史上最強のRTA ~梁山泊入門禁止縛り~ 作:(´・ω・`)ガンオン修行僧
日々頂ける高評価とご感想に感謝の初投稿です。
誤字報告兄貴もありがとナス! あなたが神か?
追記①:アンケートにご協力ありがとうございます。以前よりリクエストがあった師弟番外編的な日常短編集を、別作品として独立させてご用意致しました。
追記②:当該アンケートはしばらくこのまま残しておきます。本編と短編の需要調査的な意味においてです。
ついに達人戦を目の当たりにしたRTAはーじまーるよー。
前回は琳お姉さんの裏社会科見学で達人戦を目の当たりにするも、琳お姉さんが倒れてしまったところまででしたね。
琳お姉さんはそのまま息を引き取りました―――となると再走となりますので、ホモくんに一晩中付きっ切りで看病させましょう。
はい、ホモくんの看病もあり、琳お姉さんが無事に目を覚ましましたね。
琳お姉さんは礼もそこそこにホモくんが買ってきていた服を着ると、どこか気恥ずかしそうな様子でやけに胸元を意識しつつ帰路につきましたね。裸を見られた生娘かな?
さて、予想外の達人戦にヒヤヒヤさせられましたが、ホモくんにとっても大きな収穫がありました。
琳師父と魏延武の戦いを見ていたことで、制空圏とその破り方についての武技修練を琳師父にお願いすることができるようになりましたね!
対制空圏用の技は龍斗対策に必須ですので、さっそく修練開始をおねだりしましょう。しかし、キャラクターの年齢や実力に見合わない技を習得しようとすると、非常に時間がかかります。今回のホモくんにしても、彼は凡人なので十三歳という年齢で始めるには少し荷が重いです。
その間に他の修行をサボるわけにもいかないので、空いた時間で武技修練を行うとして……習得まではおそらく数百日、下手をすると一年以上かかるでしょう。いつものように倍速して終わるのを待ちましょう。一週間ほどで覚えさせる無敵超人がおかしいってそれ一番言われてるから。
いつにも増してくっそ長い倍速ですねぇ。
途中、マントで身を隠したホモくんがそこいらの不良グループを狩りまくっていたり、いくらか抗争イベントが発生したりとランダムイベントもありました。
少し珍しいものとしては、雷薙ちゃんと再戦して今度は連絡先を交換したりもしましたが、特に見所さんもないので全スキップですね。ちなみに組手はホモくんの手の内がバレていることもあり、またも互角に終わりましたね。
また、ラグナレクも無事に結成されたようです。バーサーカー撃破により結成を遅らせることができたので、なんだかんだちょうど良いくらいになりましたね。
ただ、ラグナレクの
お、やっと倍速が終わりましたね。ここまでで一年近くかかっており、ホモくんはもう中学二年生の後半ですね。
……と思いきや、まだ制空圏の取得までしかマスターしていません。ここからさらに破り方の武技修練に入りますので、倍速はまだまだ終わりませんねぇ……。
またも倍速でお送りしていますが、今回はさらにランダムイベントや定期イベントが増えていますね。また、淫ファミから上がってくるものも原作の前日譚とも呼べるものになってきましたね。
例えば、「ボクシング新人王の武田 一基、引退へ」「ケンカ柔道の宇喜田 孝造、ラグナレクへ加入」といった感じで見慣れた名前をよく見るようになってきます。
ただ、八拳豪未満の敵はもはやホモくんの相手にならず、また、ケンちゃんの重要な経験値ですのでホモくんには関係ないですね。
それから、何やらクリスマスにホモくんと琳お姉さんがお出かけしていたようですが……敬虔なホモの私たちには関係ありませんので倍速スキップですね。
ようやく倍速が終わりましたね。いやー長かった。ホモくんも中学三年生の後半に差し掛かり、いよいよ原作開始までもあと半年といったところです。
このあたりから、近隣の不良チーム情勢はほとんど原作と同じ状態になってきますね。
そうそう、本ゲームにおいても入試システムがあり、知力ステータスや学力によって高校の合否が別れたりします。
原作でケンちゃん達が通っている荒涼高校ははっきり言って平均以下で、これまで何度も行った試走でも受験勉強等の必要は何らなく、ほぼフリーパス状態で合格できました。
なので今回も……なんやこのくっそ低い学力値は!?
