石に勝ち目が無くなるからだ。ヨーロッパで夜を統べる物の筆頭といえば吸血鬼である。もともと高い再生力とパワーが桁違いに上がるからだ。

 

攻撃では主に銀弾を使う事によって遠距離から安全に狙う事ができるのだ。普段の吸血鬼なら遠くから撃たれる銃弾の速さ程度なら見切ることが可能だっただろう。しかし今は寝起きである。判断力の鈍っている者は当然回避能力も落ちる。

 

吸血鬼としての本来の戦い方をする間もなく当主は墜ちた。理解できない、と言う顔で。それは当然の感情だろう。当主は人間がこの館を本気で潰そうとするとは考えていなかったのだから。

 

基本的にスカーレット家は節度を持って人間と関わってきた。人間を襲うにしても月に数回程度。むやみにたくさん襲うわけでもなかった。

実際、町村によく被害を出していたのはスカーレット家と関係の無い木っ端の魔族たちである。

 

だからこそ当主はたまに来る人間の襲撃も人間たちとの交流だとしか考えていなかった。自分たちに非があるとは思っていなかったからだ。しかし人間から見ればそうではない。木っ端による被害でも大本はスカーレット家だと考えている。ここら一帯を支配しているのがそうだからだ。

 

人間による誤解と自らの認識の違い。それを当主が悟ったのは日に晒される直前であった。

 

 

ところ戻って地下室。吸血鬼の中でフランドールだけはこの時間寝起きではない。昼夜の分からない地下室にいるフランドールはいつもレミリアが帰った直後に寝て朝には起きているのだ。ただならぬ気配から人間の襲撃にもいち早く気づいていた。

 

気づいていながら地上に出なかったのは両親を手に掛けないようにするためである。フランドールには普段押さえつけている狂気があった。家族の前では決して出さないおかげでまだばれていないようだが感情が大きく振れると出てきてしまうのだ。

 

今回は両親の死という悲しみで抑えが効かなくなってしまったのだ。一人は右手を握って潰し、一人は空いていた左手で頭を潰し、地上の方に逃げようとした者は部屋に置いてあるおかしな形の杖のような物で薙ぎ払って首を刈り。降りてきた五人ほどをしとめるまでにかかった時間は僅かに五秒。両親が死んだのなら今地上に出ない理由はない。これが終わったらまた戻るのだろうが。

 

「フフッ、アハハハハ!この()、フランドール・スカーレットに敵うと思ったのか。間抜けめ!この館に入ってきた奴は一人残らずぶっ殺してやる!!」

 

そう言って地上に向かうフランドール。彼女にとっては八年ぶりの地上。出ようと思えばいつでも出ることができるが今まではそうしなかったからだ。

扉に掛けてあった結界を破壊したのは今日が初めてという事になる。ちなみに生身の人間を見たのは先ほどが初めてである。

 

いくら八歳でも寝起きでない上に狂気が表に出ているフランドールにとって人間など蟲のようにしか感じない。遠くから撃たれる弾など動いていないに等しい。日光の下にいる人間も目を握れば問題ない。人間たちは隣にいた者が血だまりに変えられてゆくのをただ見ている事しかできない。蛇に睨まれた蛙と同じ。逃げようとしても脚が動かない。

 

場慣れしているはずの修道僧たちにとってもこれは初めての経験だったと言えるだろう。ただ何とか動けた者はいた。敵前逃亡。それは『生きたい』という欲を前面に押し出した結果の行動である。禁欲を完全に守ることのできる人間がこの世には幾人いるのだろうか。

 

この行動は人間としては大正解である。しかし修道士にとっては欲を出してしまった時点で不正解となる。不正解者への天罰。深紅の槍が身体を貫いた。

 

 

 

 

 

やはり私の夢は予知夢の類だった。あれからも悪夢が無くなることは無かった。そして三年経った今、突然の轟音で目が覚めたのだ。今までも人間がこの館に攻めてくることは何度かあった。だが今まではそれにすら気づかぬほど静かだったはずだ。

 

起きる直前にも例の悪夢を見ていたところだった。今までよりさらに鮮明に。流れる血は両親の物だった。灰と化す瞬間のその顔は何かを悟ったかのようだった。そして荒れ狂うフラン。

 

あの夢が現実となる前に。どうか間に合ってくれ、と願って現場に向かった先で私が見た物は惨憺たる光景だった。私は間に合わなかったのだ。

 

地上にある灰は両親のものだろう。フランは………いた。やはり地上に出てきてしまった。こうなるのは予想できていた。夢でもほとんどは出てきていたから。

日の当たる場所に避難した人間たちを一切の躊躇なく壊していく姿。いつものフランからは想像もできない程に残酷だ。

 

逃げようとするものが極端に少ないのはあの威圧感のせいだろう。私でも少しばかり圧倒された。だがその中において勇敢にも逃げ出そうとする人間がいる。

 

お父様たちを殺しておいて今更逃げられると思うな。神を信じる者たちであるせいで余計に腹が立つ。気づけば手に紅い槍を握っている。知らなくても何となくわかる。これは必中の槍だ。

………やはり狙い通りに命中した。そして帰ってくる槍。

 

「ようこそ我が館へ。好き放題した挙句に私の大切な両親をも殺したお前たちの罪は重い。精々いるはずの無い神にでも救いを請うんだな!」

 

視線が一気に私に集まったところで人間を挑発する。だがあいつらは動かない。動けない。私が未来を変えられればお父様たちは死ななかったかもしれない。そこの人間たちだって生きて帰れたかもしれない。今更どうでもいい事だ。重罪には命を以て償え。

 

「あれ?お姉様も来たノ?一応気を付けてネ。銀の銃弾には」

 

こちらに向いたフランの眼は狂気に包まれていた。あぁそうだ。私は薄々気づいていた。フランが何かを押さえつけていたことに。

 

狂気の解放。恐らく一時的な物だろう。これが終わればいつものフランに戻るに違いない。また押さえつけなければ出てくるのだろうが。

 

「大丈夫よ、フラン。さあさっさと片付けて、お父様たちの灰を埋めて、館の掃除もしないとね」

 

使用人も殆んどがいなくなってしまった。眷属たちに関しては使役者がいなくなった時点で消滅してしまったようだ。もしかしたら私が来る前に日光で消滅したのかもしれないが。

 

とにかく目の前の人間たちを一匹残らず始末するのは確定だ。あわよくば少しばかり食料用に残しておきたいところだ。フランも早くいつも通りに戻してあげた方が良いだろう。あれほどの力は身体に負担がかかる。

 

いつもの大人しいフランも、今の狂気的なフランもどちらも私にとっては可愛い妹なのだ。私はどちらも受け入れる。その上でこれからの過ごし方を考えねばなるまい。

今はとにかく目の前の人間たちをどうにかしないといけない。数は凡そ百。負ける未来はただの一つとして存在しない。まさに蹂躙だ。地獄の果てで悔むがいい。




宗教に関しては色々調べたのですがやはり難しいです
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