希望がたりなかった苗木くん。コンティニューしますか? 作:白黒パーカー
『あー、あー……!マイクテスッ、マイクテスッ!校内放送、校内放送……大丈夫?聞こえてるよね?えーっ、ではでは……』
「……始まったのか」
チャイムが鳴るとそんな構内放送が流れた。
みんながその声に注目する中、周りに聞こえないよう静かにつぶやく。
『えー、新入生のミナサン……今から、入学式を執り行いたいと思いますので至急、体育館までお集まりくださ~い……って事で、ヨロシク!』
謎の放送に戸惑っていると十神くんが真っ先に動き出した。みんなも彼に続いて歩いていく中、ボクだけその場を動かず玄関ホールに設置された監視カメラをじっと見つめた。
あの時と同じでこの監視カメラを通して江ノ島さんがボクたちの様子を確認しているのだろう。
今度は負けないぞ。
そのためにもまずは
★
「なんだかここに来るのも久しぶりに感じるな」
人数分のイスが置かれた入学式。この光景も久しぶりだ。
最後に体育館に来たのは一度モノクマが停止したときだろうか。
それほど時間は経ってないのに、時間が巻き戻るとなんとなく感覚がズレてしまう。
「ぼーっとしてどうしたの苗木くん?」
「あ、舞園さん。ちょっといいかな?」
「いいですけど。なにか私に……ひゃっ⁉︎」
舞園さんの前髪を優しく上げて、彼女のおでこに自分のおでこを当ててみる。
小さな頃、妹のこまるが風邪を引いたとき熱を測るためにする行為だ。
「よかった。生きてる……」
安心したようにため息をつく。
どこかでこれは江ノ島さんが絶望させるためにロボットか人形でボクのことを騙そうとしてきたのかと思っていた。
でも違う。おでこを通して彼女の人肌を感じる。
「よくないですよ!苗木くん、いきなりどうしたんですか!」
「ご、ごめん。ちょっとまだ意識がクラクラしてるみたい」
ひと安心して、おでこを離すとぷりぷりと怒りだした舞園さん。
超高校級のアイドルだけあって怒る彼女もかわいい。頬が赤くなっているのがまたかわいさを引き出している。
「おい!女性に過度に接触するなんて不純異性交友ではないか!」
そんな様子を見ていたクラスメイトたちの中から石丸くんがずんずんとやって来た。
そのまま説教が始まるかと思った瞬間にアイツの声が体育館に響く。
「オーイ、全員集まった~⁉︎それじゃあ、そろそろ始めよっか‼︎」
教壇から弾むようにクマのぬいぐるみが現れた。
右半身が白く可愛らしく、左半身が黒く悪魔のような邪悪な笑み。江ノ島盾子が学園コロシアイを進めるために使ったロボット、モノクマだ。
そして、ボクはモノクマが現れると同時にポケットに入れていた
「ストライクッ!」
「え?ふぎゃーっ!」
さっき体育館に来る前に持ってきた野球ボールがモノクマの顔面を捉えた。悲鳴を上げて教卓の向こうに落ちていく。
ボクの平凡さではモノクマ目掛けて当てるなんて無理だと思っていたけど、超高校級の幸運のおかげで当たってくれたみたいだ。
「な、苗木くん?なんで野球ボール投げてるの?」
舞園さんがボクの突然の行動に驚いて質問してきた。
「あはは、なんだか急に野球がしたくなって」
「今のデッドボールだろ」
桑田くんが呆れたようにツッコミを入れてくるがスルーする。
舞園さんも笑っているが少し引いてるのがなんとなく分かる。
「何するのさ!」
「すいません。たまたまボールが当たっちゃって」
もちろんただの嫌がらせだ。
散々ボクたちを苦しめた上にわざと殺しあいが起きるように仕向けてきたんだ。これぐらいやっておかないと。
「もう!校則はまだ教えてなかったから今回だけは見逃してあげる。次は許さないからね!」
「はーい」
「……ぬ、ぬいぐるみと話してる」
片手を挙げて適当に答える。
不二咲くんがボクのことを変なやつを見る目で見てくるが気にしない。
「ヌイグルミじゃないよ!ボクはモノクマだよ。キミたちの……この学園の……学園長なのだッ‼︎」
顔面に野球ボールがめり込んだまま話を続けるモノクマは傍から見てたらかなりシュールだ。
「学園長、顔面が潰れているんですけど大丈夫ですか?」
「苗木くんのせいでこうなってるんじゃないか!なにを他人事みたいに言ってるんだよ!」
「いやいや、前より学園長に似合った顔つきになってると思いますよ」
「ブサイクがお似合いだって⁉︎」
「そんなオブラートに包んだ覚えはないんだけど……」
「ブサイクより酷いこと思ってたんだ⁉︎」
モノクマのオーバーリアクションに呆れながら、蔑んだ目を向ける。
「もう、自分で話を振っておきながらぞんざいな扱いをするなんて!ドSな苗木くんと話してると進行が遅れちゃうんだから!」
潰れた顔を赤く染めながらハァハァと息を荒くする様子は中身を知っていてもなり気持ち悪い。
「では、これより記念すべき入学式を執り行いたいと思います!
