日曜日、皆さんお待ちかねのホワイトデーでございます。ちなみに俺は待っていない。
一応ホワイトデーのお出かけですので、ジャケットを羽織っておく。コンビニで立ち読みしたカッコ良さげな雑誌のお出かけ特集でのオススメコーデに清涼感ってめっちゃ書いてあった。服はユニ〇ロで買った。
「お待たせ!」
「やぁやぁ一之瀬さん。お早いご到着で。」
「……つ~ん。」
俺の挨拶にそっぽを向き、何故かご機嫌を崩した様子の一之瀬さん。さて、やらかしてしまったかと俺の挨拶を振り返る。うん!いつもの!(良いとは言っていない)
服装は無難なハズなのでヨシ!風呂にも入ってるヨシ!
あと思いつくとしたら、もしや……ホワイトデー名前呼びの件である。え?アレって有効なの?策士坂柳の案件だからノーカンじゃなかったの!?三倍が返しは辛いぜベイビー。思い……出した!綴る!
「あ~え~今日は誠に遺憾ながら、帆波さん呼びで勘弁させていただけませんかね?」
「……誠に遺憾ながらは、使い方間違えてると思うんだけどー。ま、いっか。えっと、今日はよろしくね巧君!」
裏に俺の使いたくない気持ちと、照れと、ガムとゴムの性質を併せ持った言葉に、苦言を呈しつつも、一之瀬さんは納得して頂けたご様子。この呼びで今後も強制されないよね?
一之瀬からシトラスの香りがする。毎度その香りはしないので香水だったんですねそれ。
ぼかぁも付けてみましょうかピャネルの5番とか。安すぎてワキガみたいな臭いがするやつ。
お召し物はと言いますと、淡い水色のちょい肩出しニットに膝下の長さの白のスカートにちょいヒール。おそらくフェイクレザーの淡いベージュのポーチが合わさりまして、春のお出かけですと一目で分かるコーディネートである。
というか何着ても似合いますね一之瀬さんは。
「まーありきたりな表現で申し訳ないでせうが、お洋服に合ってますねぇ。気合いをヒシヒシと感じますよ。」
「褒めてくれるのは嬉しいけど。ありきたりって所と最後の一言は減点かな~。」
「厳しい採点ですこと。ま、来週は試験ありまするが、今日くらいは一旦忘れて楽しみましょうや。」
「そだね~!たまには息抜きも大事だと思うし!じゃあ、行こっか!行き先は巧君お任せで良いのかな?」
「うぃ~す。それでは手堅いコースしか回らないお出かけスタートです。」
「にゃはは…巧君にそんな洒落たデートは期待してないから大丈夫だよ。」
「その言い方も酷くありません?」
気は乗らないがお返しはしておかないと義理人情無い人間だと思われてしまいますからね。日本人だもの。
そうして向かったのは映画館である。定番ですね。
制作費〇億円!超アクションと謳っているハリウッド映画と恋愛映画を提案し、一之瀬は迷わず恋愛映画を選んだ。なんでや、面白いやろアクション映画。
内容は二人の男女の教師と、女教育実習生の三角関係の恋物語。煮え切らない態度の男と外堀を埋めていく教師と既成事実を作ろうとする実習生。
流石に某伊〇誠展開にはならなかった。あれ最早ホラーですからね。
「いや~あのなんというか……思ったより陰湿な内容だったね~……」
「だなね~」
中身としては甘いラブコメとは程遠い展開でしたね……面白かったけど。
「気を取り直して、次行こうよ!どこにしよっか?」
総合スポーツアミューズメント施設に到着する。
言うてしまえばス〇ッチャである。
受付を済ませ。
「お~!いつ来ても目移りしちゃうね~!」
映画館に引き続きテンション高めの一之瀬さんは絶賛継続中である。
「いやぁ一杯ありますねぇ。い…帆波さんは良く来るんですかねぇ?」
「たまーに友達と来てたりするよ。巧君は初めて?」
「うんす。興味が無いもんで。」
「運動神経抜群なのに意外かも。」
「スポーツ系の動画はよく見るけどやってはいないねぇ。あとおまけで見よう見まねで大体出来る様になる。」
「そうなんだ~、ってか運動神経以上のコトサラッとやってない?」
「出来てしまうのですよ。天才ですから。」
「否定できない所いっぱい見ちゃってるけど、うわぁ……」
俺の言葉に一之瀬さん引いているご様子。事実だからしょうがないじゃないか。
「そもそもこういう所に来る友人がいないのですよ。ぼっちの悲しい宿命です。」
「まぁそれは確かに…ドンマイ!」
「おいそれはフォローになってないぞ。泣いてしまいそうだ。」
涙ちょちょぎれそうになりながら、辺りを見回して空いている所を探す。エアホッケーに人が居なそう。とりあえず1つ目にやるのに丁度良いだろう。だかしかしやったことは無い。
お互いに対面し、対戦スタートである。一之瀬
