投票当日、一之瀬はクラスの皆を集め、Dクラスと交渉してポイントを獲得した旨を皆に説明した。
龍園の事は良く思っている生徒は居ないだろうが、退学の背に腹は代えられない、皆から特に異論もなく了承を得て投票を行った。批判票は神崎に集め、ポイントで退学を防いだ。これでBクラスだけは退学者を出さずに新学年を迎える事が出来る、と信じたい所ではある。ちなみに賞賛票1位は一之瀬さんである。流石だね。
んでもって投票も終わり俺の部屋でございます。
「で、昨日のは何ですかね?いーきなりポイント飛んできたから何事かと思っちゃったよ。」
「ごめんね。何も言わなくて。直前に咄嗟に思いついた事だったから。」
昨日の深夜10時過ぎ、一之瀬からいきなりポイントが譲渡の連絡があった。
何か意図があるのだろうととりあえず受け取っておき、一之瀬からアクションがあるまでは黙っておく事にしていた。
「危ないことするねぇ…Dクラスがどの位ポイント持っているか分からないのにようやったもんですねぇ…」
「結構賭けだったんだけどね、上手くいって良かったよ。ポイントは大いに越した事は無いしね。」
「みゃあしょうだけどねぇ…」
一之瀬の土壇場の胆力に感心しながら、携帯を操作しポイントを返却する。その額約40万ポイント。まぁ大金ですね。
「まぁ言いたい事はありますが、一之瀬さんの選択は尊重しますかね。」
「ありがとね、巧君。皆も生活があるからちょっとでもポイントは還元出来たのは大きいと思うんだ。」
幾ら分配するかはさておき、0ポイントで今後生活しなくて良いのは今後の試験ではプラスではあるだろう。もし龍園が本気で助かりたい場合に一之瀬に借りを作るっていうイベントが出来なかったってのはちと痛い所とは思っていたりする。
ズズズ…、とお互いに緑茶を啜っていると部屋のチャイムが鳴る。
はーいはーいと扉を開けると本日のご訪問のお客さんは坂柳さんである。いつもの事ながら良く来ますねお二人さんは。
「こんにちは、坂柳さん。」
「こんにちは、一之瀬さん。」
二人が挨拶しているのを横目に、俺はそそくさと新たにお茶を淹れる。ついでに一之瀬と俺のお茶も継ぎ足しておく。
「ありがとうございます。」
「ありがとう。巧君。」
ズズズ…、と再びお茶を啜る。何なんですかね?この時間?いつものどうでも良い時間潰しだったら平穏な一日で終わるんだけどね。
「さて、一之瀬さんがいますがまあ良いでしょう。私の父、坂柳理事長が謹慎となり、代わりに月城理事長代理が来た事はご存じでしょうか?」
なんか面倒事が来ましたよこれは。で、嫌な予感は大体当たる。俺は詳しいんだ。
「まぁ知ってはいる。そんなに俺に関係あるとは思えんのだけど。」
「私は初耳だけど…」
「赤羽君はお耳が早いことで、もう少し驚いてくれると思いましたがまぁ良いでしょう。」
「偶然でせうよ偶然。直接坂柳理事長から聞いたけど。」
「あら、直接でしたか。それなら話は早そうです。」
あのさぁ…学校のトップが変わったかって一学生がどうすることも出来んのよ?おわかり?ホームランおかわり。
「月城理事長代行の目的は何だと思います?」
「理事長曰く、綾小路の退学と聞いておりますよお嬢さん。」
「そうですね。で、彼の退学は貴方に取っても都合が悪いと思いませんか?」
「まぁそうだねぇ…でも俺に出来る事があるとは思えないけどねぇ」
綾小路があの時の本気でやっていたかも不明なので、もう一戦やっておきたいのが本音ではある。が、学校内政治に口を出せる立場では無いから静観しか出来ないのが現状ですね。
「理事長代行関係での問題が発生した場合、どこかでお力添えをしていただく場合がある事を伝えておきたくて。」
「…それって、坂柳さんに巧君が協力してもらうって事?」
だいぶ蚊帳の外気味であった一之瀬が坂柳に質問する。さういえばこの話一之瀬にしちゃって大丈夫なんですかね?
