史上最強のRTA ~梁山泊入門禁止縛り~   作:(´・ω・`)ガンオン修行僧

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社畜は辛いので初投稿です。
一日空いてしまった上、明日も諸用で全く書けません……お兄さん許して!

(アンケートはただのお遊びなので深い意味は)ないです。


(横浜、再び)~

 ガバがガバを呼ぶRTAはーじまーるよー

 

 

 前回はホモくんがハーミットに襲われ、あろうことかチャート崩壊の要因である馬槍月の情報を教える結果になってしまったところでしたね。なんで琳お姉さんがこの時期の馬槍月のことを知ってるんや……Wikiにそんな記述なかったぞ……。

 し、しかし、まだチャートが崩壊したと決まったわけではないので、RTA続行です。ホモは不屈、はっきりわかんだね。

 

 

 あ、さっそくよろしくない影響が現れました。

 今日は荒涼高校演劇部の発表会の日でしたが、ハーミットによるケンイチ襲撃が発生しませんでしたねぇ!

 美羽さんの演劇部イベントやキサラ姉貴の襲撃阻止は発生していたため、ケンイチと谷本くんの交流は続いているはずなのですが……。

 本来ならばここで一戦を交え、あの二人は因縁を作ってイキます。ここで戦ってくれないとハーミットが鍛え直しに行きませんし、ケンイチの経験値も不足してしまいます。最悪の場合、ハーミットが活人拳側に与さず、久遠の落日戦で詰む可能性がありますねぇ!

 

 もしもラグナレク編最終盤でハーミットが姿を現さなかった場合、彼のアライメントが殺人拳に寄りすぎたと判断してリセットです。

 そして、琳お姉さんを通じて情報を与えてしまった馬槍月と早期に再会し、なおかつケンイチとの戦闘が二回発生しないと、アライメントが完全に殺人拳に堕ちます(絶望

 

 

 原作通りだと、次はケンイチの山篭り修行・組手ですね。このイベントは……無事発生したようです。しかし、問題はこの次です。

 次は横浜抗争イベントになるのですが、ここで馬剣星と馬槍月が激突するんですねぇ。これさえ発生してしまえば、馬槍月はしばらく生死不明になるのでいくら谷本くんに情報が渡ってもこの師弟の再会はDオブDまで有り得ません。

 つまり、それまでの間に、馬槍月の情報を仕入れた琳お姉さんの元に谷本くんが来なければ万事解決で―――

 

 ―――あああああ来やがったあああああああああもうやだああああああああ!!!

 

 

 

 よりによって、横浜抗争イベントを翌日に控えた日に谷本くんがやってきて、馬槍月は横浜中華街で用心棒をしていると琳お姉さんから教えられましたね。

 こんなRTA今度こそここで終わりや! 閉廷! 解散! ご視聴ありがとうございました! 次回作をお楽しみに!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやでも……せっかく良い師匠見つけてるし……ホモくんいい感じに育ってるし……Wikiにあんまり載ってない琳お姉さんの情報収集にもなってるし……(ブツブツ

 

 

 ……全てを挽回するオリチャーを思いつきました!

 いくらか賭けをすることになりますが、ここまできたら背に腹は代えられません。

 それでは行きましょう。いざ鎌倉!

 

 

 

 はい、ちょっと友達と遊んでくると、当たらずも遠からずな言い訳をして琳お姉さんの家を抜け出し、横浜へやって来ました。

 この夜、横浜は地獄ですね。

 何せ、梁山泊の馬剣星と一影九拳の馬槍月という、特A級の達人同士がぶつかる人外魔境の地となります。

 原作では序盤だったため描写が控えめ……もとい何故かあまり激しくなかった達人戦でしたが、本作はゲーム化にあたり全力で馬兄弟が激突するよう改変されました。そういう難易度が上がる改変しなくていいから(良心

 

 また、馬槍月が中華街にいると聞いた谷本くんも間違いなく現れますね。現れないなら現れないで馬槍月と出会う心配がなくて良いんですが、そうは問屋が卸さないでしょう。

 

 

 さて、まずはケンイチか谷本くんを見つけましょう。どちらも馬槍月を探しているので、どちらかを見つけておけばそのうちもう一方と出会えるでしょう。

 そしてここで『ほ(HO)んらいの場所で戦えなかったのなら、も(M)っと良いシチュエーションでお(O)っぱじめればいいじゃない作戦』、略してHOMO(ホモ)作戦の開始を宣言します!

