希望がたりなかった苗木くん。コンティニューしますか? 作:白黒パーカー
——ボクたちの負け?
喉から掠れたような声が出てしまう。
残酷で無慈悲な学園コロシアイ最後の学級裁判。
スロットに表示されていたのは、ボクだった。
みんながボクから目を逸らす。
葉隠くんも十神くんも朝比奈さんも……霧切さんも。
ジェノサイダー翔を除いたみんなの顔は絶望に染まっていた。
「みんなは本当にそれでいいの?この学園にとどまってもそれじゃあ死んでるのと変わらないじゃないか。……ねぇ、誰か答えてよ」
「…………ごめんなさい」
それは誰の零した言葉だったのかボクにはわからない。わかりたくない。
なにが間違ってたんだ。たとえ絶望に染まっていても希望は確かにあったんだ。だからこそ、みんなと外に出たかったのに。希望はあると信じていたのに。
なんでなんでなんでなんでなんで、
「なんで…………ッ!」
希望は伝染してくれなかった。ボクの言葉はみんなの心に届かなかったんだ。
意識が飛びそうなほどの目眩に襲われて、体がふらついてしまう。
「うぷぷ、苗木くん残念だったねぇ」
「……江ノ島」
モノクマ人形を手でいじりながら、嬉しそうに江ノ島盾子が笑っている。
超高校級の絶望にしてこの学園コロシアイを始めた張本人。
「全員があなたに投票してくれなかったのは残念ですが、まぁいいでしょう。
……あんたの希望ってのは、所詮この程度のものでしかなかったんだよ!絶望した?信じた仲間から裏切られた気分はどうだよぉ。苗木!」
「…………」
コロコロとキャラを変えていく江ノ島にボクは何も言えない。
絶望的なこの現状に心がついていかない。
彼女はそんなボクをつまらなそうに見ていた。
「だんまりですか。絶望的につまらないですね。では、そろそろ苗木くんには退場してもらいましょうか」
理知的なキャラになっていた江ノ島が豹変したように歪んだ笑みを浮かべる。そして、そのままボタンに手を伸ばした。
「それじゃあバイバイ!あんたの絶望に染まる顔たっぷり見させてもらうよ!」
【ナエキくんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします】
ボクの処刑が始まってしまった。
ダン、ダン!と振動とともに後ろから重い音が響いている。
僕は机と椅子に体を固定されて動けない。
どうやら前回のおしおきと同じようだ。
目の前には補習と書かれた黒板がある。
前回と違うことがあるとすれば後ろのプレス機で潰されるまでの時間が長いことと、目の前にいるのがモノクマじゃなく江ノ島さんなこと。
「ねぇ、苗木」
「なに江ノ島さん」
外れてくれないかと僅かながら期待してガチャガチャと拘束された手足を動かしていると、声をかけられた。
「——あんたなんで絶望してないの?」
「……どうしてだろうね」
教卓にもたれかかって心底不思議そうな顔をする江ノ島さん。でも、ボクにもわからない。
確かに希望は絶望に負けてしまったのに。なんでかボクはこんなにも落ち着いている。
「もしかしてまた誰かが助けてくれるなんて期待してんの?アルターエゴはもういないんだよ?今度は確実にぺちゃんこだよ?」
「そうだね。アルターエゴはいない。それにこの拘束はボクじゃ外れそうにないし」
「じゃあなんでそんな落ち着いてるのよ!絶望しないの?希望なんてものはもうないんだよっ!」
少しだけ江ノ島さんの語気が荒くなった。
絶望したボクを見たかったのに中々絶望しないから、怒ったのかな。
いや、それすらも絶望だと言って喜んでそうだけど。
「見てみなよ!あそこであんたが死ぬところを眺めてるあいつら!あっちのほうがよっぽど死人みたいだよなぁッ!」
江ノ島さんの手が無理やりボクの顔を横に向けた。
みんなが見える。みんな絶望に染まっているのだろうか。その中にいる霧切さんと目が合った。
絶望に染った目がじっとボクのことを見続けている。
「——それは違うよ」
「は?」
今度こそ得体の知れないものを見る目で江ノ島さんが声を漏らした。
でも、霧切さんを見てボクも気づいた。どうしてこんなにボクは落ち着いているのか。
「確かにボクはここで死んでしまうのかもしれない。だけど、まだ霧切さんたちがいる。希望は残ってるんだ」
そうだ、ボクたちはまだ負けてない。
希望はなくなってない。ただ足りなかっただけなんだ。
「なに言ってんだよ!あいつらはもう絶望したんだ。期待したって絶望的に無駄なんだよ!」
「たとえみんなが絶望の底に落ちてしまったとしても、心の中から希望が消えることは決してないはずだ」
江ノ島さんを真っ直ぐに見据える。
折れていると思った心はまだ真っ直ぐだ。
「僕は最後まで希望を捨てない。きっとみんなは何度でも前に進み続けられる!
