---一之瀬視点
追加試験。その内容は、全クラスに衝撃を与えたと思う。
クラスの中から1名必ず退学する。救えるのはプライベートポイント2000万ポイントのみ。
後、数か月この試験が遅ければ、もしくはクラスの皆に我慢してもらっていれば、クラスの中だけで完結することが出来たのかもしれない。しかし、現実は非情だ。誰かに助けを求めるしか現時点で退学を避ける事が出来ないのだ。
その日の放課後、南雲先輩に相談を持ち掛けた。答えは3か月後にきっちり返済する事、先輩と付き合う事を条件に出された。この秘密を知るのは二人だけ。誰にも伝えず、試験当日を迎えれば、クラスの誰かを犠牲にして本当に大事な時にプライベートポイントを使うことだって出来る。
私だって花の女子高生だ。損得勘定だけじゃなくて、自分の好きに惚れた腫れたをしたい。でも、クラスを纏めて引っ張っていく責任もある。そしてクラスを取ったら、南雲先輩と付き合う事になる。つまり、他の人とのそういった関係になれなくなってしまう。
クラスを取るのか、私のエゴを取るのか。
その日の夜。巧君にこの話をしてしまった。彼は誰にも話さないだろうが、これで策が無いから誰かを選ぶという選択肢は実質無くなってしまった。条件は彼には誤魔化してしまった。知られてしまうと、たぶん彼は賛同してしまうだろうから。その誤魔化しを察したのか、彼は深く追及はしなかった。
私は迷っている、というか踏み切れていないでいる。必要なさすぎポイントは400万ポイント弱。クラスの為を想えば勿論南雲先輩の提案に乗るべきだ。
南雲先輩と付き合えば、どういった生活になるだろうか。程々にデートに行き、そういった関係になるのだろうか。
もう一人の相手、彼とならどうだろうか。彼の行動を思い返すと、突拍子もないことだったり、想定外だったり呆れてしまう事も多い。しかも躱されるというか釣れない反応ばっかりだ。
でも、彼といると落ち着くのだ。いつ訪ねたとしても、表情と態度では少し面倒臭がりながらも、何だかんだで家に迎え入れるのだ。そしてお茶とお菓子を食べながら学校生活の大変さから解放されるのが心地いいのだ。不思議な感覚だった。いつもきちんと生活しなければいけないという呪縛だろうか。この学校ではそれが求められてしまう。クラス間の対立、クラス内の取りまとめ、友達のと交流、生徒会活動、あげればキリがない。社会人は忙しいと言われているが、高校生も忙しいのだ。忙しいの種類が、社会人から見たら違うのだろうか。
話がちょっと逸れてしまった。彼は私をどん底から救い上げてくれたのだ。彼にどんなに賞賛を与えても『大事な所はきっちり決める。そんな感じで誰かのひぃろぉ、に成れてたらカッケーですねぇ。』なんて間の抜けた表現で誤魔化されてしまうのかもしれない。この一年で彼のやり口は段々と分かってきた。ここを乗り越えて、彼に私をキッチリ見てもらうのだ。目を反らし続ける彼にこちらを向かせるのだ。まだ時間はある。辛くても、苦しくても、目を背けたい事があったとしても。それでも、それでも私は最後の最後まで抗い続けたい。
投票最終日前日の深夜10時。私は自分の部屋にいた。
現実私の取れる選択肢は二つ。クラスの誰かを犠牲にするか。南雲先輩と付き合う事を条件にポイントを借りて退学者を出さないか。
どちらの選択にも傷みが伴う。前者は退学者とクラス全員に、後者は私に。最大人数の幸福を優先するのなら、そしてポイントがあるのなら後者一択なのだろう。でもまだ私は迷ってしまっていた。こんな私じゃクラスのまとめ役として失格だ。答えなんて分かっている。今決められないのは私のエゴだ、我が儘だ。しかも時間的にはもう殆どタイムリミットだ。クラスの代表としてもう答えを出さないといけない。
メールの着信音が鳴り、ハッと我に返る。大分思考に耽ってしまっていたらしい。手元には皺が寄ってしまった一枚のブランケット。無意識に強く握り締めてしまっていたらしい。
メールの相手は綾小路君。私はもう一つの選択肢が出来るのを待っていたのだ。
彼から伝えられていたのはある条件次第ではポイントを獲得出来る可能性があるということ。
クラスの行く末を同盟関係とはいえ、他のクラスの生徒に委ねてしまっているのはどうなんだろうと、Bクラスの代表なのにだらしないなと軽く苦笑が漏れる。でも、これが私の出来る私なりの戦い方だ。
そのメールに直ぐ行くと返信し、膝の上のブランケットを丁寧に折りたたみベットの上に置く。今回は彼の助けは借りない。携帯を操作し、ふぅ、と一息つき、よし!と気合いを入れ部屋の扉を開ける。ここからは私だけしか出来ない戦いだ。