 本来のイベント戦闘が発生しなかったのなら、こちらで代わりの戦いの場を整えてあげればいいんですねぇ。なお上手くいかなかったら最悪死ぬ模様。

 

 さっそく二人のうちどちらかを捜してイキましょう。

 あ、いましたね。あのピンク髪ツインテールは……おファッ!? 雷薙(らいち)ちゃん!? なんでここに雷薙ちゃんがいるんですかねぇ(困惑

 

 

 えー、雷薙ちゃんによると、どうやらまたホモくんとの組手のために来日していたようです。そして用事があるという同行者と別れて一人で時間を潰していたところ、偶然ホモくんと出会ったようですね。

 ホモくんの携帯電話にも連絡を入れてくれていたようですが、そんなの知らな―――あ、かなり前にメール来てました(ガバ

 何やら、琳お姉さんがまた組手を提案し、今回は別件で日本に来ているという更なるゲストも呼んであるとのことです。はえーすっごい(ガバ

 

 

 人を捜していると言うと、二つ返事でOKしてくれましたね。走者の必死さが伝わっていない、お散歩気分の雷薙ちゃんと一緒に夜の中華街を探索します。

 え? 豆沙包子(あんまん)が食べたい? 買ってあげるから早く着いてきて、どうぞ。え? 一緒に食べたい? 二つ買うから歩きながら食べて、どうぞ。

 え? 今度はあの雑貨屋さんを見てみたい? 遅延行為やめてください(震え声

 

 えー、予想外の雷薙ちゃん合流で時間を取られてしまいましたが、やっとケンイチと蓮華ちゃんを見つけましたね。すでにマフィアの下っ端を締め上げながら歩いているので、ちょうど槍月がいるマフィアのアジトへ向かっているところのようです。

 ぶどう飴を食べている最中のため大人しい雷薙ちゃんを連れ、こっそりと尾行しましょう。

 

 

 はい、アジトに到着しましたね。マフィアの下っ端は蓮華ちゃんが片っ端から倒してくれるので、ホモくんと雷薙ちゃんは堂々と後から入っていきましょう。

 ケンイチと蓮華ちゃんが最上階に到着すると、蓮華ちゃんの気を馬剣星のものと勘違いした馬槍月が壁を破って現れます。酒ばっか飲んでるから間違うんだよアル中!

 ……心なしか試走の時とは出現位置が違うような気がするんですがそれは。

 

 そして破られた壁の向こうには、魯 慈正(ろ じせい)趙 円臣(ちょう えんしん)がいますね。なんで一影九拳(代理)とその弟子であるYOMIの幹部がいるんですかねぇ!!!!

 なんでリカバリーしようとしたらどんどん不確定要素が増えていくんですか!!!!!! チャートこわるる^~お兄さん許して!(精神崩壊

 

 

 

 闇の達人達がこちらに気づき、その視線でケンイチと蓮華ちゃんもこちらに気づきますね。

 雷薙ちゃんが魯慈正達に抱拳礼をすると、その様子を見た蓮華ちゃんが雷薙ちゃんやホモくんのことを馬槍月達と同じような裏社会の人間であると断定して喧嘩を売り、知り合いであるホモくんが裏社会の人間だと聞かされたケンイチくんが混乱していますね。あーもうめちゃくちゃだよ。

 

 えー、どうやら雷薙ちゃんの同行者とは魯慈正と趙円臣のようですね。YOMIや闇の繋がりがあるとはいえ、なんでこの時期の横浜に集まってくるんですかね(震え声

 

 

 トラブルメーカー蓮華ちゃんが動き出そうとした瞬間、窓が割れて何者かが乱入して来ましたね。

 この登場の仕方は馬剣星師父でしょう。原作より少し早い登場かと思いますが、これだけガバが頻発していたら何が起こっても―――おファッ!? ファーミットもといハーミット!? お前ここ雑居ビルの六階やぞ弟子級は階段で上がってこいや!!!