だから、ボクは絶望に負けない!」
だから、今は笑うんだ。
もうすぐ自分は死ぬとわかっていても、プレス機の音がどんどん近づいて、怖くて歯がガチガチと音を鳴らしていても。
彼らの希望になるのなら、ボクは最後まで希望の笑みを浮かべ続ける。
「あんたのことが絶望的に理解できないんだけど」
「理解できなくてもいいよ。ボクがわかっているから。みんなも思い出してくれるはずだから」
ボクの笑顔を見た江ノ島さんは疑問と喜色の混じった顔をしていた。
そんなときに、
「苗木くん!」
名前を呼ばれ横を向くと霧切さんがこちらに駆け寄って来るのが見えた。
いつもはクールな雰囲気で澄ました顔をしているのに涙を流して、届かないのに必死にボクに手を伸ばしている。
あぁ。死ぬのは怖い。怖いけど、それよりも嫌なことがあった。
それはもう彼女たちとは一生会えないことなんだ。
「頑張ってね、みんな。……霧切さん」
そして、ボクはプレス機に潰された。
痛みもなく一瞬で世界は真っ暗に、気絶するように意識がぶつりと途切れた。
★
「かはっ!…………頭が痛い」
物凄い痛みで目が覚めた。
痛む頭を抑えながら、ゆっくりと体を起こす。
「ってあれ?……」
少しずつ頭の中がクリアになっていくと、ふとさっきの光景を思い出した。
周りを見渡すと、そこは見覚えのある場所。
窓に打ち付けられた鉄板に天井にぶら下がる監視カメラ。
「ここはボクの部屋?なんで、さっき死んだはずなのに」
もしかしてボクの超高校級の幸運でまた生き延びることができたのか。
どちらにせよこの部屋にいても何もわからない。
ベッドから起き上がり、ふらつく体で部屋から出る。
重い体を引きずってゆっくりと歩いて、玄関ホールにたどり着く。
するとそこにはありえない光景があった。
「おめーもここの新入生か?」
「え、あ、うん……」
「これで15人ですか……キリが良いし、これで揃いましたかね」
声をかけられて曖昧な返事しかできなかった。
そんなボクを置き去りにして会話は続いていき、彼らは自己紹介をし始めた。
でも、ボクの心はそれを聞いている余裕がない。
だって、目の前には舞園さんが、桑田くんが、江ノ島さんになりすました戦刃さんが、不二咲くんが、大和田くんが、石丸くんに、山田くんに、セレスさんに、大神さんも。
死んでしまったはずの仲間たちが生きているのだから。
ボクは夢でも見ているのだろうか。頬をつねってもジンジンした痛みがあるだけだ。
じゃあ、生きているのか?
「それでは君の名前も教えて……なっ!なんで君は泣いているんだ⁉︎」
「へ?」
ボクに声をかけてくれた石丸くんが驚いたように駆け寄ってきた。
正面から肩を揺さぶられるまで頬をつたう涙に気づかなかった。気づくとさらに涙が溢れてくる。
「だ、大丈夫だよごめんね」
「む、そうか。涙が増えた気がしたが、ならよかった!」
適当だなぁ。
石丸くんが離れてからみんなを眺める。
胡散臭そうにボクを見る十神くんや、不気味なものを見る目でボクに警戒する腐川さん。心配そうな顔をする朝比奈さんもいた。
ボクがおしおきされた後のはずなのにまったく気にするそぶりもない。
まるで何もかも時が最初に戻ったような現状に困惑するしかない。
また学園コロシアイが始まる前なのか。
最後に霧切さんに目を向ける。
「なにかしら?」
霧切さんと目が合った。
彼女はボクの様子を訝しげに見ながら、そんなことを尋ねてくる。
やっぱり時は戻ったのか、初めて会ったときと同じ表情だ。でも、なぜか死ぬ前に見た彼女の表情が重なってしまう。
「僕たちの自己紹介はもう終わったぞ!次は君の番だ!」
「あぁ、ごめんね石丸くん。みんなもごめん、いきなり泣いちゃったりして」
無造作にブレザーの袖で涙を拭ってから改めてみんなを見る。
もしこれが夢じゃないのだとしたら。学園コロシアイの前まで時が戻ってしまったのなら、きっとまたあの惨劇が起きるのだろう。
でも、今度こそ誰も殺させない。
今度こそみんなを助ける。もう江ノ島さんに、絶望なんかには負けたりしない。
1人1人の顔を見てからボクは深呼吸をする。
ここからまた始めるんだ。
みんなを救うためならボクはなんだってしてみせる。
「僕の名前は苗木誠。超高校級の——希望さ」
みんなが絶望に堕ちるぐらいなら。
ボクがみんなを希望に堕としてあげるから。
次はボクたちが勝つ。