ホモくんは「知力×」の特徴を取っていますが、それは試走の時も同様です。だったらなぜ……。
あ、そういえば今回はこれまででも最も早期に達人に弟子入りし、内弟子になるのも過去最速という走りを見せていました。
もしかして武術漬けになるのが早すぎて学力が不足している可能性が微粒子レベルで存在している……?
これは非常にまずいですね……原作一年目のラグナレク編は他校生徒の立場でも介入は容易ですが、二年目のYOMI襲来編では荒涼高校生でしか参加できないイベントもありますので、なんとしても荒涼高校に入学する必要があります。
こうなった以上、ホモくんには学校の授業以外でも勉強をしてもらうしかありません。幸い、ホモくんには身近な(同居している)お姉さんがいますので、勉強も手取り足取り教えてもらいま―――なんやこのくっそ低い学力値は!?(二回目
琳お姉さんの学力(教養)値がもはや成人の数値ではありませんね。小学生からやり直して、どうぞ。
仕方ありませんね……不良狩りのペースを落とし、受験勉強をしてイキましょう。
ホモくんが受験勉強に専念し始めたことで、淫ファミから「不良狩りが街から消え、各不良グループが勢力を伸ばしつつあり」という報告がきました。ああ、そう……(無関心
ラグナレクとYOMI以外はいつでも潰すことができますので、どうでもいいですね。それより成績の方が大事なんじゃ(ホモは優等生
恒例の「師父とお出かけ~inクリスマス~」も終え、あとは年明けの受験に備えて修行の合間に勉強をするだけとなりましたね。
いやぁ~ここまで予想外のことが起こり続けていましたが、ちゃーんとチャートを管理して(激ウマギャグ)走っているため、これくらい平和なのが本来の姿ですね。
タイム的には試走より若干かかっていますが、このホモくんは過去最強のホモに育っていますので、これからいくらでも挽回するチャンスがありそうです。
オリチャーは走者の腕の見せどころって、それ一番言われてるから。
はい、無事受験が終わりましたね。ホモくんの成績は……合格ラインギリギリですがなんとか受かっています。これで荒涼高校への入学が決まりましたね。
これでもう勉強はフヨウラ!! あとは落第しようが何しようが、本編クリアまで続行することができますので武術のためだけに生きましょう(人生の全てを武に捧げる武人の鏡)
あとはまた倍速で入学式まで一気に進めるだけで―――あ、等速に戻りました。今度は何でしょう。
―――おファファのファッ!?
いつぞやの河川敷を通りがかると、ガラの悪そうな連中に囲まれ、強制的に橋の下へ連れてこられました。自動操作を解除しても動けないため、どうやらそういうイベントのようですね。こんな人気のない場所で男ばっかり集まって、一体ナニをするんですかねぇ?(意味深
どうやらここは琳お姉さんの家から荒涼高校までの通学路だったようで、そのことに気づかずに自動操作のホモくんが通りがかったことによりイベントが発生したようですね。
何が始まるのかと見ていたら、奥の暗がりから龍斗が姿を現しましたね。おいゴルァ! せっかく順調に進んでたタイムを……テメー! 何してんだぁ!!
龍斗の足元には、簀巻きにされてボロボロになった遠野と中田が転がされています。どうやらあいつらが捕まり、口を割らされたようですね。使えねぇ奴らだ。ペッ
どうやら龍斗はホモくんとの再戦を望んでいるようですね。あの二人はホモくんが逃げないようにするための人質とのことです。
うーん……見捨てて逃げるのも手ですが、新たな手下を探すのも面倒ですし、何より味方判定されているキャラを見捨てるとアライメントに良くない影響があります。
ただでさえ裏社会科見学の影響で殺人拳側に寄っており、受験勉強のせいで不良狩りも十分に行えていませんので、これ以上下げると本当に再走案件です。ここはやり合うしかありませんね。
対龍斗戦ですが、以前お話しした通り、制空圏や気の運用など、この時点では豪華すぎる技・特徴を保持しています。おそらく大丈夫だとは思いますが、静動轟一まで習得されていると非常にマズいですね。
特徴としては、戦闘の後半にかけて相手の動きを見切るようになる観の目を持つことに加え、仮に習得していた場合でも最初から静動轟一を使わないことや、弟子級としては圧倒的な力を持つことによる慢心から、スロースターター寄りのキャラクターです。
なのでホモくんはいつも通り、初手から最高火力を叩きつけてアドバンテージを取っていきましょう。
戦闘開始です。どうせ最初は慢心して制空圏を使ってこな……使っとるやんけワレェ!