 ちなみにハーミットこと谷本くん、もといなっつんはいつものフードを目深に被った格好をしていますね。お気に入りなんでしょうか、あれ。

 

 なっつんが馬槍月に話しかけますが、闇陣営に囲まれて自棄を起こした蓮華ちゃんが最もヘイトが高い馬槍月に襲い掛かります。すると、何年も探していた師父との話を邪魔されたなっつんがブチ切れて蓮華ちゃんに殴りかかり、そこに蓮華ちゃんを庇ってケンイチくんが割って入りますね。

 予想外のことが続いていますが、とりあえず主目的である二人の戦闘が始まりました。この戦いを邪魔されないよう、気をつけておきましょう。あと、まだぶどう飴を食べながら観戦している雷薙ちゃんはもっと趙円臣くんを見習って、どうぞ。

 

 

 そして尚も馬槍月に食ってかかる蓮華ちゃんの前に、趙円臣が立ちはだかりました。クソ真面目な武人肌の趙円臣くんは、この状況に文句や疑問の一つも言わずに露払いに努めています。しかし、彼はクソ真面目にも程がある殺人拳側の人間なので、こういう死合の場では本当に死ぬまで殴り合うことがあります。

 蓮華ちゃんもYOMI並みの実力者ですが、乱数次第では敗北し、死亡ないし再起不能になってしまう可能性があります。蓮華ちゃんもこれからの活人拳に欠かせない人材なので、万が一を考えてホモくんが代わりましょう。(短時間だけなら)全力でやればヘーキヘーキ!

 

 蓮華ちゃんを相手をするよう雷薙ちゃんにお願いし、趙円臣に挑みます。彼はなっつんと同じ劈掛拳の使い手で、全てにおいて彼を一段上回る猛者です。絶対に油断せず、最初から全力をもって当たりましょう。

 あちらはあちらで、お願いした通りに雷薙ちゃんが蓮華ちゃんの足止めを始めてくれましたね。

 

 しばらくすると、今度は我らが馬剣星師父が乱入してきて、兄である馬槍月と死合を始めました。

 魯慈正は静観の構えですね。本作も原作と同様に、闇に堕ちたとしても武人の礼節を守る達人は多く、他の達人が戦っているところや弟子の戦いに割って入るような武人のクズはあまりいませんね。

 

 

 

 ……はい、決着がつきました。原作通り、馬剣星師父とケンちゃんが勝利を収めましたね。こちらも戦う理由が無くなったので、戦闘を中断しましょう。

 辛勝だったとはいえ無事にケンちゃんが勝利してくれたことで、きっと今後のイベントフラグも無事に立ったと思いますたぶん(希望的観測

 そういえば、どういう訳だか原作にあったマフィアによるビル爆破イベントはありませんでした。まあそんなもん誤差だよ誤―――あ、ホモくんが外を見下ろすと、琳師父が手を振っていますね。とりあえずこちらも手を振り返しておきましょう。

 

 勝利したとはいえ馬師父は消耗しているようで、ケンちゃんと蓮華ちゃん、それからホモくんを抱えたりぶら下げたりして離脱していきます―――ってホモくんも!? 馬師父、男の子にまで興味あったんですか!?

