--伊吹視点
対戦相手が決まった日。私たちはカラオケボックスで龍園を待っていた。それは勿論、龍園に力を借りるため。Bクラスとの対戦も龍園の口添えを発端に私たちが判断したものだ。
約束の時刻を過ぎても一向に現れなかったが、石崎たちに付き合って待てる所まで待つ事にした。このまま帰って勝利を見逃すより、龍園が現れるチャンスに賭けるしかなかった。
カラオケをし、予定から数時間待った後、
「なんだおまえら、まさか本気で来ると思ってまってやがったのか?」
龍園は現れた。多少軽口を交わしあった後(私は本気だったけど)話題はBクラスの分析に移る。
椎名さんがBクラスの強みの結束力の高さを指摘し、そしてただそれだけのクラスだと優し気な顔して結構えぐい分析をしていた。
「俺に言わせればBクラスの最大の欠点は一之瀬……いや、リーダーの不在にある。」
意味が分からなかった。バカにした表情で言葉を続ける。イラっとしたが、今は甘んじて受け入れるしかない。
「一之瀬も神崎も本来リーダー向きじゃねぇ。リーダーを支える参謀タイプだ。アレを頭に据える位なら、まだ鈴音や葛城を頭にしとく方がよっぽどクラスは上手く回る。だからこそ、この腐りきったDクラスにも勝機がある。……ただ、Bクラスにもリーダー気質の奴はいる。」
「誰よ?そんな奴いたっけ?」
「赤羽だ。普段は無能なだらけ切った人間にしか見えないが、頭は多少は切れる。俺ほどじゃないがな。じゃねぇとXの件の時の嗅覚の良さの説明がつかねぇ。あと無人島での闇討ちの件もな。奴が頭に据えられた時が厄介だがおそらく出てはこないだろう。一之瀬が意図してやってんなら話は別だが、俺からしちゃぁとんだ愚策だと思うがな。」
「アイツが……?」
赤羽とは面識があるが、ただ喧嘩の強いバトルジャンキーとしか認識していなかった。龍園は私の想像以上にアイツを高く買っているらしい。
俺無しだとほぼ勝ち目のない試験だろうな、と前置きし、龍園は一枚の紙を提示した。龍園が選んだ試験は肉体を酷使する種目かつ勝ち抜け戦だ。私達より学力の高いBクラス確かに私たちが勝てる要素と言ったら確かにこれしか無い。龍園は付け加える。
「事前に赤羽だけは確実に潰しておけ。俺様が出した種目だと奴が万全なら勝機が大分落ちる。」
確かに龍園の種目だと幾つかはアイツが必ず障壁になってくるのは容易に想像できた。
そして龍園は小さい袋を取り出し、こちらに放り投げる。これをBクラスに使えって事か。いくつかの私たちの今後の行動付きも指示された。
道を龍園は示した。後は私たちがどう動くか、それ次第だ。
ーーーーーー
私は椎名さんと張り込みを行うことにした。場所は学生が良く使うスーパーマーケット。今、Bクラスの生徒のポイントは殆ど無いはずだ。だから外食はし辛い、ポイントのかからない食材や自炊をする可能性が高いと見てここを選んだ。
2日張り込んで、ようやく赤羽は姿を現した。私とアイツの共通の接点は一つのみ。下剤を飲ませる方法は私より頭が回る椎名さんに任せている。
「ねぇ。ちょっといい?」
「ん~?っとあ~ら伊吹さんじゃぁないですかぁ。あとはえ~っと…」
「こうして話すのは初めてになりますね。椎名ひよりと言います。」
「ドーモ、シイナ=サン、アカバネ タクミです。」
赤羽は仰々しくオジギをする。
「ドーモ、ゴテイネイニ。アラタメマシテ、シイナ=ヒヨリです。」
椎名さんを再度オジギを返す。私には全く分からないのだが共通言語があるのだろうか?