どういう訳か、試走で何度か戦った時と比べて全く慢心していません。最初から眼鏡を外し、観の目を使用しています。どちらにせよこちらの動きを完全に見切るまでは多少の時間がかかりますが、それでも眼鏡をかけたままの状態より見切りが発生しやすくなります。なんでこんなにガチなんですかねぇ(困惑
時間をかければかけるほど不利になるので、早速仕掛けましょう。
両腕を体の前で密着させて構え、小さく強固な制空圏を張る琳師父直伝の制空圏崩しを使用します。この技の理屈はシンプルで、原作の遊園地の戦いにてバーサーカー兄貴がケンちゃん相手に使用したものと同様の理屈ですね。
龍斗の制空圏は(弟子級にしては)非常に完成度が高く、攻撃範囲内に侵入したものを問答無用に打ち砕くほどですが、こちとら普段から達人の制空圏相手に制空圏崩しの練習をさせられているホモくんです。戦闘開始初期ならば、問題なくぶち抜くことができるでしょう。
二歩一撃と制空圏崩しを組み合わせ、一瞬で懐に飛び込んで裡門頂肘を叩き込みま―――おファッ!?
ホモくんの十八番にして渾身の右肘をかろうじて受け止められました。威力を完全に殺されたわけではないので多少のダメージは通ったようですが、ほとんどノーダメージです。腕を上げすぎィ!
ここは一旦退いて体勢を立て直したいところですが、制空圏崩しが何度通用するかわからない以上、距離を取るという選択肢はありません。
距離を取ろうとする龍斗にぴったりと密着し、目潰しやら金的も織り交ぜて徹底的に攻めて攻めて攻め立てます。
対する龍斗は防御に徹し、目潰しや金的などの致命的な攻撃だけは確実に防ぎきっています。多少のダメージを与えられてはいますが、痛手は与えられていませんね。
戦いの最中、龍斗が言葉を投げかけてきますが、返答の会話選択肢を完全に無視して攻め続けます。獲物を前に舌なめずり、三流のすることだなと言いたいところですがただ単に余裕がないんだよゴルァ!
龍斗の体力は着々と削れていますが、次第に攻撃が当たらなくなってきましたね。どうやら少しずつ攻撃が見切られ始めたようです。
それに伴って、龍斗からの反撃も始まりますね。まだ散発的ですが、ホモくんの攻め手に隙があると見るや容赦なく掌打をねじ込んできます。これは本当にまずいですよ!
攻撃を完全に見切られてしまうとホモくんに勝ち目はなくなります。なので、その前にホモくんの最大火力である超接近状態からの寸勁、すなわち交叉骨砕をねじ込むしかありません。
そのため、今の攻め手を維持しつつ、次の龍斗の攻撃に合わせて狙っていきましょう。きました! おら沈めぇ! ―――おファッ!?
龍斗の左掌打を捌きつつ懐に飛び込み、無防備かと思われた脇腹に寸勁を叩き込みますが、ギリギリ右掌を挟んで防御しやがりました。
数メートル後ずさった龍斗の口からは少量の血が垂れていますが、仕留め切るには全然ダメージが足りません。あ、これは交叉骨砕の直前に観の目による見切りを完全に発動させたようですね。
なおも仕掛けますが、ホモくんの攻撃は全て力が乗り切る前に勢いを殺されているようで、無効化されています。そうこうしているうちに「集中力×」によるデバフも発生し始めましたね。あーもうめちゃくちゃだよ。
そして見切りが完成したということは、回避・防御不可能技であるグングニルが飛んでくるということですね。
あ、そうそう、今ちょうどホモくんの顔面にぶちかまされたこれですね(絶望
原作のケンちゃんはこれを何発も耐えていましたが、浸透勁込みの龍斗の掌打は、耐久力お化けである実戦相撲のトールのHPを一撃で八割方持っていくお化け火力です。グングニルでは連打してくる分、一発あたりの威力は落ちますがそれでも十分な脅威です。
はい、まともに抵抗できぬまま、ホモくんが仰向けに倒れましたね。
順調に進んでいたRTAもこれにて閉廷! 解散! 走者の次回作にご期待くださ―――は?
敗北と同時にコントローラーを置いたはずですが、ホモくんが立ち上がりました。そんなHPも残っていなければ操作もしていませんよ!?