「お邪魔しまーす。」
綾小路君の部屋そう言って綾小路君の部屋に入る。既に部屋の中には石崎君と伊吹さんがいた。
「わ。もしかしたら誰かいるかもと思っていたけど、こんばんは。」
「こ、こんばんは。」
「…」
少し照れた様子で挨拶を返してきてくれた石崎君と、怪訝そうに何も発さない伊吹さん。挨拶の代わりに一言返してきた。
「…利害の一致、ってわけね。」
最初、私が現れた事に伊吹さんは驚いたようだったけど、理由に気づいた様子だった。石崎君はまだ理解していなかった様で首を傾げていた。
「龍園を助ける物好きはいない。けど、もしポイントで賞賛票を入れてくれる人がいたら、しかもそのポイントで退学を帳消しに出来るとしたら、協力者はいるかもしれない。で、その物好きで協力者ってのがアンタって訳ね。」
「協力者だとは思うけど、物好きではないかな。互いの利害が一致しただけ。私がBクラスの皆に呼びかけて40票の賞賛票を全て龍園君に入れるようにお願いする。代わりに伊吹さんは私たちに足りないプライベートポイントを穴埋めしてして欲しい。」
伊吹さんはこちらに視線を合わせる。普段私達は絡むことは無い。信頼しろと言う方が無理がある。それに値するか計りかねているのだろう。
「どうする?受けるか受けないか、それを決めるのはおまえだ、一之瀬。」
お互い言葉を交わさない事に焦れたのか、綾小路君が助け舟を出してくれた。立場上は私には複数の選択権があるので優位は私にある。
「私の答えは決まったよ。伊吹さんと石崎君がさえ良ければ協力させてもらうよ。」
「本当に良いわけ?」
「うん。二人の気持ちは確かめられたしね。」
「あっそ。私のセリフじゃないけど後悔しない事ね。龍園の代わりに私たちのクラスは誰かが泣く奴が出るんだ。それが私だってことは十分にある。」
「でも助けるんでしょ龍園君を。」
「まぁね。変な借り作られたまま終わるのは気に入らないだけ。」
「そっか。」
自分が退学する可能性があるとしても、龍園を助けたいという彼女の覚悟は強固らしい。
伊吹さんは携帯を操作し、私の携帯プライベートポイントが振り込まれる。
「ありがとう。綺麗に届いたよ。」
私は携帯を見せ、きっちり2000万ポイントであることを証明する。
「ここでの交渉は俺が証人になる。会話の内容も記録させてもらった。」
綾小路君は携帯を出し、公平な交渉であることを示す。
「伊吹は約400万ポイントへの提供。一之瀬は見返りに、40人全てが龍園に対し賞賛票を入れる事。もし破った場合は、」
「責任を果たしたことにはならないと思うけど、私は自主退学するよ。」
こうして交渉は成立した。
「…これで以上だな。解散するか。」
「そうだね。伊吹さん、石崎君、そして綾小路君、ありがとう。」
「これは正当な交渉。お礼を言われる筋合いは無いわ。」
「良いの。これは私が心から感謝してるんだから。」
「あっそ。これ以上いる必要も無いし、私たちも出るわ。」
「ああ。」
ーーーーーー
綾小路君の部屋から解散し、女子の居住スペースへ向かう途中。
「ねぇ。一つ聞かせてもらって良い?」
「何かな?」
「この作戦ってアイツも噛んでるの?」
「アイツって?」
アイツと抽象的に言われても全く心当たりが無い。Bクラスの誰かだろうか?
「赤羽巧。」
「巧君?どうして?」
彼の名前が出てくるのは想定外だった。伊吹さんは巧君と関わりがあっただろうか?
「その様子なら噛んで無さそうね。」
「伊吹さんって、巧君と話す事ってあったんだ。ちょっと意外かな。」
「偶に私がアイツに喧嘩吹っ掛けてるだけ。」
「そうなんだ。喧嘩するのはあまり関心しないかな。」
「お互い同意の上よ。あぁアイツの事思い出したら何かムカついてきた。次は絶対顔面に一発入れてやる…!」
「アハハ…お互い程々にね…」
伊吹さんと巧君は喧嘩仲間?らしい。あまり褒められた事ではないが、お互い大きな怪我をしている様子は無いし今はとりあえず見逃す事にしよう。
「話が逸れた。私がそう思ったのは、アイツには私に見えないモノが見えてる気がしたから興味本位。何もないなら良い。」
「そっか。確かに巧君はちょっと皆よりズレてるかもね。」
「ちょっと?こう何ていうか、喋ってても霞掴まされる感じがして嫌。あと身体能力は殆ど人間辞めてるわよ。蹴りも拳もまともに当たった事が無い、それが更にムカつくのよね。」
「まぁ喋り方は確かにそうかも…」
「じゃ、明日からまた敵同士だから。今日だけは協力関係だった。そこは忘れないで。」
「うん。ありがとう。おやすみなさい。」
明日はクラスの皆に投票をお願いしないとね。