クリスマスの次の日の夜。
ペンポ~ン、と部屋に間延びしたチャイムの音が鳴り出てみるとそこにいたのは坂柳さんである。嫌な予感がします。俺の第6感辺りが警鐘を鳴らしているから間違いないね、うん。
彼女はニコニコとした表情で何も言わずスカズカと部屋の中に入って来た。
お茶を出した後も笑みを浮かべたまま無言で部屋でいつも通りに過ごしていた。
オレシッテル、カノジョ、イマメッチャフキゲン!(PS版タイニータイガーボイス)
I.Q.1061(大嘘)の頭脳で解決策を思案するが全く浮かばない。タイム・ネジネジマシーンで過去に逃げたいです…
俺、また何かやっちゃいました?とか異世界転生モノの主人公みたいなセリフが浮かぶが、何かやっちゃったんでせうねぇ…
「そういえば、昨日は一之瀬さんと楽しそうにお出かけしてましたね。」
「そ~ですね!(同意)」
「私は誘ってくれなかったんですね。」
「そ~ですね…(諦め)」
「と、言うわけで私が何を言いたいか分かっていますね?」
「そ~ですね!!(ヤケクソ)」
どっか連れてけって事ですね本当にありがとうございました!
「…で、どこに連れていけと?」
「…初詣なんてどうでしょう?」
ご機嫌が直るならどこへでも行きましょう…
と言うわけで、時は移り変わりまして12月31日の午後11時過ぎ。
俺は寮の外でちょいと早めにスタンバ~イである。彼女を待たせてキンキンに冷えてやがるビールにするのは忍びないのでね。
待機して間も無く、坂柳さんまさかの振袖でのご登場である。紫を基調とした水仙模様の立派な振袖である。落ち着いた雰囲気もあり彼女に非常に似合っていた。そういえば今日は杖持ってきてないんですね。
ちなみに俺も一応着物を着ている。年始はこの方が雰囲気出ますからね、ふいんき。
「こんばんは。お待たせしてしまいましたか?」
「いんや全然。グットイブニング坂柳。振袖お似合いですねぇ。」
「ありがとうございます。赤羽君も似合っていますよ。」
「こちらこそありがとさん、。んじゃ、行きませうか。」
「えぇ。」
コツ、コツ、と足音を鳴らしながら。俺たちは神社へと向かう。基本的に学生しかいないが、年末から年始に変わる時間であるからか。思ったより賑わっていた。
制服、私服での初詣が殆どの中、着物姿の我々はやはり目立つ。
しかも隣に居るのがAクラス代表の坂柳と言う事もあり更に目立つ目立つ。冬休み明けの学校での噂が怖い。特に一之瀬さんが不機嫌になりそうで怖い。
「…今さらだが、俺はここに来たことを非常に後悔している。」
「本当に今更ですね。私の隣に立つ人間なのですから、もう少し堂々として欲しいものですね。」
「うわぁ厳しいお言葉と他人の目線を気にしない屈強な精神力。そこにシビれる、あこがれるゥ!」
「雑兵は私は気に止まらないだけですよ。さ、行きましょうか。」
「アッ、ハイ。」
学校の中の事情か大きな神社ではないが、多少の出店はある。深夜なのにお疲れ様です。
出来れば知り合いに会いたくないなと思っていたが休憩所に堀北先輩の姿が、一応声はかけておきますか。
「堀北先輩お疲れ様で〜す〜。引退したのにこんな所にも顔出さないとなんて大変ですねぇ。」
「…赤羽か。日本の伝統行事だからな。俺は生徒が何かしない様に監視の目は光らせておかないとな。」
「問題行動でしょっぴかれる前に此処からは退散させてもらいますよ。」
「問題児だと思ってるならそうしてくれ。そういえばお前、先日の急に現れた理由は何だ?」
「うえぇ…それ言わなきゃいけない案件ですかねぇ…」
「お前があそこにいた事を誤魔化すのは大変だったんだがな。」
「それ言われると弱いなぁ…ま~あれですよ綾小路と一戦交えたかっただけ、それだけっすよ。」
「まさかとは思っていたが、本当にそれだけの理由だったとはな…戦闘狂の考える事は分からんな。」
「アイツは状況が揃って無いとやってくれなさそうな相手だったんでね。いやぁ彼との戦いは良かったですよ。最後は拍子抜けでしたが。」
「まあ良い。邪魔したな。青春を楽しめよ。」
「そういう冷やかしは要らないんだよなぁ…」
連れまわされるこっちの身にもなっていただきたいものです。
堀北先輩への挨拶はそこそこにその場から離れる。無料で配られていた甘酒を片手に反対の手にイカ焼きを持ち、ちょこちょこ場所を変えながら年明けを待つ。坂柳も同じものをはむはむと食べていた。振袖が汚れないように気をつけなさいね。
「先程元生徒会長とは何を話していたのですか?」
「あぁそれねぇ…綾小路を先につまみ食いさせてもらった、って話ですよ。」
「ふ~ん。」
「そう拗ねなさんなって。相手は同じでも、あんたさんとの目的は違うでしょうに。」
「…そうですね、まぁ良いです。」
そんな無駄話?をしながら、新年を待つ。鳴り響く除夜の鐘の音が年の終わりを、そして新たな年の始まりを告げようとしていた。
しばらくすると除夜の鐘が止まり、少し遠くで生徒がジャンプしているのが見える。新年になり新たな一年の始まりである。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
「あけおめことよろ。」
「…もうちょっと、年明けの趣ってのを味わったらどうです?」
「ぶち壊したくなるのが俺の性分でして。」
「はぁ…もう突っ込まない事にします。」
釣れないご様子の坂柳さん。略して釣れな柳さん、もう訳わかんねぇな。
新年も迎えたということで、賽銭箱の前に立ち。お賽銭を入れる。俺は縁起が良いらしい5円を。坂柳は45円を入れていた。その額何か意味があるんでせうか?
それはそれとして、2礼2拍手をして二人で手を合わせる。
『守護れますようにーー』
何を、という意味も無い曖昧な言葉。だが、今の俺を形成している言葉でもある。俺が必要としているものはこの学校で手に入るのでしょうかね。
最後に深く一礼し、お参りは終了である。
「さ、やる事やりましたし、帰りませうか。」
「…ほゎ…あ…はい…」
坂柳さん、心なしか表情がぽわぽわしている。俺の然程明晰でない頭脳が過去を遡る!キュピーン!と俺と矢木に電流走る。
もしかしてさっきの甘酒、麹じゃなくて酒粕のやつだったのかもねぇ…とはいえ殆どアルコールは無いはずなのだが坂柳さん弱すぎじゃないですかね…心なしか足元もふらついているし。
「ほい。」
俺は手を差し出す。流石にこんな所で倒れられても困りますお客様。
「…ありがとうございます。」
彼女の手は白魚の様に白く、そして少しひんやりとしていた。これ以上長居をして体調を崩されてしまうのも困るので帰りましょうか。
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