そういえば一之瀬の噂騒動が始まってから、一之瀬が部屋に来る頻度がめがっさ減った。神崎あたりがAクラスの奴を問い詰めた様だが噂は相変わらず。一之瀬も相変わらず。ぼちぼち試験も迫っているので勉強もしなきゃなと思っている所存でございます。
そして金曜日の放課後、噂の件はまた動きを見せた。生徒達のポストに投函されていた一枚の紙。
『一之瀬帆波は犯罪者である。』
ここで言葉での噂話程度だったものが遂に形に現れた。愉快犯なのか噂を流した張本人なのか?
指紋とかを調べれば分かるかもしれないが、明確な犯罪行為ではないのでそういった捜査まではいかないのだろう。犯人もそう踏んでいるかと思ったが、そもそも万が一を考えて一学生の俺でも思いつくヘマをするとはお茂和無いけど。そもそも金曜の放課後だし事が動き出すタイミングにしては微妙なタイミングですね、とか思うんだが犯人の思惑は如何に?
と、一ひと事件ありながら週末に入る。学校に行かないという事は噂話での動きは一時的に鎮静化するが、開けてからまた動きだすんだろうなぁ…とか思いながら特に何か動こうというつもりは無い。個人的にうざったい案件はあるにはあるが、特に問題なく捌けているので気にしない事にしようそうしよう。
日課のトレーニング後、勉強しようかなと座布団に腰を降ろすと携帯が一回震える。何かメッセージが来た様。
『ごめん。体調崩しちゃった。』
一之瀬だった。そして何とも返答に困る一文である。というか風邪ひいてたのね。取りあえず無難に返しておこう。坂柳からのチョコを摘まみながら指を動かす。
『お大事に。』
『無難だね…あ〜寒気がするな〜鼻水も止まらないな〜。誰か来てくれないかな〜。』
『えぇ…十分な栄養取って暖かくして寝てください、以上。』
『来てくれないの?』
『いやぁコレがコレでアレでして…』
『坂柳さんのお見舞いは行ったのに?』
あれは出掛けた直後に風邪を引かれたからであって……と、思ったが連れ出したのは坂柳である。今更ながら何で俺行ったんだろうね?マインドコントロールでもされてたのん?
『分かりましたよ。行きますんで大人しく待っていてくださいな。』
一応鍵は開けといてくれと伝えておく。
んで、水やら食材やらを適当に買い込み、一之瀬の部屋に向かう。そういえば初めて行くなとかどうでも良い事を考えながら、部屋の前に到着、チャイムを鳴らすとマスク姿の一之瀬が登場した。
「ハロー一之瀬。強引な呼び出しに応じてお見舞いに来させて頂きましたよ。」
「ズズッ…いらっしゃい。ごめんね、こんな風に呼び出しちゃって。」
「いやぁ…中々エグイ呼び出し方されたなぁと思いましたが、体調悪いと不安になるもんよ。ま、病人は大人しく寝てなさんな。何か食えそうなもの作りますんで。」
こめんねー、と言う一之瀬をベットに追い返し俺はキッチンへ。
冷蔵庫に飲み物とかメイト的なモノを詰め込んでおく。そんでもって突撃!冷蔵庫チェック!こっちにはイソフラボン的なモノは入っていない!才能とは…いつも残酷だ…。
定番のお粥にいくつかのみじん切りにした野菜を投入し七草粥風にする。お粥煮る時間がそこまでないので五分粥程度にしかできないがそこには目をつぶってもらおう。もちろん梅干を添えてバランスを良くしておく。
一之瀬の部屋は風邪のためか加湿器がフル稼働中だが、スパゲッティの芳香剤やら枕元にぬいぐるみやら、彼女らしいというか女の子らしい内装になっている。
「お粥作ったで~。あといつもの緑茶も。味は人の好みがあるからご愛敬ってことで。」
「ありがとー」
出来上がった料理をテーブルの上に置いた。食いしん坊(当社比)の一之瀬さん、テーブルの上で人差し指をクルクルさせて、あー、えーと、とか言って食べようとはしない。
「どしたん。食欲無いとかなら後で食べてクレメンス。」
「食べさせてくれたりしたりしなかったりしてくれたら嬉しいなーってしてくれるのかなーって思ったり思わなかったり。」
「えぇ…」
恋人ならいざ知らず、TDNクラスメイト同士でそこまでやるのは気が引ける所である所存でごさいまするよ。
「坂柳さんはどうだったの?」
「流石にそこまでは要求はされなかったでせうねぇ…」
このお嬢様、体調悪いのを良いことにやりたい放題である。風邪でどっかのリミッターはずれてしまったのん?病人って面倒くさいなぁ…(坂柳比)
「サービスで一口だけなら。」
レンゲでお粥を一口すくい、一之瀬の口元に近づける。はむっとそれを一口食べ、一之んはニマニマと笑みを浮かべている。
「フフ、ありがと。」
「…でーいたしまして。」
一之瀬は一言お礼を言った後、お粥を普通に食べ始めた。食欲はきちんとあるようなので大丈夫そうですね。
お粥も食べ終えてひと心地付いた後。一之瀬さん既にベットの中である、
「…赤羽君は何も聞かないんだね。良く言うと相変わらずって感じ。」
噂の件の事だろう。クラスの皆も動いているし、俺が何を出来る訳も無し。疑わしい人間を全員と問い詰めるなり脅迫するなりの手段はあるにはあるが、相手が何も知らない場合もあるし俺が交渉話術に長けているわけでも無い。リスクに対するリターンがあまりにも無さすぎるな、と思っている。
「そりゃー体調を崩しました。んでお見舞いついでにご飯を作った。それだけでない?」
「そうなんだけんどさ…」
一之瀬は何か言いたげではあるが
「ま、その件で俺に出来る事は何もありゃせんのでね。んじゃ、俺は戻りますよ。お大事に。」
「…うん、ありがとう。」
やることやったしミッションコンプリートと言う事で、そそくさと俺は部屋を出る。
一之瀬は話を聞いて欲しかったのだろうか。いや、聞いた所で解決策が咄嗟に浮かぶわけでも無し、そもそも一之瀬が最初から完全否定していればここまで事が大きくはならなかったろうに。曖昧な回答のままってことは本人に後ろめたい事がある可能性があるが、本人が話さないのだから知りようが無い。
う~ん堂々巡りだ。考えるほどドツボにハマりそうだから俺は考えるのをやめた。
後ろ髪惹かれる思いもあったり無かったりするが、戻って話を聞き直すのも照れ臭いので結局戻ることにした。ま、時間が解決してくれればいいっスね、