ーー放課後
「なぁ一之瀬。これから堀北先輩の所行くんだけど一緒に行くか?」
「あ、赤羽くん!ついて行っていいの!?そっちから話しかけてくれるの珍しいね!」
「本題は別だけど、生徒会の話はお願いされていたからな。ついでだついで。」
一応堀北先輩にはこれから会いに行くことは連絡済みだったりする。先輩にアポを取らずにいきなり行くのは失礼だからね。なんかいきなり団子食べたくなってきたな。そのうちモールに売ってないか探しに行ってみようかな。
生徒会室に移動して堀北先輩に挨拶する。
「こんにちは、堀北先輩。」
「おう、赤羽…と一之瀬か。なんだ、赤羽はやっと生徒会に入ってくれる気になったのか?」
「それはこの前お断りしたでしょうに。こっちの一之瀬が生徒会に入りたいと言ってるのでその紹介と、ちょっと新技の実験台になってもらおうと思いまして。この学校で強くて信頼がある知り合いが堀北先輩しかいなくて。お願いします。」
「先輩を実験台としてこき使う後輩なんてお前くらいなもんだ。まぁそっち分野では将来有望なお前の頼みだ、付き合ってやる。」
「ちょっと広い所でやりたいんですが良いですかね?そこまで時間取らせないんで。」
「じゃあ生徒会室の廊下前でやるか。カメラもあるが、会長権限で今回のは不問にしておく。お互い同意がある上でやってるわけだしな。」
「お気遣いありがとうございます。」
そういって俺らは廊下前に移動する。
「先に言っておきますけどこの技はカウンター系なんで、先輩からの打ち込みお願いします。ただ強くやりすぎるとそっちが大怪我しかねないんで。そこんとこはそっちにお任せします。」
先輩は前回の構えを取る。俺は両手を腰の前に真っ直ぐ出して軽く握り右足を前に出して構える。
「お前はカウンター系というか、相手の攻撃を防いでから戦うことが多いよな。守備的なのも良いがクセになると防戦一方になって苦しくなるぞ。」
「相手の出方と実力を伺ってから戦うスタイルってだけですよ。あと攻撃の新技は現在開発中です。そのうち実験台になってもらうかもしれないので、そのときはよろしくお願いします。」
「まだ始まってないのに、もう次のお願いか。嘗められたものだな。」
「こういうのは先に言っておいた方が良いかなと思いまして。」
「相変わらず生意気な奴だ。…行くぞ!」
堀北先輩はこちらに突っ込み正拳付きを放つ。新総理の得意技だったな~とか思いつつ。相手の正拳に正面から掌を当てる。相手のインパクトの瞬間の反射を意識しながら。相手の力と自分の力を相手に流し込むイメージで。
相手が突っ込んできた速さ以上のスピードで後ろに吹っ飛ばされる。いやぁ、廊下でやって良かったね。狭い部屋だったら壁にぶつかってだろうし。
「ぐっ…!…合気か…。その年で良くやるもんだ。その道の達人でもその年齢で出来てなかっただろうに。」
「この分野だけは、俺は天才みたいなんでね。あと何発か自由に打ち込みお願いします。ちゃんと受け身も取ってくださいね。流石に怪我はさせたくないんで。」
二人で何度か手合いを続ける。身体にも馴染んできたし、あとは自分でなんとか練度を上げていけそうだな。
「ふぅ…先輩ありがとうございます。いい練習になりました。」
「…一応本気で打ち込んだつもりだったんだがな。これは末恐ろしい。こちらも業務で運動不足気味だったから良い運動になった。感謝するよ。」
「それはどういたしまして。」
「そういえば一之瀬と言ったか。」
「はい!」
「お前の生徒会入りは以前断ったはずだ。まぁ、そこの男が一緒に入るというなら話は別だがな。」
「ちゃっかり俺を生徒会に入れようとするの止めてくださいよ…。」
「…冗談だ。俺も忙しい身なのでな。これで失礼するよ。」
「ありがとうございました。またやる時はお願いします。」
「アハハ、また断られちゃった。…でさ!赤羽くんってホントは凄い人だったんだね!合気…ってやつ?…あんなの初めて見たよ!」
「まぁ一般人は中々見る機会は無いかもな。徒手空拳では結構有名なんだけどな。まぁカウンター技だから使い手って殆どいないんだけどさ。」
「へー!」
俺たちは雑談しながら教室の戻る。途中の裏庭に二人組がいた。たぶんC組のアルベルトと…誰だアイツ?
「龍園くん…」
龍園と言うらしい。伊吹が言ってたヤツか。
「よう、一之瀬。この前はDクラスと組んで裏でいろいろやってたみてぇじゃねぇか。」
「…お互いね。」
彼女は俺の服の裾を掴んで答える。二人はおそらくこの前の暴力事件について話し出した…と思うんだけど、俺の場違い感すごくね?帰っていいっすかね?
