実力至上主義の学校で平穏を求めてみる   作:さっきのピラニア

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理事長とご対面

冬、朝、登校しようと寮のエントランスを出ると、誰かを待っている様子の坂柳さんが一人。護衛も無しにいるのは珍しい事この上ない。

嫌な予感がしたので、通り過ぎようとする。

「おはようございます、赤羽君。挨拶も無くスルーするのは人としてどうかと思いますよ。」

「ヤな予感がしたからスルーしたかったんだけどなぁ…。まぁともかくおはようさん坂柳。今日は護衛代わりのクラスメイトは居ないのね。」

「貴方がいれば仕掛けて来る事は無いと思いますので。」

「それは喜んで良いのか悲しんで良いやら…」

「光栄な事ではありませんか?」

坂柳は首をコテンと傾げこちらに問いかけてくる。彼女は本気でそう思ってそうではある。どこからそんなに自信が溢れて来るのか教えて欲しいものである。七つの大罪のアレが当てはまりそうではあるが、知ってて否定してきそう。

 

挨拶はそこそこに、足取りに合わせていつもより少し遅い歩調で学校へと向かう。

「で、わざわざ待ち伏せなんかして何か用ですかねぇ…?」

「待ち伏せとは人聞きの悪い事を。私の父…理事長が本日都合が付いたから会いたいそうで。ご都合はよろしいでしょうか?」

「そういえば以前そんな事言ってたねぇ…お断りするのは。」

「都合が合わない様なら後日になるだけですが?」

「ですよねぇ……呼ばれたなら行かないとhave toだよねぇ……」

似非ルー語は坂柳には絶賛スルーされてしまった。

んでんで、特に遠いわけでは無い校門とかとかは直ぐ通り過ぎ、教室の前に到着する。

「んではまた放課後に。」

「えぇ、また放課後に。」

 

つつがなく授業は終わり放課後。

「おまたへ。」

「それでは行きましょうか。」

「へいへい。」

 

んで、彼女に付いていくとやったら豪華なお部屋の前に連れて来られた。

ノックをすると、どうぞ、と柔らかな男性の声が聞こえる。

理事長室に入ると、そこにいたのは温和そうな姿の男性である。彼が理事長なんでせうね。

「失礼します。こんにちは、お父様。」

「こんにちは、有栖。よく来たね。」

「彼を連れて来ました。」

「ありがとう有栖。初めまして赤羽君。坂柳の父であり、この学園の理事長をやっています。」

「ドーモ。リジチョウ=サン、イチネンBクラス ノ アカバネ デス。」

俺は理事長にオジギをする。対面した際のオジギとアイサツは不可欠であり、これらが済む前に攻撃を仕掛けることはスゴイ・シツレイ、なのである。ナオ、攻撃はしない模様。アンブッシュはしない主義である。

「まーた変な事やってますね彼は…」

坂柳さんは呆れた様子で溜息を吐く。やった側だが俺も禿同である。

「…彼なりのお茶目ってものじゃないかな。有栖は下がっていてくれるかな。彼に大事な話があってね。」

「…はい。」

坂柳は部屋から出て行く。少し不服そうな表情をしていたのは、大事な話に自分が混ぜてもらえなかったからでしょうかね?

坂柳が部屋を出て行った後、彼は少し声のトーンを落として話し始めた。

「…さて。何故、君をここに呼び出したか分かるかな?」

「さぁ?心当たりはさっぱりありませんね。」

「…君の過去の行動の事だ。君は過去にあまりにも破天荒な行動をしすぎたのは、承知しているね?」

「ええ、まぁ。」

「この学校に入学する生徒はありとあらゆる個人情報を調査し、厳正な審査を得て入学許可がされている、というのはご存じかな?」

さて、過去の事と言えば思い当たる事は多少なりとはあるのだが、もしかして河原でビニ本探ししていた事まで調査済みなんでせうか?あそこには男のロマンが眠ってる。

「いえ?俺は学費免除の学校だ入れたらラッキー位の気持ちでしか応募していませんよ。審査基準も知らないもんで。」

「君は君が選んでこの学校に入学したわけではなく、入学させられているとしたら?」

「ふむふむ。入学したにしろさせられたにしろ、俺は実際にこの学校にいられてるんで何も問題ないですけどね。」

「君が納得しているのなら良いのだけれどね。さて、話を本題に戻そうか。中学時代、正確には2年生以降の行動によって、この学校に入学させられている。何をしたかは分かっているね。」