 魯慈正は、一影九拳の座を託した元である馬槍月の意思を無視してまで追うつもりはないらしく、弟子ともども大人しくしています。そして連れ去られるホモくんの姿を見た琳師父だけ追ってきます。雷薙ちゃんも追ってこようとしたみたいですが、さすがに達人級には着いてこれませんね。

 

 ……これまずい……まずくない?

 

 

 長くなってきましたので今回はこのへんで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

―――――――

―――――

―――

 

 

 二、三年に一度の恒例行事となったモトキとの組手のため、私は師父の仕事に同伴して日本に来ていた。

 今回は同じく日本に用事があるという、一影九拳の魯慈正様とその弟子・趙円臣も一緒に来ている。師父が仕事に出ている間、横浜に行くという彼らと一緒にいるよう言われたが、席を外すよう言われ私は独りで街を彷徨いていた。その時だ、彼の姿を見つけたのは。

 

「モトキー!」

「え? 阿雷(あーれい)?」

 

 手を振って呼びかけると、モトキは振り返って私が教えた中国様式の私のあだ名を呼ぶ。

 仕事の報酬で購入した携帯電話でメールや電話をしているが、こうして会うのは久しぶりだ。成長期の男の子らしく、以前会った時より一回り大きくなっている。あの美人な師匠の元、しっかり功夫も積んでいるようだ。

 ……この間までは私と同じくらいの上背だったのに、男の子ってこんなに一気に成長するんだ。

 

 話しながら夜の街を歩く。どうやら彼はまた組手をやるということを聞かされていなかったらしく、どうして私がここにいるのか不思議なようだった。

 今回は私や特別ゲスト(あの一影九拳の弟子、趙円臣のことだ)との組手があることを教えてあげると、モトキは「琳姉ちゃん、そういうこといっつも言い忘れるかんなー」とかなんとか、口を尖らせてボヤいていた。

 友達が相変わらず師父と仲が良いようで思わず微笑むが、同時に何故か……少しだけ複雑だった。

 

 どうやら彼は友達(?)を捜してここまで来たらしい。

 独りで暇を持て余していた私は、その人探しを手伝いがてらモトキと一緒に街をぶらつくことにした。

 

 

「なにここ! すっごく綺麗だの!」

「はえーすっごいねー……谷本くんも白浜くんもいないなぁ……」

 

 

 中華街の一角に現れた門をくぐると、その先には石段と八角形の廟堂があった。隣にいる私のことはそっちのけで探し人をしているモトキに少しムッとしたが、目の前の光景に、そんなことはすぐに頭の片隅に追いやられた。

 門から廟堂へ向けて並んで吊るされている赤い提灯が宵闇に光を放ち、幻想的な雰囲気を醸し出している。中国様式の廟堂が赤く照らし出され、得も言えぬ美しさがあった。

 後で知ったが、ここは横浜媽祖廟(よこはままそびょう)という場所で、航海の安全を司る天上聖母・媽祖や縁結びの神・月下老人、子宝の神・註生娘娘を祀っている。なんでも、縁結びの御利益があるそうな……。

 ……道理で、恋人の姿がここだけやけに多いと思ったのは、そういうことだったらしい。

 

 この時はここがどういう場所かよくわからず、さっさと通り抜けてしまったが……どうせなら、もう少し一緒に見て回れば良かったかな。

 

 

 

 その後、あんまんという日本式の豆沙包子やぶどう飴というお菓子を食べながら歩いていると、モトキが探し人を見つけたようだ。

 白浜という名前らしいその日本人は、やけに丈が短い旗袍(チイパオ)(チャイナドレス)を来た女の子と一緒にいた。あの女の子の風貌は、たしかあらゆる中国拳法の達人・馬剣星の娘の……。

 中華系マフィアと思しき男を締め上げて、何処かへ案内させているようだ。もし何かあっても、モトキと私の二人がいればきっと大丈夫だろう。私は少しだけ気を引き締めて(とは言っても、モトキが買ってくれたこのお菓子は最後まで食べるつもりでいた)、彼らを尾行するモトキに着いていくことにした。

