実力至上主義の学校で平穏を求めてみる   作:さっきのピラニア

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逃げた後。

 

 

 

さて、脱兎の如く二人+一人から逃げおおせ、現在マイホームなうである。ダブルミーニングになっているのは気にしない。

 

いらんことでやたら疲れたのでもうお休みをキメたい所である。湯船の蛇口をひねり、お湯を貯め始める。逃げてきたのも若干後ろめたいので一応は玄関の鍵位は開けておく。追いかけてくるのかは知らん。

 

お湯が入るまで暇なのでブイーンと掃除機をかけていると、ガチャリと玄関の扉が開く音が聞こえた。二人共追って来たのか、はたまた片方が来たのかしら?

 

「…お邪魔します。お湯を入れる音がしたのでお風呂でしょうか?…って、何をやってるんですか貴方は…」

「バレちった。」

坂柳さんは俺と目が合うと、ため息と共に一言。

かという俺はどこに居るかというと部屋の天井角でALS〇Kしている。目から見守りビームは出ない。ワンチャン気付かれず帰ってくれないかなとも思ったがこの1Kの部屋では無理でした。

「で、何しに来よったん?」

「部屋に戻ろうかとも思いましたが、逃げられたままというのも癪だったので。」

「用は無いのに来たってことか…負けず嫌いな事で。」

 

そんな話をしていると、そろーっと扉が開く。

「…お邪魔しまーす。鍵が開いてたから入らせてもらったよ…あ…坂柳さん…って赤羽君どうして天井に張り付いてるの…!?」

「またバレちった。」

来客がもう一人、結局逃げてもここしか帰る場所が無いからこうなりますよね。

 

「二人が来た所悪いんだけど、お湯が冷めてしまうんでお風呂に入らせていただきますよっと。」

「え…?」

「今入るんだ…マイペース過ぎない…?」

 

「…」

「…」

ゆっくりと湯船に浸かり、いつも通りに来客用のお茶を淹れ、部屋に戻ると無言で座っているお二人。何?今何か話してたのん?

「気まずい雰囲気で僕ちゃんは押しつぶされそうだよ…何かあったんですかねぇ…?」

「…いや…え~と、にゃはは…」

「ここでは何もありませんでしたよ?」

苦笑いを浮かべて返答する一之瀬さんといつも通りの坂柳さん。

ここでは、ってことは俺が逃げた後に何かあったんですかねぇ(邪推)…

「せーめてここでは形だけでも平和にしておいてクレメンス。あと、用が無いなら帰ってクレメンス。ちゃんとお茶を飲み干してからね。」

 

えぇ~、とか言いながら一之瀬委員長はお茶を啜ってお菓子を食べている。早速、入り浸る気満々である。

隣の坂柳暴君も同様。他人の不幸こそ最高の娯楽ぞい!と内心思ってそう。Aクラスでえげつない方法で生徒奴隷にしてそう。

 

「そうだ!さっき聞きそびれた事があったんだ!…年末に赤羽君と坂柳さんが初詣に行ってたって話題になってたけど…本当?」

「…あぁ…そのことねぇ…」

「本当ですよ。ねぇ?赤羽君?」

坂柳はそう言って視線を俺に流す。そうなのだが答えづらい質問なので言葉に詰まる。

「…ふ~ん。やっぱ本当なんだ…」

 

「一之瀬さんはクリスマスに一緒だったでしょう?おあいこですよ。その日は何も無かった様ですし。」

「うっ…」

勝ち誇った様に微笑を浮かべる。個人的には小さいことで一々マウントを取り合うなと思うんだが、負けず嫌いが集まると口撃の撃ち合いになってしまうのは仕方が無いんでせうか?出すならパンチが良いね!そっちの方が駄目だね!

 

「でっ、でもプレゼント交換したもんね!」

「…ほう?」

坂柳さんの声のトーンが一つ下がる。あれ?暖房付けるの忘れましたかね?誰かアイスステージのバトルチップスロットインしました?あと近くにステルスマイン仕掛けてあります?いつ起爆スイッチが押されるか分かったもんじゃないので気が気でないね。まいっちんぐ。

「で、赤羽君。それは事実ですか?」

「…あぁ…まぁ…」

坂柳さんの圧が凄い。何故か始まってしまった修羅場。どうしてこうなった?出来れば修羅場は蚊帳の外から眺めていたいものである。

 

さて、次は俺のターン!と言わんばかりに坂柳が話し始める。言いくるめられるのホント嫌いなのねこの子。

「そういえば、先日、彼が私の部屋に訪れましてね…熱い一日を過ごさせていただきました。」

「熱出した坂柳を看病したれただけなんだよなぁ…」

さて、引き続き俺の冬休みの行動履歴の紹介が続く。彼女らと過ごすと俺のプライベートは無いらしい。

あと明らかな誤解釈を生む表現は止めていただきたい。

「そこ、黙ってください。」

「えぇ…」

「ふ~ん。でも赤羽君は看病しただけなんだよね?」

まず事実確認なのか一之瀬は冷静に俺に質問してくる。

「飯作って軽く看病しただけだな。」

「赤羽君の作ったご飯かぁ…一回食べてみたいかも。」

「ま、機会があればな。」

「あと、私が寝付くまで、手を握ってもらいましたね。」

「うげ…」

あ、そんな事もありましたね。火にガソリンを注ぐの止めて!