「お先にどうぞ。レディーファーストってやつですよお嬢さん。」
「じゃあ遠慮なく。それ!」
勢い良く打ち出されたパックは俺の手にあるマレットの横を通過してゴールについて吸い込まれる。
「イエーイ先制!」
「フフフ、随分とコケにしてくれますねぇ。完膚無きまでに叩きのめして差し上げますよ。」
接戦を繰り広げつつ、勝負は俺の勝利で終わる。一之瀬は負けたことに悔しがりつつこちらに疑問の目を向ける。
「……もしかしてさ、巧君すごく手加減してた?」
「もちのロンさ。お楽しみ頂けたかな?」
「ぐぬぬぬ、これが運動の出来る人の余裕……」
「どします?まだやります?」
「もう一回!手加減ありで!」
「で、ハンデの条件は?」
「ん~……じゃぁ、逆の手でやってもらおうかな。」
「へーい。」
俺はお手手を持ち替えてもう一戦。
一之瀬さんはこっちにパックを全力で打ち込んでくる負けず嫌いさんが出てきてしまった。
勢い良く飛んでくるパックを上から挟んで止めて打ち返す。速く打っている訳では無いが自滅とかも重なりこちらがリードしていく。
「なんかズルい!挟むの禁止!」
「えぇ……」
ハンデの追加点が出てしまったので別の技を考えよう。
飛んできたパックの衝撃を吸収して音を出さずに止めてみる。イメージはテニスラケットで飛んできたボールを弾ませずにキャッチする感じ。意外と出来るもんですね。で、普通に弾き返すのと織り交ぜるとタイミングを取りづらくなるんだなこれが。勝手に別の競技やってしまってますね俺。結果は言わなくてもってやつです。
「くぅ~巧君強すぎ。」
「まぁまぁ今日は相手が悪かったということで。次は対戦しないやつにしましょうぜお嬢さん。」
「ちょっと悔しいけど…そだね、次行こっか。あれとか楽しそうじゃない?」
そう言って向かったのは機会がボールを投げて打ち返す皆さんご存じバッティングマシーンである。目の前の液晶にピッチャーが映し出されていて実にリアルである。手をバッティングマシーンに差し出して一之瀬に先に入る様に促す。
「お先どーぞ。お手並み拝見。」
「ありがと、それじゃあお先に。」
レンタルの一番軽い金属バットを手に取り何度か素振りをしてヨシ!、と一声気合を入れてバッターボックスに立つ。スピードは100km/h。これ女子基準だと早いんですかね?
「ブェ、ブェ、ブェブェブェ。ヴァーーラバンババララバーバーバー。」
俺はダミ声でどこかで聞いた、ブブゼラ的応援歌で一之瀬をひとり鼓舞する。
「独特な応援だね・・・」
「こっちの方が臨場感出るかなって。」
「いやぁそれは無いかな・・・」
「あらそう。残念。」
一之瀬さんはこちらの応援にはに苦笑いだったので中止することにする。地味に周りから変な視線を受けている気がするが気にしたら負けである。
機械は動き出し注目の第一球。球はストライクゾーンど真ん中に吸い込まれていき。一之瀬さんはフルスイング。が、バットは残念ながら空を切りボールはバシィ、と後ろのゴム板に当たり。一瞬の沈黙が流れる。
「ん~結構と難しいかも。」
「悪くは無いんでない?当たれば飛ぶっしょ。」
「よーし次!」
「がんば~」
その後、ボールは数球投げられ。空ぶったりぼてぼてのゴロだったりが続いたが、かきーんと快音と共にボールは綺麗に前に飛んで行った。
「ないすばっち~」
「おお!これは気持ち良いかも!」
何球か良い打球も飛ばしつつ一之瀬さんの番は終了となった。
「ふ~面白かった!」
一之瀬さんは額の汗を拭いこちらに戻って来る。満足気なご様子だったので良かったですね。
「お疲れ~中々に良かったんでない?」
「全然やった事無かったけど楽しかった!次巧君ね。お手並み拝見だよ!」
「あいあい。カッコいいとこ見せなきゃダメなんですかね?」
「もちろん!巧君って経験者だったり?」
「いんや全然。ま、何とかなるっしょ。」
一之瀬さんと交代しまして。さて俺の番である。普通サイズの金属バットを担ぎまして一度素振りをする。スピードはここで一番速い140km/hである。
「頑張れ~」
液晶のピッチャー振りかぶりまして第一球。ビシュッ、と先程見ていたのよりは速い球がこちらへ向かってくる。こんなもんかと感じつつバット一閃。カキーンと小気味良い音を響かせてボールはピッチャーの上を通り後ろのネットへ突き刺さる。
「すご!ナイスバッティング!」
それからも十数球放られるボールを快音と共にネットへと弾き返していく。機械の動きが止まってジ・エンド。もっと速さがあった方が楽しいですかね。100マイル位?