 

 

 

 

 

―――――――

―――――

―――

 

 

「教えてくれ! いったいどこまでが演技なんだ! 君と僕は友達になったんじゃないのか!?」

「全部だよマヌケ! 初めから全部ウソさ!」

 

 

 何やら問答をしながら死合っている谷本と呼ばれた馬槍月の弟子と、白浜と呼ばれた優男を眺めていたが、どうもそんな暇は無くなったらしい。

 あらゆる中国拳法の達人・馬剣星の娘である馬蓮華が、私と同じ弟子級の身にも拘らず、不遜にもかの拳豪鬼神・馬槍月老師に攻めてかかる。我が老師の古くからの友であるという拳豪鬼神への狼藉を止めるべく、私はそんな無鉄砲な馬連華に打ちかかる。

 すると、どういう訳だろうか。李雷薙と共に現れた男が、私の目の前に立ち塞がった。

 

 たしか、鉾崎基樹という名だったか。

 事実上引退状態にある闇人の弟子という触れ込みの彼が、何故活人拳側である馬連華の肩を持つのか、この時の私には皆目見当が付かなかった。

 しかし、理由はどうあれ死合の場で勝負を挑まれたのだ。我が老師や地躺拳の李天門老師達の知己の弟子とはいえ、加減する気は毛頭ない。

 

 

 鉾崎の拳は、少々というには些か苛烈すぎるものだった。

 独特の歩法で瞬く間に間合いを詰めた鉾崎は、八極拳の一手である裡門頂肘でもって打ち込んでくる。私も劈掛拳と共に八極拳を修める途上の身であるが、その一撃からかなりの功夫を感じた。彼も私と同じく、愚直な鍛錬を積み重ねた人間なのだということを肌で感じ取る。

 

 非常に苛烈な攻め手の最中にこちらから打ち込むと、こちらの拳の機先を制し、勢いを殺したかと思えば即座にカウンターを打ち込んでくる。

 攻防一体の見事な拳だが、それは未だ完成の途上にあるらしい。受けから反撃までの動作に、若干だが不慣れな色がある。常人には一切わからぬ程ではあろうが、我らほどの拳士同士の戦いでは、それは隙となる。

 その隙を突いて攻勢に転じると、鉾崎は一時距離を取り、制空圏を張ってこちらを迎え撃ったかと思えばまたすぐに攻勢に転じようと強引に拳を押してくる。

 どうやら防御は得意ではないらしいが、真の武術たる殺人拳らしい、いい拳だった。死合の最中にも拘わらず、私は思わず感心していた。

 

 

 しばらくすると、また別の窓からあらゆる中国拳法の達人と名高い武人にして、我らが最大の敵である梁山泊の豪傑が一人、馬剣星が飛び込んできた。

 そして馬槍月と打ち合うと、たった一度の拳の交叉でこの階全ての窓が弾けとんだ。

 そうしてこのフロア中を戦いの余波で崩していくが、こちらもそんなことは意にも介さず、目の前の相手と全力をもってぶつかり合う。

 

 

 唐突に、鉾崎が動きを止めた。どうやらあちらの決着がついたらしい。こちらの決着をつけられなかったのが残念ではあるが、構えを解いた好敵手(鉾崎)に拳を向ける気にはなれなかった。

 そして、あちらではあろう事か馬槍月老師とその弟子の谷本が、馬剣星とその弟子である白浜に敗北していた。

 この世で最強の拳士たる一影九拳の一人、拳豪鬼神が敗れるとは夢にも思っていなかったが、目の前のその光景が現実だった。

 その拳豪鬼神を打ち破った馬剣星といい、その弟子の白浜という男や目の前の優れた拳士といい、世の中には私が知らないだけでまだ見ぬ拳士が大勢いるものだと実感させられる。

 