あ、これもしかして……ホモくんのステータス欄の状態変化欄を確認してみると、確かに暴走と表示されていますね。ダウン時の暴走限定の効果で、HPも数%だけ回復しています。
そういえば本チャートでは、キャラメイクの際にマイナス特徴として暴走を取得していましたね。すっかり忘れていました。土壇場で暴走して立ち上がる、まるで主人公みたいだぁ(直喩
何にせよ、これでGAME OVERを避けることができましたね。
暴走ですが、これは作中においては気の暴走と呼ばれる状態です。全ての武術家は静と動に分類されますが、その動タイプにのみ存在する一種の状態異常です。前々回でバーサーカーが使ってきたものと同じやつですね。
動タイプは心のリミッターを外すことで、爆発的な気とパワーを用いて相手をねじ伏せることを特徴としていますが、その分こういった暴走の危険があるんですねぇ。
何せこの暴走、一時的なものだったら良いんですが、下手をすれば心のリミッターが外れっぱなしになって凶暴な性格になったり、最悪の場合は目に入るもの全てに襲いかかる野獣のような生き物になったりします。野獣先輩は暴走した動の武術家だった……?
暴走した場合、ちゃんと気の発動、気の開放という段階を踏んだ場合に比べて攻撃が大振りになりますが、気の開放に成功した時に近いパワーとスピードを発揮できます。
そして何よりこの場面でありがたいのは、本来の戦闘スタイルを無視してとにかく暴れまわるため、龍斗の観の目の見切り効果をリセットできる点にあります。
突如人が変わったように襲いかかってくるホモくんに対応できず、重い一撃が龍斗の顔面に入りましたね。続けて何打か龍斗に打ち込みますが、龍斗もホモくんに一撃入れて距離を取りましたね。
そうして取ったあの構えは……静動轟一!?
あんなもん使われたら本当にホモくんが死んでしまいますし、もしそうならなかったとしても龍斗が自壊してチャートが崩壊する、まさに悪夢の技です。おのれ拳聖!
龍斗が静動轟一を発動させようとしたようですが、何やら不発に終わったようですね。ビビらせるんじゃねぇよ、ペッ。
静動轟一が不発に終わった反動か、龍斗の動きが止まっていますね。一気にカタをつけてしまいましょう……と言っても、暴走状態なので私が操作しているわけではありませんが。
暴走しているホモくんの手によって、龍斗がボッコボコにされていますね。ていうかホモくん止まって! これ以上は本当にまずいですよ!
手を出さないよう言われ、周囲を取り囲むだけだったラグナレクの雑魚共もさすがにマズいと思ったのが、ホモくんを制止すべく乱入してきます。しかし、烏合の衆であるそこいらの不良では時間稼ぎにすらならず、一瞬で薙ぎ倒されていきますね。
龍斗に限らず、このまま誰かをうっかり殺しでもしてしまったらアライメントがまずいですよ! もう本当に殺人拳側から戻れなくなってしまいますよクォレハ!
走者たる私も必死にレバガチャをして抵抗していますが、まるで意味がありませんね。揺れるモンスターボールに合わせてボタンを連打するようなものです。
暴れ続けるホモくんの身体が、突然何かに制止されましたね。これは―――琳お姉さん! 琳お姉さんきた! これで勝つる! もう勝負ついてるから(良心
何故だかここに現れた琳お姉さんに抱き留められたホモくんは動きを止め、そのまま力無く琳お姉さんに撓垂れ掛かりましたね。
琳お姉さんはそんなホモくんを抱き抱えると、その場を立ち去りました。
一時はどうなるかと思いましたが、我らが琳師父のおかげでどうにかなりましたね。
これでしばらくはラグナレクも大人しくなるでしょうから、あとは原作開始となる高校入学を待つだけです。
こ↑こ↓まで長かったですが、こ↑こ↓からが正念場ですね。気合を入れてイキましょう。
それでは今回はこのへんで。ご視聴ありがとうございました。
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―――
もちろん、多勢で叩いて勝つつもりなど毛頭ない。あいつは僕が超えなければならない壁であり、必ず倒すと決めた敵でもあるのだ。とは言っても、こんな雑魚がいくらいたところであいつを相手するには何の役に立たないだろうが。
ただ、何を考えているかわからないあいつのことだ、突如逃げ出すかもしれない。決着を付けるためなら、どんなことでもしてみせよう。たとえ、卑怯者の謗りを受けようとも。
あいつと最後の組手をしてから、僕は血の滲むような努力を積み重ねてきた。
才能に恵まれ、師に恵まれ、
―――何故あの男が倒せない!
