急に評価者とお気に入りが増えて情緒がFooooooooooooooooo!!
--一之瀬視点
林間学校当日の就寝前。
何だかんだあったけれども、二転三転、紆余曲折、波乱万象な展開を繰り返しながらも、とりあえずは試験に挑む仲間が決まった。夕食の席で赤羽くんにはらしい励ましをもらったけれど、彼の言葉通りにならなきゃ良いな。彼ってもしかして予言者じゃないよね!?大丈夫だよね?あぁ、そういえば夕食の席では赤羽君の雰囲気に呑まれて大分気を抜いてしまっていたなぁ……今更ながら恥ずかしくなってきたよ……
「あのさ、一之瀬さんって彼氏いたことあるの?」
私が自分の世界に入ってしまっている間に、Aクラスの女子がわつぃに対して質問をぶつけてきていた。我を取り戻し、言葉を返す。
「んーーいやぁ……お恥ずかしながら、恋愛経験無くて……」
「そうなんだ~超モテそうなのに以外~もしかして理想高い系?」
「そんなことは無いと思うんだけど……どうなんだろ?」
「じゃあさ、今好きな男子はいたりしないの?」
「えぇええ~」
話の流れとはいえ、そんなことを聞かれ、私は慌てるしかない。
「噂じゃさ南雲先輩といるとことか結構見られてるけど……」
確かに生徒会に入ってからは南雲生徒会長と行動を共にすることは多い。けれどもそんな噂が立っているとは思ってもみなかった。
「いや~私が好きとか嫌いとか以前に、南雲先輩の眼中になんてないって。」
「そんなことないよ、ねぇ?」
「そうそう。一之瀬さんが南雲先輩と付き合ってもおかしくないかな。」
「そういえば、同じクラスの赤羽君と良く一緒に過ごしていますよね。同じ学年ですし運動神経も抜群ですし、彼とはどうなんでしょう?」
椎名さんがこちらに問いかけて来た。意外と細かいところまで普段は目を配っているのかもしれない。
「え!…えっと…赤羽君とは良いお友達というかクラスメイトというか、そんな感じかな。私が困った時とか、多分私の気付かない所で助けて貰ったりして、私も彼に何かしてあげられたらなって思うけど、思いつかなくて……」
「それって……」
女子たちの言葉を遮って私は続ける。
「どっちにしても今は好きな人はいない、かな……」
「ふ~ん……」
「え?何々?私変な事言っちゃった?」
「ううん。ただなんていうか、何でも真面目に答えちゃうんだなって、嘘もつけなそう。」
そんな話でも盛り上がる女子たち。だけど、その部分は否定した方が良いだろう。
「にゃはは、そんなことは無いかな。ホントに。」
「え~ホント?」
「ホントホント!例えば特別試験でさ、駆け引きの一つや二つ必要になるじゃない?その時は誤魔化したり嘘を付いたりはするよ。」
「じゃ、嘘を付くことは平気なんだ。」
「……ん~ちょっと違う、かな。誰でもだと思うけど、嘘なんて本当はつきたくないよ。だから出来るだけ嘘をつかない、というか、人を傷つけない嘘は苦手、かな……」
「それって変じゃない、人を傷つけない為に嘘を言うんじゃないの?」
「そうだね。人を傷つけない為の嘘は、きっと優しい嘘なんだと思う。」
ちょっと矛盾がある事を指摘されたが、私の曖昧な回答をそれ以上追及してくる女子はいなかった。
私は嘘をついた。そして私の場合は違うのだ。これは自分に課した一つの試練なんだ。
私の嘘は人を傷つけない為の嘘じゃない。自分が傷つかないための、自分を守るための保身の嘘。
誰かに知られて、失望されて、人が離れて行ってしまう事が無いように、私が私の価値を守れるように。みんなが思い描く正直で嘘が下手でな一之瀬帆波で居続けるために。
一つ嘘をつくと、バレない様にまた嘘をつく。その嘘は雪だるまみたいにどんどん大きくなって。私だけじゃいつか抱えきれなくなって。でも、私はやり遂げないといけない。もう繰り返したくない。
あのつらい日々を。
あの、残酷な時間を。
--赤羽視点
試験5日目。午前中は全て運動にあてられる様で、最終日に行われる駅伝のコース往復18キロを走るとの事。だいたい星ケ谷杯である。試験は駅伝で2キロ程度なのにどうして?