「私もやってみよっかな~」
ふんすとさっきよりかは気合いが入っている様に見える。
さて、ピッチャー大きく振りかぶって第一球。
放たれた球に一之瀬は反応出来てないのか、ボールはそのままボスっと後ろのゴム壁に当たる。
「速!」
「おーいー、バッター腰引けてんぞ~」
結局はほとんどはタイミングが合わず空振り。何球かバットには当たったが、満足に前には飛ばずに終わってしまった。一之瀬さんにはきびびのきびだったみたいですね。
「いや~流石に速いね。全然当たらなかったよ。」
「んまぁ、いきなり140キロの球打つのは難しいんじゃない?知らんけど。」
「巧君は軽々打ってたじゃん。」
「自分、天才なんで。知らんけど。」
一之瀬の言葉に某最強な人の掌印 を結んで答える。
「さっきの見てたから否定出来ないのムカつく~。」
「にゃははは。鍛錬に励めばいいのだよ若人よ。」
「鍛錬でどうこうなるものじゃなさそうだけどね……」
その後も幾つかのバミトントンやらピンポンやらを軽く遊び散らかした。結果はお察しである。
小腹もすいたので施設から出て次の場所へと向かいますかね。
「さぁて、しこたま遊んだ後は飯にでも行きましょうか。」
「そうだね、どこいこっか?」
千葉の某主人公が愛してやまない某イタリア風ファミリーレストランが浮かんだが、SNSで炎上してたなぁと思い出し一応選択肢から外しておく。我々は学生だから問題ないと思いますが念のためにね。しょっちゅう行ってるだろうし。
「サイゼ、と言いたい所ですが折角ですしおすし、あんまり行かないちょっと洒落たっぽいカフェレストランにでも行きませうか。」
もちのろん、俺が普段通っている筈も無くリスキーな場所ではあるのだが、ネットのレビューが好評だったからそれを信じるとしましょうか。
「賛成~あそこのスイーツ美味しいんだよね~」
一之瀬さんは行った事のあるご様子。今を駆ける一軍女子は違えぜ。賛同も得られたますたすぅぃ、そのカフェレストランに向かいますぃか。
一之瀬と共にメニューを眺め、メインはお互いカルボナーラ。デザートは俺はシャルロットとコーヒーを、一之瀬はショートケーキと紅茶を注文する。
「一之瀬はこの店によく来るん?」
「ん~たまに、かな。もっと近い店もあるし、気分転換に来るって感じ。」
「ほーん。」
「「いただきます」」
お互いにカルボナーラを一口啜る。
「「んまー!」」
「美味しいね、これ!」
「いやぁいやぁ意図美味ですねぇ。」
パスタを完食し、食後のデザートをお願いする。
「巧君頼んでたのシャルロットだっけ?こーゆーの詳しいのは意外だったかも。」
「なにを失敬な、言いたい所存ではございまするが、自分を客観視したら同意しかないでやんす。……まぁ真実を言わせてもらいますと、この前読んでた小説で出てきてちょっと気になったもんで。美味いのかは不明。」
「小説読むのはもっと意外かも。部屋に教科書以外置いてたっけ?」
「いんや無かったはずよ。こんな小さい端末で本を読めるなんて時代は進化しましたもんですね。」
そう言って俺は携帯端末を見せる。かしこな視聴者の皆様なら即座に気付いたであろう、キンドなんとかや楽天なんとかやDMMなんとかのアレである。
「あーそっか、読んでたのってどんなジャンルのやつ?」
「ん~、たぶんあれは日常系のミステリーかねぇ。平々凡々を目指す高校生が日常のちょっとした事件に巻き込まれていくって感じのお話。」
「へ~、赤羽くんが本読んでるのって意外かも。頭の中でいつも戦いのことばかり考えてると思っていたからさ。」
「そりゃぁ無いでしょうよ。本も読んでいるし、ぼかぁは博識で聡明で知的でかしこかしこまりましたかしこな人間よぉ。」