「鉾崎ぃいい!」
僕に慢心はなかった。様子見などせず、最初から制空圏を使った。眼鏡を捨て、最初から観の目を使っていった。そのどちらも、
だというのに、鉾崎はそれすらも知っていたとでも言うかのように、たった一度の打ち込みで全て破ってみせた。
制空圏を破ってすぐ放ってきた裡門頂肘を防げたのは、本当にギリギリのところだった。
そしてあいつから離れようとする僕にぴったり着いてきて、そこらの不良なら一瞬でねじ伏せてしまうほどの猛烈な攻めを見せる。いや、この怒涛の攻めを受け流せるのは、果たして八拳豪の中にも何人いることか……。
「キサマは本当に鬱陶しい男だ、鉾崎!」
「大して才能もないくせに、何故そこまで武にこだわる!」
「一体何故! 何故だ鉾崎!」
戦いの最中に問いかけるが、あいつは答えようともしない。どこまでも僕のことは眼中すらにないということか。本当に腹が立つ。
観の目で攻撃を見切れるようになるまで、耐えて耐えて耐え続ける。そうして少しずつ見切れるようになってきて、あいつの攻撃の合間に反撃を入れ始めたその瞬間だ。
左掌打を受け流され、独特の体捌きでもってあいつが僕の左側面から懐に入り込む。これは、バーサーカーが言っていたあの―――
バーサーカーからあいつの技を聞いていなければ、相当危なかった。
左脇腹とあいつの右拳の間に辛うじて挟み込んだ右掌に、尋常ではない衝撃が襲ってくる。その場に踏ん張るが、それでも数メートル押し戻される。あばらが軋み、口からは血が溢れた。
一体どれほどの鍛錬を重ねればこれほどの寸勁を身に付けることができるのだろう。一体あの凡人のどこに、ここまでの鍛錬をさせるほどの武への執念が宿っているのだろう。
渾身の寸勁を防がれたあいつは、しかし、諦める素振り一つ見せずに仕掛けてくる。
その拳を、掌打を、手刀を、その全てに力が乗る前に勢いを殺し、無力化していく。だというのに、あいつはまだ諦めない。
観の目による見切りが完成し、回避も防御も許さないグングニルがあいつの顔面を捉える。
あいつの目は、この攻撃は避けようがないことを悟っている。だというのに、あいつはまだ諦めない。
あいつの集中力が切れ、グングニルのダメージも重なり動きが鈍ってくる。
集中力が長続きしないのは知っている。こうなったあいつにもう勝ち目がないことは、本人もよく知っているだろう。
―――だというのに、あいつの目はまだ諦めていない。
僕に許せないことをしたあいつと同じ、決意と執念を秘めたあの鬱陶しい目を、何故お前も僕に向けてくるんだ!
「何故お前は諦めない! 鉾崎基樹!」
なおも返答をしようともしない鉾崎に、渾身のグングニルを叩き込む。僕の掌打があいつの顔面や胸部、腹部をこれでもかと打ち据えていく。
全て打ち終える頃、あいつはようやく仰向けに倒れた。僕は相当熱くなっていたらしい。最後の方はもはやグングニルなんて呼べるものではなく、ただひたすらに、何の変哲もない掌打を打ち込んでいた。
「キサマは、一体……何なんだ」
荒い息を吐き出して、踵を返そうとしたその時だ。
倒れて動かなくなったはずのあいつから、凄まじい"動"の気当たりを感じた。
「そんなこと……知ったことかぁ!」
突如、跳ね上がるようにしてあいつが起き上がった。そしてその勢いのまま、先ほどとは比べ物にならない速さで襲いかかってくる。
これが拳聖様が言っていた動の気の暴走というやつらしい。パワーもスピードも段違いで、何より動きの質が明らかに変わっており、観の目をもってしても見切れなかった。
あまりの威力に飛びかける意識を手放すまいと、必死に食らいつく。あいつの胴体に一撃入れた隙に距離を取ると、まだ未完成のあの技を使うべく、一気に気を練り上げた。
「―――静動轟一!」
爆発する動の気を、凝縮して固める静の気に閉じ込めるようなイメージ。
しかし、動の気を内包して凝縮しかけた静の気が弾け、突如溢れ出した動の気が一瞬だけ身体の自由を奪った。後から拳聖様から聞いたところによると、あの時の僕は怒りで平常心を失い、上手く静の気を練れなかったようだ。
そして、そんな隙を見逃す鉾崎ではなかった。もはや防御することも叶わず、強烈な拳が僕の全身を打ち据えていく。