「えぇまぁ。大分『やんちゃ』していた認識はしていますよ。」

「やんちゃ、と言うには常識から逸脱していると客観的には考えられる行動であった認識はしているかな?」

「まぁ、そりゃそうかもしれないですね。」

「何故そういった事をしたのか、君の頭の中は分からないが、事実だけ言うと、その件でとある大国と国際問題になりかけていてね。仕掛けた側があちら側と聞いているが面子の問題もあって、君の扱いをどうするかは国の間で現在も話が行われているよ。現在はその態度は保留にしてある。国としての回答は、君を外から完全に隔離された環境での管理、悪く言ってしまえば軟禁する事を一時的に決定している。その決定により3年間、我が国はその国に説明をする時間を保留させてもらっている。つまり、この完全監視された学校に在籍していることが、保留の条件と言っていい。」

「何だかよく分からんまま、国の判断で俺はまんまと入学させられたって訳ですかぁ。」

「そういう事になるね。そして、ここに呼び出した理由として、お願いを一つ聞いてもらいたい。」

この学校に入学する前の俺の行動が原因ねぇ…。ビニ本探しをしていた事では無かったのはありがたい限りである。国家機密ビニ本があれば話は別だけど。

「…聞ける範囲だったらですが聞きますよ。」

「話が早くて助かるよ。…この学校に在籍している間、あと2年ちょっとの間は退学することだけは避けて欲しいんだ。」

「学校側から退学と言われない限りは辞める気はありませんよ。…もしかして学校何かしらのサポートってあります?」

「残念ながら表立って何もしてあげる事はできないね。だからお願い、って形になってしまうんだ。」

表立って、と言う事は誰にも気取られ無い形でサポートするからそのサインを見逃すなって事で良いんですかね?敢えて聞くのは野暮そうだ。

「一つ質問良いですかね?」

「答えられる範囲でなら構わないよ。」

「いつ、面白いイベントが起こるってのは教えてもらえますか?」

「…正確な時期は答えられない、というのがこちら側からの回答になるかな。」

「了解っす。暫くは何も無ければ大人しくしておきます。特別試験があると、難しそうな気はしますけどね。」

その特別試験以外には特に思いつく要素も無いので、何か上位入賞やらMVPがあるとメリットがありそうね。飛び級で卒業とか?いや、この学校に縛り付けたい意図があるみたいだから違うか。

「こちらからの要件は以上かな。……ところで、有栖とは仲良くやっているかい?」

「う~ん、他のクラスなんそっちの話は知らなんだですが、個人的には言動と行動に棘とか攻撃性が強すぎてまいっちんぐですよ本当に。親の顔が見てみたいや。」

心当たりがあるのか、俺の皮肉に苦笑しながら彼は答える。

「身体が弱い事もあってか、過保護に育て過ぎてしまったのかもしれないね。とはいえ仲良くやっていける人物が居るのは何よりだ。これからも有栖をよろしく頼む。」

「特別試験とかAクラスしか希望の就職先へ行けない、なんてルールが無ければ、平穏によろしくできたんですけどねぇ。」

「大変申し訳ないけれども、それは学校の仕組み上出来ない相談だね。…最後に一つだけ忠告をしておくよ。この学校の中では、君という存在の脅威を、くれぐれも他人に悟られないようにした方が良い。常人はナイフを突きつけられただけで会話なんて出来なくなるという事を、心に留めておいてくれ。」