「そうです。先程お会いしてきましたが、一筋縄では行かない相手かと思います。最悪、実力行使もある得るかと。」
「何?もしかして権力使ってではなく、物理的に首根っこひっ捕まえて退学とかそうゆうことですかい?」
「可能性はゼロではありませんね。今はまだこの学校のルールに乗っ取った手段を取るとは思いますが。先程、私も危害を加えられかけました。綾小路君に助けて貰いましたが。」
「そりゃあ強引な理事長代行さんだ。」
実力行使は上等だが、坂柳にも無差別とは頂けない。一応、坂柳理事長には善処しますとは言ってしまったし、必要なら出張るとしましょうか。
「それと一之瀬さん。この話は他言無用でお願いしますよ。これ以上生徒の退学を増やしたくなければ。おそらく追加試験は彼の差し金ですし、一之瀬さんも被害者な訳ですから。」
「…分かった。この話は他の子には伝えないでおくよ。というか、言っても信じてくれない人の方が多そうだけどね。というか私この話聞かない方か良かったような…?」
「赤羽君をレンタルした時にクラスの代表の一之瀬さんの許可が無いと後々面倒ですので。」
「私にも牽制の意味で話してたってことかぁ…なんか見逃すにも判断に困る内容、って感じ…かな…」
一之瀬は困った様に苦笑いを浮かべる。それはさておき聞き捨てならないことが一つ。
「俺をモノ扱いするの止めてもらっていいですかねぇ…」
「あら?お話はもう纏まりましたよ。よろしくお願いしますね。」
坂柳さんは微笑を浮かべて話題を打ち切る。
話し相手があっちいったりこっちいったり坂柳将軍に掌で遊ばれている様な気がしますねぇ…
「そういえば一之瀬さん、赤羽君を下の名前で呼ぶようになったのですね。」
思いっきり話し変えてきましたね坂柳さん。僕はもう置物になるよ(思考停止)
「…ええっと、ま、まぁ同じクラスだし変な事じゃないんじゃないかな?」
一之瀬さんも話の変化についていけず戸惑っている様子。そうだよねそうだよねうんうん。僕知らない。
「そうですね。長くいれば親愛の情は沸くのでしょうね。貴方はどうです巧君?この際ですから、私たちの事を有栖、帆波と呼んでも構いませんよ?」
うわぁ…更に急に突っ込んできましたよ彼女。置物に徹したかったのになぁ…この子、不意打ちが急すぎる。あと圧が凄い。
「うわぁ…」
「坂柳さん⁉そんないきなりは名前呼びはちょっと…巧君も引いてるし…」
「あら?それなら私だけ名前呼びにしてただいてもかまいませんよ。一之瀬さんはそのままの方が良さそうなので。」
「それは…あの…急と言うか…悪くはないんだけど…」
淡々と話を進めていく坂柳とぽしょぽしょと小声になっていく一之瀬。
さてどうしようかどうしましょうか?とりあえずバグっておきましょうか。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「巧君がバグった!」
「その回答は予想してませんでしたね…」
「…何だここが地獄か。俺は呼び方は変えぬぞ。一昨日来やがれてんだ。」
「意外と強情ですね巧君は。…それでは、ホワイトデーに一之瀬さんとお出かけをして。その時だけ名前呼びするというのはどうでしょう?」
そんでもって羞恥心の無い坂柳さんの予想外の話題の水平チョップ!彼女の秩序の無い思考回路にドロップキックを食らわせたい!病みそう!
「えぇ…話ぶっ飛びすぎじゃぁありゃせんか?」
「話がどんどん移り変わるのが会話というものです。一之瀬さんもバレンタインデーにチョコは渡したのでしょう?」
「…あの、えっと、一応渡したよ…誰かさんのせいで遅れちゃったけどね。」
坂柳の唐突な確認に対し、一之瀬さん非難の一言も付け加えて返す。意外と強いねこの子。頼もしいや。
「あらあらそれは大変でしたね。それでは巧君、エスコートはお願いしますね。」
「何で話が勝手に進んで行くんですかねぇ…もしかして坂柳さんもくる感じですかね?」
「いえいえ、そんな無粋な事はするつもりはありませんよ。お二人で楽しんできてくださいな。」
「何だ急にオカンみたいなりおったな。」
「オカンと言うのは止めてくれませんか。せっかくの親切心を素直に受け取っても良いのでは?一之瀬さん、どうです?」
「ウェッ⁉…その話、悪くは無いけど…巧君次第じゃないかな…」
出来れば受け入れて欲しそうな様子でこっちを見るんじゃない。夢ならどれほど良かったでしょうウェッ!?って状況ではある。俺の顔、今レモンのあの苦い匂い嗅いだ時みたいになってると思う。ウェッ
「巧君に拒否権はありませんよ。バレンタインデーは三倍返しが基本ですから♪」
満面の笑みで坂柳は俺の拒否権の発動を拒否する。界王拳三倍でこの部屋から脱出したい気分である。というか坂柳さん急に引くのは怖すぎる。何か企んでんだろうけど考えが読めん。わたしのことなどどうか忘れてください。駄目かぁ…
「…まぁ渋々々受け入れさせてもらいまするよ…三倍返しってキツイなぁ…」
「え…私と出かけるのそんなに嫌、だったり…?」
俺の難色の示し方に一之瀬さん悲しみの横顔。いやいや坂柳さんの話のペースに貴方も巻き込まれているんですよ!何をしていたの何を見ていたの!
「いやぁそういうわけでは無いんだけれども、こんな状況で取り付けられるのは想定外というか
何というか…」
「……あぁ…確かにそうかも…」
会話の内容を思い返し一之瀬さんもペースを取り戻してくれら様子。坂柳さん相変わらず怖い子ですね。俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「さて、当日は楽しみにしていますよ。」
「うわぁ絶対ストーカーしてくるぞこの子…」
「さぁ、どうでしょうね?行く場所は大体想像がつきますからね。」
すっとぼけをかます坂柳さん。見つけたら全力ダブルダッシュで逃げてやるからな、と俺は心に決めた。