まず最初にこれから始まるオマエラの学園生活について一言……えー、オマエラのような才能溢れる高校生は、
そんな素晴らしい希望を保護する為、オマエラには……この学園内だけで共同生活を送ってもらいます!みんな、仲良く秩序を守って暮らすようにね!」
「ここも変わらない、か」
前とまったく同じ説明。
これを聞くとやっぱりまた学園コロシアイが始まるんだと嫌でも実感させられる。
「えー、そしてですね……その共同生活の期限についてなんですが……期限はありませんっ‼︎一生ここで暮らしていくのです!それがオマエラに課せられた学園生活なのです!」
「え、今なんて言ったの。一生?」
「あぁ……心配しなくても大丈夫だよ。予算は豊富だから、オマエラに不自由はさせないし!」
「そういう心配じゃなくて……!」
他のみんなが慌てているが当然だろう。
希望ヶ峰学園に入学したと思ったら、一生外には出れないなんて言われるのだから。
実際は危険な外から生き延びるために自分たちで閉じこもったのだが、このことは誰も覚えていない。
ちらりと横を見ると、顎に手をそえて考え事をする霧切さん。
見られていることに気づいたのかこちらを見たが、すぐにモノクマに視線を切り替えられた。
せっかく仲良くなれたのに、また振り出しに戻ったのはなんだか悲しい。
「次は出る方法を説明しますよ~」
そんなボクの気持ちなど知らないとばかりにモノクマは説明を続ける。
「それは卒業と言うルール!
オマエラには、学園内での秩序を守った共同生活が義務付けられた訳ですが……もし、その秩序を破った者が現れた場合……その人物だけは学園から出て行く事になるのです。それが卒業のルールなのですっ!」
「卒業なんてさせる気ないくせに」
「苗木くん、なにか言ったかな〜?」
「別になにも言ってないから、さっさと説明しなよ」
「もぅ、冷たいんだから。……卒業になるのはたった一つだけ。それは——
最後の一言でみんなの空気が凍った。
人を殺す。それは現実味のないものだが、だからこそ殺さないと出ることができないという未知な現状が彼らを恐怖に落とす。
「殴殺刺殺撲殺斬殺焼殺圧殺絞殺惨殺呪殺……殺し方は問いません。誰かを殺した生徒だけがここから出られる。……それだけの簡単なルールだよ」
みんなは動けない。この恐ろしいほどに絶望的な空気に飲み込まれている。
それを彼女は、江ノ島盾子は望んでいるのだろう。
「最悪の手段で最良の結果を導けるよう、せいぜい努力してください」
1回目のボクもきっと怯えていたはずだ。
「な、苗木くん?」
ボクが無言でモノクマに向かって歩き始めると青ざめた顔をした舞園さんが声をかけてくる。
「大丈夫だよ舞園さん。ボクが、
そうだ。もう前園さんは殺させない。
みんなの視線を背中に受けて、モノクマの前に立つ。
「うぷぷ、なに嘘ついちゃってるんだよ苗木くん」
「なにが?」
「超高校級の希望のことだよぉー。君、超高校級の幸運だろ?」
まぁ、こんなことに巻き込まれてるなんて不幸だけどねー、とニヤニヤと笑うモノクマ。
「誰も殺させない。お前の思い通りになると思うなよ?」
「ッ⁉︎」
思ったよりも声が低くなってしまったせいで、後ろで息を飲む音や、誰かの動いた音が聞こえる。
後ろを振り向くとみんながボクのことを警戒していた。
「あらら、みんなから警戒されちゃって。こんなんでコロシアイを止められるのかな〜」
「そんなの関係ないさ。たとえボクがみんなから恨まれようと裏切られても、ボクは誰も殺させない。だから——」
そう言ってボクはモノクマを両手で掴み持ち上げた。
「このまま顔と同じように壊してあげようか?」
「キャー!学園長への暴力は校則違反だよ~ッ⁉︎」
モノクマがピコーンピコーンと電子音を立て始める。
前回は大和田くんが危険な目にあったけど、今回は別に彼じゃなくてもいい。この行為が危険だと彼にわかってもらえるなら、ボクがやる。
ただ一つだけ気になることがあって、ボクは後ろの霧切さんを見る。大和田くんのときは注意してくれたけど、今回はどうやらボクを警戒してなにも言ってくれないみたいだ。
「……やっぱりみんなと仲良くなれないのは嫌だな」
一度息を吐いてから体に力を入れる。できるだけみんなから離れた場所に向けて全力で放り投げる。
なんとか空中に飛んでいったモノクマは光とともに爆発した。
「ぐはッ⁉︎」
やっぱり力持ちのみんなとは違ってあまりモノクマが遠くに飛んでくれなくて、爆風を浴びたボクの体が勢いよく吹っ飛んだ。
一度体が中に浮くがそれも数秒。床に叩きつけられるとゴロゴロと転がっていく。止まったときには体がボロボロになっていた。
体のあちこちが痛いけど、死ぬよりは断然マシだ。
「苗木くん⁉︎大丈夫ですか!」
「あ……、舞園さん。大丈夫だよ、体を動かすと少し痛いぐらいだから」
「頭から血が出てますよ!」
慌てたボクに近づいてきた舞園さんが指摘した通り、額に触れると血が出ていた。
たぶんかすり傷だとは思うけど。舞園さんに膝枕してもらえるから幸運かな?
なんとも判断が難しいところだが、死人がいないならいいだろう。
「うぷぷ、女の子に膝枕してもらうなんて羨ましいねぇ〜」
「うるさい、モノクマ。どっか消えてよ」
横から新しく現れた新品のモノクマに辟易しながら、ボクはため息をついた。