「…ま、使うことはあるかもしれんですが、経験はありますんで出来るだけ気は付けますよ。一部の人間にはバレていそうな気はしますが。…それじゃあ俺は家に帰りますんで。」

「あぁ、すまなかったね時間を取らせてしまって。」

「いえいえ学園長に会える機会なんぞ平生徒には早々無いもんで面白かったです。それでは失礼します。」

 

軽く一つお辞儀をし、ガッチャ!と理事室の扉を開ける。扉の先の廊下では坂柳さんがちょこんと立っていた。そんな所で待たずに帰っていれば宜しいものを。

「お待たせ、待った?」

「その言い方、貴方らしくないですね。」

キザっぽくセリフを吐いてみたが彼女のお気には召さなかったらしい。

「まぁまぁそんな冷たい言い方しないでくんなさいな。お待たせして悪うとは思っている所存でございますですよ。」

「そんな申し訳無さの欠片の無い謝罪をされても響かないですよ。話が終わったのでしたら、とりあえず帰りましょうか。聞きたい事も幾つかあるので。」

「へ~い。」

と、いうわけで、俺たちは学生が帰るべき寮へと戻る。彼女の歩速は以前より速くはなったものの人並みでは無いので、多少牛歩気味ではあるのだけれど。話は長くなりそうだ。

「…で、先程、父と話していた内容に関してです。貴方は入学したのでは無く、させられた存在である理由とは何なのですか?」

「ありゃ、聞いてたのね。自分の父親の言う事を聞けないなんて悪い子ですねぇ。」

「盗み聞きするな、とは言われてはおりませんので。」

「とんちというか屁理屈だねそれは…。その話はあまり吹聴はするなと理事長に釘をさされちゃったからねぇ。」

「それは私にも、と言う事でしょうか?」

坂柳は俺の目をじっと見つめてくる。その目は私が口外するとでも?と語っていたが、わざわざ開けっ広げに言う事ではないのだよ。

「人の口に門は立てられないもので。その明晰な頭脳で推理しておいてくださいや。」

「ケチですね。」

抗議の意味を込めて軽く脚で小突かれる。痛くも痒くもありませんよ。

「ケチで結構コケコッコー。」

「…まぁそれは貴方が話してくれるのを待たせてもらいましょうか。もしくは私がそのうち言い当ててみせますよ。」

「さいでっか。期待せずに待ちますよ。」

「フフ、楽しみにしておいたくださいね。…あと一つ、赤羽君に確かめたい事があります。綾小路君は天才だと思いますか?」

ん~ここで綾小路ですか。彼の事は交えた事以外では話せないんで、その回答を求められているんでしょうね。

「ん~俺の得意分野だけしか判断出来ないが、天才で間違いないでしょう。あの年齢で努力だけで得られる強さは遥かに超えてるっしょ。」

将来有望、前途多難な人間であることは間違えなさそう。あと、家庭の事情で電気浴びてても驚かないよぼかぁは。

「貴方の分野ではそうなのかもしれませんね。私の視点ではそうは思いません。」

「天才ってのは同年代に一人って訳ではないのでは?」

「勿論天才は一人では無いのは理解しています。でも序列はあります。私はこの学校で一番になりたいのですよ。彼よりも、そして貴方よりも。」

「俺は坂柳の括りとは違う気がするんだけどなぁ…出来れば俺の事は無視してクレメンス。」

 

のんべんだらりと話をしているうちに、俺達は寮の前に到着する。何故かやたら長く感じた放課後の時間もこれで終了ですね。

「んじゃあ話はこれ位にして今日はお開きですかね。」

「いえ?今日もお邪魔させてもらうつもりですよ?」

「えぇ…疲れたんで今日は大人しく帰ってくださいよ…」

帰宅後に彼女とボードゲームに興じ、もちろん全敗した。帰り際にニッコニコで帰って行った坂柳さんマジ性格悪いっス。いつか泣かせてやるっス。

 

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