そんな様子を見た下級兵どもはさすがにまずいと思ったのか、一部は逃げ出し、残った者は鉾崎を止めるべく挑みかかっていった。
しかし、あんな烏合の衆がどうこうできる相手ではない。多くの者は一撃で戦闘不能にされ、次々に河川敷に倒れていった。
冷酷に敵を破壊する非情の拳。そんなあいつの拳に、僕は拳聖様から学び取った真の武術と同じものを感じた。そう、これこそが真の武術、殺人拳だ。
膝を突いた僕にトドメを刺すべく飛びかかる鉾崎の身体が、突然後ろから抱き留められ、制止した。
あの女性は―――
―――――――
―――――
―――
横浜埠頭の倉庫で戦ったあの日、アタシは基樹の目の前で意識を失った。今度こそまずいかと思い、一時は覚悟を決めさえしたが、しかしアタシはまた目を覚ますことができた。
怖い思いをしただろうに、どうやら一晩中一緒にいてくれたらしい。毛布を敷いた机にアタシを寝かしてくれていた本人は、隣のボロ椅子に座ったまま、アタシの手を握って眠りこけていた。
その寝顔を見つめるアタシの顔は、知らぬ間に微笑んでいた。
それからも、基樹は変わらずアタシから武術を教わり続けた。
あの時、敗者がどうなるかを見せられなかったことが残念なような、しかしどこか安堵が混ざったような不思議な心持ちで、アタシも変わらずあいつに武術を叩き込む。
その修行は、いよいよ制空圏を会得する段階に入った。
制空圏はある一定以上のレベルを身に付け、緊湊に至った弟子級が会得できる技術だが、残念ながらアタシ達のような動の気を持つ者は静の気を持つ者よりも苦手な傾向にある。
だからこそ制空圏の修行と同時に、動の気を練る方法も磨き、相手の攻撃の気配を本能的に察知する方法も教え込む必要がある。これは後に達人同士の戦いで用いられる技擊軌道戦へも通ずる技術だが、今はそのさわりの部分だけで十分だろう。
もしかすると、動の気を練るための修行を行い、中途半端に気を練られる状態になったことがいけなかったのかもしれない。
基樹が高校の合否発表に出かけた日のことだ。
妙な胸騒ぎを覚えたアタシが基樹を迎えに出て少し経った頃、近くから基樹の動の気が突然膨れ上がったような気配を感じた。
修行の時とは比べ物にならない動の気を感じて駆けつけたアタシが目にしたのは、自身の動の気を暴走させ、ガラの悪そうな連中を片端から蹂躙する愛弟子の姿だった。
このままでは間違いなく死人が出る。そればかりか、あの子の心が壊れて戻ってこれなくなるかもしれない。
そう感じたアタシは一も二もなく飛び出し、本能的に振り抜かれる拳が鼻先を掠めたのも気にも留めずに近づき、僅かにだが不自然に隆起する身体を後ろから抱き留めた。
もう大丈夫だからと、そう囁き続けると、次第に動の気が収まって基樹は大人しくなる。アタシはその身体を抱き抱え、素早くその場を立ち去った。
まさか基樹をここまで追い詰める少年が、そこらにいるとは思わなかった。
後も先も無くなった時に動の気が暴走する可能性があるとは感じていたが、まさか本当にそれほどまで追い詰められることがあるとは思ってもいないことだ。
いや、そんなことは言い訳にもならない。全ては師父であるアタシに責任がある。ただし今は、今だけは、後悔と安堵のままに、力無く撓垂れ掛かる愛弟子の身体をただただ抱き締め続けた。
以前よりリクエストがあった師弟番外編的な日常短編集を、別作品として独立させてご用意致しました。
ノンケになる覚悟を決めた兄貴はそちらをご覧下さい。
師弟日常編のような番外短編集の需要は……
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ありますあります!
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あれば読む
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(需要は)ないです
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そんなもん書いてる暇があったら本編を書け