「…Dクラスを潰したら次はお前たちだ。せいぜい覚悟しておくんだな。」
彼も結構凄みのある雰囲気で話している。対する一之瀬は少し弱気だ。まぁ宣戦布告みたいな状況だし、そりゃ怯えるか。
「話終わったんなら、ちょっと良いっすかねぇ?」
「なんだぁ?テメェ……雑魚に興味は無い。失せな。」
「いやアンタには興味ないけど、隣の彼とは一度手合わせ願いたいのよねぇ。ここにはカメラも無いし丁度良い。」
「この俺に興味が無いとは良い度胸だな。それとも今ここでコイツとやるか?」
隣のでかい黒人が両手を鳴らしている。
「俺はそう言ってるんだが…。あと、この勝負はクラス間での暴力行為に当たらないとお互い約束してからにしてもらって良いかな。その方が後腐れなくやれるし。」
「…面白ぇ、ちょっとは腕に自信があるようだがその威勢がいつまで続くか見ものだな。アルベルト、やれ。」
彼がそう言うと黒人が突っ込んでくる。やっぱ彼がアルベルトって言うのね、覚えとこ。
俺は一之瀬の手を払い、アルベルトと対峙する。
前羽の構えを取り彼の拳を受ける。受けると同時に後ろに飛んで衝撃を受け流す。うへぇ、俺今5メートルは飛んだよな。新記録だ。流石にパワーではまだ彼には勝てそうにはないな。
さらに彼は突進してくる。流れで押し切る算段のようだ。確かにそれは正しい選択だ。相手が俺じゃなければの話だけど。
俺も前に出る。しゃがみ込みんで相手の足下に潜り込んでバランスを崩させる。そこから掌で相手の顎をかち上げる。…そして相手の突進の威力を殺さないようにして地面に顔面から叩きつける。うへぇ地面少し陥没してるよ。さっき合気の練習していた甲斐があったってもんだ。相手にも圧倒的なパワーがあったけど、技術不足だな。それじゃあ拳は俺には届かない。
彼は再び立ち上がったが、かなりフラフラのようだ。体格に見合ってめっさタフやん。それに引き換え、こっちはまだ無傷。彼は一歩前に進んだが、バランスを崩して顔面から倒れた。勝負アリかな。
「…勝負アリみたいだけど、アンタもやる?」
「……マジかよ。…俺は遠慮しておくぜ。B組にもお前みたいな奴がいたとはな…潰し甲斐があるってもんだ…帰るぞアルベルト、立て。」
「出来れば、潰しに来ないでもらえると助かるが、そうはいかないんだろうなぁ…。」
龍園は彼に肩を貸して立ち去ろうとする。結構いいやつじゃんか。
「あ、最後に一言。アルベルト、またやろうな。真っ正面から打ち合えるように俺も鍛えとくよ。」
彼はこちらを一瞥し親指を立てる。彼も武道家の端くれだと信じたいもんだ。
彼らが立ち去ると同時に一之瀬が近づいてきた。
「ねぇ、大丈夫なの!?凄い飛ばされてたけど!」
「んーそんなに問題ないかな。殴られるときに後ろに飛んでたしね。」
「そう…良かった…。」
彼女は俺の言葉を聞くと、安心したように座り込む。
「いやぁ彼とは手合わせして見たかったんだよねぇ。やっぱ力こそパワーよねぇ。憧れるねぇ。」
「…あんまり危ない事はしないでよね。でもありがと。」
「…よー分からんがどういたしまして?」
彼女の手を取って立ち上がらせる。腰が抜けている様子も無さそうだ。
やたら甘い香りが俺の鼻をくすぐる。どんな香水つけてるんですかねぇ、と疑問に思いながらも教室まで戻る。
「じゃあ今日は解散だな。生徒会の件は残念だったな。」
「うん!わざわざありがとうね!…」
一之瀬も俺を生徒会に勧誘してくる。自分も入りたいという算段もあるだろうけど、まぁやらないよね。俺に何もメリットないからね。
「お断リーです。俺に何もメリットないしな。」
「そっか…そうだよね。ごめんね無理言っちゃって。」
「そっちにもやりたい事があるんだろうし良いじゃないかな。利害が一致しなかっただけよ。んじゃ今日はこれで。」
「うん!バイバイ赤羽くん!また明日ね!」
…今日は中々に良い日だった。合気の練習と実践を両方できたわけだしね。ただ一つ課題が出来た。やはり大柄の相手とやるとパワー不足が目立つな。新たな鍛錬法も思いついたし、やってみますかね。
一之瀬の生徒会のタイミングがおかしいかもしれませんが、作者が勝手にアルベルトと戦わせたかっただけです。身勝手だけど許して…許して…
物理的にありえないという疑問は刃牙ネタがベースだからなんとかなるってことで了承していただけると助かります。