「ふ~ん。」

炎上しそうな内容に反して。一之瀬さんの声のトーンは冷静で低いまま。いつものギャップなのか坂柳さんより怖いです。助けてヘルプミー。

事実だけなのに俺が追いつめられていくのは何故!?事実陳列罪辛い!

坂柳さんは続ける。

 

「後日、私の体調が良くなった後にお返しをしに行きましてね。」

「お返し?…何をしたの?」

「秘密です。」

片目をつぶり人差し指を口に当て、坂柳は答える。

「赤羽君。」

「…黙秘権を行使する。」

「…ケチ。」

不満げに唇を尖らせる一之瀬さん。私としても生活を赤裸々に語るのは恥ずかしいんですよ。分かる?

「ついでに仕掛けてもみましたが、上手く躱されてしまいましたね。この朴念仁は。」

「あれはアンタが暴走しただけでしょうに…」

「あら?そうでしたっけ?忘れてしまいました。」

俺のヘタレ指摘&おとぼけを決める坂柳さん。絶対覚えてるだろこコレ。ていうか、そっちは言っちゃうのね。

 

「さて、収集もつかなそうですし、いい機会です。ここで彼にどちら側に付くかを選んでもらいましょうか?」

「え…?」

「なんだその超展開。」

余裕綽々の顔でとんでもない事を言う坂柳。ぶっ飛んだ提案に目を白黒させる一之瀬。そんでもって地獄の選択肢を突きつけられた俺。どうするぅ?逃げるぅ?逃げ場無いね。ここ、俺の部屋だからね。

「良い機会ですのでここで丸め込んでおこうかと。」

坂柳さんがどんな腹づもりなのかは分からんが、個人的にはうわぁ…って感じでござる。

「どうしますか一之瀨さん?今二人で襲いかかれば朴念仁のフリをしている彼もその気になるかもしれませんよ?」

「えっ!?それはちょっとマズいんじゃないかな?」

「一之瀨さんは逃げていただいても結構ですよ?」

「むむむむむ…」

坂柳の悪魔の囁きにしばらく唸っていた一之瀬だが覚悟を決めたのか目をつぶって頷いている。え?マジで?

「赤羽君…ゴメンだけど坂柳さんに乗らせてもらうね。」

「さて、一之瀬さんもこちら側に付きましたし、今日は逃がしませんよ?」

「マージぃ?一旦座ってお茶飲んで落ち着かない?」

一転、超展開&ピンチである。煽る坂柳もだが乗る一之瀨も大概である。

 

ファイティングポーズを決め、ジワジワと二人は俺に距離を詰めてくる。どうしませうか?やはり得意の力技か。

二人の間をすり抜け、クビ根っこを掴む。狭い室内で二人いようが黙って良いようにやられるつもりはありませんよ。

流石に二人の行動に怒気がムネムネしちゃうね。もうケツだけ星人は規制されちゃいましたね。臀部の蒙古斑は見られないんですね。そんな表現無かったけど。フゥーハハハ!!!!…ハゥーン!

「流石に看過できんので強制退場してもらいまーす。」

ちょっやめっ、とか、あわわわ、とか抗議の声と多少の抵抗があったが問答無用で部屋から追い出し、鍵をかける。最初からこうしとけば良かったよ。結局、お茶は残っちゃいましたねぇ。

 

 

ーーーーーー

 

「…追い出されてしまいましたね。少し調子に乗りすぎましたか。」

「アハハ…だね…」

そう呟き二人は肩を落とす。

「…彼がこの学校に入学した目的は何なのでしょうね?」

坂柳は小さく呟く。

「やたら好戦的ではありますが、裏で暗躍している様子もありませんし、あの身体能力と戦闘技術はいつ、どのようにして身に付けたのでしょう?」

「赤羽君は非協力的ではないけど、Aクラスは特に目標にしてないって言ってたかな。もう少し頑張って欲しいな、って部分は無きにしもあらずだけど。」

「私も学費が免除されてる以外の理由は聞いていませんね。」

「私たちの考えすぎかもしれないけどね。」

「そうでしょうか?…もし、彼が入学したしたのは別の目的があるとしたら?」

「別の目的?」

「はい。ここに入ってくる生徒は将来に旨みがあるから入ってきている人間が殆どです。

そして学校のシステムを知らされ、希望した所に就職・進学するためにAクラスを目指す筈ですがその行動を起こさない事に疑問がある、という話ですよ。」

「ふ〜む。確かにそうかもだけど考えすぎじゃないかな。」

「とはいえ、この話は私の推測に過ぎないですし。彼に直接聞いてみないと分からないですけどね。」

「う〜ん、どうだろ?今度聞いてみようかな。」

「どうせ彼の事です。いつも調子ではぐらかされるに、決まってますよ。」

「にゃはは、それはあり得るかも…あり得るなぁ…」

一之瀨は苦笑いを浮かべる。

「まだ多くを隠しているのでしょうね。興味の尽きない人です。」

お互いにふぅ、と一つ息を吐く。

「…これ以上考えても埒があかなそうですし、今日は解散にしましょうか。」

「そうだね。じゃあね、坂柳さん。また学校で。」

「ええ。」

少し肌寒い通路。遠くに響く生徒の笑い声。どこからが香るペンキの匂い。

別れの挨拶を告げた後、二人の足音は徐々に離れていった。

 

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