やらなくてもいいことならやらない。やらなければいけないことは手短に。とはいうものの、ただ走るには長すぎる。18キロという距離は。
スタートと同時に快足を飛ばす。
俺に付いて来る人間がいた。3年Aクラスリーダーで元生徒会長の堀北パイセンである。
「ちょっと話良いか?」
「走りながらで良いなら。」
「それなら問題ない。」
3年AクラスのリーダーがBクラスの下っ端に話とは珍しい事もあるもんだ。
「グループ内のサポートは良いんですか?この距離は結構キツイ人もいると思いますが。」
「多少心配な面もあるが、問題ないだろう。」
「さいですか。」
「南雲の事はどう思う?」
現生徒会長南雲。体育祭でリレーの勝負で多少関わった位である。Aクラスかつ生徒会長の実力者でもある。俺とは住む世界の違う人間だし小市民の俺とは関わる事は基本無いんだろうな。
「南雲先輩ですか〜興味は無いですね~。面倒そうなので出来れば関わり合いたくないってのが正直な所です。」
「まぁ、お前の琴線には触れん相手だろうな。…だが俺はあと数か月で卒業だ。その後は南雲が学校内で一番影響力が大きくなる。そして必ず何か仕掛けてくるはずだ。」
ここの生徒会は雑用係程度にしか役割のない他の学校の生徒会と違い、裁量と権限が多い。そのアドバンテージを使ってルール作りなり、特別試験への介入をしてくる、って感じなんですかね。
「その仕掛けてくる内容の心当たりはあったりします?」
「…残念ながら心当たりは無いな。俺の代わりになる実力のある人物を探すための何かはするだろうな。そしてそのとき少なくない退学者が必ず出る。」
堀北先輩に代わる競争相手、もしくは潰すおもちゃを炙り出して潰す、といった所だろうか。
「そりゃ怖い怖い。気を付けなきゃですね。」
「南雲は一之瀬を生徒会に入れたようだな。」
「一之瀬が生徒会に入れなかったのは堀北先輩が拒否したせいですからねぇ。」
「まぁな、どうしてだと思う?」
頭は良く人当たりも抜群で信頼もされている。が、人の裏をかく行動だったり策略を実行する事は本人の性分かしないイメージではある。その矛先が今後Bクラスに向けられた場合に対処できるかは不安である。
「ん~、南雲先輩を止められない、って所位しか思いつきませんね。南雲先輩が学校にいるのは長くて1年ですし、今後の生徒会を担う、って名目であの時一之瀬を入れても良かったんじゃないです?」
俺は一之瀬が頼みに行ったときに推さなかったし、俺も入るのは断ったんだからそこまで強く言えないけどね!
「俺にとっては生徒会に相応しいと思う人材ではないと思ったらからな。」
「南雲先輩を抑えて先輩の思う生徒会を継承できない人材だったからじゃないですか?」
「…」
「1年生の誰が入ろうと、南雲先輩が生徒会長になるのを防げなかった時点で、ある程度の変化は受け入れないといけないと思いますよ。ここは実力主義の学校といわれていますしおすし。」
「…お前は何もしないのか?このまま学生生活を続けるつもりなのか?」
「ん~、俺は俺のやりたい事をやるだけですよ。ま、当分はクラスの方針に逆らわずにしていこかなと。ンジャメナ何か自分に出来そうなこと考えときますか?絶対に堀北先輩が嫌がりそうなやつを。」
「はぁ…お前に話しておいたのは保険だ。俺は生徒たちの退学が増えるのは望んでいないからな。」
「後輩のこれからの学生生活の事も憂えるのは流石、生徒会長って感じですね。ぼかぁにはまねでにねぇや。ま、優秀な対抗馬を見つけられるのをお祈りしておきます。」
「お前に心配される話ではないがな。」
「ま、そうでしょうね。話はこれ位にしましょうかね。んじゃ俺は先に行きます。」
「無理はするなよ。明日に響くからな。」
「そこはご心配なく。」
そう言い残し、俺は更にスピードを上げる。先輩の足音は次第に小さくなっていく。
やらなくてもいいことならやらない。やらなければいけないことは手短に。
1時間程度で戻って来て教師陣にドン引きされたのはまた別のお話。