嘘である。この男、頭の中はバトルの事で頭一杯のバトルジャンキーである。
「それ賢くない人の言い方だよ!」
すかさず一之瀬が突っ込む。うむ、鋭い。ツッコミだ褒めて遣わすぞ。と心のなかで称賛の言葉を述べる。口に出さないのは勿論ぐうの音もねないからである。アーメンオーマイゴット。
そんなこんな話をしているうち、店員さんがデザートと飲み物を運んできた。紅茶とコーヒーの芳醇なスメルが嗅覚に喜びとか感動とかドラマチックチックで止められそうにない止めたいと思わないものとかをストライクバッターアウト。
感謝の言葉もそこそこに、シャルロットを口に運ぶ。泡がさらりと溶けていくような軽やかな口当たりにほのかな甘味。スポンジ生地の内側はクリームチーズ風味のババロアが入っていた。中に入っているマーマレードソースが主張しすぎずにマッチしている。何が言いたいかと言うと、すごく……おいしいです……。
ーーー
「あ~楽しかった。」
「そうだにぇー。」
食事も済んだので、俺達は帰ることに。もうやることないし、一之瀬は満足したご様子ですしおすし。
「最後にさ、寄りたい所があるんだけど、良い?」
「おう。どこにでも付いて行きますぜ、お嬢さん。」
彼女に連れられた場所は、学校の屋上だった。
渇望していた綾小路と戦った場所。少し不完全燃焼感のある幕切れだったのが惜しまれる。ヤル気ださせる方法考えんとなぁ。
そして彼女が学校に来なくなった時、俺が思い付きで連れて行った場所でもある。
「おー高い高い!あの時は景色を眺める余裕無かったからなぁ。こんな景色だったんだっけ。」
そう言って一之瀬は落下防止の柵に手をかける。
風が吹き、彼女は流れるプラチナブロンド髪を押さえる。
夕陽に照らされ校庭を眺める彼女の姿は、まるで映画のワンシーンの様だった。
絵になる人ですね、彼女は。
「試験、絶対勝とうね。」
唐突な一言、そして俺に微笑みかける一之瀬。
それはフラグやねんと言いそうになったが飲む込む。こういう所では空気は読めるんですよぼかぁは。
「……あー、やれる事はやりますよ。一応クラスメイトなんでね。」
「一応、は余計。……明日から大変になるね。」
「だろうな。Dクラスのちょっかいも増えそうだ。」
「そう……かもね。」
少し苦み走った顔ではにかむ。彼女はBクラスの代表で。今までも、そしてこの先もBクラスを引っ張って行くのだろう。クラスの皆も納得しているし、俺も不満はない。
「この一年間。本当に楽しかった。無人島とか、体育祭とか、大変なことの方が多かったけどさ。巧君にもいっぱい助けてもらっちゃったなぁ。もーちょっとやる気出してくれたら言うことないかも。」
「面倒臭がりなのは本来の性分なもので。退屈はしないねこの学校は。」
紆余曲折あり入学したこの特殊な学校生活も他に比較できるものが無いため、俺達にとっては普通になっている。一之瀬も俺の知らない所で苦労もあったんだろう。知らんけど。あと、なんか死亡フラグみたいですね一之瀬さん?
「ま、この学校はクラスで競わせるシステムだから、大変なことの方が多そうだけど。」
「だね。でも、楽しいことも、苦しいことも、辛いことも、全部、私のものだから。私だけのもの。」
「なんかズルいな。独り占めだ。」
「そうだね。独り占めだね。欲しい?」
「楽しいだけ頼む。」
「駄目。全部あげる。」
「全部か。そりゃ大変だ。」
俺は手すりにもたれかかかる。隣で一之瀬も寄りかかる。
「私、迷わないから。」
「それと……」
「それと?」
「ん!やっはり何でもないや。帰ろっか。」
「おうよ。」
帰ろうと振り向くと同時に、後ろから軽い衝撃。そしてお腹へと手が回される。
彼女の温かい体温が伝わる。
「今日は、ありがとう。」