 私も、白浜とも拳を交えてみたかったが、どうやら彼は立っているのもやっとという有様だ。

 そんな彼に打ちかかって良いものか逡巡した刹那、馬剣星が娘と弟子、そして何故か鉾崎を攫ってビルを飛び出していった。まさか活人拳たるあの男が、よりにもよって弟子級の者を攫うとは思ってもみなかった。

 李雷薙と共に私も飛び出そうとしたが、我が老師共々、馬槍月老師に制止された。

 彼の身は心配ではあるが、活人拳が相手ならば命までは取られないだろう。それに、老師が動かないという判断を下した以上、私が動くわけにもいかない。

 

 きっと大丈夫であろうが……もし無事なら、また死合ってみたいものだ。

 

 

 

 

―――――――

―――――

―――

 

 

 

「基樹ぃぃいいい!」

 

 ビルの屋上から屋上へと飛び移る馬剣星を、アタシは必死に追いかける。よりによって相手は()()逆鬼と同じ梁山泊の達人であるが、そんなことはお構いなしだった。

 追いついてからどうしようなどとは、頭にもなかった。この身体が許す限りの速度で、ただただ足を動かし続ける。

 

 

 

 発端は、あの子が嘘をついてまで夜の横浜に来たところまで遡る。

 ちょっと友達と遊んでくると言った基樹だが、あいつは嘘をつくときに後頭部を掻く癖がある。その癖を見て取ったアタシは、家を出た基樹をこっそりと尾行することにした。

 というのも、今の横浜には一影九拳の代理を務めている魯慈正や、本来の九拳である拳豪鬼神、それに李天門までいると聞いている。故に、何が起こってもおかしく無い。

 それに、馬槍月が横浜にいると伝えた谷本に関係することであの子が横浜へ向かったのは明白だった。

 

 中華街へと来た基樹は、李天門の娘である雷薙と出会った。

 二人で楽しそうに夜の中華街を歩く姿は微笑ましかったが、縁結びの場とかいう横浜媽祖廟に入っていったときには何故だかそわそわするような、不思議な感情が胸中に湧いて出た。

 

 

 そして、事件が起こったのはマフィアのアジトと思しき場所にあの子達が入っていって、少しした頃だ。

 基樹の友達の谷本が、屋上の淵に手をかけて最上階の窓を蹴破って中に飛び込んでいく。その元気な姿に感心したのも束の間、反対のビルの上から強い気を感じた。見上げてみると、そこにはあらゆる中国拳法の達人と謳われる馬剣星の姿があった。

 そして馬剣星が最上階に飛び込んでいった直後、その階の窓が片端から弾け飛び、壁の一部が崩れ落ちた。

 あの様子では、馬槍月か魯慈正のどちらかとやり合っているだろう。

 

 アタシもすぐに基樹の元へと駆けつけようかと思ったが、そうもいかなくなった。

 上階から逃げるようにして駆け下りてきた腐れマフィアどもが、あろう事かビルを爆破しようと一階部分に爆弾や燃料を積み上げ始めたのだ。

 よりによってアタシの愛弟子がいるビルに、だ。冗談じゃない。

 

 マフィアどもの間に飛び込み、瞬く間に制圧していく。

 連中が銃やら剣やらを持ち出してきたが、素人共が使う武器など何ら脅威にはならなかった。

 

 

 そうして制圧し、外に出て最上階を見上げてみたら、窓から見下ろしてくる基樹と目が合った。

 試しに手を振ってみると、あちらも笑顔で手を振り返してくる。まったく、可愛いやつめ。

 

 そう、こちらも笑顔を浮かべた瞬間だ。

 突如基樹の身体が何者かに持ち上げられ、猛スピードで隣のビルへと飛び出していった。

 

 

 

 こうしてアタシは、梁山泊の豪傑が一人を追い、夜の横浜を駆けることとなった。

みんなの中でのヒロインは……

  • 琳師父
  • 雷薙ちゃん
  • TKD兄貴
  • その他
  • 愛などいらぬ!

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