「ちょっと付き合いなさいよ。」
「あ~らどうしたのぉ?も・し・か・し・て、私とデートしたいのかしら~?」
急にオネェ口調になって返される。コイツと話すといつもペースを崩される。
「キモッ」
無意識に口から出てしまった。
「お口の悪い子ねぇ~。」
「アンタのクラスと戦うせいでクラスがピリピリしてんのよ!龍園もいないし、先が見えなくてストレス溜まるのよ。だから付き合いなさい。というかムカつくから一回殴らせろ!」
「んふ~ストレスは乙女のお肌の天敵よ。」
「そうですわよ。オホホホ。」
「アラ~気が合うじゃない。」
椎名さんは赤羽の悪ノリに同調し始める。どっちの味方よ!とツッコミたい所だが、本来の目的を忘れてしまわないようにしないと。椎名さんが忘れていないか心配だけど…
「ねぇ?で、付き合わないの?まぁこのまま去るって言うなら後ろから蹴っ飛ばしてやるけどね。」
「おぉ怖い怖い。暴力はいけませんわよねぇ~」
「そうですわ。淑女たるもの、いつでもお淑やかな振る舞いをしないといけませんのよ。」
「……」
椎名さん、本当にどっちの味方なんだろう…
人気のない場所に移動し、移動中も色々とムカつくことはあったが、コイツとの喧嘩を取り付ける事が出来た。ここからは私の仕事。
「さぁて、ぼちぼち始m「シッ!」おぉっとお!ここで伊吹選手の不意打ちだぁ。しかし こうげきは はずれて しまった!」
読んでいたのか反射神経か、側頭部を狙った廻し蹴りは奴には当たらず空を切る。しかも癇に障る実況調の言い回しのおまけ付き。本っ当にムカつくわねコイツ。
「ルール無用、不意打ち上等。何でもかんでもありのマッチというわけですかぁ。」
「こらこら、不意打ちとは卑怯じゃありませんか伊吹さん?こちらからお願いしてお相手してもらうんですから正々堂々と勝負しませんと。」
不意打ちに関しては椎名さんから窘められる。それ位しないと一発当てられ無さそうだったからワンチャンやってみたが不意に終わってしまった。というか本当に私がストレス溜めて当たっている様に見えてしまいそうだ。半分はそうだが。主にコイツのせいで。
一旦息を整え。相手に踏み込み何発かジャブを放つ。こちらはなるべく隙を見せない様に、相手が避ける動作が大きく鳴る様に。1秒でも長く。少しでも疲れさせるように。
「ほっ!はっ!なんのっ!そうきましたか!はい、ここで緊急ニュースです。」
こちらの考えはつゆ知らず。意味不明な掛け声と共に私の攻撃をいなしていく。一言ひとことが癪に障る。
回避に専念していたアイツだったが、私のジャブを打った際の手首を掴む。マズイと思ったが、身を引く間も無く後ろに回られ、そのまま強引に両腕を後ろ手に掴まれて、うつ伏せに倒される。
「勝負アリですかな?」
「クソっ!舐めんな!」
身体を思いっきり反らし、頭突きをかます。相手の勝利を確信した状況での不意打ち、お互いの頭がぶつかる直前、一泡吹かせてやったと心の中でほくそ笑む。
「ツッ!ーーー」
ガツッ!と鈍い音と共に私の視界に星が瞬き、一瞬意識が飛ぶ。
「あらあら、窮鼠猫を噛みきれませんでしたねぇ。ご愁傷様。」
頭も抑えつけれられ、完全に勝負は決まってしまった。私の負けだ。
というかなんっつう石頭してんのよコイツ。
「……参ったわよ。」
「さいでっか。」
そう言った後、私の手は離され自由になる。土埃を払って立ち上がり、体の状態を確認する。
掴まれた手首よりも後頭部が痛む。触ると鈍痛がするので、たぶんタンコブが出来てしまった。
「痛ッッ…」
「痛そうですねぇ自業自得ですねぇ…お大事に。」
こちらは全力でやったのに存外ぴんぴんしている。コイツの身体ホントにどうなってんの?
「二人ともいい勝負でした。お疲れでしょうからお茶でも如何でしょう?」
私たちの喧嘩を一部始終見ていた椎名さんは賞賛の言葉と共に水筒を取り出す。
「あらあら気の利くお嬢さんだこと。ありがとうございますぅ。」
「じゃ、俺は頂き来ましてお暇させていただきますよ。」
コポコポと注がれるそれをアイツは受け取り、私たちは喉を通すのを確認した。
そして彼はもうここに用は無いと言わんばかりに私たちから離れていく。
「敵は一人じゃありませんので。」
彼のと別れ際、椎名さんは一言放つ。
彼は意に介した様子も無く、一つ手を上げ去っていった。
ーーーーーー
「……上手く行ったわね。」
「……そうですね。昨日までは龍園さんの話は半信半疑でしたが、ようやく確信が持てました。私達の選んだ種目に彼が万全の状態で出られたら勝ち目は薄いでしょうね。当日は何とかなりそうです。あまり良いやり方とは言えませんが……」
あの水筒の中身はただのお茶だけでは無い。龍園から渡された試験当日に効く下剤も入っていた。これで多分アイツは当日万全の体調で試験には望めない筈だ。この役回りは石崎がアイツと対面するのを躊躇ったために私から買って出たものだ。屋上の一件で私とアルベルト三人がかりでも叶わなかった綾小路を圧倒した事に返り討ちを懸念していたらしい。男らしくない、ワンチャン狙ってみなさいよとは思う……が石崎たちが束になってかかってもやっぱり返り討ちだろう。
「それでもBクラスに勝つには汚い事もやんなきゃなんないのよ。ゴリラ並みの化け物だからあの下剤が本当に都合良く聞くかちょっと不安だけど。見た?頭突き食らってんのに全然ピンピンしてんのよ?」
「そこまで言いますか。彼も人間ですよ。大丈夫です。」
「フン、どうだか。」
椎名さんのフォローするが、鼻を小さく鳴らして答える。さて、ちょっと手傷も負ったが目的は達成できた。後は試験で調子を崩してくれる事を願うばかりだ。
オーバーロード、面白いですよね(すっとぼけ)
有能な怠け者理論的には完全に合ってるとは言えませんが。